『四月になれば彼女は』:2024、日本

伊予田春は伝えたいことがあり、10年ぶりに藤代俊に宛てて手紙を書いた。彼女は藤代と来るはずだったボリビアのウユニを訪れ、写真を撮影した。春は手紙に、「あの時の私には、自分より大切な人がいた。貴方と一緒にいるだけで、全てが上手く行くと信じることが出来た。私の中では、あの4月が今でもボンヤリとした輪郭を保ちながら、ずっと続いているような気がしています」と綴った。藤代は坂本弥生との結婚を控え、挙式するチャペルを下見した。2人は同棲するマンションに戻り、弥生は結婚情報誌に「結婚して2年もすれば愛は情に変わる」と書かれていることを教えた。
深夜に日付が変わり、4月1日になった。弥生の誕生日なので藤代は「おめでとう」と言い、軽くワインでも飲もうと誘った。グラスを用意する弥生だが、誤って落としてしまう。グラスを割った彼女が詫びると、藤代は「大丈夫」と片付けた。しかし弥生の顔からは、笑みが失われた。就寝する直前、藤代は弥生に、「明日の夜にお祝いしよう。いつものレストランを予約しておく」と告げた。弥生は彼に「愛を終わらせない方法、それは何でしょう」と尋ねるが、答えは教えなかった。
翌朝、藤代が目を覚ますと弥生は姿を消しており、電話を掛けても繋がらなかった。精神科医の藤代が大学病院で勤務を終えてからメールを送っても、返信は無かった。彼はレストランに行くが、弥生は来なかった。藤代は馴染みのバーへ行き、店長のタスクに「職場には長期休暇の連絡があったらしい」と話す。浮気でもバレたのかと問われた彼は、してないと否定した。「じやあセックスレス?」と訊かれた彼は、「いや」と返した。
タスクは前に元カノから手紙が来たと言っていたことを思い出し、それが原因ではないかと指摘した。藤代は「ちゃんと話した」と言い、その可能性を否定した。藤代は春からの手紙を見せただけでなく、2番目の彼女で大学の写真部の後輩であること、写真を撮りながら海外を回っていることも説明していた。大学時代の4月、藤代は部長のペンタックスと共に、新入生の勧誘活動を行った。フィルムカメラを持っている春を発見したペンタックスが、彼女に声を掛けた。それが藤代と春の出会いだった。
春が入部した翌日、藤代は彼女と写真を撮りに町へ出掛けた。雨が降り出したので、2人はトンネルに駆け込んだ。どんな物を撮りたいか問われた藤代は、「ポートレート以外。人の顔を正面から見るのが苦手だから」と答えた。彼が何を撮りたいのか訊くと、春は「雨の匂いとか、道の熱気とか、人の気持ちとか」と語った。「全部、目に見えない物だ」と藤代が言うと、彼女は「だけど、確かにそこにある物です」と述べた。藤代は「そんなこと、考えたことも無かった」と感心した。
春はチェコのプラハを訪れ、「600年前から動き続けてる天文時計に通っています。現在と過去か交差する不思議な時計を眺めています」と手紙に綴った。さらに彼女は、「フジは覚えていますか。私たちが手紙を交わしていた、あの日のこと」と問い掛けた。藤代と春は周囲に内緒で、手紙を交換するようになった。2013年のフォトコンテストは「わたしの朝日」というテーマで、藤代と春は外が暗い内から2人で出掛けた。藤代はペンタックスに嘘の時間を教えて2人きりになったことを打ち明け、春の手を握って「世界中の朝日、見に行こう。いつか一緒に」と語った。
藤代は同僚の小泉奈々に、弥生から連絡は無いかと尋ねた。奈々は彼に質問し、最近はセックスレスだったことを知って「なんでその状態で結婚しようと思ったの?」と問い掛けた。彼女は藤代に、「弥生さんを救ったのは、藤代くんなんだからね」と告げる。小泉が産休に入った時、藤代は彼女の代理として弥生を担当した。弥生は不眠が続いていたが、残業するために診断書が欲しいだけだと告げた。藤代が「季節の変わり目ですからねえ」と言うと、弥生は子供の頃から4月が嫌いであること、1日が誕生日であることを語る。彼女は扁桃腺が腫れていると指摘し動物園で獣医をしていることを語った。
藤代は動物園を訪れて飼育員の北村と会い、弥生の代わりに新しい獣医が来ることを聞いた。彼はパチンコ店へ行き、弥生の妹で従業員の坂本純と会った。純は姉から連絡が来ていないことを伝え、「安心しました?だって、そんなに帰って来てほしくないでしょ。だから返信しなかったんですよね。どうせそんな本気で捜す気無いんだろうなあって」と言う。「そんなことないよ」と藤代が否定すると、彼女は「だったらアレですか、あいつまたやったか、みたいな感じですか。お姉ちゃん、前にも逃げてるし」と告げた。
純は藤代に、「精神科医のくせに、全然何も分かってないんですか。最初から全然お姉ちゃんのことなんか好きじゃないっていう顔してましたよ」と話す。続けて彼女は、「だから藤代さんが良かったんですよ。お姉ちゃんって、幸せになるのが怖い人なんで」と言う。藤代の診察を受けた時、弥生はプロポーズされて結婚を決めた途端に眠れなくなったことを告白していた。周囲にお祝いされて罪悪感を抱き、謝ってばかりになったと彼女は語った。一旦考え直すよう藤代が勧めると、弥生は「止められないんですよ。親同士も会って、招待状も出しました」と話した。
藤代が7年もマトモな恋愛をしていないと語ると、弥生は参考のために聞かせてほしいと頼む。藤代は彼女に、大学時代に恋人と海外旅行の計画を立てていたことを明かした。藤代は許可を貰うため、春の家を訪ねて父親の衛と会った。すると衛は藤代を暗室に案内し、壁一面に貼ってある春の写真を見せた。彼は妻を亡くしており、幼少期から春を撮り続けていた。衛が「いつも一緒じゃないと眠れないんだ。苦しいんだ」と言うと、藤代は顔を強張らせた。
翌日、藤代は春に、「一緒に暮らそう。ウユニとプラハとアイスランドに行こう」と告げた。春が「お父さんが」と泣いて躊躇すると、彼は抱き締めて「春とどうなるの?」と口にした。出発の日、藤代が空港へ行くと、春は荷物を用意していなかった。彼女は藤代に、「無理しないで。大丈夫だから。ゴメン、選べなかった」と告げた。春と別れた後、藤代は座り込んで泣いた。春はアイスランドで倒れ、病院に搬送された。回復した彼女は、また藤代に手紙を書いた。
藤代はバーを訪れ、タスクから「そもそも1人の相手に全て満たしてもらおうってのは無理があるんですよ」と言われる。「お前みたいに気ままに生きられたらな」と彼が漏らすと、タスクは「フジさんは安全な場所から出ないで人を馬鹿にしてるだけじゃん。僕は1人で生きてくしかないと気付いて、覚悟を決めただけですよ」と語る。さらに彼は、「弥生さんがなぜ出て行ったか、まだ分からないの?怖いですよね、人間って。悩んでる人より、傍にいて愛してくれる人のことを容赦なく傷付けるんだから」と語った。
帰宅した藤代は、過去を振り返った。弥生は藤代に「動物と結婚した人もいる」と具体例を挙げている間に、急に泣き出したことがあった。驚いた藤代が「どうしたんですか。僕のせいですか」と訊くと、彼女は「ただ楽しかっただけです。悲しくなるんです。凄く楽しい時は、想像しちゃうんです。いつかこの気持ちが無くなったら、どうしようって」と語った。藤代は弥生を部屋に呼び、肉体関係を持った。翌日、彼は動物園で弥生と会い、もう診察できないので別の医者を紹介すると告げた。弥生は「大丈夫です。藤代さんも悩んでるから自分のことを話せたんだと思います」と語り、別れようとした。
藤代は弥生との別れを拒んで交際し、結婚を決めた。藤代は弥生から結婚を急いだ理由を問われた時、「弥生が4月を好きになればいいと思って」と答えた。藤代は弥生からの手紙を見つけ、封を開いた。彼女の手紙には、「貴方から離れて思い出しています。出会った頃の私たちのこと」と書いてあった。さらに彼女は、「幸せという気持ちを共にしていたはずでした。愛を終わらせない方法は、手に入れないことだと分かっていたはずなのに。私たちは愛することをサボった。決して手に入らない物しか、永遠に愛することは出来ない。それを分かっていたはずなのに」と綴っていた…。

監督は山田智和、原作は川村元気『四月になれば彼女は』(文春文庫刊)、脚本は木戸雄一郎&山田智和&川村元気、製作は市川南、共同製作は上田太地&小山洋平&古澤佳寛&潮田一&弓矢政法&渡辺章仁&飯窪成幸&奥村景二、エグゼクティブプロデューサーは臼井央&千葉伸大、プロデューサーは山田兼司&春名慶&岡村和佳菜&伊藤太一、撮影は今村圭佑、照明は平山達弥、音響は白取貢、美術は林チナ、編集は瀬谷さくら、音楽は小林武史、主題歌『満ちてゆく』は藤井風。
出演は佐藤健、長澤まさみ、竹野内豊、森七菜、仲野太賀、中島歩、高田聖子、ともさかりえ、河合優実、橋本じゅん、水澤紳吾、瀬奈じゅん、島かおり、大谷朗、田山由起、名村辰、宮原尚之、古賀成美、中村圭太、堀内充治、嶋崎希祐、太田恵晴、白石璃菜、鈴木健斗、松山歩夢、しおつかけいいちろう、根井深考、森茉璃亜、大河原恵、小林優希、竹村公世ら。


川村元気の同名小説を基にした作品。
監督は米津玄師やあいみょんらのミュージック・ビデオを手掛けた来た山田智和で、これが長編映画デビュー作。
脚本は『Dr.STONE』『映像研には手を出すな!』など多くのTVアニメを担当してきた木戸雄一郎。
藤代を佐藤健、弥生を長澤まさみ、衛を竹野内豊、春を森七菜、タスクを仲野太賀、ペンタックスを中島歩、玲子を高田聖子、奈々をともさかりえ、純を河合優実、北村を橋本じゅん、桑原を水澤紳吾、高橋を瀬奈じゅんが演じている。

藤代が佐藤健で春が森七菜なので、どうしても2人の年齢差が気になる。幾ら佐藤健が実年齢より若く見えようが、森七菜も童顔だしね。
なので、見た目から明らかに年齢差を感じるのよ。「先生と生徒」とか「兄と妹」とか、それぐらいの関係性の方が、すんなりと受け入れやすい2人なのよ。
最初から「年の差があるカップル」という設定なら、もちろん何の問題も無い。だけど「大学の先輩と後輩」という関係で、せいぜい3歳とか4歳ぐらいの年齢差のはずで。
これが「森七菜は回想パートだけの出演」ってことなら、「そこから10年が経過しているので佐藤健との年齢差を感じるのも当然」という言い訳は出来る。だけど、現在のパートでも登場するからね。

藤代が純から、「精神科医のくせに、全然何も分かってないんですか。最初から全然お姉ちゃんのことなんか好きじゃないっていう顔してましたよ」と言われるシーンがある。
だけど、「そんな風には見えなかったけどなあ」と首をかしげてしまう。普通に惚れていて、幸せな同棲生活を送っているように見えたぞ。
とは言えセックスレスだったことを藤代が認めているし、だから純の指摘は正しいのかもしれない。
ただ、「藤代は最初から弥生のことを愛していなかった」という設定を、すんなりと受け入れることは難しい。
純が指摘した時、「そう言えば、そういう雰囲気があったよな」と振り返って納得できるような描写は、まるで感じられなかったのだ。

っていうか、「藤代も弥生も恋愛に対して素直に向き合えない心情になっている」という設定が、欲張り過ぎだったんじゃないかと。
そりゃあ、それで両方とも充分に表現できていれば、その方が厚みは出るし、プラスしかないよ。
だけど実際には、「弥生サイドだけで充分だわ」と言いたくなるのよ。
藤代サイドは比較的分かりやすいキャラにしておいて、「そんな彼が最初は弥生の気持ちが全く理解できず、だけど捜索している内に少しずつ変化して」というドラマにすれば良かったんじゃないかと。

春が海外旅行の当日に空港でドタキャンするのは、普通にドイヒーな行動でしょ。それまでに断るチャンスは、幾らでもあったはず。当日も、藤代が空港に来る前にメールなり電話なりで連絡することも出来たはずだし。
そもそも海外旅行の計画を立てた時点で、「父が許可してくれるかどうか」という問題は分かっていたはず。ずっと一緒に暮らして来たんだし、「その時に初めて、父がそんな風に思っていたと知った」ってわけでもあるまいに。
なので、海外旅行の計画を決めている時点で「父が許してくれるかな」と悩んだり藤代に相談したりすべきじゃないのか。
ずっと楽しそうに計画を話し合っていて、藤代と父との面会を経てから出発当日に「選べない」と言い出すのは、どういうつもりなのかと言いたくなるぞ。

藤代が春と空港で別れ、座り込んで泣くシーンは、分かりやすく「お涙頂戴」として盛り上げようとしている。だけど前述した理由もあり、ちっとも心は動かない。
それに、ただ海外旅行を諦めるだけじゃなくて交際も終わらせるってことは、口では選べなかった」と言っているけど、実際には春が藤代より父親を選んだことになるわけで。それなのに今は海外旅行に行っているので、どうなっているのかと。
今回は父親が許可してくれたのか、それとも父親が死んで解放されたのか。
藤代と別れるぐらい春と父親の関係が異常性を孕んでいるのだとすれば、そこにスリラー的な匂いも感じてしまうので、そこを掘らずにサラッと流していいのかと言いたくなるし。

弥生が楽しい話をしている途中で急に泣き出し、「ただ楽しかっただけです。悲しくなるんです。凄く楽しい時は、想像しちゃうんです。いつかこの気持ちが無くなったら、どうしようって」と説明するシーンがある。
これを感動的なシーンのように演出しているけど、普通に「やべえ女だな、面倒な女だな」と感じるぞ。
ここで藤代の気持ちが高まり、セックスに及ぶのも、「変わった性癖かよ」と言いたくなるし。
「代役とは言え、自分の担当する患者と一線を超えている」という問題は置いておくとしても、そのタイミングなのかと。

タスクは藤代から「お前みたいに気ままに生きられたらな」と言われた時、「フジさんは安全な場所から出ないで人を馬鹿にしてるだけじゃん」と指摘する。
ちょっとイラっとしたのかもしれないけど、「藤代が安全な場所から他人を馬鹿にしている」と思わせる言動なんて無かったぞ。タスクがそう指摘しても、「なるほど、そう言えば」とは全く感じないよ。
あと、タスクは「弥生さんがなぜ出て行ったか、まだ分からないの?」と言うけど、いや分からんよ。
どうやら「周囲の人間は全員が分かっているのに、藤代だけが理解していない」という設定みたいだけど、こっちもサッパリ分からんのよ。

なぜサッパリ分からないかって、そりゃあ当然だろう。何しろ、弥生から藤代に届いた手紙によれば、彼女は「愛を終わらせない方法は、手に入れないこと」「決して手に入らない物しか、永遠に愛することは出来ない」ってことで、藤代の元を去っているのだ。
そんなのは、どんな名探偵でも分からんって。
あと、手紙には「私たちは愛をサボった。些細な気持ちを重ね合わせていくことを怠った」と書いてあるけど、そんな様子も描いてないし。
「割れたグラスを片付ける藤代を見た時に、弥生がそれを確信した」という表現になっているけど、メチャクチャだよ。藤代がグラスを片付けるのは普通の行動であり、それを「些細な気持ちを重ね合わせていくことを怠った行動」として納得するのは無理だよ。
そんなことで離れちゃうなら、やっぱり弥生は面倒な女でしかないし、ちっとも涙を誘われないのよ。

藤代は久しぶりにペンタックスからの電話を貰い、春が死んだことを知らされる。春は旅先で病気を患い、帰国してから死んだのだ。
なぜペンタックスがそのことを知ったのか、それは良く分からない。
で、藤代はペンタックスに言われて、春が最後にいたホスピスを訪れる。ホスピスの医師は、春から預かっていたカメラを藤代に渡す。
フィルムを現像した藤代は、看護師姿の弥生が映っていることを知る。
弥生はネットで春の居場所を突き止め、彼女が死ぬまで看護師として働いていたのだ。

動物園の獣医がホスピスの看護師になっている時点で「んっ?」と引っ掛かるモノはあるが、それはひとまず置いておこう。
だけど、春の手紙を読んで気になったのなら、それについて藤代に訊けば良くないか。春の居場所を突き止めて訪れるのなら、普通に質問すれば良くないか。
目的を隠して看護師の面接を受け、春に近付いて観察するってのは、やっぱり「やべえ女」にしか思えんぞ。春が車椅子生活になり、いよいよ余命が長くない状況に陥ってから、ようやく弥生は「無くした物を見つけたくて会いに来た」と告白しているけど。
っていうか、それも詳しいことは説明していないし、タイミング的にも卑怯だし。

あと、春の手紙を勝手に読んで、藤代には何も言わず、ネットで春の居場所を調べて看護師として近付くってのは、それこそ些細な気持ちを重ね合わせていくことを怠った行動なんじゃないのか。
それなのに藤代が一方的に「お前が悪い」と言われるような話になっているのは、どうにも受け入れ難い。
あと結局、純の存在意義が全く見えて来なかったんだよね。
1シーンしか出番が無いし、その出番で藤代や物語を大きく動かす力を見せているわけでもないし。

(観賞日:2025年4月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会