『SADA』:1998、日本
1905年、阿部定は東京・神田の畳屋の娘として生まれた。14歳の時、彼女は慶応の学生である斎藤敏彦によって旅館に連れ込まれ、処女を奪われた。そんな定を優しく慰めて介抱してくれたのが、旅館の女将の甥に当たる医大生の岡田征だった。
定は岡田に恋をするが、彼は医療用ナイフを彼女に残して姿を消してしまった。定は不良仲間とつるむようになり、警察に追われるような存在となった。やがて彼女は芸者になり、関東大震災の後は売春婦となって全国各地を回りながら、様々な男に抱かれるようになった。
宮崎利三郎の妾となった定は、彼の知人である立花佐之助と深い関係になる。岡田がハンセン氏病のために島に隔離されていると知った定は、立花に頼んで彼の行方を探してもらう。立花の勧めで料亭「喜久本」で働き始めた定は、やがて主人の龍蔵との関係に溺れるようになっていく…。監督&撮影台本&編集は大林宣彦、原作&脚本は西澤裕子、製作は鍋島壽夫、プロデューサーは大林恭子、撮影は坂本典隆、録音は北村峰晴、照明は西表灯光、美術は竹内公一、音楽は學草太郎、編曲&指揮は山下康介、音楽プロデューサーは加藤明代。
主演は黒木瞳、共演は片岡鶴太郎、椎名桔平、嶋田久作、ベンガル、石橋蓮司、赤座美代子、根岸季衣、入江若葉、池内万作、奥村公延、林泰文、田口トモロヲ、河原さぶ、大前均、真田健一郎、渡辺哲、坂上二郎、東恵美子、井川比佐志、天宮良、竹内力、小林桂樹、三木のり平、及森玲子、正力愛子、小河麻衣子、松野朋子、柴山智加、伊藤歩、長木唯、李鐘浩、大久保了、明日香七穂ら。
当初は葉月里緒菜が主演するはずだったが、彼女が降板したために黒木瞳が定を演じることになった。
葉月里緒菜は降板して正解だったと思う。
監督はエロスではなくパトス(情念)を描きたかったらしいが、どこかに置き忘れたらしく、映画の中には見つからない。
なぜ定がチンポを切り取ったのかという理由は深く突っ込んで描かれてはいないが、なぜなら大林宣彦にとって、そんなことはどうでもいいからだ。映画が始まると、いきなり「サバダバダ、サバダバダ」というスキャットが入る。
これ、映画の主題歌である。
「定は云々」と何度も繰り返すという、聞いていて寒くなる歌なのだが、タイトルが「SADAのサバダバダ」。作詞は大林宣彦。
この時点でクズ映画の匂いがプンプン漂ってくる。冒頭、最初に登場するのは嶋田久作。
彼はいきなりカメラ目線で、映画についての講釈を始める。
彼の後ろには、セット丸出しの映画館。
冒頭だけでなく、この映画は全編に渡って、セットがセットであることを必要以上にアピールしようとする。過剰に盛り上がろうとする音楽と、物語の内容を徹底的に破壊する実験的な映像。
可愛らしさを全面に押し出した黒木瞳の芝居や、勘違いした飾り付けを施してゴテゴテしたセリフ。
無粋に放り込まれるナレーションや文字。
赤の他人が出演しているヘタクソな学芸会を見せられているような、居心地の悪さがそこにある。序盤から、とにかく失笑シーンのオンパレード。
まずは14歳の処女を演じる黒木瞳に失笑。
処女喪失シーンでウソ丸出しの悲鳴を上げるシーンに失笑。
アイパッチの上にサングラスを掛けた学生服の椎名桔平に失笑。
シーツに血が広がるという処女喪失の古臭い表現に失笑。
レイプされても妙に陽気な黒木瞳に失笑。
挙げていくとキリが無いので、この辺でやめておこう。結論としては、食い合わせの悪いモノを一緒にしてはいけないということだ。
大林宣彦と阿部定は、スイカと天ぷらのような関係だったということだろう。