『ジャングル大帝』:1997、日本
アフリカのジャングル。ジャングルの王者であるホワイト・ライオンのレオと、その妻ライヤとの間に、2頭の子供が産まれた。兄のルネと妹のルキオは、両親やヒヒのブラッザー、オウムのココやインパラのトミーたちに見守られながら、元気に育った。一方、密猟者のハム・エッグは街に戻り、ジャングルで見つけた石を売ろうとしていた。だが、どの宝石店でも「ただの石だ」と言われてしまった。
ハム・エッグが売ろうとしている石の情報を知った科学技術庁の職員マイナスと部下のラムネは、彼と接触した。その石を分析した結果、それはエネルギー危機に直面した地球を救うことの出来る月光石だと判明した。石の価値を知ったハム・エッグが高額で買い取るよう持ち掛けていると、長官のプラス博士が現れた。彼は、ハム・エッグが莫大な借金を背負っていることを調査済みだった。
プラスはハム・エッグに、月光石の眠る場所がムーン山であることを告げる。しかし、ムーン山の位置は誰も知らない。そこでプラスはハム・エッグに、ムーン山の場所を突き止める仕事を依頼した。ラムネが調査隊に同行することとなった。ハム・エッグは自分で調査隊を集め、アフリカへと向かった。現地に到着したハム・エッグたちは、ジャングルに詳しい現地の協力者ヒゲオヤジと合流した。
怖いもの知らずのルネはココの指導を受け、葉っぱの羽根を付けて空を飛ぼうとする。ルキオとトミーが心配する中、ルネは崖からダイブするが、もちろん失敗した。ずっと昔に墜落した飛行機を発見したレオは、その中に入った。機内に残されていたオルゴールを見つけたルネは、その音色に聞き惚れた。そこへ子ゾウのビゾーが来て、ルネからオルゴールを奪い取る。ルネが怒って飛び掛かると、ビゾーは父のパグーラに泣き付いた。ルネがレオの息子だと気付いたパグーラは、その度胸を誉め、息子を連れて立ち去った。
夜、またオルゴールを聴いていたルネは、捜しに来たルキオに「こんな物を作っちゃうなんて、人間って凄いよ。行ってみたいな、人間の世界に」と述べた。翌朝、ハム・エッグはブルドーザーまで持ち込み、木々を薙ぎ倒しながらジャングルを進む。彼は動物を撃ち殺し、ジャングルに火を放った。ヒゲオヤジはラムネの運転するジープで追い掛け、ハム・エッグの行動を阻止しようとする。しかしブレーキが故障したジープは木に激突し、2人は気を失ってしまった。
レオはココとトニーから、サイじいさんが火に囲まれて立ち往生しているという知らせを受けた。現場に向かったレオは、ハム・エッグがサイじいさんを射殺する現場を目撃した。激怒したレオに襲われたハム・エッグは、隙を見て逃亡した。オルゴールを取りに出掛けたルネは、倒れた木の下敷きになってしまった。意識を取り戻したヒゲオヤジはルネを発見し、木の下から引っ張り出して助けてやった。その様子を、戻って来たレオが目撃した。
パグーラは群れを率いて人間に報復しようと考え、レオに協力を求めた。しかしレオが「人間と争うつもりは無い」と告げたため、彼は「お前には付いていけん」と立ち去った。レオはルネに「僕はお父さんに賛成だよ」と言われ、「パグーラの言うことも間違いじゃない。いい人間もいるだろうが、中にはジャングルを荒らして我々を苦しめる悪い人間もいるんだ」と語る。「争いからは何も生まれない。だが、ならば、どうすれば良いのか」とレオが呟くと、ルネは「人間と仲良くなればいいんだよ。そして、もうジャングルを壊さないでねって頼めばいいんだよ」と無邪気に告げた。
大雨が降り続く中、ムーン山に住むマンモスのオフクロサンがレオたちの前に現れた。オフクロサンはレオに「ジャングルを守るのは大変なことだけど、自分を信じて頑張るんだよ」と告げて山へ戻っていった。洪水が発生する中、人間界に憧れるルネは丸太に乗って濁流を下った。海に出たルネは漁師の船に拾われ、サーカス団に売り飛ばされた。初めて目にしたサーカスに興奮したルネがステージへ飛び出すと、観客は拍手喝采を送った。
ルネはネズミのジャックと仲良くなり、「人間の世界って凄いね。感動しちゃった。人間と動物が仲良く暮らしてるんだもん」と語った。しかし翌日、ルネは弱ったゾウが調教師に鞭で打たれる現場を目撃した。カッとなって調教師に飛び掛かったルネは、蹴り飛ばされた。調教師が鞭で打とうとすると、空中ブランコ乗りの少女メリーが来て制止した。彼女は「私が面倒見るよ」と言ってルネを預かり、一緒に空中ブランコのショーをやることにした。
一方、いなくなったルネを心配していたライヤは、死斑病に冒された。ルネはサーカス小屋にやって来た渡り鳥から、死斑病がジャングルで流行し、多くの動物が命を落としていることを知らされた。家族のことが心配になったルネは、空中ブランコに集中できずに失敗した。調教師が虎に火の輪くぐりを練習させている最中、ミスが起きて輪が外れてしまった。火は小屋に燃え移り、大きな火事となった。ルネは動物たちを指揮し、消火活動に当たった。
ルネが心配事を抱えていることに気付いたメリーは、サーカスから逃がしてやることにした。ルネは港に行き、船に乗り込んだ。ライヤはレオやルキオたちに看取られ、息を引き取った。レオはライヤを弔うが、今度はルキオが死斑病に冒されてしまう。同じ頃、調査隊を離脱したヒゲオヤジとラムネは、ハム・エッグたちの動きを監視していた。死斑病の流行を知ったヒゲオヤジは、ラムネにハム・エッグの監視を任せてジャングルへ入ることにした。
ハム・エッグは隊員たちに、ムーン山へ入ることを宣言した。依頼されたのはムーン山を発見することだったが、ハム・エッグは月光石を手に入れ、高額で売り捌こうと企んでいたのだ。ジャングルに入ったヒゲオヤジは、人間を警戒する動物たちに包囲されてしまう。そこへレオが現れたので、ヒゲオヤジが「一つでも多くの命を救わせてくれ」と言うと、レオは彼の力を借りることにした。それはジャングルの掟に逆らう行為だったが、レオはヒゲオヤジを自分の城に案内した。
ヒゲオヤジがルキオに薬を注射すると、翌朝には回復した。その結果を受け、動物たちは列を成してレオの城に集まり、ヒゲオヤジの治療を受け始めた。ビゾーも死斑病に冒されていたが、パグーラは人間の手助けを拒んだ。しかしレオの説得を受けたパグーラは、ヒゲオヤジにビゾーを治療してもらった。ラムネがヒゲオヤジの元に現れ、ハム・エッグの部隊がムーン山へ向かったことを知らせた。ヒゲオヤジはラムネと共に、部隊の後を追い掛けた。レオはヒゲオヤジに恩返しするため、同行して道案内をすることにした…。監督は竹内啓雄、原作は手塚治虫、脚本は竹内啓雄&手塚プロダクション文芸部、製作は松谷孝征&幸甫、企画は清水義裕&古徳稔&石田康男、プロデューサーは久保田稔&宇田川純男&秋葉千晴、作画監督は杉野昭夫、絵コンテは竹内啓雄&五月女有作&吉村文宏&桑原智&西田正義&平田敏夫&樋口雅一&福冨博&篠原俊哉&千葉大輔&内田裕&木下久馬、キーアニメーターは内田裕&木下久馬、色彩設定は岡野強、演出は五月女有作&吉村文宏&桑原智、美術監督は阿部行夫、撮影監督は玉川芳行、編集は森田清次、効果は倉橋静男、録音は井上秀司&飯塚秀保、音響監督は千葉耕市、音楽は冨田勲、音楽監督は東上別符精。
イメージソング「WIND SONG」歌:松たか子、作詞:坂元裕二、作曲・編曲:日向大介。
声の出演は津嘉山正種、倍賞千恵子、柊美冬、椎名へきる、肝付兼太、龍田直樹、伊武雅刀、鈴木蘭々、谷啓、茶風林、遠藤晴、富田耕生、立川談志、中嶋朋子、松本保典、松村康雄、塩屋浩三、竹村拓、巻島直樹、長島雄一(現・チョー)、宝亀克寿、坂東尚樹、一条和矢ら。
手塚治虫の同名漫画の内、第3部を基にした作品。
レオの声を津嘉山正種、ライヤを倍賞千恵子、ルネを柊美冬、ルキオを椎名へきる、ココを肝付兼太、トミーを龍田直樹、パグーラを伊武雅刀、ビゾーを鈴木蘭々、ブラッザーを谷啓、ジャックを茶風林、オフクロサンを遠藤晴、ヒゲオヤジを富田耕生、ハム・エッグを立川談志、メリーを中嶋朋子が担当している。
監督は『宝島』の竹内啓雄。プラス博士は「調査の結果、月光石がムーン山に眠っていることは分かっている」と言い、近くで発見された月光石も持っている。
そこまで分かっているのに、ムーン山の正確な場所が分からないというのは、どういうことなんだろうか。
場所が分からないのに、なぜ月光石が眠っていることは分かっていて、そこで見つかった石も持っているんだろうか。
その辺りの理屈がサッパリ分からない。
あと、そこまで分かっているのに、いかにも胡散臭い密猟者のハム・エッグに調査を依頼するのも解せない。心優しきヒゲオヤジが、なぜハム・エッグの調査隊への協力に同意したのか分からない。
ハム・エッグが悪党の正体を隠していたのならともかく、出会った時から醜悪な本性をさらけ出しているんだし。
そのハム・エッグはブルドーザーで木々を薙ぎ倒し、動物を次々に撃ち殺し、ジャングルに火を放つ。
でも、ムーン山を見つけるのに、そんな行動が必要だとは到底思えない。ハム・エッグの悪辣ぶりを示すために、不自然な行動を取らせているように思えてしまう。
で、そういう行動を取らせることによって、それは単に「ハム・エッグというイカれた密猟者が悪い」ということになってしまう。
でも本来は、「目的のために自然を破壊する人間のエゴ」が糾弾される形になっているべきではないのか。『ライオン・キング』との類似を避けたかったのか、最初からそういう企画だったのかは知らないが、原作の第3部を映画化するという時点で、もはや失敗は決まっていたと言っても過言では無い。
原作の『ジャングル大帝』はパンジャ、レオ、ルネ(&ルキオ)という親子三代の大河ドラマ的作品であり、第3部だけを抜き取っても意味が無い。第3部は、第1部と第2部があってこそのモノなのだ。
レオがジャングルの王者として登場するが、第1部と第2部の流れがあってこそ、「なぜ彼はジャングルの王者なのか」を描写しなくても済むわけで。
この映画だけを見てしまうと、レオがホワイト・ライオンであることの意味も無い。全く紹介シーンが無いので、とても薄いキャラになっている。
っていうか、ルネとルキオにしてもキャラ描写は薄いから、レオだけに限ったことじゃないんだけどね。レオがルネに語る、人間との関係性についての言葉なんかは、これまでの彼の体験があってこそ出て来るものだろう。
そして、それを観客も知っていてこそ、深みのある言葉として伝わってくるはずだ。
そういう「物語の蓄積」が無いから、どうしても言葉の持つ意味が軽くなってしまう。
これまでのレオの物語を脳内補完しない状態で鑑賞すると、かなり散漫な内容にしか感じ取れない。あと、根本的に、尺が足りていない。
ルネがサーカスで良い人間と悪い人間を知って悩んだり、メリーと交流を深めたり、そういう描写に費やすための時間が、ほとんど用意されていない。メリーとの絆を深める前に、もう別れのシーンになってしまう。
火事の時にルネは動物たちを指揮しているが、それに動物たちが従うのも、「最初は新参者のルネを軽く見たり嫌悪したりしていたが、彼のリーダーの資質に気付き、従うようになる」という流れがあって、そこのシーンに至るべきでしょ。
ルネは船に乗った時に「絶対みんなのこと忘れない」と言うけど、そんなことを口にするほど、サーカスの面々との交流は描写されていないのよ。
TVシリーズの編集版なのかと思うぐらい、薄くなっちゃってんのよね。第3部を取り上げるのなら、ルネとルキオの物語に集中してしまえばいいのに、そういう割り切り方は出来ていない。
っていうか、まあ「ルネを主人公にした物語を全編に渡って描くぐらいなら、第1部を映画化すりゃいいだろ」ってことになるけどね。
原作でも、昔のTVシリーズでも、そこが最も人気の高い箇所だと思うし。
それはともかく、ルネとルキオが誕生することろから始まるので、2頭が成長していく様子を丁寧に描くのかと思ったら、そうじゃない。
すぐに、ハム・エッグがムーン山の調査を依頼される展開へと移る。で、ハム・エッグたちがジャングルに来るんだから、月光石を巡する話を進めていけばいいものを、それはあっさりと中断してしまう。
その後、大雨が降ってルネが流され、サーカスに売られる展開が描かれる。
ルネがサーカスに売られた後、そこでの様子が描かれるが、すぐに彼はジャングルへ戻るための船に乗る。
で、ライヤが死んでルキオが病気に冒され、ヒゲオヤジが治療する展開になる。ライヤが死斑病に冒されても、それまでのルネと彼女の関係描写が薄いから、ルネが主人公の物語として解釈した場合、そのエピソードが活きてこない。
で、ヒゲオヤジが動物の病気を治療した後は、また月光石を巡る話に戻っている。
ライヤが死ぬ辺りからは、レオが主人公の物語になっている。ルネは船に乗った後、ずっと消えている。
それは構成として上手くない。
トータルでレオが主役の物語にするなら、ルネがサーカスに売られるエピソードは削った方がいい。ヒゲオヤジはハム・エッグがムーン山へ向かったと知ると、「奴に月光石を渡したら大変だ」と、慌てて後を追う。
そこまでいい。
でも、彼はハム・エッグを見つけ出して行動を阻止するのかと思ったら、そうじゃないのね。自らムーン山を登り、月光石を見つけ出そうとしている。
それは目的と行動が一致してないでしょ。
先に月光石を発見したとしても、それでハム・エッグが見つけるのを阻止できるわけではない。
月光石の鉱脈を全て持ち去ったり、隠したりすることは不可能なんだからさ。大体さ、あれだけ犠牲者が出るような過酷でルートを行かなきゃならないのであれば、しかもマトモな道筋も分かっていないのなら、仮に放っておけば、ハム・エッグが月光石まで辿り着けたとは思えないんだよな。
あと、ハム・エッグやプラス博士の持っていた石は、もっと簡単な場所で発見されたんでしょ。
だったら、その近くを探せば、鉱脈が見つかるかもしれんぞ。
石が1つだけ鉱脈から遠く離れた場所で見つかるというのは、ちょっと考えにくいし。ジャングルで伝染病が流行したり、ヒゲオヤジのムーン山調査にレオが協力したりする流れになると、もはやルネとルキオが生まれたことの意味が、ほとんど無くなっている。
冒頭で子供たちが誕生したことを描いておいて、その子供たちや、あるいは子供たととレオとの関係がメインとして描かれない。
そして、そういう要素が無くても成立するエピソードばかり描いている。
どう考えても、それが正解だとは思えない。(観賞日:2012年5月7日)