『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』:2015、日本

2002年、クーデター事件が勃発。東京は戦場と化した。首謀者は元自衛隊員の柘植行人。初代特車二課の活躍により事件は解決し、逮捕された柘植は今も獄中にいる。しかし事件後、特車二課の2人の隊長、後藤喜一と南雲しのぶは消息を絶った。そして現在。中東某国。国際連合難民高等弁務官事務所のスタッフとして戦地にいた南雲は、一通の手紙を受け取った。一方、日本ではレインボーブリッジが爆破されるという事件が発生する。慰安旅行に出掛けていた特車二課の面々は、テレビのニュースで事件を知った。
2時間ほど前に匿名人物からの予告電話を受けた公団が台場芝浦間を閉鎖していたため、一般車両への被害は無かった。警視庁公安部外事三課の高畑慧は特車二課を訪れ、事件発生時の空撮映像を見せた。映像の分析により、爆破に使われた武器が「AGM-114ヘルファイア」であること、熱光学迷彩を搭載した自衛隊の戦闘ヘリ「AH-88J2改 グレイゴースト」から発射されたことが判明する。
高畑は後藤田だけに、事件の3日前に陸自からグレイゴーストが強奪されたことを教えた。後藤田が犯人の目的について尋ねると、高畑は公安部が1年ほど前から柘植の元シンパに対する内偵を進めていたことを話した。高畑は後藤田が柘植の面会に訪れた事実を掴んでおり、その理由を訊く。後藤田は「今でも自分の正義を信じているか、それを訊いただけですよ」と答え、柘植が「信じている」と言ったことを語る。高畑は事件の背後に兵站組織が存在すると確信し、次のミッションが実行される前に捕まえるための協力を依頼した。
グレイゴーストの操縦者は陸上自衛官の灰原零で、技量は天才的だが、上官への反抗で懲戒や訓戒は数知れなかった。相棒として搭乗していた自衛官は、富士の樹海で死体となって発見された。灰原のロッカーに残されていた唯一の遺留品は、一枚の写真だった。しかし画像処理を施しても、写っているのが何かの石碑であること以外は不明だった。外事三課は捜査を進め、都内の小さな航空会社が犯行グループに協力していたことを突き止めた。その会社はグレイゴーストの開発に関わって職場を離れた面々の再就職先であり、1ヶ月前に倒産して経営者も従業員も行方不明になっていた。灰原のファイルは全て抹消されており、その顔は分からない状態となっていた。
後藤田は南雲からの連絡を受け、帰国した彼女と会う。後藤田は彼女に「教えてくれるんですか、例の遺産の正体を」と言い、後藤と共に姿を消した理由を尋ねる。すると南雲は、柘植の事件が終結した後に警察内部で大規模な人事刷新があったこと、後藤の提案を受けて国を出る時に「これは見えざる神の手によって仕掛けられた時限爆弾だ」と捉えたことを語る。特車二課の遺産は初めから存在しなかったと知った後藤田は、「こんなペテンは前代未聞だ」と口にした。南雲は彼に、「私たちの遺産をどう使うか、それを決めるのは貴方よ。何を守るために使うのか」と告げた。
特車二課へ戻った後藤田は整備班長のシバシゲオから、本庁の命令でレイバーの起動が禁じられたことを聞かされる。シバが「今回は本気で特車二課を潰す気かもしれん」と言うと、後藤田はレイバーを動かそうと考える。シバは反対するが、後藤田は小隊全員の招集を指示した。泉野明、塩原佑馬、カーシャ、大田原勇、山崎弘道、御酒屋慎司を集めた後藤田は、犯行グループの補給基地に夜襲を仕掛けようと目論む。シバも整備班副長の淵山義勝や整備員たちを集結させ、後方支援に就く。しかし首謀者の小野寺たちは、監視カメラの映像によって特車二課の動きを捉えていた。
違法捜査の上にレイバーも無いため、泉野や塩原は夜襲に消極的な態度を示す。結局は承諾したものの、潜入した塩原は灰原に軽く撃退される。残る面々は激しい銃撃戦を展開するが、制圧が無理だと判断した後藤田は撤退を指示する。彼は監視していた公安部の到着を予期しており、後は高畑たちに任せようと決めたのだ。しかし犯行グループは基地から逃走し、行方をくらました。翌日、外出した後藤田が高畑と会っている間に、特車二課はグレイゴーストの攻撃を受けた。事前に予想していた後藤田の指示で全員が退避していたため、人的被害は出なかった。しかしプレハブは破壊され、激怒したシバは外へ運び出していたたパトレイバーの準備を始める。
警視庁警備部長の海道誠一郎や警備課長の宇野山真たちは対策会議を開き、呼び出した後藤田の独断による行動を糾弾する。南雲からの電話を受けた後藤田は、「戦力はあるんでしょ。見せてもらえるのかしら」と問われる。「特車二課の良き伝統。いやあ、呪うべき伝統ってやつかな。貴方も後藤先輩も、酷い人だ」と後藤田が言うと、南雲は「一つだけ頼まれてくれるかしら?」と告げる。電話を切った後藤田は警備部の面々に、「私に手を触れるな」という南雲の伝言を告げた。彼が「貴方たちには愛想が尽きました。私も前任者に従って行動します」と言うと、海道は拘束しようとする。そこへグレイゴーストが飛来し、攻撃を受けた警視庁も壊滅状態に陥った…。

監督・脚本は押井守、原作はヘッドギア、製作総指揮は植村徹、共同製作は迫本淳一、エグゼクティブプロデューサーは二宮清隆&大角正、製作プロデューサーは吉田健太郎&高橋敏弘、チーフプロデューサーは宮下俊、プロデューサーは伊達毅&鷹木純一&宮本泰宏&武井哲、2ndユニット監督は辻本貴則、アクション監督は園村健介、撮影は町田博&工藤哲也、照明は津嘉山誠&藤田貴路、録音は加来昭彦&岩丸恒、美術は上條安里、編集は太田義則、VFXスーパーバイザーは石井教雄、灰原零パイロットスーツデザインは竹田団吾、レイバーデザインイメージは寺田克也、音楽は川井憲次。
出演は筧利夫、真野恵里菜、福士誠治、太田莉菜、高島礼子、吉田鋼太郎、森カンナ、隆大介、渡辺哲、千葉繁、寺泉憲、今野敏、渋谷亜希、山中アラタ、堀本能礼、田尻茂一、しおつかこうへい、藤木義勝、並樹史朗、山田明郷、仁科貴、袴田健太、井出武、佐々木寿治、須藤正裕、近藤善揮、大嶋宏成、ハーシェル ペパーズ、根本美緒、岡部いさく、四方堂亘、早坂直家、高杉勇次、木之内頼仁、村上和成、神原哲、玉木健仁、辻本一樹、中野剛ら。
声の出演は榊原良子。


1988年にOVAが発売され、その後も漫画や長編アニメーション映画などでメディアミックス展開された『機動警察パトレイバー』の実写化プロジェクト『THE NEXT GENERATION パトレイバー』の長編版。
先に全13話の短編シリーズが7章に分けて公開され、最後に本作品が上映された。
後藤田役の筧利夫、泉野役の真野恵里菜、塩原役の福士誠治、カーシャ役の太田莉菜、高畑役の高島礼子、大田原役の堀本能礼、山崎役の田尻茂一、御酒屋役のしおつかこうへい、シバ役の千葉繁、宇野山役の寺泉憲、海道役の渡辺哲、淵山役の藤木義勝らは、短編シリーズの出演者。
他に、小野寺を吉田鋼太郎、灰原を森カンナ、南雲を渋谷亜希が演じている。ただし南雲の声は、アニメ版の声優だった榊原良子が担当している。

これは本作品だけでなく短編シリーズやにも言える問題、もっと遡れば2011年に押井守が発表した小説『番狂わせ 警視庁警備部特殊車輛 二課』から存在する問題になるのだが、登場人物の名前に対する拒絶反応が否めない。
ヒロインの名前が泉野明(いずみの・あきら)で、アニメ版のヒロインだった泉野明(いずみ・のあ)と漢字は一緒で読み方が違うだけ。他の面々も、塩原佑馬が篠原遊馬、後藤田継次が後藤喜一、太田原勇が太田功など、それぞれアニメ版のキャラと類似させてあるのだ。
でも、そうやって似たような名前にすることは、パラレルワールドか、もしくはパロディー的な印象を抱かせる。
過去に後藤喜一の率いる部隊が存在し、現在は3代目という風に繋げて行くのなら、全く別の名前を用意した方がいい。

何しろ監督が押井守だけに、似たような名前のキャラばかりが登場するのはアニメ版をコケにしているような印象さえあって、何となく嫌な感じがする。
そんな中途半端なことをやるぐらいなら、潔く「アニメ版の実写化」をやるべきだよ。
つまり、泉野明(いずみ・のあ)や篠原遊馬を登場させるべきだ。
もちろん配役に関して「イメージと違う」ってことで不満を抱くファンも出て来るだろうけど、そこは覚悟を持ってやらないと。

そういう奇特な人は少ないだろうが、「過去のアニメ版を全く知らないし、今回の短編シリーズも1本も見ていない」という人は、絶対に付いて行けない。
そもそも短編シリーズからして、初めて『機動警察パトレイバー』に触れる人には不親切な内容であり、新参者が全てを把握することは難しい仕上がりだった。なので、この映画を見る前に必要な予習は、短編シリーズを見るだけでは不足だ。
っていうか、むしろ短編シリーズは1本か2本でいいから、過去のアニメ版を見た方が助けになるだろう。

「アニメ版は全てチェックした方がいいのか」と問われたら、そりゃあ全て見た方が入りやすいだろうけど、1本だけ選ぶなら劇場版の第2作『機動警察パトレイバー2 the Movie』にするのがいいだろう。
冒頭で説明される過去の事件は、その映画の内容だ。犯人が柘植の元シンパだと聞いた後藤田が驚いているが、一見さんからすると「その柘植って誰だよ?」ってことになるしね。
ただ、それだけでなく本作品は、ほぼ『機動警察パトレイバー2 the Movie』の焼き直しなのだ。そういう意味でも、見ておいた方が何かと分かりやすいと言えるだろう。
しかしながら、「だったら、そっちを見れば、こっちを見る必要は無いんじゃねえの?」と問われたら、それを否定する答えを私は何も持ち合わせていない。

予算の都合もあるんだろうが、序盤から「安っぽいなあ」と強烈に感じさせるシーンが待ち受けている。
レインボーブリッジに向かってヘルファイアが飛来する様子は描かれるが、爆破シーンはカットされるのだ。警察署に呼ばれた後藤田が見ているテレビのニュースで、「爆破事件がありました」ってことが報じられるだけだ。
ヘルファイアが飛んでいる段階で「チープな映像」と感じたので、CGを使って爆破シーンを描いた場合、ますます印象が悪化する可能性はあるだろう。ただ、爆破を描かない上と、テロの脅威が伝わって来ないのよね。
これは後半、グレイゴーストが警視庁を攻撃するシーンでも同様だ。ここは破壊シーンを描いているが、それでも脅威が乏しい理由は明白で、「犠牲者」や「恐怖する一般市民」といった人間が全く描かれないからだ。

犯行グループの描写は、「わざとなのか」と言いたくなるぐらい薄っぺらい。
首謀者の小野寺からして、ただの記号でしかない。人物としての厚みも奥行きも、まるで見られない。
テロを起こす理念、自分が信じる「正義」への思い、そういった「熱」が何も感じられない。
彼らがテロ活動によって何を成し遂げようとしているのか、レインボーブリッジや警視庁を破壊することで何が変わると思っているのか、それが全く分からない。

灰原にしても、どういうキャラなのかサッパリ分からない。
どうやら押井監督は泉野&カーシャ&高畑&灰原&南雲による「5人の女性の物語」ってのを意識していたらしいが、実際には全く伝わって来ない。
そもそも、その5人の描写がペラペラで中身がスカスカなのだから、そんな連中でドラマを構築しようとしても無理でしょ。
クライマックスで泉野と灰原を戦わせても、そこに何の因縁も無いんだから、盛り上がる要素が見当たらないでしょ。

押井守作品の特徴と言えば、何よりも「押井節」が挙げられる。
押井監督は原作付きの作品であろうとオリジナル脚本であろうと、自身の哲学を登場人物に喋らせたがる人だ。原作付きの作品を手掛ける場合、自分の哲学を語るためなら大きく逸脱しても平気な人だ。
そんな彼が哲学的なことを長々と登場人物に喋らせるのが、いわゆる「押井節」だ。
それはファンにとっては「無かったら物足りない。っていうか、それがあってこその押井作品」ってことになるだろうが、そのせいで好き嫌いがハッキリ分かれる要素でもある。

どこかのボンクラ監督と違って、押井守監督は決して「台詞だけに全ての説明を頼り、映像を全く利用しようとしない」ってわけではない。実写の方はともかくとして、アニメーションに関しては「絵を動かす」ってこともキッチリと意識して演出している。ただ単に、物語の進行や必要な説明とは無関係なトコで「小難しいことを語りたい」という欲求があって、それを登場人物に委ねているだけだ。
とは言え、「疎ましい」と感じることが多々ある。そして、これが実写になると「陳腐」という要素まで加わる。
アニメのキャラなら成立する台詞でも、俳優が喋ると一気にバカバカしさが湧き出す。
「そんな小難しい内容を、そんな言い回しで喋るわけねえだろ」という不自然さが際立ってしまうのだ。

例えば、高畑と後藤田の会話では「敗戦によって失われるのは、人命や国土だけじゃない。歳月をいかに重ねようと、それだけでは決して癒やされたり復興したりすることの無い物がある」「正義。いや、柘植の言っていた、モラルかな」「どう呼ぼうとも同じよ。失われた正義は顧みられることも無く、いやそれどころか彼らは正義という重荷を担うことから逃れ、その立場を享受しながら生きて来た。敗者という役割を演じ続けてきた」といった言葉が並べられる。
だけど、「うるせえよ」という感想しか沸かない。
ぶっちゃけ、そういう「大切なメッセージを訴えてますよ」ってのが露骨にアピールされている台詞って、何一つとして頭に入って来ないのよ。

『機動警察パトレイバー』シリーズの主要スタッフであるにも関わらず、押井守がレイバーを好きじゃないことは、今さら言うまでもないだろう。
この人は自分のアイデアが採用されず、イメージしたのとは全く異なるデザインになったこともあって、レイバーを活躍させようという気が全く無い。
そもそも彼は、人間型の巨大二足歩行ロボットに対して何の思い入れも無いのだろう。
そこに愛も熱も無いんだから、そりゃあ『機動警察パトレイバー2 the Movie』にしろ本作品にしろ、パトレイバーが全く活躍しないのも当然だ。

「パトレイバーを好きじゃない人間が、パトレイバーを描く」という状態は、過去のアニメ版でもあったことだ。
しかしアニメ版の時は、ゆうきまさみや伊藤和典といった面々が押井守の意見を却下するなどして、何とかコントロールしていた。
押井守って人は、ちゃんと制御する必要がある。自由気ままに仕事をさせても、ロクなことにならない。
そんなことは彼のフィルモグラフィーを見れば一目瞭然のはずだが、このシリーズの製作サイドは全く気付いていなかったんだろう。

絵を動かすことへの意識は持っている押井監督だが、パトレイバーは別だ。
「まあ、そうなるんだろうなあ」と予想はしていたが、やはりパトレイバーは「ほぼ背景」と化している。終盤の数分間、申し訳程度にチョロッと動くだけだ。
まあ予算の都合もあるんだろうが、それにしても酷い。
押井監督や『パトレイバー』という作品について全く知らない人からすると、タイトルに付いているんだからパトレイバーがガンガンと動きまくるんだろうと期待してもおかしくない。
それが実際には数分(3分ぐらいかな)しか稼働しないんだから、詐欺に遭ったような気分になるんじゃないか。

ただし予算があったとしても、たぶん押井監督は、そんなにガシガシとパトレイパーを動かす内容にしなかったんじゃないかと思われる。
この人はミリタリー好きなので、そっち関連のウンチクは饒舌に喋らせるし、様々な銃火器も使わせている。で、もちろんミリタリーなアクションを描くのは好きなのだが、そこに「実際の戦場には存在しない上、戦闘には不向き」と考えているレイバーは邪魔な存在なのだ。
中盤の戦闘シーンなんて、普通に考えれば絶対にパトレイバーを使うべきでしょ。それなのに、レイバー無しで人間だけの戦闘シーンにするんだから、まあ良くも悪くも押井監督らしいわな。
っていうか「良くも悪くも」と書いたけど、ホンマはアカンねんで。

(観賞日:2016年11月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会