『貞子』:2019、日本

沼田団地に住む祖父江家の玄関前には、大量の貼り紙と落書きがあった。貼り紙には「住民を洗脳するな」「インチキ霊能者」と書かれており、「出て行け」「天誅」などと落書きされていた。寝室に金属のドアが取り付けられており、クローゼットは南京錠とチェーンで施錠されていた。クローゼットの中には、1人の少女が閉じ込められていた。一方、伊豆大島に住む老婆は、海辺の地蔵に手を合わせていた。大きな波の音を耳にした老婆は、立ち上がって様子を見に行った。
少女が吊るされた日本人形を眺めていると、母親の初子が帰宅した。初子は寝室に入り、持ち帰ったポリタンクの灯油を床に撒いた。老婆は立ち入り禁止の洞窟に行き、「貞子の洞窟が埋まった」と顔を引きつらせた。初子は娘を鋭く睨み付け、「お前は貞子だ。貞子の生まれ変わりなんだ」と言い放つ。彼女は「ずっとお母さんと一緒だからね」と呟き、マッチを握った。老婆は石を退かして洞窟を覗き込み、「貞子」と呼び掛けた。初子は「お前みたいな人間は生きていちゃいけないの」と述べ、火を付けようとする。しかし背後から貞子が出現し、クローゼットのチェーンが外れた。初子は炎の広がる寝室で狼狽し、自分を鋭く見据える少女に「お前が呼んだの?」と問い掛ける。少女は母を無視し、貞子に歩み寄った。
総合病院で新人の臨床心理士として働く秋川茉優はカウンセリングルームへ行き、担当する倉橋雅美と会う。雅美は元気な様子で、「夜もぐっすり眠れるし、食欲も戻った」と話す。雅美は長期に渡って入院しているが、最近の彼女は実際に顔色も良くなっていた。雅美は茉優の手を握り、「お礼がしたい」と近所の店に誘う。茉優が遠慮すると、彼女は「先生の仕事が落ち着いたら行きましょう」と告げた。茉優は先輩の藤井稔から、クライアントとの適切な距離感を保つよう釘を刺された。
入院中の子供たちがタブレット端末を囲んで騒いでいるので茉優が駆け寄ると、ネットの動画を見せられた。弟の和真がユーチューバーのファンタスティック・カズマとしてネットに動画を上げていたので、彼女は驚いた。和真と会った茉優は、ネット動画について説明を要求した。すると和真は茉優は入学金を支払った大学を中退し、ユーチューバーに懸けていることを話す。茉優が「こんなんで食べていけると思ってんの?」と咎めると、彼は「チャンスなんだ。プロに誘われた」と言う。彼はウェブマーケティングの専門家が付いていること、登録者が増えていることを説明し、応援してくれと頼んだ。
少女が歩道橋を歩いていると、通り掛かった女性が「大丈夫?」と優しく声を掛けた。女性は少女に触れた途端に無表情となり、歩道橋から飛び降りて死んだ。その直後、少女は巡回中の警官に話し掛けられ、下を見ると女性の姿は消えていた。少女が視線を戻すと、歩道橋には花が手向けてあった。彼女は立ち去ろうとするが、意識を失って倒れた。翌日、茉優は藤井から、警察に保護された少女が記憶障害で自分の名前も言えないらしいと聞かされる。病室へ出向いた藤井が問い掛けても、少女は黙ったままだった。
和真は再生回数が伸びないことに苛立つが、先輩の石田祐介は「焦るなよ」と諭す。和真は祐介に、大学を辞めたことは内緒にしていた。祐介が「強いのはゲーム実況や美容、心霊物」と言うと、和真は都内の心霊スポットをネット検索した。あるサイトを見ていた彼は、そこで「死者五名を出した団地火災跡」という記事に注目した。茉優と藤井は多摩北署刑事課の木田と大塚から、先月に起きた沼田団地の放火事件について聞かされる。初子の死は自殺として処理されており、少女については娘としか分かっていなかった。しかも戸籍上では初子に子供はおらず、人知れず少女を育てていた。
木田と大塚が団地の写真をに見せて「覚えてないかな?」と訊くと、少女は首を横に振る。しかし初子の写真で「誰か分かるかな?」と訊かれると、首を縦に振る。何と呼ばれていたか問われた少女は「貞子」と答えるが、「それが君の名前なの?」という質問には首を横に振った。火事について何か覚えていないかと問われた少女は、刑事たちを睨み付けた。茉優は箱庭の人形や砂が動くのに気付き、尋問を中止するよう刑事たちに告げた。和真はカメラを持って沼田団地へ行き、放火事件のあった部屋を見上げた。
遊び場にいた少女は看護師の坂井に声を掛けられて不気味に見据え、すぐに視線を外して歌を口ずさんだ。坂井は茉優に、少女がほとんど食事を取らないこと、話し掛けても何も答えないことを報告した。茉優はカウンセリング・ルームの花が交換されていることに気付いて「いつもありがとうございます」と礼を言うが、坂井は「私じゃないわよ」と告げた。入院している少年たちは、少女を取り囲んで囃し立てた。すると少女は鋭い視線で睨み付け、近くの台を倒して少年たちを怖がらせた。
病室へ戻ろうとした少女は、エレベーターで車椅子にのった不気味な老人と遭遇する。奇怪な声を発する老人に詰め寄られた少女は怯えるが、気が付くと相手は姿を消していた。街で動画を撮っていた水溜りボンドの2人は、スマホに不気味な骸骨が写り込んだので顔を歪めた。茉優が少女に優しく話し掛けると、「お母さん、死んだの?」と質問される。「ここに来るまでのことで、覚えていることはある?」と彼女が質問すると、少女は「ずっと暗い所にいた。たまに、お母さんが来てご飯をくれた。お母さんが来ると、クローゼットから出してもらえる」と語った。
茉優が手を握ると、少女は「お姉さんも、ずっと寂しかった?」と訊く。茉優は幼少時代を思い出し、黙り込む。少女は薄型テレビに映る貞子の姿に気付いて顔を引きつらせ、廊下に出て気を失った。茉優は藤井から、雅美が「食事に誘ったのに連絡が無い」と抗議して何度も電話番号を尋ねたことを知らされる。茉優は「行くなんて一言も」と告げるが、藤井はキッパリと断るべきだと忠告した。茉優は石田から電話を受け、和真と連絡が取れなくなっていることを聞かされた。石田と会った茉優は、和真が沼田団地に不法侵入して心霊動画を撮影したこと、アップした元の動画が削除されていることを知らされた。
石田は撮影を制止したが和真は耳を貸さずに行動し、警察から厳重注意を受けていた。彼は茉優に、最後に会った時に和真が「見つけたんですよ、俺。もっと凄えの撮れますよ。見たんですよ」と言っていたことを教える。1週間が経過し、連絡が取れなくなっているのだと石田は説明した。茉優は拡散された動画をネットで発見し、再生して確認する。クローゼットの中には大量の御札が貼られており、そこが少女の家だと茉優は確信した。
動画の最後で、和真は何かに怯えるように逃げ出していた。茉優が一時停止すると、複数の骸骨が一瞬だけ写り込んでいた。彼女は警察署へ行き、生活安全課に弟の行方不明届を出した。深夜の病院を訪れた茉優は、カウンセリング・ルームから出て来る雅美に気付いた。茉優が声を掛けると、花束を抱えた雅美は「大野さんから鍵を借りたの」と言う。茉優は彼女が部屋に忍び込み、密かに花を取り替えていたことを知った。茉優は枝切りバサミを持っている雅美が怖くなり、慌てて後ずさりした。すると雅美は感情的になり、「なんで逃げるのよ。おかしいですよ。いつまで経っても電話くれないし。ずっと待ってたんのよ」と彼女を責めた。
雅美はハサミを突き付けて「あんなに親切にしてきたのに」と怒鳴るが、睨み付ける少女に気付いて固まった。雅美がハサミを落として倒れ込んだ後、少女は意識を失った。茉優は少女に駆け寄って抱き締め、雅美は近くのテレビに写った井戸から貞子が這い出て来るのを目にした。貞子が彼女に近付くのを見た茉優は、少女を連れて逃げ出す。しかし背後から貞子に触れられ、茉優は意識を失った。藤井に声を掛けられた茉優か目を覚ますと、少女も雅美も無事だった。しかし雅美は入院し、少女は意識不明で危険な状態に陥った。
帰宅した茉優は、少女が母親から「お前は貞子の生まれ変わり」と言われた時のことを夢に見た。彼女が怯えて目を覚ますと、左腕には貞子に掴まれた跡が残っていた。出勤した茉優は、雅美に貞子のことを質問した。雅美は高校時代に大勢が死んだことを話し、貞子の出生や呪いについて説明した。彼女は茉優に、「助からないよ、アンタの弟。呪いを掛けられたんだ」と告げた。茉優が自宅で和真の動画を見ていると、モノクロの不気味な映像に切り替わった。そこには洞窟や骸骨、身投げする女性や和真の姿などが写っていた。
石田からの電話で「和真くんを見つけました。以前にアップロードした動画の中に、和真くんが写っている映像が」と聞かされた彼女は、「私も動画を見ました」と告げた。深夜、雅美は天井から垂れる水に気付いた。直後、ベッドの下から貞子が出現し、雅美は絶叫した。次の日、茉優は石田と会い、動画の場所は大昔の山伏が修業した伊豆大島だと教えられる。祠は魂を鎮めるために作られた場所だが、岩場の崩落で20年前から立ち入り禁止になっていた。
石田は茉優に、ネットで話題になっていた「呪いの動画」が沼田団地に侵入した和真の動画にも紛れ込んでいることを教える。茉優は彼に、持参した新聞記事のコピーを見せた。それは千里眼と呼ばれた山村志津子の公開実験に関する記事だった。志津子の姿は動画に写っており、茉優は「自殺した超能力者は実在した。彼女の生まれは大島なの。娘の貞子も」と話す。そこへ藤井から電話が入り、茉優は雅美が異様な形相で亡くなってたことを知らされた。茉優が和真を助けるために大島へ向かうことを決めると、責任を感じた石田も同行する。島へ向かう連絡船の上で、茉優は石田に和真は呪われたんです。私も貞子を見たんです。和真は団地で貞子を見た。同じ宿命を背負った少女の叫びが、貞子の呪いを蘇らせてしまった」と語った。
島に着いた茉優と石田は、立ち入り禁止となっている祠に向かった。そこへ地元の警官が来て注意すると、茉優は「祠がある洞窟に、弟が入ったみたいなんです。早く助け出さないと」と説明する。警官は驚き、同僚や地元の青年団を呼んだ。そこへ老婆が現れ、「あの祠は育てられない赤ん坊を海に流した場所なんだ。祠には、親に殺された子供の魂が呼び寄せられる。貞子の好物だからな。今日は大潮だ。満月で潮が満ちる。こんな日に立ち入ったら、海に引きずり込まれるぞ」と語って立ち去った。茉優がスマホを確認すると、動画の内容が変化して満月が写っていた…。

監督は中田秀夫、原作は鈴木光司「タイド」(角川ホラー文庫刊)、脚本は杉原憲明、エグゼクティブプロデューサーは井上伸一郎、製作は堀内大示&岡田美穂&下田淳行&香川正二郎&蜂谷智、企画は水上繁雄、プロデューサーは今安玲子&原公男、撮影は今井孝博、照明は木村匡博、録音は室薗剛、美術は塚本周作、編集は青野直子、VFXスーパーバイザーは立石勝、音楽は海田庄吾、主題歌『聖戦』は女王蜂。
出演は池田エライザ、塚本高史、清水尋也、佐藤仁美、ともさかりえ、桐山漣、水溜りボンド、姫嶋ひめか、吉村実子、おぞねせいこ、二階堂智、真田麻垂美、諏訪太朗、南彩加、柳萌奈、磯部泰宏、足立智充、安竜うらら、和田光沙、日向丈、平原テツ、野村昇史小林実由、石田星空、小島怜珠、浅野瑛海、今井暖大、中野遥斗、加賀谷光輝、西田萌音、九内健太、影山祐子、真柳美苗、仲鉢果林、山崎理絵、山崎葉月、岩崎愛香、志多祐人、村木里帆、入内島悠平、田野辺るきあ、高橋悠杜、吉成翔太郎、浅見真愛、高尾龍哉、関谷花菜、星華蓮、西尾優希、藤浪詩織、齋藤琉伊、古谷徳隆、城定愛美、東遥貴、光永蓮、平井大二郎、湯口清隆、吉田舞香、宮島瑠南、河井樹、村上音央、斉藤淳ら。


『リング』シリーズの1本。
『リング』『らせん』『リング2』『リング0 バースデイ』『貞子3D』『貞子3D2』『貞子vs伽椰子』と、貞子が登場する作品を全て並べた場合、8作目ということになる。
監督は『リング』『リング2』、ハリウッド版『ザ・リング2』を手掛けた中田秀夫。脚本は『貞子3D2』『ニセコイ』の杉原憲明。
茉優を池田エライザ、石田を塚本高史、和真を清水尋也、初子をともさかりえ、藤井を桐山漣が演じており、水溜りボンドの2人が本人役で登場する。『リング』『リング2』で倉橋雅美を演じていた佐藤仁美が、同じ役で出演している。坂井役のおぞねせいこは『貞子3D』と『貞子3D2』にも出演していたが、その時とは担当する役が異なっている。

鈴木光司の小説『タイド』が原作として表記されるが、内容は大きく異なっており、全くの別物になっている。
もはや「原作」と呼んではいけないぐらい完全に別物なのだが、何しろ小説を発行しているKADOKAWAも製作委員会に入っているので、メディアミックスとしては原作という形を取りたかったのだろう。
だったら、もっと原作に寄せた内容にした方がいいはずなのだが、そういうアプローチはしてないのね。
まあ原作に寄せようとしたら『リング』や『らせん』といった過去の作品と繋げなきゃいけなくなるから、それを避けたんだろうけどね。そこと繋げて整合性を持たせるのって、絶対に不可能だからね。

映画『リング』に1作目から携わってJホラーのブームを生み出した映画プロデューサーの一瀬隆重は、『リング0 バースデイ』を最後にシリーズから離れている。
しかし彼が抜けた後も、「まだ稼げる」と思ったKADOKAWAの井上伸一郎が貞子というキャラクターを全面に押し出す形で『貞子3D』や『貞子3D2』を製作した。
実際は完全に賞味期限が過ぎていたのだが、「まだ粘れる」とでも思ったのか、『貞子vs伽椰子』を生み出し、さらに本作品まで製作したわけだ。

『貞子3D』で貞子を久々に復活させる際、製作サイドは思い切った方法を取った。それは、「貞子をホップ・アイコンのように扱う」という宣伝スタイルだ。
公開前、貞子に扮した女性がプロ野球の始球式に登場したり、大勢の貞子が渋谷の街を歩いたりするプロモーション活動が行われた。もはや「貞子で観客を怖がらせる」ということを製作サイドが完全に放棄したとしか思えない手段に出たのだ。
そういう方法に手を染めてしまうと、もう元に戻ることは不可能に近い。
そのため、この映画も「貞子はちっとも怖くないポップ・アイコン」というイメージのままで観賞することになるわけだ。

シリーズを途中で離脱してしまった人、「以前に『リング』は見たけどハッキリと覚えていない」という程度の人からすると、この映画を見て「貞子って、こんな設定だったっけ?」と疑問を抱く部分があるかもしれない。
きっと貴方が記憶している貞子と今回の貞子は、別のキャラのようになっているはずだ。
それは思い違いではなく、実際に別物と化している。
ただ、ずっとシリーズを見ている人にしてみれば、既に『貞子3D』や『貞子vs伽椰子』で貞子の出現に関するルールは完全に破綻していたので「今さら」ではあるだろう。

もはや製作サイドも、たぶん「その作品ごとにキャラクターやルールを構築する」という意識で作っているんだろう。
どうせシリーズは『リング0 バースデイ』で一つ区切りが付いているし、『貞子vs伽椰子』は番外編だし、全ての作品との矛盾を無くそうとしても絶対に無理なのだ。
だから開き直って、「その場限りの設定も有りじゃね?」というスタンスになったのかもしれない。
なので、いちいち細かいことを気にしちゃダメだ。寛容な気持ちで、今までの作品とは切り離して観賞すればいい。

とは言え厄介なのが、中途半端にシリーズとしての繋がりを持たせようとしていることだ。
しかも映画シリーズとしての繋がりだけでなく、なぜか映画では使われていない原作シリーズの要素でも関連性を持たせようとしている節がある。そんなのは原作を読んでいなきゃ絶対に分からないわけで。
それでも「原作を呼んでいる人だけに分かるサービス」みたいな遊びとして持ち込むのなら、それは一向に構わない。
でもストーリー展開やキャラ設定の重要な部分に関連付けているため、デタラメっぷりを助長する結果となっている。

序盤、茉優は騒いでいる子供たちに歩み寄り、弟のネット動画を見せられる。でも、それは足つぼマットの上で縄跳びをするという動画で、何も面白くないのだ。転倒してから「必殺!顔面シワダラケ」という変顔を披露するが、これまた超が付くほど外している。
だから、なぜ子供たちが騒いでいたのかサッパリ分からない。
あと、どう考えても人気ユーチューバーじゃないはずで、なぜ子供たちが彼の動画を見つけたのかも不明だ。
もしも「子供には大人気」という設定だとしたら、後の展開と整合性が取れなくなるし。

なぜ初子は実子ではない少女を誰にも知られないように育てていたのか。そもそも、どこで少女と出会ったのか。引き取っておきながら、監禁した理由は何なのか。なぜ貞子の生まれ変わりだと思ったのか。なぜ貞子は少女の前に現れたのか。なぜ少女の体に触れた女性は飛び降りて死ぬのか。
少女に関しては、分からないことだらけだ。
それは話を面白くするための謎ではなく、単なる作品としての不具合だ。
だから最後まで、何も明らかにされないままで終わる。貞子と少女の関係性も、最後まで全く分からない。
そして賢明な人は、「あれっ、もしかすると少女って要らなくねえか?」と気付くことになるだろう。

あえて少女との関係性を説明するならば、貞子は「母に殺されそうになった少女を助けた命の恩人」ってことになる。
その1シーンだけ、貞子はダークヒーローみたいな存在になっているのだ。
だったら、いっそのことダークヒーローとして動かしても面白くなりそうだけど、そこまでの開き直りは無い。
貞子というキャラクターが当初の力を完全に失っていることに気付いていないのか、それとも気付いていても認めたくないのかは分からないが、「貞子の呪いで観客を怖がらせる」ってことは頑固に守ろうとしている。

少女が特殊能力を発揮するルールは決まっておらず、とても曖昧だ。
また、彼女は周囲の人々を特殊能力で怖がらせる「不気味な存在」として動かされるのかと思ったら、時には「老人の悪霊に遭遇して怖がる」「薄型テレビに映る貞子に怯える」と立場にも変化する。
「貞子に憑依されている時は加害者、憑依されている時は被害者」ってことかもしれない。
だけど、その使い分けも明確な線引きがあるわけじゃないから分かりにくい。

茉優は少女に「お姉さんも、ずっと寂しかった?」と言われた時、1人ぼっちで部屋にいる幼少期を思い出している。
でも彼女には弟がいるので、「孤独な幼少時代」をアピールする回想シーンには違和感がある。実際、その回想シーンの時も、実は弟がいたことが後で判明するし。
っていうか、意味ありげな回想シーンを挟んでおいて、残り20分ぐらいになるまで「小学生で親に捨てられて施設で育った」という設定を明かさないのは完全に計算ミスだろ。
もっと早い段階で明かして、その上で「弟との強い絆」を掘り下げるドラマを描いた方が絶対に得策でしょうに。

茉優は石田から和真が行方不明になっていることを知らされると、彼を厳しい言葉で批判する。
石田が悪いわけじゃなくて警告を無視して不法侵入した和真が全面的に悪いのだが、茉優は「どうして和真を誘ったんですか。フラフラしてて、言うこと聞きそうだとでも思ったんですか」「どうしてもっと強く引き留めてくれなかったんですか」などと責め、後で反省したり謝罪したりすることも無い。
そして彼女は警察に行方不明届を出した時、「たった一人の家族なんです。私に何も言わずにいなくなるとなんて有り得ません」と悲痛な表情で訴えている。
でもさ、それぐらい弟を大切に思っているのなら、なんで1週間前から行方不明になっていることに気付かないのよ。弟を「たった1人の家族」として心配しているのなら、もっと頻繁に連絡を取るだろ。

茉優が大島の警官に「祠がある洞窟に弟が入ったみたいなんです。早く助け出さないと」と訴え、そこからシーンが切り替わると警官の同僚や地元の男たちが岩場に来ている。
なので、彼らが洞窟へ入って捜索を始めるのかと思いきや、なぜか岩場でウロウロしているだけ。どうやら何かを調べている様子だが、具体的に何をやっているのかはサッパリ分からない。
そして彼らがモタモタしている間に都合良く老婆が現れ、茉優と石田に祠の情報を与えて去る。すると警官が来て、「今日は潮が上がるから捜索は無理だ」と言う。
そのための調査だったらしいが、まるで納得できないぞ。

終盤になって、「親に捨てられた少女によって、同じ宿命を持つ貞子の呪いが蘇った」「茉優と和真は親に虐げられていたので、貞子によって祠に呼ばれた」ってことを説明している。
つまり今回の貞子は、親に虐げられた人間の前に現れるということらしい。
そうなると「じゃあ雅美はどうなるのか」という疑問が生じるが、そういう細かい整合性は無い。しかも、少女は救うけど和真には呪いに掛けているから、「親に虐げられた人間の味方」ってわけでもないし。
貞子というキャラクターのディティールを細部まで丁寧に設定し、丁寧に扱う気なんて全く無い。
しゃぶり尽くす限界はとっくに過ぎているし、そろそろ貞子を葬ってあげてもいいんじゃないかな。

(観賞日:2020年11月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会