『地獄少女』:2019、日本

1965年。高校生の山田楓は放課後、2人の友達と学校の廊下を歩いていた、窓の外に目をやった彼女は、空が異様に赤いことに気付いた。楓が話し掛けようとすると、友達は既に去っていた。窓の外をカラスの群れが飛び去り、廊下の向こうから輪入道が近付いて来た。怯えた楓が逃げ出すと、骨女が立っていた。背後から一目連が現れ、楓は近くの教室に駆け込んだ。するとセーラー服を着た少女の閻魔あいが待っており、童歌の『あぶくたった』を口ずさんだ。
楓が怖がって「やめて」と叫ぶと、あいは「貴方はそう言ってやめたの?」と問い掛ける。楓は2人の友達と共に、同級生の上野結衣を苛めていた。彼女は結衣が「やめて」と懇願するように仕向け、そう言わせた上で暴力を重ねた。突き飛ばされた結衣が突き出た釘のせいで額から出血しても、楓は嘲笑して楽しんだ。あいは「いっぺん、死んでみる?」と告げ、楓を地獄に送った。教室に来た結衣がそれを目にして「どうしよう」と狼狽すると、あいは「後悔しても無駄」と述べた。
2019年。年老いた結衣は病気で入院し、フリーライターとして活動する息子の仁が見舞いに来ていた。仁は結衣から「地獄通信」の存在を何度も聞かされていたが、それが最近になって再び流行していることを教える。そろそろ記事にしたいのだと彼が言うと、「私みたいな人を少しでも減らしてちょうだい」と結衣は了承した。仁が飲み物を買うため病室を出ていくと、あいが結衣の前に現れた。結衣は怯えるが、あいは容赦なく地獄送りにした。
仁が週刊誌に書いた地獄通信に関する記事を、高校生の近藤咲貴が読んだ。彼女はクラスメイトの市川美保、佐々木典子、高橋明日香に、地獄通信について説明する。午前0時に「地獄通信」というサイトにアクセスして恨みを抱く相手の名前を入力すると、地獄送りにしてくれる。昔は新聞の求人広告が使われていたが、現在はウェブサイトになっている。本気で恨んでいないとサイトには繋がらず、依頼主も死んだ後に地獄へ落ちる。美保はあいが廊下に立っているのに気付くが、少し目を離すと姿が消えていた。
美保は大好きなロックシンガーの魔鬼が出演するライブハウスへ行き、背後から茶髪男に尻を触られる。彼女が声も出せずに怯えていると、南條遥という女性が男を捕まえて外へ連れ出した。彼女は男を暴行して免許証をスマホで撮影し、「二度と来んな」と威嚇した。彼女は美保を連れて、ライブハウスへ戻った。ライブの後、2人がカフェで話していると、魔鬼が現れた。遥が「一緒にお茶しない?」と誘うと、魔鬼は「いい声してるね」と言い、コーラスに参加しないかと持ち掛けた。
魔鬼は「ダーク・スターダスト」というライブホールをプロデュースし、こけら落とし公演に出演するコーラスのメンバーを募集していた。遥が美保と一緒ならオーディションを受けると言うと、魔鬼は既に御厨早苗の参加が決定していることを教えた。美保はカフェの片隅に、あいがいるのを一瞬だけ目にした。後日、彼女が授業を受けていると、遥が押し掛けて来た。彼女は早苗の出演するライブに行こうと誘う。美保は遥と共に、教室を飛び出した。
美保と遥がライブに行くと、早苗はアイドルグループのセンターとしてステージに立っていた。観客席にいた長岡拓郎という男はステージに上がり、包丁で早苗の顔面を何度も突き刺した。仕事で来ていた仁と早苗を見に来ていた魔鬼が、長岡を取り押さえた。退院した早苗は地獄通信の存在を知り、長岡の名前を入力した。すると早苗はバソコンから伸びた手に捕まり、地獄へ落ちた後の光景を見せられる。あいは契約すれば地獄に落ちることを説明した上で、赤い紐が結ばれた呪いの藁人形を早苗に差し出した。彼女は紐を解いたら契約が成立すると告げ、早苗を部屋に戻した。
早苗はカフェで仁と会い、藁人形を見せた。仁は母から人形のことを聞いていたが、あえて記事では触れなかった。仁は紐を解かないよう説き、「人を殺したら、普通に生きちゃいられない」と言う。すると早苗は包帯を外して顔の傷を見せ、「こんな傷があったら、どうせ不通には生きられませんよ」と述べた。長岡は面会に来た母の雅子と弁護士の前で、反省の弁を口にした。彼は弁護士に、早苗への謝罪文を届けるよう頼んだ。しかし早苗の元に届いた手紙に書かれていたのは、彼女を嘲笑する言葉だった。
早苗は仁を呼び、藁人形の紐を解く瞬間を取材させた。拘置所にいた長岡は、地獄送りになった。彼の姿が消えたため、独房から逃走したことになった。魔鬼は早苗をプロデュースは、復活ライブをネット配信すると発表した。雅子が御厨家へ謝罪に来ると、早苗は地獄通信を使って長岡に復讐したことを教えた。美保は遥を自宅に招き、スマホで一緒に早苗の復活ライブを観賞することにした。早苗は歌い始めるが、あいが雅子の依頼で彼女を地獄送りにした。周囲の人々は、早苗が失踪したようにしか思わなかった。だが、あいの気配を感じた仁は、彼女が地獄送りにされたと確信した。
雅子は早苗の両親を訪ねて、自分が復讐として地獄送りにしたことを説明する。唐突な話に早苗の両親が困惑していると彼女は包丁を差し出し、復讐したければ殺すよう促した。しかし早苗の父親は「貴方は哀れな人です。恨みに囚われて過去にしか生きていない。死ぬなら勝手に死んでください」と言い、母親も同調した。雅子は「偽善者」と2人を罵り、包丁で自分の首を切って死んだ。張り込んでいた仁は、その瞬間をカメラに収めた。
遥は魔鬼のコーラスオーディションに参加し、1人だけソロパートを与えられて会場に残された。魔鬼は自分が常用している麻薬の錠剤を、彼女に与えた。彼は純度を高める必要性を説き、美保と付き合うなと遥に要求した。それを知った美保は抗議するが、遥は了承した。魔鬼は集めたメンバーに練習を積ませ、厳しい態度で純度の高さを要求した。骨女、一目連、輪入道は、メンバーとして潜り込んでいた。骨女はバンドの男を誘惑し、魔鬼が周囲の面々に麻薬を与えていることを知った…。

監督・脚本:白石晃士、原案は わたなべひろし、原作は地獄少女プロジェクト、製作総指揮は久保忠佳&依田巽、製作は堂山昌司&松下智人&小竹里美&宮田昌広、プロデューサーは平田樹彦&山口敏功&横山和宏&内藤和也、アソシエイトプロデューサーは福島聡司、ラインプロデューサーは守田健二、撮影は釘宮慎治、照明は田辺浩、録音は石貝洋、美術は安宅紀史、編集は張本征治、VFXスーパーバイザーは村上優悦、特殊スタイリストは百武朋、特殊メイクは並河学、スタントコーディネーターは吉田浩之、音楽プロデューサーは中村千枝、音楽は富貴晴美、主題歌「Figure」はGIRLFRIEND。
出演は玉城ティナ、橋本マナミ、楽駆、麿赤児、森七菜、仁村紗和、大場美奈(SKE48)、藤田富、波岡一喜、森優作、成田瑛基、寺島咲、片岡礼子、風祭ゆき、木村葉月、木下美優、甲斐千遥、山田佳奈実、越後はる香、藤縄穂月、山本瑚々南、さぃもん(Wi-Fi-5)、高野渚(Wi-Fi-5)、白鳥来夢(Wi-Fi-5)、ランゼ、こだまたいち、鈴木勤、鈴木祐真、Shuhei、福井悠理子、岡田謙、山崎美貴、石井麗子、山元隆弘、細川佳央、松下アンナ、佐々木聖輝、西山真来、わたなべひろし、安井秀和、田村花穂、圷真樹、小栗山晃市、小鳥遊潤、いとえこうき、堀川耕輔、岬イル、依田眞虹、蜂郷リリー、みつき、高杉優、天野楓梨、小原佳織、浅沼ファティ、湯本優奈ら。


2005年にスタートして第4期まで放送されている人気TVアニメを実写化した映画。
監督&脚本は『貞子vs伽椰子』『不能犯』の白石晃士。
あいを玉城ティナ、骨女を橋本マナミ、一目連を楽駆、輪入道を麿赤児、美保を森七菜、遥を仁村紗和、早苗を大場美奈、魔鬼を藤田富、仁を波岡一喜、長岡を森優作、新庄を成田瑛基、夏美を寺島咲、雅子を片岡礼子、老女になった結衣を風祭ゆき、楓を木村葉月が演じている。

序盤、輪入道、骨女、一目連が順番に登場するシーンがあるが、そいつらが何者なのかサッパリ分からない。後から説明されることも無いから、最後まで「良く分からない3人組」のままで終わる。
あいの手下なんだろうってのは何となく分かるけど、その程度の捉え方でOKなのかね。
あと、それよりも問題なのは、「そいつらって要らなくないか」ってことだ。
標的を地獄送りにする時に登場しているけど、別にいなくてもいいよね。あいだけでも、標的を地獄送りに出来ちゃうよね。

輪入道、骨女、一目連が順番に登場する時は、それぞれをアップで捉えるカットがある。しかし、あいが登場する時は、引いたカットだけで済ませてしまう。あいが楓に歩み寄ると、ようやく顔がハッキリと分かるショットを入れている。
でも、それだとタイミングが遅いよ。登場した時、すぐにアップを入れるべきだ。
そりゃあ輪入道たちと違って、アップにしても「怖がらせる容姿」ではない。でも、「だから別にいいよね」ってことではないでしょ。
その狙いが無くても、最初に顔は見せるべきだよ。そして、あいの「普通ではない佇まい」をアピールしておくべきだよ。

あいは楓の前に現れた時、「人を苦しめたら、貴方の悲しみは消えるの?」と問い掛けている。なので、楓が結衣を苛めるようになった背景として、何か悲しみを抱える出来事があったのかもしれない。
でも、そこは全く明かされないままなので、あいの台詞が意味ありげなだけで終わっている。
ちゃんと回収しないのなら、その台詞は要らないなあ。
最後まで積極的にメッセージを発信しない狂言回しのままで終わるのなら、そこは徹底した方がいいんじゃないかと。

遥は魔鬼の熱烈なファンのはずなのに彼がカフェ来るとフランクに「一緒にお茶しない?」と声を掛ける。声を褒めた鬼が「なんか歌ってみて」と言うと、「はあっ?カラオケじゃないから」と生意気な態度で断っている。
それは変だろ。
魔鬼のキャラを考えても、彼のファンなら崇拝するような気持ちじゃないと変でしょ。それは大好きなアーティストに対する態度じゃないよ。
「舐められたらダメだから」と後で説明しているけど、何の説得力も無い。

遥は美保の教室に乱入した時、注意する女性教師にビンタを浴びせる。
でも授業中に乱入して妨害したら、注意されるのは当たり前だ。「ガキは力で抑え付けられると思ってるんでしょ」と遥は言うけど、ただのクズじゃねえか。
それを「自由で開放的な若者」として好意的に受け取るのは無理だ。
で、そんな遥を何とかするよう咲貴に言われた美保は、彼女に2度もビンタを浴びせる。いやいや、なんでだよ。ワケが分からんぞ。メチャクチャじゃねえか。
そんなことがあった時点で、美保と遥に対して「こいつらがどうなろうと知ったこっちゃないわ」と冷めた気持ちになってしまう。

魔鬼というキャラクターの幼稚さや安っぽさが、かなり厳しいことになっている。
「私が破壊の神を呼び寄せるライブホール」「こけら落としの儀式には、闇の力を携えたコーラスが必要だ」といった台詞を真剣に言われても、もはやギャグにしかならない。
演奏している箱の小ささからして、所詮はスケールの小さなカリスマに過ぎないわけだし。
「チープなカリスマ」になっちゃうのは、予算の都合もあって仕方がないのかもしれないよ。ただ、それなら、そういうエピソードは使わない方が良かったんじゃないかと。

早苗の復活ライブも、やはりチープ極まりないんだよね。
まず、どこかのライブハウスからの中継じゃなくてスタジオ。しかも、音楽をやるための環境を整えているとは到底思えないような、ハッキリ言っちゃうと写真撮影をやるようなスタジオ。
どうやら、ライブホールの中にあるスタジオという設定のようだが、だったら観客席のある場所で無観客として歌わせても良くないか。
しかも、スタジオなら背景を飾ってもいいのに真っ白だし、バンドはいなくてピアノだけだし。

あいと対面した早苗は、「今は嫌。もっと歌いたい」と命乞いする。でも、それはキャラがブレるなあ。
そんなことを言わせるなら、雅子に対して冷徹に「復讐した」ってことを通告するのは違うんじゃないかと。そんなことを挑発的に言い放った時点で、自分も地獄送りにされる可能性が生じるのは簡単に分かることであって。
あとさ、そもそも「心身共に深い傷を負い、犯人に復讐を果たした」という状態の奴が、復活ライブをやって「今後も歌い続けたい」というモチベーションになれるかなあ。
そこは大いに疑問が湧くぞ。

早苗が地獄送りになると、「彼女が走り去って姿を消す」という描写がある。
でも、その場で姿を消さないと、整合性が取れないでしょ。
そういう描写になっていないのは、「その場で姿が消える」ってことになると大勢の人々が目撃しているので「怪奇現象」ってことが一気に広まり、捜査も入るからだ。それは話を進める上で面倒なので、「早苗が失踪した」ってことにするため、「走り去って消える」という形にしてあるわけだ。
でも、話の都合で整合性が破綻するのは本末転倒でしょ。
ちゃんとルールを順守した上で成立するようなシナリオを用意すべきでしょ。

遥は魔鬼から麻薬を貰うと「純度を高めるためなら美保を拒絶する」という態度になり、暴力的で荒っぽい言動を取るようになる。
でも、その展開には説得力が皆無で、ものすごくバカバカしい。ここがクライマックスに繋がる最も重要なエピソードなのに、最も陳腐なのよね。
正直に言って、冒頭で描いた過去の短いエピソードが、最も話の雰囲気に合っているような気がするのよ。
そこを膨らませれば、安っぽさも随分と誤魔化せたんじゃないかと。

早苗が地獄送りになる時には、骨女たちが登場しない。
しかし魔鬼がコーラスのオーディションを開催した時、現場には骨女たちが来ている。それだけでなく、彼女たちはメンバーとして練習にも参加する。
でも、まだ誰かが地獄送りを依頼したわけでもないのに、なぜ調査活動のようなことをやっているのか。
っていうか、あいは地獄送りを依頼されたら理由が何であろうと容赦なく遂行するんだから、調査のようなことは不要なはずで。なので、骨女たちの行動は意味が全く分からない。

そもそも、魔鬼が周囲の人間に薬物を与えて洗脳しているという情報なんて、三流フリーライターの仁でさえ簡単に入手できている程度の情報なんだよね。
なので、わざわざ潜入調査する必要は全く無い。
あと、魔鬼は親の莫大な遺産があって、暴力事件を幾つも起こしているけど金で解決して表沙汰になっていない設定なんだけど、それは無理があるなあ。
これだけSNSが広まった現代で、それが全く表に出ないというのは考えにくいぞ。何しろ、それは仁でさえ簡単に掴んでいる情報なんだし。

地獄通信には「地獄送りを依頼した人間は、本人も地獄送りになる」というルールがあるのだが、このせいでモヤッとした気持ちが残る羽目になる。
特に早苗なんて、長岡みたいな醜悪な野郎のせいで心身ともに深く傷付いたのに、そいつを地獄送りにして自分も地獄送りになるのは割に合わないだろ。
この作品って、復讐のカタルシスは無いし、そんなに恐怖があるわけでもないし、ただ「モヤッと感」が残るだけなんだよね。
それはホラー映画としてのバッドエンドとは、全く意味が異なるモノだ。

漫画版は『なかよし』で連載されていたぐらいだから、「復讐は良くないことだ。誰かを殺そうとしたら、自分にも災いが降り掛かる」という教訓めいたメッセージが伝わるようにしてあるのかもしれない。だとしたら、仕方がないとは思うけど、「邪魔なモラルだなあ」と言いたくなってしまう。
前述した美保や遥の描写でモラル無視を好意的に描いて置いて、「復讐はいけない」と説教されても「うるせえ」と言いたくなるわ。
原作ファンでも何でもない人間からすると、普通に復讐のカタルシスを与えてほしいと思っちゃうわ。
魔鬼に刺された仁が地獄送りにされるのもワケが分からんし。彼は誰かを地獄送りにしたわけでもないんだから。

(観賞日:2020年10月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会