『地獄の花園』:2021、日本

田中直子が務める三富士では、OLによる熾烈な派閥争いが繰り広げられていた。営業部を牛耳る佐竹一派の佐竹紫織は、会社の完全制覇に向けて勢力を伸ばしてきた。しかし開発部の安藤一派を率いる安藤朱里が紫織を倒し、佐竹一派を支配下に収めた。製造部の神田一派は最大勢力を誇り、率いる神田悦子は他社のOL5人を半殺しにして傷害罪で刑務所送りになっていた。その悦子が刑期を終えて半年ぶりに戻って来たが、朱里に倒された。こうして三富士は、安藤一派の天下となった。
直子は勢力争いに全く関与せず、平穏なOL生活を送っていた。ある日、彼女は人事部の松浦慎二が街で佐竹一派の3人に絡まれている現場を目撃した。直子が警察を呼ぼうかどうか迷っていると、北条蘭という女性が現れて佐竹一派の3人を退治した。翌朝、中途採用の社員として彼女が営業部に来たので、直子は驚いた。紫織、悦子、朱里は次々に喧嘩を売るが、蘭は全員を軽く倒した。トップが決まると、以前のような激しい争いは無くなった。
直子が停留所でバスを待っている時、蘭はスカートの中を盗撮しようとする男を見つけて撃退した。この出来事をきっかけに直子は彼女と仲良くなり、同僚として接するようになった。2人がカフェへ行ったり買い物に出掛けたりすると、和久井物産の白鳥真央や矢沢食品の大柴姉妹が絡んで来た。しかし蘭は何の苦労もせず、軽く倒した。三富士のOL3人が高口商事の進藤楓たちに袋叩きにされる事件が起きると、蘭は現場へ赴いて軽く蹴散らした。
ある日、直子は夜道で背後から殴り倒された。彼女を拉致した連中は、蘭に1人で来るよう要求する手紙を届けた。直子を人質にしたのは、トムスン総務部の「魔王」と呼ばれる赤城涼子の一派だった。朱里たちは仲間を集めようとするが、蘭は直子を救うために1人で行くと告げた。直子が目を覚ますと、涼子たちが溜まり場にしている地下の店で縛られていた。そこに蘭が現れると、涼子は幹部の工藤早苗、藤崎麻理、冴木妙子と順番にタイマンを張るよう要求した。蘭は早苗と麻理を倒すが、妙子に敗れて倒れ込んだ。
涼子は三富士を傘下に収めようと目論んでおり、直子の拘束を解いて会社の人間に電話するよう命じた。喧嘩上等の一家に育ち、最強の遺伝子を持つ直子は、涼子の一派を軽く叩きのめした。店の外に出た彼女は朱里に電話を掛け、自分は大丈夫なので蘭を迎えに来てほしいと頼んで立ち去った。帰宅した直子は朱里から連絡を受け、現場に蘭がいなかったことを知らされた。直子が真実を誰にも言わなかったので、朱里たちは蘭が涼子の一派を壊滅させたと思い込んだ。その蘭は翌日から出社せず、行方をくらました。
蘭は幼少期から喧嘩が強く、漫画の主人公のようになろうと努めていた。しかし妙子に敗れた時、彼女は直子が全員を軽く蹴散らす姿を目にした。蘭は気絶したフリをして、店から立ち去る直子を見送った。主人公の器ではないと感じた彼女は、落胆した自宅に引き篭もった。赤城一派は報復に燃えて、三富士に乗り込んで来た。朱里たちが迎え撃とうとすると、涼子は頭を出せと要求した。彼女の言葉を聞いた朱里たちは、蘭ではなく直子を意味していることを理解した。
赤城一派は地上最強のOLと呼ばれる鬼丸麗奈を伴っており、その姿を見た朱里たちは驚愕した。カタギの直子を巻き込むことは出来ないと考え、朱里たちは赤城一派に立ち向かう。しかし歯が立たずに追い込まれ、OLの1人が直子の元に現れた。彼女は赤城一派が報復に来て朱里たちが戦っていることを告げ、玄関口まで来てほしいと頼む。「何言ってんのか分かんない」とシラを切った直子だが、「みんな殺されちゃう」と言われたので玄関口へ赴いた。彼女は赤城一派を軽く蹴散らし、麗奈と対決する…。

監督は関和亮、脚本はバカリズム、製作は石原隆&細野義朗、プロデューサーは加藤達也&櫻井雄一&山邊博文、企画原案はバカリズム&関和亮&櫻井雄一&加藤達也、スタントコーディネーターは富田稔、撮影は奥平功、照明は渡辺良平、録音は反町憲人、美術プロデューサーは柴田慎一郎、アートコーディネーターは渡部哲也、衣装統括は三田真一、編集は小野寺絵美、VFXスーパーバイザーは菅原悦史、音楽プロデューサーは谷口広紀、音楽は宗形勇輝&植田能平&眞鍋昭大、主題歌『Another Great Day!!』はLiSA。
出演は永野芽郁、広瀬アリス、菜々緒、小池栄子、菜々緒、遠藤憲一、室井滋、川栄李奈、大島美幸(森三中)、勝村政信、松尾諭、丸山智己、ファーストサマーウイカ、長井短、近藤くみこ(ニッチェ)、かなで(3時のヒロイン)、森崎ウィン、中村ゆりか、伊原六花、森矢カンナ(現・森カンナ)、菅野莉央、青山めぐ、バカリズム、大西礼芳、日比美思、沖舘唯、那須沙綾、隅田杏花、なんしぃ、塚本小百合、鈴木アメリ、石川萌香、蓮丘煉、青山明香里ら。


『映画「架空OL日記」』のバカリズムが脚本を務めた作品。
監督は映像ディレクターやスチールカメラマンとして活動している関和亮で、これが映画デビュー作。
直子を永野芽郁、蘭を広瀬アリス、麗奈を小池栄子、朱里を菜々緒、涼子を遠藤憲一、紫織を川栄李奈、悦子を大島美幸(森三中)、妙子を勝村政信、麻理を松尾諭、早苗を丸山智己、楓をファーストサマーウイカ、真央を長井短、大柴姉妹を近藤くみこ(ニッチェ)&かなで(3時のヒロイン)、松浦を森崎ウィンが演じている。

この映画の致命的な欠点は、あまりにも描写がヤンキー方面に傾き過ぎているってことだ。
もはや、戦っている場所が会社のオフィスというだけで、それ以外は単なるスケバン映画でしかない。登場する女性たちが一流企業のOLという意味も必要性も、ゼロに等しいのだ。
何しろ、彼女たちは特攻服で戦うし、髪型やメイクも完全にヤンキー仕様なのだ。廊下のように、男性社員の目があるような場所でも平気で戦っている。さらに、会社の外でも男性社員に特攻服で絡んだりする。
これだと、OLの設定は実質的に死んでいる。

この映画のプロットを上手く活用するのなら、「普段は見た目も振る舞いも全て普通のOLとして過ごしており、男性社員の知らない場所で派閥争いをしている」という設定にした方がいいだろう。
もちろん戦う時も特攻服など使わず、OLの制服のままだ。
戦っている最中に男性社員が通り掛かったら、すぐにOLモードへ切り替えるような描写を入れるのもいいだろう。
とにかく、この映画は「OLとして仕事をしている姿」を描く部分が、あまりにも薄すぎるのよ。

映画の世界観に早く観客を引き込みたいと思ったのか、ヤンキーOLによる派閥争いを始めるタイミングも拙速だと感じる。
何しろ、映画が始まってから1分ぐらいで、いきなり佐竹一派が暴れる様子が描かれるのだ。
そのまま派閥争いが集結するまでの様子を一気に描くので、朱里&紫織&悦子は登場した時点で武闘派モードになっている。
だけど、そこは「OLとして仕事をしている普段の姿」を先に見せておいて、それから「実は裏では激しい派閥争いが」という流れにした方が効果的なんじゃないかと。

蘭が悦子を倒した時に「お前、何者だよ」と問われ、「見たら分かるじゃん、OLだよ」と言うシーンがある。
このセリフも、「どこからどう見ても、ごく普通のOL」という見た目だからこそ活きるわけで。
でも蘭は登場した段階で武闘派のヤンキーだし、その後もOLとして仕事をするシーンが無いまま、ずっと紫織たちと喧嘩をする展開ばかりが続く。
格好も普通の制服じゃなくてヤンキー仕様なので、そのセリフが完全に死んじゃってるのよ。

冒頭の派閥争いも、蘭が紫織&悦子&朱里を次々に倒すエピソードも、もっと丁寧に時間を掛けて描いても良さそうなものだが、あっさりと片付けている。それはギャグとしての演出ではなく、構成上の都合だ。
「OLがヤンキーだらけで派閥争いをしている」という仕掛けの他に、「カタギに見えた直子が最強のヤンキーだった」という仕掛けがある。直子の素性が判明してからの話がメインなので、そこに多くの時間を使いたい。なので、そこまでの経緯は駆け足で片付けているのだ。
しかし2つの仕掛けを用意したのは、明らかに欲張り過ぎだ。その煽りを食って、1つ目の仕掛けが全く機能していない。
仕掛けを1つにまとめて、「ごく普通のOLに見えた直子が、実は最強のヤンキーとして戦っていた」という形で話を始めれば良かったのよ。

あと、直子のナレーションで進行しているのも失敗。
そのせいで、本気になったら余裕で赤城一派を蹴散らせる直子が、蘭がボコボコにされるのを傍観していた上に、その場から助け出さずに帰宅する薄情で冷たい奴に見えちゃうのよ。
そもそも、そんなに強い奴が不意打ちとは言え拉致されるのはどうかと思うし、その気になれば蘭が来る前に自力で何とか出来たんじゃないかと思ってしまう。
ここでの直子の行動が、結果として蘭のプライドをズタズタにしているわけで、それを何とも思っていないのは酷い奴だと感じてしまうのよ。

他の会社の面々に関しては社名が画面に表示されるだけで、見た目も言動も何かにら何までヤンキーなので、「OL同士の抗争」という図式は全く見えて来ない。直子が人質として監禁される場所もOLっぽさはゼロだし、赤城一派の見た目もOLっぽさはゼロ。
さらに厄介なのは、涼子も幹部3人も演者が男ってことだ。
そこは絶対に女じゃないとダメだろ。
それはジェンダーが云々とかいう問題じゃなくて、この作品の面白さを考えると、「男が女を演じる」という嘘をつくのは土台から何もかも崩すようなモンだぞ。

直子は自分が暴れたせいで赤城一派が報復に来たのに、全く気にしていない。朱里たちが「カタギの直子を巻き込めない」と気を遣って必死で戦っている間、直子は友人たちと無駄話に花を咲かせる。
「何が起きているのか知らなかった」ってことではあるが、冷たい女にしか見えない。
一方、麗奈が登場すると、涼子が紙芝居を使って3つの伝説を語る。でも、これはテンポが悪くてダラダラしているだけだ。
せめて映像で見せるならともかく紙芝居と語りでは安っぽいだけだし、ギャグとしても不発だ。

直子は玄関口へ赴いて赤城一派と戦う時点で、他のOLに「最強の遺伝子を持つヤンキーOL」としての素性を晒すことになる。
だったら、もう後は圧倒的な強さを見せ付けるだけでいい。麗奈に苦戦する展開なんて無くていい。
極端なことを言うと、一撃で倒しちゃってもいいぐらいだ。
あと、直子が麗奈を倒して話は一段落するので、失踪したままの蘭の存在が食べ残しみたいになっちゃってんのよね。
蘭の視点から回想シーンを挟むのも、構成として邪魔だし。

直子は玄関口へ赴いた時、普通のOLとして暮らしたかったことを吐露し、「アンタらのせいで台無しだよ」と怒りを爆発させる。
そんなセリフを言わせるのなら、序盤から「直子はOLとして平穏に暮らしたいのに、ヤンキーの抗争に巻き込まれてしまう」という形で物語を進めれば良かったんじゃないかと。
あと、「アンタらのせいで台無しだよ」と怒りを爆発させて戦うのも、シリアスにやるよりギャグとして演出した方がいいんじゃないかと思うよ。

蘭は日本最初のOLである七瀬小夜を訪ねて修行し、戻って来て直子に勝負を要求する。ここがクライマックスなのだが、それを蘭の物語として描いているのもバランスが悪すぎる。
修行のシーンが長く続き、終盤に来て直子が不在の時間が長いのも「構成として違うだろ」と言いたくなるし。その修行シーンも、ギャグとしての面白さは無いし。
で、最後は直子が勝つのだが、蘭が松浦と付き合っていると知って大きく「完敗」という文字が出る。
この価値観の古さもギャグになっているわけじゃないし、「なんだかなあ」って感じだわ。

(観賞日:2022年12月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会