『三大怪獣 地球最大の決戦』:1964、日本

深夜の銀座。宇宙円盤クラブの面々がビルの屋上に集結していたが、いつまで経っても円盤は出現しない。会員の一人は、取材に来ていた東洋テレビ「20世紀の神話」取材班の進藤直子に責任があると指摘した。円盤の存在を信じていない者の雑音が、円盤に伝わるというのだ。宇宙円盤クラブの会長は直子に、真冬の1月にも関わらず暑い日が続いていることを例に挙げ、異変は地球だけでなく銀河系以外でも起きているのだと語る。その直後、夜空には流星群が出現した。異常気象や流星群は、世界各地で起きている出来事だった。
直子の兄である警視庁の進藤刑事は、来日するセルジナ国のサルノ王女を護衛する任務を沖田課長から命じられた。特別機で日本へ向かうサルノは、暗殺団から命を狙われていた。側近が去って一人になったサルノは、「ここから立ち退くのです」という女性の声を耳にした。するとサルノは何かに憑依されたかのように、非常扉を開けて飛行機から飛び降りた。その直後、特別機は大爆発を起こした。
日本アルプスに落下した流星の一つを調査するため、帝都工大の村井助教授が学生たちの調査団を率いて黒部ダムにやって来た。流星の落ちた霞沢へ向かう途中、調査団はコンパスが狂っているのに気付いた。村井たちは隕石を発見し、それが強力な磁力を帯びていることを体感した。直子は金巻班長から「予言者が現れた」と言われ、上野公園へ向かった。すると浮浪者のような姿のサルノが野次馬に囲まれ、地球が滅亡の危機にあることを訴えていた。直子が「貴方は誰ですか」とマイクを向けると、サルノは「私は金星人です」と答えた。危機の内容を尋ねると、彼女は「九州の阿蘇で異変が起こります」と告げた。だが、誰も彼女の言葉を本気にしなかった。
直子は村井の車で送ってもらい、自宅へ戻って来た。母のサトが好きなテレビ番組『あの人は今どうしてるでしょう?』を付けると、2人の子供が登場してモスラに会いたいことを告げた。司会者の青空千夜一夜は、テレビ局が呼んだ小美人を舞台に登場させた。子供たちの質問を受けた小美人は、モスラの1つが死んだこと、もう1つは元気であることを話した。番組に興味の無い進藤は新聞を開き、記事になっている予言者の顔がサルノに瓜二つなので驚いた。
予言者の写真が掲載された新聞を取り寄せた暗殺団のボスは、それを側近のマルネスに見せた。マルネスは信じられない様子で、王位継承の印である腕輪を予言者が付けているかどうか分からないことを告げる。ボスは彼に、日本へ行ってサルノかどうか確認し、本人の場合は始末するよう命じた。サルノは阿蘇山に現れ、観光客に危険だから立ち去るようにと訴えた。誰も相手にしなかったが、火口からラドンが出現して飛び去った。
村井と調査団は霞沢にテントを張って隕石を観察し、磁力が消えていることに気付いた。小美人が横浜埠頭からインファント島へ帰ることになり、大勢の記者が駆け付けた。そこへサルノが現れ、船の出航を中止するよう訴えた。船長は相手にせず、船員たちにサルノを退去させようとする。取材に来ていた直子は船員たちを説き伏せ、サルノを連れて下船した。サルノの腕輪を古物商に売ろうとした漁師が発見され、進藤は警視庁で事情聴取する。漁師は進藤に、海の上に浮かんでいた女と出会い、自分の服と交換したのだと説明した。
進藤は予言者の正体がサルノだと確信するが、沖田は飛行機から飛び降りた人間が生きていることに疑問を示した。すると進藤は、爆発のショックで次元の裂け目が発生し、そこに落ちて助かったのではないかという、宇宙円盤クラブの会長が唱える説を紹介した。直子はサルノを馴染みのホテルへ連れて行き、部屋に入らせる。その様子を、マルネスと手下たちが観察していた。サルノが彼らを見ても全く表情を変えなかったので、マルネスは本当に王女かどうか自信が持てなかった。
部屋に入ったサルノは、自分たち以外にも誰かいることを指摘した。サルノの警告を信じて下船した小美人が、部屋に来ていたのだ。2人が乗るはずだった船は、海中から出現したゴジラに襲われた。村井たちの計測で隕石が以前より大きくなっていると判明した直後、また磁力が復活した。進藤からの電話を受けた直子がサルノを残してロビーへ向かった直後、暗殺団が部屋に乗り込んだ。暗殺団はサルノを始末しようとするが、小美人が妨害した。
進藤と直子が部屋へ行くと、小美人が「殺し屋がいます」と叫んで警告した。進藤が発砲に応戦すると、暗殺団は窓から逃亡した。進藤がサルノをホテルから連れ出そうとした時、港からゴジラが上陸し、飛んで行くラドンを見上げて後を追った。進藤は直子を伴い、精神科の大家である塚本博士の研究所へサルノを連れて行く。彼はサルノに王女としての記憶を取り戻させようと考えたのだが、診察した塚本は「彼女は正常だよ」と告げた。
サルノは自分の予言を信じない進藤たちに、「このままでは地球が滅亡します。キングギドラのために死の星となります」と述べた。彼女の住んでいた金星も、キングギドラによって破壊されたというのだ。そしてサルノは、キングギドラが既に地球へ来ていると告げた。村井と調査団は隕石の異変に気付き、テントから飛び出して観察した。すると隕石が真っ二つに割れて、中からキングギドラが出現した。
国防会議に出席した直子と村井は、小美人を伴っていた。村井は議員たちに、ゴジラに勝ったことのあるモスラの協力を得てキングギドラを倒すべきだと主張した。小美人は「モスラだけでは勝てないでしょう」と告げるが、一方でゴジラとラドンも力を合わせれば勝てるかもしれないと言う。そして小美人は、モスラにゴジラとラドンを説得してもらうことを提案した。キングギドラが東京に上陸して暴れ始めたため、議員たちは小美人にモスラを呼ぶよう依頼した。
塚本と進藤はサルノの頭部に電極を取り付け、催眠治療を実施していた。質問を受けたサルノは、自分が金星の滅亡した5000年前に地球へ来た1人であること、地球人と同化する内に才能が退化して本能の一部だけが受け継がれたことを語った。塚本はショック療法を試みようと考え、進藤に別室へ行かせて装置の電圧を500ボルトに上げさせる。進藤が診療室へ戻った後、研究所に潜入した暗殺団は電圧を最大に上昇させる。しかしラドンの攻撃を受けたゴジラが鉄塔に落下して電線が切断されたため、研究所も停電になった。
装置の様子を見に行こうとした進藤は暗殺団と遭遇し、銃撃戦になった。研究所に到着した村井は銃声を聞き、同行した直子と小美人を待機させて中に入った。彼は暗殺団の1人を殴り倒して拳銃を奪い、進藤に加勢した。暗殺団は逃亡し、追い掛けようとした進藤は直子からモスラが来ることを聞かされる。塚本は助手たちに命じ、サルノを車に乗せて避難する。ゴジラとラドンが激しい戦いを繰り広げている現場にモスラが到着し、協力してキングギドラと戦うための説得を開始した…。

監督は本多猪四郎、特技監督は円谷英二、脚本は関沢新一、製作は田中友幸、撮影は小泉一、美術は北猛夫、録音は矢野口文雄、照明は小島正七、編集は藤井良平、音楽は伊福部昭。
挿入歌『幸せを呼ぼう』作詞:岩谷時子、作曲:宮川泰。
出演は夏木陽介、星由里子、小泉博、志村喬、ザ・ピーナッツ(伊藤エミ 伊藤ユミ)、若林映子、伊藤久哉、黒部進、平田昭彦、佐原健二、伊吹徹、野村浩三、田島義文、天本英世、小杉義男、高田稔、英百合子、加藤春哉、沢村いき雄、富田仲次郎、石田茂樹、大友伸、中山豊、大村千吉、松本染升、鈴木和夫、青空千夜、青空一夜、広瀬正一、ヘンリー・大川、向井淳一郎、古田俊彦、池田生二、澁谷英男、勝本圭一郎、手塚勝巳、宇野晃司、井上大助、三浦敏男、浦山珠実、熊谷卓三、津田光男、勝部義夫、坪野鎌之、今井和雄、門脇三郎、越後憲三、伊原徳、古谷敏、黒木順、岡豊、中島春雄、宇畄木耕嗣ら。


ゴジラシリーズの第5作。
監督の本多猪四郎、特技監督の円谷英二、脚本の関沢新一、音楽の伊福部昭、製作の田中友幸という顔触れは、『キングコング対ゴジラ』『モスラ対ゴジラ』と同じ。
進藤を夏木陽介、直子を星由里子、村井を小泉博、塚本を志村喬、小美人をザ・ピーナッツ、サルノを若林映子、マルメスを伊藤久哉、暗殺団手下を黒部進&伊吹徹&鈴木和夫、沖田を平田昭彦、金巻を佐原健二、サルノの老臣を天本英世、インファント島長老を小杉義男、国防会議議長を高田稔、サトを英百合子、漁師を沢村いき雄、防衛大臣を富田仲次郎、宇宙円盤クラブ会長を松本染升が演じている。

この第5作は、シリーズの大きな転機になった作品である。ポイントは「ゴジラが人間の味方になった」ということだ。
今回は心底から「人間を助けよう」ということでキングギドラと戦ったわけではなく、モスラの説得を受けて仕方なく協力したに過ぎない。つまり「取った行動が結果として人間を助けることに繋がった」というだけだ。
しかし次回以降は、ゴジラが人間の味方、正義のヒーローとして戦う立場が明確になる。
第2作から第4作までは「日本を荒らす害獣のゴジラが別のモンスターと戦う」という図式だったが、今回から「ゴジラが人間の味方となり、善玉サイドに立つ仲間と協力して悪玉怪獣と戦う」という図式に転換するわけだ。

それは同時に、ゴジラシリーズがハッキリとした形で「子供向け映画」としてのスタンスを打ち出したとも言える。
2作目以降の作品も、回を追うごとに子供向けの色がどんどん濃くなっていた印象はあったが、それが今回で鮮明になる。
それは残念ながら、映画の質がどんどん落ちて行く結果にも繋がっている。それは「子供向けだから」という部分とイコールってわけではなく、子供向け映画でも上質の映画は幾らだって存在する。
結局、「子供騙し」になっていったのが大きな問題なんだろう。

『モスラ対ゴジラ』では、主人公グループに謎の液体を飲ませた途端にインファント島長老が日本語で喋り始めるという荒業を用意していたが、今回は当たり前のようにセルジナ国の連中が日本語で喋っている。「仲間内の会話を日本語で表現している」ということではなく、日本に来ても普通に日本語で喋っている。
で、それを「暗黙の了解」として受け入れようと思っていたら、サルノが「私は金星人」と言い出した時、直子が「だって貴方、日本人でしょ」と口にする。
それは言っちゃダメだろ。
そりゃあ見るからに日本人だし、実際に演じているのは日本人だし、普通に日本語も喋っているけど、それは言わないのが暗黙の了解ってモンじゃないのか。

テレビ番組『あの人は今どうしてるでしょう?』で子供たちが会いたい相手を訊かれて元気よく「モスラ!」と答えると、観客は大笑いする。青空千夜一夜の呼び込みで、モスラの代役として小美人が舞台に登場する。
モスラにしろ小美人にしろ、すっかり神秘性が失われて俗っぽい存在に成り果てている。小美人に至っては、日本語の歌まで歌っちゃうし。
一応は「子供の願いだから」という言い訳があるけど、それにしても、だよ。
しかも、ロケ班が出ていて、島にいるモスラをカメラが写しているし。俗世間にまみれすぎだろ。

っていうか、小美人は『モスラ』の時には拉致され、『モスラ対ゴジラ』では成虫モスラに乗って日本に来たわけだが、今回はテレビ局が島へ行って出演をオファーし、日本へ連れて来ているんだよな。
そんなの、よくインファント島民たちが許したな。
『モスラ対ゴジラ』の時に、あれだけ人間不信で怒りを示していたのに、もう解消されたのか。
そして小美人にしても、なんでテレビ番組への出演オファーを受けちゃうかなあ。なんか安っぽい存在になっちゃったなあ。

その小美人、子供たちからモスラについて「2人は元気にしてる?」と訊かれると、「1つは死んじゃったの」と言う。
モスラって島の守り神なのに、数え方は「1つ、2つ」なのかよ。物みたいな扱いなのかよ。それでいいのか、小美人。
それと、「1つは死んじゃったの。でも、もう1つは元気よ」と小美人は軽く言うけど、1匹が死んだのって深刻な問題だろ。島の守り神なんだからさ。それを軽い感じで済ませちゃっていいのかよ。
っていうか、なぜ死んじゃったんだよ。

東洋テレビ「20世紀の神話」取材班が、サルノの予言を本物として捉え、第1回放送の企画に使おうとするのは、かなりメチャクチャなことだと思うぞ。その時点では、まだサルノの予言は1つも的中していないんだから。
つまり、彼女は世迷言を言うキチガイに過ぎない。そんな奴、世の中には山ほどいるでしょうに。そんな奴を予言者と信じる形で番組を放送するって、どうなってるんだよ。
しかも、班長の独断で進めようとするんじゃなくて、誰も異論を唱えないのよね。冒頭シーンで空飛ぶ円盤の存在を信じなかった直子ですら、サルノを予言者として信じる形での企画にノリノリなのよ。
っていうか、そもそもマスコミの騒ぎ方が大きすぎやしないか。前述したように、世迷言を言うキチガイなんて他にもいそうのに、なんでサルノは大きな扱いになるのかと。

国防会議で村井がモスラにキングギドラと戦ってもらうことを提案し、小美人が「ゴジラとラドンをモスラに説得してもらい、協力して戦う」と言うと、まだ「防衛軍(自衛隊ではなく本作品では防衛軍)がキングギドラの撃滅作戦を展開するが歯が立たない」という描写が無い内に、「三大怪獣に戦ってもらう」という作戦を実行することが決定する。
そりゃあ、これまでのシリーズを見ていても、防衛軍が全く役に立たないことは分かり切っているよ。
だけど、それにしたって一度はキングギドラと戦うべきでしょ。
この映画、防衛軍はキングギドラだけじゃなくて、ゴジラとラドンに対する攻撃も全く仕掛けていないんだよな。

で、モスラを呼ぶよう頼まれた小美人は、またテレビ番組の時と同じ『幸せを呼ぼう』を歌い、それに合わせてインファント島民たちが祈りの踊りを捧げる。
つまり、小美人は日本語の歌でモスラを呼び、意思を伝えているのだ。
『モスラ』や『モスラ対ゴジラ』の時に歌っていた「モスラーヤ、モスラー。ドゥンガカサークヤン、インドゥームー」とかいう原住民の歌は、もう要らないのかよ。日本語の歌でもモスラを動かせちゃうのかよ。
ますます俗物化しちゃってるなあ。

モスラは俗物化しているが、ゴジラは弱体化している。
今回のゴジラはラドンに頭を何度もくちばしで突かれ、吊り上げられ、尻尾をくわえられ、ほぼ一方的にやられまくる。それに対するゴジラの反撃は、石を蹴ってぶつけるという方法。弱い奴が一方的にやられて腹を立て、「チクショー」とヤケになっているような感じに見える。ちっとも怪獣王には見えない。
で、そんなゴジラのぶつけた石をラドンが跳ね返し、またゴジラが蹴り、ラドンが跳ね返すという繰り返しを、現場に来たモスラがテニスの審判みたいに首を振りながら見ている。
すんげえノンビリした怪獣バトルである。

モスラが吐いた糸がゴジラに絡まると、ラドンがバカにして大笑いする。そんなラドンにモスラの糸が絡まると、今度はゴジラがバカにして大笑いする。
怪獣の脅威とか、戦いの緊迫感とか、そんなのは全く無い。
そこからモスラの説得交渉が始まると、ますます緊張感は無くなる。
小美人が怪獣の会話を翻訳し、「争いをやめて、みんなで力を合わせてキングギドラの暴力から地球を守ろうとモスラが言っています」「ゴジラとラドンは、俺たちの知ったことか、勝手にしやがれと言っています」などと説明するが、なんともマヌケだ。

ゴジラとラドンが協力を拒絶したことに進藤は「ひでえな、チクショー」と腹を立てているが、怪獣たちの考えは当然だろう。
「我々が人間を助ける理由は何も無い。人間はいつも我々を苛めているではないか」というゴジラの主張は納得できる。
都合のいい時だけ自分たちを守ってくれと要求するのは、そりゃあ身勝手だよ。
『モスラ対ゴジラ』でインファント島民が日本人の身勝手さを痛烈に非難していたが、何も変わっちゃいないんだな。

で、説得を諦めたモスラが自分だけでキングギドラと戦い、ピンチに陥ると、なぜかゴジラとラドンも加勢する。
そこは「口は悪いけど、いざとなったら助けに駆け付ける」という、妙に人間味の溢れる怪獣なんだね。
ただし、そこに至っても、まだゴジラは役立たずなのだ。クライマックスの戦いにおいてゴジラがやったことって、キングギドラのいる山上までモスラを引っ張っていくことぐらいだ。
ラドンもモスラのサポートに回っており、「ひょっとして、防衛軍が協力していたらモスラだけでもキングギドラに勝てたんじゃないか」と思ってしまうのであった。

(観賞日:2014年3月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会