『事故物件 恐い間取り』:2020、日本

大阪の道頓堀。結成10年目になるお笑いコンビ「ジョナサンズ」の山野ヤマメと中井大佐は、小さなライブハウスでビニール傘を使ったショートコントを披露した。全く受けなかったが、数少ないファンの小坂梓だけが大笑いした。ジョナサンズの次に舞台へ出た「肉戦車」の2人は、観客を大いに沸かせた。その様子を見た中井は、コンビの解散を山野に切り出した。彼はTVプロデューサーの松尾雄二から、放送作家への転向を勧められていた。自分でネタを書いていない山野は、今後の展望が見えずに困り果てた。
山野がライブ会場を出ると、肉戦車は雨の中で待っていた大勢のファンに囲まれた。そんな中で梓だけは山野を待っており、「面白かったです」と声を掛けた。彼女が傘を持っていないと気付き、山野はコントで使った傘を渡して去った。帰宅した梓は貰った傘を大事に飾り、スマホでテレビ番組のヘイメイク・アシスタント募集の求人情報を見た。彼女は京阪テレビへ行き、電話で連絡を取ったメイク係のカオリに会う。多忙なカオリは、彼女に「今日から働ける?」と尋ねた。
南田みのるが司会を務めるテレビ番組『ホンマアカン!噂のシンソウ』を担当する松尾は、視聴率が悪いと今季で打ち切りだと通告された。彼がAPを務める下中裕美の前で苛立っていると、中井と山野が解散の挨拶回りにやって来た。中井は松尾に、「何でもやりますんで」と山野を売り込んだ。中井が松尾から打ち合わせに呼ばれ、山野も同行した。中井と先輩の放送作家は企画案を幾つも提案するが、松尾は「どれも見たことあるネタばっかり」と全て不採用にした。
中井は「知り合いの芸人から聞いた話なんですけど」と前置きし、ある出来事を語る。その芸人の相方は引っ越してから音信不通になり、部屋まで見に行った。すると相方は精神を病んで奇怪な行動を取っており、芸人も辞めた。そこが事故物件だったことを中井が告げると、松尾は山野に「そこに住め」と指示した。心霊映像を撮影できれば新コーナーを作ってやると言われた山野は困惑するが、松尾は一方的に決定を下して去った。そこへ梓が来て挨拶し、本当に済むのかと訊かれた山野は「どうせ無茶ブリだろう」と軽く告げた。後日、山野は中井に電話を掛け、またコンビを組もうと持ち掛けるが無理だと断られる。彼は松尾に呼び出され、中井が言っていた事故物件は空いていなかったが別の事故物件が見つかったと告げる。山野は下中から、ビデオカメラを渡された。

[事故物件 1軒目]
山野は荷物をまとめ、フォンテーヌ淀川という古いアパートの一室に引っ越した。部屋では1人暮らしの女性が殺害され、事件をきっかけに違法建築も発覚していた。管理人によって、6階は立入禁止になっていた。部屋に入った山野がカメラを持って撮影を始めると、背後で大きな物音がした。山野は驚くが、自治会の女性が挨拶に来ただけだった。山野がドアを開けると女性の飼い犬が室内に乱入し、何も無い場所に向かって激しく吠えた。
山野が三脚を出してカメラを据え付けると、松尾が電話を掛けて来た。山野は1人だったが、松尾は女の声が聞こえると告げた。次の日に松尾が山野の撮影した映像を確認すると、白い帯状の光が映り込んでいた。この映像は『噂のシンソウ』で使われ、霊能力者の篠崎は光の正体について「オーブと呼ばれる死者の魂」と説明した。スタジオに来た局長から褒められた松尾は、このネタは自信があったと得意げに言う。それを見ていた中井は、松尾に手柄を横取りされたことへの不満を抱いた。
山野は松尾から、第二弾を期待していると告げられる。中井は山野と梓を誘い、お好み焼き屋に出掛けた。梓はメイク係になった理由を中井に問われ、子供の頃からの夢だったと答える。一度は諦めていたが、ジョナサンズに背中を押された気持ちになったと彼女は語った。逆に彼女から芸人になった理由を問われた中井は、金持ちになってモテたかったからだと答えた。彼は父親に勘当されており、放送作家として売れるまで実家には帰らないと述べた。
山野は芸人になった理由を訊かれ、「人は1回笑うと寿命が3分、174秒増える」と言う。25年前、彼の祖母は医者から余命3ヶ月と宣告された。山野は元気になってもらいたくて、学校が終わると病院に通って祖母を笑わせ続けた。祖母が1年生きたので、山野は「笑いで人の命を救いたい」と考えるようになったのだと梓に語った。中井はオーブを見たいと言い出し、梓を誘ってフォンテーヌ淀川へ向かった。梓は駐輪場で黒い影を目撃するが、怖がっていると消滅した。
山野が部屋に入って片付けている間、廊下で待っていた梓はエレベーターから出て来たフードの男がゴルフクラブで中井を襲う幻影を見た。彼女は怖くなり、山野と中井に理由を言わずにマンションを去った。部屋に入った中井はビールを飲み、企画か通らず番組から外されたことを山野に明かす。彼は作家の仕事が無いと言い、「俺も一緒に住む。事故物件の企画を手伝わせてくれ」と山野に頼む。「俺がお前を売ってみせる」と彼が頭を下げるので、山野は承諾した。
次の朝、中井はカメラを4つに増やすが、怪奇現象は何も起きないまま日々が過ぎた。第二弾の告知を打っている松尾は、何でもいいから撮ってくるよう山野に要求した。山野はメイク室で梓から「あの部屋で何かありました?」と問われ、何も無くて困っていると言う。梓が何か言いたげな様子を見せたので、山野はマンションで何かあったのかと問い詰めた。すると梓は、幼い頃から他人に見えない物が見えると打ち明けた。彼女はマンションで殺人事件があって犯人は死刑になったと聞き、男の幻影を思い出して震えた。
山野は梓を部屋に呼び、協力してほしいと頼む。仕方なく承諾した梓は、赤い服の女がフードの男にゴルフクラブで襲われる幻影を見た。翌朝になって山野と中井が4つのカメラを確認すると、その時間に全ての映像が途絶えていた。中井は勝手に山野の自転車を借り、仕事に向かう。気付いた山野がテレビ電話を掛けると、中井の背後に赤い服の女性が映った。すると駐輪場の自転車が一斉に倒れ、そこにも赤い服の女性が出現した。
山野は中井に後ろを写せと指示し、女性が立っているのを確認する。しかし中井は山野から教えられても、女が見えないので本気にしない。駐輪場の女が大量出血して振り向いたので、山野は慌てて身を隠した。するとテレビ電話に映る女性も振り向いたので、山野は中井に「今すぐ離れろ」と叫ぶ。その直後、中井は乗用車、山野はトラックに、同じ時刻にはねられた。病院へ赴いた梓は、山野がかすり傷と軽い打撲で済んだこと、中井は全治2ヶ月の重傷を負ったことを知る。梓は2人から話を聞き、女はマンションで起きた殺人事件の被害者ではないかと述べた。
一ヶ月後。山野が退院した中井を連れて松尾の元へ行くと、先週の放送が大きな話題だと言われる。次回から山野は番組レギュラーで中井は作家だと告げられ、2人は抱き合って喜んだ。梓と会った山野は、礼を述べた。山野は渋澤不動産屋へ出向き、事故物件を探していると告げた。担当の横水純子は、赤い服を着ていた。横水に「心理的瑕疵 有」と書かれた物件を幾つか見せられた山野は、殺人事件が起きたカインドコートというアパートの部屋を選んだ。彼は内見の手続きを飛ばし、すぐに契約した。

[事故物件 2軒目]
山野と中井はカインドコートへ行き、荷物を部屋に運び込んだ。廊下に人の形をした黒い幻影が出現するが、2人は気付かなかった。和室の畳は1畳だけ色が違っており、山野たちが外して中を調べると血痕が残っていた。風呂場は鏡が外された形跡があり、シャワーはホースだけ新しい物に付け替えられていた。洗面台には水が溜まっており、2人が排水溝を調べると髪の毛が詰まっていた。翌日、山野は中井から、イタズラ電話を掛けて来たことを責められる。山野には覚えが無かったが、中井の携帯電話には謎の音声が残っていた。
山野は心霊体験談を話すトークイベントを開催し、会場には大勢の若い女性客が集まった。イベント後にはサイン会が開かれ、山野は自分の本にサインする。その様子を少し離れて見守っていた梓は、山野の背後に髪の毛の幻影が浮いていることに気付いた。ファンから写真を求められた山野は、梓に撮影を頼んだ。梓が携帯電話を構えると、誰もいない場所に3人目の顔認証が出た。そこに老女の幽霊が出現し、梓は悲鳴を上げた。携帯を確認した山野も、誰もいない場所の顔認証に気付いた。
定食屋に立ち寄った山野は、カインドコートで70過ぎの母親が無職の息子に殺される事件があったことを店主から知らされた。松尾は山野と中井に、『噂のシンソウ』の2時間スペシャルが決定したことを知らせた。中井は山野に、母親が倒れたことを明かす。山野が帰郷するよう勧めると、彼は「やっとチャンスが回って来た」と拒否し、梓に部屋へ来てもらえば何か起きるのではないかと告げた。梓はベテラン芸人のヒミコに罵られて落ち込み、充分な仕事が出来ないと泣く。それを見た山野は自分の失敗談を語り、彼女を励ました。
山野は良かったら遊びに来ないかと誘い、梓を部屋へ招いた。梓は本当の目的を悟っており、すぐに撮影を始めさせる。マネージャーから電話を受けた山野が離れている間に、梓は洗面所の鏡に現れた老女の霊に襲われた。彼女は洗面台に頭を押し付けられ、溺死させられそうになる。電話を終えた山野が駆け付け、慌てて彼女を助けた。彼は謎の音声を梓に聴かせ、洗面台に顔を押し付けられた老女の断末魔だと2人は気付く。梓は部屋の隅に、黒いフードの人影を見た。山野は梓に、これ以上は迷惑を掛けないと約束した。
深夜に帰宅した中井は、工場で大火事が起きて父が大火傷を負ったので帰郷すると山野に話す。彼は「これは偶然じゃない」と言い、撮影を中止するよう警告した。山野が拒むと、中井は周囲の人間にも危険が及ぶかもしれないと告げ、「俺は止めたからな」と去った。山野は横水の元へ行き、新たな事故物件を紹介してもらうことにした。2つ物件を提示された彼は、ロフトが付いているノーブル鶴橋という物件を選んだ。その部屋では、先月に女性の住人が首を吊って自殺していた。

[事故物件 3軒目]
山野は部屋に引っ越した直後、ロフトで強烈な頭痛に見舞われた。彼は松尾に電話を掛け、番組の収録を休んだ。それを知った梓は、心配して部屋へ行くことにした。山野は無意識の内に、首にロープを巻き付けて自殺しようとする。しかし梓がインターホンを押すと、虚ろな目で玄関のドアを開けた。彼は梓に指摘されてロープに気付き、我に返った。梓は山野に事故物件公示サイト「心霊不動産」の存在を教え、2016年頃にロフトで男性が首吊り自殺をしていたことが判明した。
松尾は山野に、次回から番組が全国ネットになって東京での収録が決定したことを伝える。山野は横水と会い、東京の事故物件を紹介してほしいと要請する。横水は東京の業者に連絡を取って用意しており、掘り出し物として千葉市稲毛にあるアパート「あおば荘」を勧めた。そこは恋人同士の無理心中事件があった部屋で、発見された時に抱き合うようにして亡くなっていたと彼女は説明した。梓は山野から物件について知らされ、「ここだけは絶対に住んじゃダメです」と反対する。山野は「それは無理だ」と言い、説得を試みる梓を怒鳴り付けて拒絶した…。

監督は中田秀夫、原作は松原タニシ『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房刊)、脚本はブラジリィー・アン・山田、製作は大角正&藤島ジュリーK.&有馬一昭&関根康&田中祐介&堀内蔵人&井田寛、エグゼクティブプロデューサーは吉田繁暁、アソシエイトプロデューサーは矢島孝、プロデューサーは秋田周平、撮影は花村也寸志、照明は志村昭裕、美術は瀬下幸治、録音は秋元大輔、編集は青野直子、音楽はfox capture plan。
出演は亀梨和也、亀梨和也、奈緒、瀬戸康史、木下ほうか、江口のりこ、MEGUMI、真魚、瀧川英次、加藤諒、坂口涼太郎、中田クルミ、団長安田、クロちゃん、バービー、宇野祥平、高田純次、小手伸也、有野晋哉、濱口優、吉岡睦雄、松原美穂、岡本智礼、羽田真、伊東由美子、鴇田蒼太郎、代走みつくに、我こそは田中、にしね・ザ・タイガー、華井二等兵、ちかえの子ども!!、柳萌奈、小磯聡一朗、米村真理、仲鉢借果林、加藤翔、鈴木浩文、倉沢しえり、大島正華、星耕介、鈴木孝之、幸野紘子、ソ ヨリコ、佐久間麻由、久保優二、田代友紀、五歩一豊、比佐仁、鈴木達也、高橋舞、コウメ太夫ら。


「事故物件住みます芸人」として活動する松原タニシによる同名のノンフィクション書籍を基にした作品。
監督は『スマホを落としただけなのに』『貞子』の中田秀夫。
脚本は『トリハダ-劇場版-』『こどもつかい』のブラジリィー・アン・山田。
山野を亀梨和也、梓を奈緒、中井を瀬戸康史、松尾を木下ほうか、横水を江口のりこ、カオリをMEGUMI、下中を真魚が演じている。
南田を団長安田、ヒミコをバービーが演じている他、よゐこ、クロちゃん、オジンオズボーン、紺野ぶるまなど大勢のお笑い芸人が出演している。

山野と中井は大阪で活動している芸人の設定で、2人とも関西弁を喋っている。原作者が松原タニシってことで、この映画も関西から話を始めているんだろう。
だけど、わざわざ大阪から始める必要なんて全く無いでしょ。
亀梨和也も瀬戸康史も関西出身じゃないんだし、そこは「原作でも関西から始まっているから」と変に生真面目なスタンスで向き合う必要性はゼロだぞ。
東京の売れない芸人という設定でも別にいいでしょ。原作はあくまでも原作に過ぎず、そこの脚色は大いに有りでしょ。

ホラー映画なんだから、普通に考えれば導入部の段階で「これから怖いことが起きますよ」と匂わせておくのがセオリーだろう。
しかし、この映画からは、その匂いが全く漂って来ない。これから怖いことが起きそうな予兆は皆無で、むしろ売れないお笑い芸人とファンによる恋愛物語でも始まりそうな導入部になっている。
さすがに、それが物語の軸に据えられることは無いが、その後も恋愛劇は大きく扱われている。
だけど、そういうのって邪魔でしかないよ。

しばらくすると、中井が事故物件について話す展開が訪れる。ここで中井が精神を病んでヤバくなった芸人のエピソードを語ると、その芸人の部屋を相方が訪れた時の回想シーンが挿入される。
だけど、そこの短い回想なんて全く要らないよ。
中井が軽い口調で説明している状況だし、ものすごく短いので、そこで怖がらせる力なんて全く無いし。
そこはサラッと台詞だけで片付けて「そんなに怖くないのかな」と思わせておいて、落差を付けた方が、ホラーとしては絶対に得策だろうに。

山野が松岡から事故物件を紹介されてカメラを渡されると、BGMが流れて不安を煽ろうとする。しかし、これから怖い出来事が起きるという流れを全く作り出せていないので、観客を引き込む力は皆無だ。
その後は1つの物件ごとに分割されるチャプター形式となるが、それはセミ・ドキュメンタリーの方が適した構成だろう。
で、一件目の部屋に山野が入ると早速、大きな物音がする。だが、それは自治会の人が来ただけであり、すぐに肩透かしなのでゲンナリさせる。
不安を煽る手順を丁寧に踏んでいれば、それも有りかもしれないよ。だけど、それをサボっておいて早々に肩透かしって、どういう計算能力の低さだよ。

山野は松岡からの電話で「女の声が聞こえる」と言われるが、そこから何かに怯える様子も無い。余韻もゼロで映像チェックに切り替わり、そのシーンには何の恐怖も感じない。
その後、新たな怪奇現象が起きるが、それを見るのは梓で、だから怖がるのも彼女だけ。それでも、まだマトモに怖がる人間が出現してくれただけで、少しはマシになったと言えなくもない。
だが、山野と中井の無関心や、お笑い芸人としての言動が、見事なぐらい邪魔をしてくれる。
そこに限らず、本物のお笑い芸人を何人も登場させる趣向や、変に笑いを取りに行こうとする会話劇が、ホラーとしては雑音でしかない。

横水が山野に、「分かります。人は必ず、いつかは死ぬものです。あらがわれへん運命に怯え続けるより、その正体を知りたいと思うのは当たり前のこと。お知りになりたいんですよねえ。人は死んだらどうなるんか。決して恥ずかしがることではありません」と話すシーンがある。
この時、横水の微笑する口元がアップになる。
ここでは彼女を使って、観客に不安を与えようとしている。
だけど、横水が何かの黒幕ってわけでもないし、何か知っているわけでもないんだし、明らかにピントがズレている。

山野は芸人を目指したきっかけを梓に訊かれた時、余命3ヶ月と宣告された祖母を笑わせ続けて1年間も生きた出来事を語る。それに関連して、「人は1回笑うと寿命が174秒増える」と考えていることを話す。
だけど、「それがどうした?」と言いたくなる。
それってメインとして描かれる怪奇現象と、何の関係も無いでしょ。そんな山野の言葉で梓が説得しようとするシーンもあるけど、これもまた恐怖物語としては何の意味も無いし。
そういう怪奇や恐怖と無関係なトコで、中途半端に力を入れているのよね。

根本的なことを言っちゃうと、山野たちが怪奇現象を歓迎しているってのは、ホラー映画として致命的な欠陥でしょ。
主人公が喜んでいて怖がってくれないのでは、こっちも怖がれないよ。観客は怪奇現象そのものだけを怖がるんじゃなくて、「怖がる登場人物」を見て怖がる部分も少なくないんだから。
それはお笑いで言えば、ボケに対するツッコミみたいなモンだよ。ボケだけで笑うわけじゃなくて、ツッコミという噛み砕いて分かりやすく伝える拡声器の存在も重要なのよ。
だからこの映画は、いわばボケっ放しみたいなモンだね。

それでも、ボケだけで笑いを生み出すことが不可能じゃないのと同様、登場人物のリアクションが無くても恐怖を生み出せる可能性はゼロじゃない。
ただ、わずかな可能性も、他の邪魔が入って潰している。
「最初は歓迎しているが、次第に怖がるようになって」という変化で観客を引き込むようなシナリオでもない。周囲の人間に影響が出て、そこで山野の態度が変化するわけでもない。
山野は中井から「梓に危険が及ぶかもしれない」と警告されても、新たな事故物件を探して住み始めるしね。まるで気にしちゃいないのだ。

そんなわけで、ホラー映画としては初期設定の段階で破綻していると言ってもいい。
ただ、この問題を解決するのは、実は簡単だ。それは、梓を主人公に据えるという方法だ。
山野に頼まれて協力することになった梓の視点から、様々な怪奇現象を描く構成にすればいいのだ。
山野や中井と違って、彼女は最初から怪奇現象に怯えているからね。自ら事故物件に首を突っ込んで、是非とも怪奇現象を見たいと望んでいるようなキャラじゃないからね。

残り20分を過ぎた辺りで、ようやく山野が恐怖で絶叫するような怪奇現象が発生する。
でも、そうなると今度は、あまりにも分かりやすく複数の悪霊が出現して彼を包囲するので、作り物感覚の強いお化け屋敷でしかないのよね。そもそも、急に何かがワッと出て来て大きな音で脅かしてるだけだし。
今までの積み重ねが爆発したわけじゃなくて、その方法なら蓄積ゼロでも脅かすことは出来るからね。
ラスボス的に襲って来るフードの男に関しては、もはやファンタジーの世界の住人になっちゃってるし。

(観賞日:2022年4月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会