『新きまぐれオレンジ☆ロード capricious orange road そして、あの夏のはじまり』:1996、日本

1991年、夏。19歳の春日恭介は、恋人の鮎川まどかと横浜をデートした。夜のホテル、恭介はまどかとベッドに入り、初めて肌を重ねよう とする。その時、電話の音で彼は目を覚ました。夢だったのだ。電話を掛けてきた男は、「車に気を付けるんだ」と言う。誰なのか尋ねる と、「俺はお前だ、春日恭介だ」と言う。「冗談にも程があるぞ」と、恭介は怒って電話を切った。
恭介は経済学部1年生で、ケリー遠山記念写真コンテストで金賞を受賞した。まどかは凄いことだと称賛し、「お祝いをしてあげる」と 言う。まどかの態度に、恭介は今朝の夢が予知夢になるのではないかとワクワクする。恭介が喫茶店アバカブへ行くと、マスターは、 檜山ひかるから電話が会ったことを告げる。ひかるは、恭介の元恋人だ。別れの後、ひかるはバタバタと北海道へ引っ越した。ひかるは 高校を卒業したら、ミュージカルの勉強をするためにニューヨークへ行くらしい。
恭介は授業に遅刻しそうになったため、慌てて走り出す。だが、朝の電話が警告した通り、車に跳ねられてしまう。彼は地面に投げ出され、 脇腹から血を流して失神した。気が付くと病院に運ばれており、まどかも急いで駆け付けた。そこで再び、恭介は意識を失った。次に目を 覚ました時、彼は道路に倒れており、出血は消えていた。そこは、自宅近くにある100段階段の下だった。風で飛んできた新聞の日付を 見て、恭介は驚いた。そこには1994年と書かれていたのだ。
1991年の病院では、恭介が意識不明のままベッドに横たわっていた。恭介の祖父は、まどかや恭介の双子の妹・くるみ&まなみに「恭介は 事故のショックで、時空の谷間に飛んだのだろう」と語る。目の前にいるのは、魂の抜け殻だという。時空に飛ばされた恭介が、その時代 の恭介と会ってパワーを貰えば、戻って来られるのだと祖父は説明した。
1994年にタイムスリップした恭介は自宅へ行くが、そこには「山本」の表札があった。春日家は引っ越したのだ。アバカブへ行くと、そこ にマスターの姿は無かった。別の老人に店を売り渡していたのだ。事故に遭った場所へ行くと、歩道橋が作られていた。歩道橋を上がると 、ロングヘアーの女性が歩いてきた。それは、すっかり髪型の変わったひかるだった。ひかるは恭介との再会を喜んだ。オーディションを 受けるため、一時帰国したのだと彼女は言う。ひかるは相変わらず、底抜けに明るかった。
ひかるは、オーディションのことを知らせてくれた友人・安西朱里にホテルを探してもらっているらしい。ひかるから何か尋ねられた恭介 だが、ちょうど車が通って声が聞こえなかった。恭介は体の具合を訊かれたと思い込み、「調子悪いみたい」と答える。だが、ひかるは、 まどかとの関係を尋ねたのだった。ひかるは辛そうな顔になり、歩道橋から走り去った。
恭介が街を歩いていると、旧友の小松整司と八田一也が「まだ22歳だろ、恭介の奴」などと意味ありげな会話をしている声が聞こえた。 後を追うと、漫画家になった八田のサイン会が開かれていた。不意に恭介は立ちくらみに襲われ、瞬間的に両手が消失した。いつ消えるか 分からないと感じた彼は、その場から駆け出し、まどかの家へと走った。彼女の家のガレージには、3年前には見たことも無い車が 停まっている。外は、雨が降り出した。
恭介が窓から家の中を覗き込むと、まどかはピアノを弾いていた。同じ部屋にアイドル歌手の早川みつるがいたため、恭介は驚いた。早川 はまどかに、「いいかげん、あいつのことは忘れろ」と告げた。まどかは自作の曲がドラマに使われ、新人ピアニストとして脚光を浴びて いた。早川は関係者への口利きを持ち掛けるが、まどかは「頼んでないよ」と拒絶した。
早川は、まどかが良く弾いている曲について「貰ってやろうか。俺が詩を付けてやってもいい」と言う。まどかは肘鉄を食らわせ、早川を 拒んだ。「今のお前を救えるのは、この早川みつるだけだ」と早川が告げると、まどかは「出てって」と言い放つ。早川は「いつまでも 春日恭介の亡霊を追っかけている奴なんてゴメンだからな」と言い、まどかの元を去った。
家に飛び込もうとした恭介だが、姿が消えてしまう。再び出現すると、そこは100段階段だった。異次元に突入し、また出て来たらしい。 街を歩くと、電機器具店のテレビで、1994年の恭介がボスニアでの行方不明になっていることが報じられていた。恭介は、学生カメラマン としてボスニアへ行っていたのだ。まどかの元には恭介の祖父から電話が入り、「3年前から来た恭介とは会ったかな」と言われる。祖父 は、3年前に事故に遭って意識不明だった時の恭介が、そこに来ているはずだと告げた。
祖父はまどかに、「3年前に時空の狭間に飛ばされた時、何かの衝撃を受けたその時代の恭介と異空間で衝突した可能性がある。衝撃を 強く受けた恭介の方が異空間の谷間に落ち込んでしまい、この世に戻って来られなくなる。3年前の恭介と自分のパワーを合わせれば、 その恭介を呼び戻すことも可能だという。だから3年前の恭介を探し出してくれ」と語った。
ひかるが受けているオーディションを、舞台の客席から早川が見ていた。恭介がボスニアで行方不明だと知ったひかるは、まどかに電話を 掛けるが、留守番電話になっていた。恭介が100段階段を数えていると、ひかるがやって来た。彼女は、「どうして生きてたのに、まどか さんから逃げてるんですか」と訊いた。ひかるは恭介を、自分が泊まっているホテルの展望レストランへ連れて行く。恭介は何の脈絡も 無く、「ひかるちゃん、もうバージンじゃないんだ」と感じた。
まどかは早川からの電話で、ひかるに会ったことを聞かされた。ひかるは恭介に、「さっきの質問、私と違って2人には上手くいって ほしいから」と告げた。まどかはひかるのホテルに電話を掛け、受付嬢から男性と一緒だったと告げられた。まどかは、連れの男が恭介 だとは夢にも思わなかった。ひかるは酔い潰れた恭介を部屋に運んだ。ベッドに寝かせると、恭介は眠り込んだ。ひかるは横に潜り込むが 、「鮎川」という寝言を耳にして、もう一つのベッドに移った。
翌朝、目を覚ました恭介は、ひかると肉体関係を持ってしまったのかと焦る。ひかるに「何も無かったんです」と言われ、彼は安堵した。 ノックの音に、ひかるはルームサービスだと思い、ドアを開けた。だが、そこにいたのは、まどかだった。まどかは恭介に歩み寄ると、 「なぜ、すぐに私の前に現れなかったの」と怒ってビンタした。ひかるは彼女に、「何も無かったんです」と慌てて言い訳した。まどかは 優しい表情で、「おかえり」と声を掛けた。
3人はホテルのプールに移動した。ひかるはまどかに、「私、まだ春日先輩のこと好きですよ、だから危なかったんです」と告げた。 恭介はまどかの家に行き、祖父や妹2人と会って、異空間に飛ばされた説明を受けた。祖父は恭介とパワーを合わせるが、「遅かったか。 恭介の落ちた所は時の無い空間。長くそこに留まれば、現世に戻りたくなるのかもしれん」と言う。
「なんとしても恭介を目覚めさせて」とまどかに頼まれ、19歳の恭介は再びパワーを送るが、やはりダメだった。まどかはピアノの前に 座り、19歳の恭介が家を覗いた時と同じ曲を弾き始めた。それは、まどかが恭介のためにプレゼントした曲だ。その曲を聴いた19歳の恭介 に、強いパワーが宿った。テレビのニュースでは、恭介がボスニアで保護されたことが報じられた。
その夜、19歳の恭介はまどかに「寝よっか」と言われ、ドキドキした。しかしソファーで寝るよう指示され、「19歳のまどかちゃんに悪い だろ」と言われる。翌朝、オーディションに落ちたひかるが空港へ行くと、大勢のマスコミがゲートに向かっていた。恭介がボスニアから 戻ってきたのだ。その傍らには、迎えに来たまどかの姿がある。少し離れた場所で身を隠していた19歳の恭介は、22歳の恭介からの強烈な パワーを受けていた。22歳の恭介は、「待たせたな。そして、待ってたよ」とメッセージを送ってきた…。

監督は湯山邦彦、原作はまつもと泉&寺田憲史、シナリオは寺田憲史、製作は坂田信久&藤原正道&中島忠史&布川ゆうじ、企画は 武井英彦&斎春雄&伊藤梅男&本間道幸、プロデューサーは山崎喜一郎&福与雅子&大島満&深草礼子、キャラクターデザインは後藤隆幸、 演出は石原立也、作画監督は水上益治、美術監督は小林七郎、音響監督は松浦典良、撮影監督は福島増行、編集は掛須秀一&船見康恵、 音楽は梶浦由記。
声の出演は古谷徹、鶴ひろみ、原えりこ、本多知恵子、富沢美智恵、緒形賢一、鈴木れい子、難波圭一、龍田直樹、屋良有作、高乃麗、 川村万梨阿、松本保典、千葉一伸、小西寛子、飛田展男、千葉一伸、小西寛子ら。


『きまぐれオレンジ☆ロード』は、まつもと泉による週刊少年ジャンプ連載の漫画や、それを基にしたTVアニメ&OVAのタイトルだ 。
ここに“新”という冠が付いた『新きまぐれオレンジ☆ロード そして、あの夏のはじまり』は、TVアニメのライターだった寺田憲史が 1994年に執筆した小説のタイトルだ。
内容としては、1988年に公開された映画『きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい』の後日談とになっている。
この小説が30万部を越えるベストセラーになったことを受けて、それを映画化したのが本作品だ。小説版はシリーズ化され、3作目まで 出版されている。

早川というキャラが、いかにも「皆さんご存知のレギュラーキャストでござい」みたいな扱いになっているのは大いに疑問。
アニメだとOVAの『恋のステージ HEART ON FIRE!春はアイドル』と『恋のステージ HEART ON FIRE!スター誕生』に登場しただけの キャラで、漫画でも同じエピソードに登場するだけのゲストキャラだったのに。
しかも、登場時点ではプレイボーイだったけど、恋人・しおりのことを思い出し、最後はそれを観客の前で告白していた。
なんで再びプレイボーイに戻ってるのよ。

主要キャラの声優陣は、TVアニメと同じ。脚本は小説版の作者である寺田憲史、監督はTVアニメ『魔法のプリンセス ミンキーモモ』 の湯山邦彦。
キャラクターデザインが、TVシリーズや1作目の映画を手掛けた高田明美から、1作目の映画で原画スタッフの一人だった後藤隆幸に 替わっている。
『めぞん一刻 完結篇』がTVシリーズとキャラクターデザインを変える過ちをやらかして不評だったのに、そこから何も学ばなかった のか。原作漫画に近付けているわけでもなくて、むしろ離れているし。
でも考えてみれば、これは小説の映画化であって、小説は漫画の世界観から大きく逸脱した、全く別の話なんだよな。
ようするに、本作品において、まつもと泉の漫画は、せいぜい「キャラクター原案」という程度の扱いなのだ。
これは、寺田憲史がキャラクターだけを借りて作った、漫画やTVシリーズとは全く別物の映画として、切り離して考えるべきなのだろう。

22歳の恭介は、ものすごく大人びている。わずか3年で、随分と変わったもんだな。
で、ボスニアに行っている設定だが、ここに大きな違和感。
幾ら成人したからって、恭介がそんな職業に就くかね。
父親の仕事は手伝っていたけど、写真にはそんなに深く興味を示していなかった。
しかも父親は風景写真の人だ。あと、まだ22歳だろ。戦場カメラマンとしても若すぎるし。

で、そんな恭介が「ダサいよな。今の俺なら、ひかるとしちゃったな」と堂々と言ったり、「まどか」「恭介」と呼び方が変わっている のも違和感。
いや、そりゃあ22歳にもなれば変わるだろうけど、そして初体験をきっかけに呼び方が変わったことも描かれるけど、その「変わった」彼 らを描かれることに、そもそも違和感があるんだよ。
恭介、まどか、ひかるの仲良しな三角関係があってこその、『きまぐれオレンジ☆ロード』だ。
その関係が既に破綻しているところから始まる本作品は、もはや『きまぐれオレンジ☆ロード』じゃないのよ。
「“新”って付いているでしょ」と言われるかもしれんが、新が付こうが付くまいが、『きまぐれオレンジ☆ロード』というタイトルを 使っている時点でアウトだと思うんだよな。

寺田憲史は、なぜか分からないが、『きまぐれオレンジ☆ロード』のキャラクターを、現実感たっぷりの世界に引き擦り込もうとする。
現実感って言うより、性的な部分に深く踏み込ませたがる。
恭介が急に「ひかるちゃん、もうバージンじゃないんだ」とモノローグを語ったり、まどかが「おやすみ、童貞くん」と言ったり、恭介が コンドームを探したり、まどかが「今夜は無しでも平気な日」と言ったり、性的なところにドンドンと踏み込む。
最終的には恭介とまどかの初体験まで描くけど、そこに大いなる違和感を覚えてしまう。
『きまぐれオレンジ☆ロード』は、あくまでも「少年漫画」の世界の中に留めておくべき作品、ファンタジーな世界観の中で成立させる べき作品ではないかと思うからだ。シリアス全開な大人の恋愛劇なんて、この作品を使ってやるべきことじゃないだろうと、そう思うのだ。

どうしても登場キャラを肉体関係、性的にリアルな方向へ導きたかったんだね、寺田憲史は。
そんなの、この漫画を使ってやるなよ。
例えば『ドラえもん』をハードボイルドに描くとか、そういうパロディーみたいなノリだぞ、それは。
いや、だからパロディーとしてやるなら別に構わないが、正式な続編として作られると拒否反応を示したくなる。
っていうか、パロディーだとしたら面白くもなんともないけど。
この作品で、大人への階段を登らせる必要は無いのよ。「3人で笑ったり騒いだりすることが出来なくなった」というセリフがあるが、 そういうところへ行くべきじゃないのよ。

あと、まどかに平気でタバコを吸わせているのは、本当に無神経だなあと感じる。
漫画でもTVアニメでも、恭介が出会った直後、「丈夫な赤ちゃん産めなくなるぜ」と言っており、それ以来、彼女はタバコを吸わなく なった。
もちろん、もう中学生ではなく成人しているから、タバコを吸える年齢にはなっている。
だけど、やっぱり丈夫な赤ちゃんを産むまでは、タバコを吸うべきではないだろう。
原作と逸脱しているとは言っても、一応、原作の延長ということで書いてるんでしょ。
デリカシーが無さすぎるよ、その描写は。

漫画やTVアニメとの違いを抜きにしても、話としてつまんないよな、これ。なんで、こういう話にするんだろう。
続編を作るにしても、ラブコメをやりゃあいいのに。前の映画に引き続いて、またシリアス満開なんだよな。
そんなにラブコメが嫌いですか。
だったら、この作品に関わるなよ。
あと、シリアスな恋愛劇としても、何が描きたかったのか良く分からないし。

1991年にしろ1994年にしろ、恭介とまどかの関係に波風が立っているわけではないし、交際に不安がよぎっているわけでもない。恭介が タイムスリップをして3年後のまどかと会っても、1991年と1994年、どちらにおける恭介とまどかの関係にも、大きな影響を与えることは 無い。
ようするに、タイムスリップした意味が、物語展開の中に見当たらないのだ。
結局、最後の最後に待っている初体験に触れたかっただけじゃねえのかと。
しかも、そこに向けての長いネタ振りにさえなっていない。そこまでの展開が、初体験の夜に向けての流れを構築していない。
あと、ひかるの登場も、あまり意味が無い。せいぜい「前作の映画で救いの無いまま、恭介たちと冷たく関係が切れていたけど、仲が悪く なったわけじゃないのよ、親しい関係は続いていたのよ」と観客に説明するためという程度。
説明っていうか、寺田憲史の弁明に近いな。

(観賞日:2009年11月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会