『七人のおたく cult seven』:1992、日本

アジア系外国人女性ティナがアパートで仲間と一緒にいると、高松一という男が乗り込んできた。彼はティナの赤ん坊を抱き上げて「俺の 跡取りだ」と告げ、そのまま連れ去った。女子高生の水上令子は、学校の屋上で無線を傍受していた。渋谷区の住所を告げる男の言葉を キャッチした彼女は、気になって足を向けた。そこは廃墟となった邸宅だった。その時、迷彩服姿の男・星亨が現れた。彼は「かすかな 電波を良くキャッチした。君が欲しい」と令子に告げた。
アイドルのコンサート会場では、国城春夫が隣の観客にアイドルの住所を売り込んでいた。夜、彼は改造車を運転し、ある女性アイドルの 住所を突き止めた。いつの間にか星が車の後ろに乗っており、「見事な改造技術だ。20万あげよう」と告げた。近藤みのるは、コミケの 会場でアカレンジャーの格好をしてパフォーマンスを行い、自分が主演する格闘技ビデオを売り込もうとしていた。そこに星が現れ、近藤 に「君の武道を正義に役立ててみる気はないか」と持ち掛けた。
田川孝が社長を務めるパソコンソフト会社では、パソコン教室が開かれていた。田川はマッキントッシュに向かい、凧を車で引っ張る作業 を計算する精密なシミュレーター“シムカイト”のベータ・ヴァージョンを完成させた。「このソフトを使えば誰でも空が飛べる、3年 かかった」と彼は喜んだ。秘書で恋人の湯川りさをマンションへ送り届けた彼は、「昨日、アキバのジャンク屋で変な男に声を掛けられた。 静岡の井加江島へ行ってパソコンをいじってほしい、報酬は20万だと言われた。一緒に行かないか」と誘った。
田川とりさが指定された旅館へ行くと、上の部屋に通された。そこには星、近藤、国城、令子が集まっていた。彼らは高松の母と友人の 会話を盗聴し、録音した。田川が女連れなので「殊任務に第三者を」と怒ろうとした星だが、りさが美人なので口をつぐんだ。田川が 「何のために俺たちを?どういうメンツですか」と尋ねると、星はそれには答えず、「録音した声を合成して、用意した文面の通りに 喋らせろ」と指示した。
田川は「敵は毎晩、カラオケに出掛ける。作戦は深夜に決行。それまで休憩だ」と告げた。田川は「深夜なんて聞いてなかった、熱海に 旅館を予約してる。俺たち帰るよ」と言うが、りさが「何が起こるか見てみたい」と興味を示したので、留まることにした。休憩中、近藤 は体を鍛え、令子は消防無線を傍受した。国城はアイドル番組をチェックし、発行しているC級アイドル分析マガジンをりさに売り付けた。 星は畳の上で転がり回って射撃練習し、錠剤でエネルギーを補給した。
りさは田川に「変よ、この人たち。帰ろ」と告げる。田川はパソコンを操作し、高松の母の友人の音声を合成した。ティナから電話が 掛かって来たので、星は「ダメだ、君が来ると目立つ。精鋭部隊を信じるんだ。必ず連れて帰る」と告げた。夜、星は国城に「小型漁船を 占拠して待機せよ」と指示した。令子は高松家へ斥候に向かい、高松がカラオケとは反対方向に出掛けたことを星に連絡した。旅館に 残った面々は高松の母に電話を掛け、友人の声で「助けて」という言葉を聞かせた。
高松の母が慌てて外出したのを確認し、星は「5分待機で突入だ」と告げた。彼は近藤と共に、高松家の正面玄関へ赴いた。近藤は星の 指示を受け、ドアを蹴破った。裏口から潜入した星は、赤ん坊を発見して抱き上げた。撤収した星と近藤は、他のメンバーと共に埠頭へ 向かう。だが、まだ国城が船の準備を終えていなかった。彼らの眼前を、科学特捜隊のマークを付けた漁船が通過した。直後、巡視艇が 現れ、「おかしな船を見ませんでしたか」と星たちに尋ねた。
そこへ高松が大勢の漁師を引き連れて現れ、赤ん坊を取り返した。星たちは、その場から連れ去られそうになる。星は巡視艇に「本土まで 乗せてってくれませんか」と頼むが、「民間人は乗せられない」と断られた。りさは星のモデルガンを奪い、巡視艇に向けて乱射した。 その結果、モデルガンを没収されて罰金を取られたが、高松たちに拉致されることは回避した。
星たちはワゴン車の中で集まり、そこにティナもやって来た。ティナは「誘拐じゃなくて私の子供」と近藤たちに告げ、事情の説明を 始めた。井加江島の網元である高松は、ティナと結婚した。彼はティナを「ハマコ」と呼び、生まれた赤ん坊は日本人だと言い張った。 高松は息子を「キイチ」と呼び、ティナの里帰りを禁じた。耐えられなくなったティナが逃げ出すと、高松は興信所を使ってアパートを 探し当て、赤ん坊を拉致したのだ。
ティナの隣に住んでいた星は、彼女に助けの手を差し伸べた。「ただのサバイバルゲームじゃ飽き足りない。こういうのが一度やって みたかった」というのが理由だ。近藤たちを選んだ基準は、「俺と同じ目をした奴」というものだった。彼は第二次作戦計画書を配布し、 「負け戦のまま帰れないだろう」と言う。そこへ漁師たちが襲撃してきたため、星は近藤を車外に出した。しかし近藤は全く手出しせず、 一撃でKOされた。星たちは近藤を車に連れ戻し、その場から逃走した。
国城は星から報酬の内の8万5千円だけ頂戴し、東京に戻った。すると仲間がC級アイドル分析マガジンの定期購読料を使い込んでおり、 「次の号が出せない」と国城は嘆いた。田川は会社に戻って独学の航空力学について仲間に語り、シムカイトの販売を主張した。しかし 仲間は「製品化って、経費が幾らかかる?それに誰が買う?」と難色を示す。田川は「パソコン教室やるためにこの会社作ったわけじゃ ねえだろ。バクチしようよ」と言うが、仲間から「ウチはもうバクチが出来る所帯じゃない」と告げられた。
令子は島を去る時、星に「同僚からパワーアップしたスタンガンを借りて、届けてほしい」と頼まれていた。彼女はJYT総合警備保障の 金田正一を訪ねるが、彼は社員で星はバイトだった。金田は「スタンガンは貸せない。あいつに貸すと運が落ちる。あいつがいると、 いつもサバイバルゲームに負ける」と告げた。星と近藤の2人だけは、島に残っていた。近藤は高松家を覗き見し、星の元に戻る。彼は 「キイチは笑っていた。あの家にいるのが幸せなのかもしれない」と口にした。
星と近藤は海辺の小屋に身を隠し、作戦を話し合おうとした。そこに小屋の持ち主である漁師の丹波達夫が現れ、「こんなところじゃあ、 すぐ見つかるぞ」と告げた。小屋の奥には、何体ものフィギュアが置いてあった。それは全て丹波が作ったものだった。星と近藤は、丹波 がフィギュアの神様と呼ばれていた男だと気付いた。星はホビージャパンのジオラマ担当者として知っており、近藤はウルトラマンや 仮面ライダーやゴレンジャーのフィギュアをコミケで購入したことがあった。
星たちが見掛けた特捜隊マークの船も、丹波が作ったものだった。丹波はフィギュアを捨てて5年になり、小屋に来るのも久しぶりだと いう。フィギュアを捨てた理由を問われ、彼は「僻地に住む30男のオタクに嫁が来るか?」と告げた。丹波は星と近藤に呼び掛け、島の ジオラマを作成した。しかし星たちが作戦を話そうとすると、「もう帰れ。これ以上は協力できない」と言う。
丹波は「あの科学特捜隊マークは特攻船だ。よその漁協を荒らしたり、密漁したり。特攻船が、この島の経済を支えてる。高松はボスで、 この島の法律だ。密漁を告発しようとした若い漁師は、行方不明になった」と語った。一方、田川はりさに「子供の頃から空を飛ぶのが夢 だった。一からやり直しだ」と告げた。彼はりさに愛を告白してキスを交わし、指輪をプレゼントした。
計画書では、参加メンバーは8月1日の朝10時に本土の浜津駅で集合することになっていた。星と近藤が駅で待っていると、そこに令子が 現れた。彼女はスタンガンを借りられなかったことを報告し、「私が作ってみせます」と力強く宣言した。その直後、田川が姿を見せ、 さらに国城も「いただきますからね、残りの11万5千円」と言いながらやって来た。
高松一派は馴染みのカラオケパブに集まっていた。一人の漁師が高松に反抗し、「何の跡を取るんだよ、この島で。女房に逃げられて 面白くないから意固地になってキイチ抱えてるんだろ。狩り出される俺たちは何なんだよ」と吐き捨てた。高松は降りるか、特攻船? 聞かなかったことにしてやる」と静かに告げた。反抗した漁師は仲間になだめられ、店を出て行った。
令子は情報収集のため、盗聴マイクを付けて高松に接近しようとする。しかしオッパイを膨らませてパブへ行ったものの、高松からは全く 相手にされなかった。そこへ「処女にスパイは無謀よね」と言い、りさが現れた。彼女はフェロモンを振り撒きながらセクシーに歌い、 漁師たちを虜にする。彼女は高松に声を掛け、色気で誘って2人で店を出た。令子は2人を尾行した。
高松は令子を観光客だと思い込み、自分の家に連れ込んで一緒に酒を飲んだ。「俺と結婚してくれたらキイチをティナに返すよ。日本人の 跡取りが出来たら混血なんて要らない」と彼は口にした。彼は「欲しくてあんなガキ作ったわけじゃねえよ」と言い、りさを抱こうとする。 そこへシルバー仮面のマスクを被った男が現れ、高松を殴って失神させた。
シルバー仮面はりさを救い出し、星たちの前に現れた。すぐに星たちは丹波だと気付くが、彼は「俺は丹波じゃない。ダンと呼んでくれ」 と言い張った。彼は「俺たちは現実と戦うんだぞ。こんなままじゃ通用しない」と星たちに告げる。丹波も仲間に加わり、一行は赤ん坊 奪還のための準備に取り掛かった。翌日、星たちは配置に就き、作戦を実行に移した…。

監督は山田大樹、原作・脚本は一色伸幸、製作は村上光一、企画は堀口壽一&岡田裕介、プロデューサーは河井真也&茂庭善徳、 プロデューサー補は立川善久、プロデュース協力は佐藤義和&吉田正樹、撮影は藤石修、編集は阿部浩英、録音は中村淳、照明は吉角荘介、 美術はいしいいわお(石井巌は間違い)、擬闘は二家本辰巳、武術指導は盧山初雄&根本一巳、音楽は山辺義大&崎久保吉啓、 主題歌「JUST BEGUN」はバブルガム・ブラザーズ、イメージ・ソング「恋をした夜は」は江口洋介、 挿入歌『NOW!』は京野ことみ、『ときめきアイランド』は杉本理恵。
南原清隆、内村光良、江口洋介、山口智子、益岡徹、武田真治、浅野麻衣子、中尾彬、内海好江、桜むつ子、京野ことみ、杉本理恵、 羽田恵理香、本山美智子、マリル・ハウシャン、安田知里、須藤正裕(現・須藤雅宏)、殺陣剛太、黒木佐甫良、川上夏代、大島蓉子、 江連健司、青木裕之、森本浩、大山剛、米沢浩、松岡陵士、松石健、家富洋二、元井須美子、風間将義、吉田竜也、原田修一、津久井啓太、マリア・ シュナイダー、岸博之、松本誠一、鈴木浩司、村澤俊彦ら。


ウッチャンナンチャンが初主演したアクション・コメディー映画。
監督は『湘南爆走族』の山田大樹。
星を南原清隆、近藤を内村光良、田川を江口洋介、りさを山口智子、丹波を益岡徹、国城を武田真治、令子をオーディションで選ばれた 浅野麻衣子、高松を中尾彬が演じている。
劇中、当時のアイドルだった杉本理恵と京野ことみのコンサート場面があり、杉本理恵は『ときめきアイランド』、オーディション で選ばれた京野ことみはデビュー曲の『NOW!』を歌っている。

星はミリタリーオタク、近藤は格闘技オタク、田川はパソコンオタク、丹波はフィギュアオタク、国城はアイドル&改造車 オタク、令子は無線オタクという設定のようだ。
だが、「そうかな?」と首をかしげたくなる。
最も引っ掛かるのは、誰一人として、自分が没頭している分野についてのウンチクを語らないことだ。
オタクってのは基本的に、情報を収集し、知識を高めることに悦びを感じる人種ではないのだろうか。
ここに出て来る奴らには、そういう傾向が全く見られない。

星はサバイバルゲームをやったり射撃練習をしたりしているが、武器やミリタリーグッズを収集している様子は見られない。
近藤は武術を独学で学んだようだが、格闘技オタクってのは自分でやるよりも見る方が好きなタイプが大半だろう。自分で武術をやるのは いいとしても、格闘技に関するマニアックな知識を全く披露しないんだから、「それってオタクなのか?」と思ってしまう。
田川はシムカイトというシミュレーターの開発に燃えているけど、だったらパソコンオタクじゃねえだろ。こいつは空を飛ぶことに意欲を 燃やしていて、その開発のためにパソコンを使っているだけだ。
丹波はフィギュアの原形師だったという設定だから、それはオタクじゃなくてプロでしょうが。原型師だからって、どんなフィギュアも 作るわけじゃなくぞ。得意分野があるはずなのに、ミリタリーのジオラマも、アイドルフィギュアも、特撮ヒーロー物も全てやってると いう設定には無理があるぞ。

丹波は特捜隊マークの特攻船まで作っているけど、それはフィギュアやジオラマの技術とは全く別物だからね。
あと、こいつは「僻地に住む30男のオタクに嫁が来るか?」と言うが、ってことは東京や関東で仕事をしていたわけじゃなくて、その島で フィギュアの仕事をやってたのかよ。
それは設定に無理があるんじゃねえか。
地方都市ならまだしも、そんな小さな島は無いわ。

国城はアイドルの住所をファンに売ろうとしているが、そんなのはオタクじゃないんだよ。
オタクなら、住所を知っても自分だけの秘密にしておくだろう。そもそもアイドルを尾行して住所を調べたりはしない。
それはオタクじゃなくてストーカーだよ。
令子は消防や警察の無線を傍受しているが、それは盗聴マニアであって無線オタクではないと思うんだが。
りさに至っては、オタクでも何でもない。
一応は「レジャーオタク」という設定があるようだが、そりゃオタクじゃねえよ。

オタクの技術や知識は、ほとんど有効利用されていない。
国城のアイドルオタクとしての知識や情報なんか、全く役に立ってない。
一方で改造車オタクのスキルはどうかと言うと、小型漁船の配線をいじったり操縦したりしている。でも、それは改造車のスキルなんか 無関係でしょ。船と改造車は全く違うぞ。
田川のパソコンだって、ほとんど役に立っていない。クライマックスの作戦ではモーターボートに翼を付けて飛ばしていて、その計算には パソコンを使っているが、それは「パソコンのスキル」からは外れているでしょ。
丹波のフィギュアオタクとしてのスキルも、まるで役に立っていない。島のジオラマは作ったけど、だから何なのかっていう程度の扱いで 終わっている。
令子は高松家の斥候に行くけど、まるで無線のスキルとは無関係。スタンガンを作るけど、それも無線オタクのスキルと全く関係が 無い。
星も、サバイバルゲームの経験や軍事的な知識を生かして活躍することは全く無い。しかもスタンガンは彼じゃなく田川と令子が使って いる。

それ以外でも、「雑だなあ」「粗いなあ」と嘆かわしくなる箇所ばかりだ。
まず序盤、メンバーのオタクとしてのキャラ描写が少ない。
例えば令子にしても、もう少し無線傍受を趣味にしているという描写を粘ってから、渋谷区の家に移動した方がいい。
っていうか、その通信だけを気にした理由も良く分からないんだよな。

近藤はコミケのブースで特撮ヒーローショーをやって格闘技ビデオを売り込むが、そこで売られている類の同人漫画を買うメンツと、特撮 ヒーローや格闘技のファン層は全く違うだろ。
田川は「静岡の島でパソコンをいじってほしい、俺じゃないとダメだと泣きつかれた」と言うが、そんなヤバそうな話にノリノリなのは変。
そんな話なのに、りさを誘うのも変。
っていうか彼に限らず、20万の報酬を貰ったからと言って、目的も明かされていない妙な仕事に、みんな平然と取り組むのが不可解。
田川が旅館を去ろうとした時、りさが「何が起こるか見てみたい」と興味津々なのも妙だが、その後で「変よ、この人たち。帰ろ」と 言い出すのはメチャクチャだ。お前が残ろうと言ったんじゃねえか。

高松の手下が揃いも揃って格闘のスキルを持っているが、どういう連中なんだよ。ただの漁師であって、ヤクザじゃないだろうに。
で、反抗した漁師が言っていたように、高松がそこまで跡取りにこだわる意味が無い。跡取りが必要な家系でもないだろ。
男が言ったように意固地になっているだけならまだしも、りさに「日本人の跡取りが出来たら混血なんて要らない」と話すってことは、 マジで跡取りに考えているのか。
こいつも良く分からんキャラ設定だよなあ。

田川はりさに「子供の頃から空を飛ぶのが夢だった。一からやり直しだ」と言い、島に戻る。
でも、「空を飛ぶ夢を一からやり直す」というのと、「赤ん坊奪還作戦に参加する」というのは、全く別の話だろ。
作戦に参加するのは、もっと別のモチベーションが必要なはずなんだよ。
赤ん坊やティナを助けたいとか、向こうの奴にバカにされたので仕返ししてやりたいとかさ。

ウッチャンの格闘アクションぐらいしか見所が無い映画なんだが、終盤まで全く格闘してくれない。
「オタク7人がスキルを駆使して計画を遂行する」という大枠だけ考えると、もっと面白く出来そうなのになあ。雑で適当なシナリオと 演出が、可能性をブチ壊している。
そもそも、ミリタリーマニアがメインじゃなきゃ実行できないようなミッションにしていること自体が間違いじゃないのかね。
オタクって、少なくとも当時は漫画とかアニメとかアイドルがメインだったはずで、そのジャンルにおけるスキルや知識が大きな武器に なるような作戦を設定すべきだったのではないかと思うんだが。

(観賞日:2010年2月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会