『四月は君の嘘』:2016、日本

高校2年生の有馬公生は、学校の音楽室でピアノを弾いていた。彼が淡々と演奏するので、幼馴染の澤部椿が「聴いてるんだから、本気で弾いてよ」と不満を口にする。公生が「聴かせるためじゃない。新譜の音源を耳コピして譜面に起こすバイトで、音の確認してるだけだ。ピアノは辞めたから」と静かに告げると、椿は「弾いてんじゃん」と口を尖らせた。そこへ幼馴染の渡亮太が現れ、椿と話す。そんな2人の様子を見た公生は、「彼らの色はカラフルなのに、僕の世界はこの鍵盤のようにモノトーンだ」と心で呟いた。
椿は渡に、紹介してほしいという友人がいることを話す。渡は女子から人気があり、自身も異性に対して積極的に行動している。土曜日に会わせることを告げた椿は、公生に友人Aとしての同行を求めた。公生が帰宅すると、両親の友人である瀬戸紘子が幼い娘の小春と来ていた。ピアニストの紘子はリサイタルを控えていたが、単身赴任している公生の父に頼まれているため、しばしば料理を作りに来るのだ。自室へ着替えに行こうとした公生は紘子に促され、母である早希の遺影に「ただいま」と告げた。
土曜日、公生は指定された公園へ行くが、椿と渡は約束の時間になっても現れない。ピアニカの音が聞こえたので公生が行ってみると、1人の少女が子供たちと一緒に演奏していた。そこへ椿と渡が現れ、その少女が紹介する宮園かをりだと公生は聞かされた。椿はかをりに、公生を友人Aとして紹介した。かをりはヴァイオリニストで、これから音楽ホールへコンクールに行くと言う。公生が去ろうとすると、かをりが腕を取って「行こ」と告げた。
公生が音楽ホールに入ると、大勢の観客は彼を知っていた。かをりは譜面を完全に無視して演奏するが、観客の心を引き付けた。観客がスタンディング・オベーションを送る中、公生は「なんでこんなに楽しそうに弾けるんだろう」と思った。後日、公生が下校していると、かをりが待っていた。かをりからコンクールの感想を問われた公生は、「すごく良かった」と告げた。かをりは渡の元へ行こうとすると、彼が他の女性に会いに行ったと知っている公生は部活だと嘘をついた。
かをりは公生に「君を代役に任命します」と言い、カフェへ連れて行く。幼い女の子たちが店のピアノを弾いているのを見た彼女は、公生に「弾いてあげて」と告げた。公生は半ば脅されるようにして演奏するが、途中で指を止めて店を出て行く。かをりは後を追い、「もうピアノは弾かないの?」と問い掛けた。かつて公生は数々のピアノコンクールで優勝し、正確無比な演奏で「ヒューマンメトロノーム」と呼ばれた神童だった。
かをりは公生が同年代から憧れの存在だったと話し、ピアノを辞めた理由を尋ねる。公生が「ピアノの音が聞こえない。初めは聞こえるけど、途中から消えるんだ。集中すればするほど、聞こえなくなる。これは僕への罰」と語ると、「弾けなくても、弾けばいいのに」とかをりは告げた。彼女は「決めた、私の伴奏して」と言い、二次予選に出られることを明かす。公生が困惑しても、かをりは勝手に伴奏者として任命した。
かをりから話を聞いた椿は、「私も協力する」と言う。彼女はピアニストだった母を亡くした後のコンクールで公生が急に演奏を止めたこと、それからピアノを弾かなくなったことをかをりに語る。かをりと椿は、二次予選の課題曲の曲を放送室から延々と流したり、楽譜を靴箱に入れたりする。しかし公生は伴奏を断り、他の人を探すようかをりに告げた。コンクール当日、かをりは校舎の屋上にいる公生の前に現れ、「君は弾けないんじゃなくて、弾かないだけ。ピアノの音が聞こえないことを言い訳にして、逃げてるだけじゃない」と責める。公生が「怖いんだ」と漏らすと、彼女は「私がいるよ。君がいいの」と告げた。
かをりが泣きながら「挫けそうになる私を支えて下さい」と頭を下げて頼むと、公生は承諾した。2人は音楽ホールへ行き、公生は出番の直前まで楽譜を見る。かをりは彼に声を掛け、笑顔で「思いっきり恥かこうよ、2人で」と告げた。いざ本番になると、公生は上手く演奏に入ることが出来た。しかし険しい表情で凝視する早希の幻影が目に入り、途端に音が聞こえなくなった。演奏は乱れ、かをりの邪魔をしてはいけないと考えた公生は指を止めた。
かをりも途中でヴァイオリンの演奏を止めたので、公生は驚いた。演奏を止めた時点で、失格になってしまうのだ。かをりは公生の方を振り返って明るく「アゲイン」と告げ、演奏を再開した。公生も再び指を動かし始めるが、2人の演奏はメチャクチャだった。しかし心を引き付けられた観客はスタンディングオベーションで称賛し、かをりは「ここにいる人たちは、私たちのことを覚えていてくれる。きっと私、死んでも忘れない」と公生に告げた。
コンクールの後、公生がピアノを弾くことは無かった。かをりは彼の元へ行き、ガラコンサートに招待されたことを告げて伴奏を頼んだ。公生が「きっとまた僕が駄目にする」と言うと、彼女は「君はあの感動を忘れられるの?みんな怖いよ。でも何かに突き動かされて私たちは演奏する。そうやって最も美しい嘘が生まれる。私たちはそういう人種なの。まだ17だよ。思い切って飛び込もうよ」と告げる。彼女は橋の上から、制服のまま川へ飛び込んだ。それを見た公生も、彼女に続いてダイブした。
かをりは服を着替えるために公生の家へ行き、ピアノを探す。するとピアノの部屋は乱雑に散らかっており、かをりは「まずは環境から」と掃除する。部屋にあった楽譜を見た彼女は、ガラコンで演奏する曲をクライスラーの『愛の悲しみ』に決めると言い出した。公生は困惑の表情で「もっといい曲があるんじゃないか」と言うが、かをりの考えは変わらなかった。2人の楽しげな様子を目撃した椿は、苛立ちを覚えた。椿が公生に恋していることを渡や友人の奈緒は知っていたが、本人は無自覚だった。
公生は『愛の悲しみ』を練習するが気持ちは乗らず、早希を思い出す。早希が病気で入院した後、コンクールに参加した公生は元気になってもらいたいという思いで演奏した。見事に優勝した彼は、会場へ来た母に喜んで報告した。しかし早希は平手打ちを浴びせ、厳しい口調で幾つものミスを指摘した。公生は腹を立て、「死んじゃえばいいんだ」と吐き捨てた。病院に戻った早希が死去したため、公生は自分のせいだと罪悪感を抱いてピアノが弾けなくなった。そんな母の最も愛した曲が『愛の悲しみ』だった。
公生は紘子に、「母さんは僕が『愛の悲しみ』を弾くことを許してくれるかな。僕には弾く資格があるのかな」と相談した。すると紘子は「迷ってるなら弾きな」と言い、「もしかして音が聞こえなくなるのは、贈り物なんじゃないかな」と口にした。ガラコンの当日、かをりが会場に現れないため、紘子はコンクールの審査委員長を務めた井端に最後の出番へ回してほしいと頼む。だが、かをりの演奏が音楽への冒涜だと感じて招待にも反対した井端は、順番の変更を却下した。
出番の時間になっても、かをりは会場へ来なかった。そこで公生は1人でステージへ上がり、ピアノだけで『愛の悲しみ』の演奏を始める。最初は力任せに鍵盤を叩いていた公生だが、母の指導を思い出して軽やかに弾き始める。その様子を舞台袖から見ていた紘子は、病床の早希が「私がいなくなっても、ちゃんとピアニストとしてやっていけるようにしてあげなきゃならないの。あの子が生きていくために。幸せになれるように」と言っていたことを思い出して涙した…。

監督は新城毅彦、原作は新川直司『四月は君の嘘』講談社『月刊少年マガジン』所載、脚本は龍居由佳里、製作は石原隆&古川公平&市川南、プロデューサーは上原寿一&八尾香澄、アソシエイトプロデューサーは江川智、ラインプロデューサーは山本礼二、撮影は小宮山充、美術は磯田典宏、照明は保坂温、録音は矢野正人、編集は穗垣順之助、音楽は吉俣良。
主題歌『ラストシーン』いきものがかり 作詞:水野良樹、作曲:水野良樹、編曲:島田昌典。
挿入歌『君なんだよ』wacci 作詞:橋口洋平、作曲:橋口洋平、編曲:島田昌典。
出演は広瀬すず、山崎賢人、石井杏奈、中川大志、檀れい、板谷由夏、甲本雅裕、本田博太郎、古泉葵、山口香緒里、嶋村太一、吉澤梨里花、藤本哉汰、大江優成、矢崎由紗、田代輝、大村一真、大滝愛結、中井アウロラ、榊原湘真、樫原右京、岡田明日太、谷口恋々、加藤美月、根本真陽、五十嵐健人、小倉優香、原田ひかり、武田圭司、刀根史夏、永島敬三、石坂晋輔ら。


講談社漫画賞少年部門を受賞している新川直司の同名漫画を基にした作品。
監督は『パラダイス・キス』『潔く柔く きよくやわく』の新城毅彦。
脚本は『小さき勇者たち 〜ガメラ〜』『ストロベリーナイト』の龍居由佳里。
かをりを広瀬すず、公生を山崎賢人、椿を石井杏奈、渡を中川大志、早希を檀れい、紘子を板谷由夏、奈緒を古泉葵、涼子を山口香緒里、好是を嶋村太一、小春を吉澤梨里花が演じている。
他に、コンクールの審査委員役で甲本雅裕、審査委員長役で本田博太郎が出演している。

冒頭、公生が音楽室でピアノを弾いている様子が写し出される。椿に「本気で弾いてよ」と言われた彼は、音源を譜面に起こすバイトをしているだけだと話し、「ピアノは辞めたから」と口にする。
この段階で、まだ椿が「弾いてんじゃん」と言う前に「いやピアノ弾いてるじゃん」とツッコミを入れてしまった。
淡々とした演奏ではあるが、それで「ピアノを辞めた」と言われても腑に落ちない。設定として、中途半端に感じるのよ。
どういう演奏であれ、どういう感情であれ、公生がピアノを弾いている様子を見せてしまったら、のっけから「彼がピアノを辞めた」という設定を台無しにしているとしか思えない。

椿と渡が話すを公生が見ていると、「彼らの色はカラフルなのに、僕の世界はこの鍵盤のようにモノトーンだ」というモノローグが入る。
文章で書かれても全く気にならないだろうが、その文学的な表現を声に出して言われると、なかなかキツいモノがある。
普段からキザな台詞を当たり前のように喋るようなキャラでもないと、その表現が嘘臭いモノに聞こえてしまうリスクは高い。上手く処理すれば良い効果になったかもしれないが、この映画では冒頭から寒いことになっている。
また、口では「僕の世界はモノトーン」と言っているが、実際は全く「彼の世界がモノトーン」に感じられないってのも厳しいし。

当たり前ではあるが、広瀬すずも山崎賢人もヴァイオリンやピアノを実際には演奏していない。
その道のプロではないので、そんなのは一向に構わない。「実際に演奏しろ」とか、そんな無茶なことを要求するつもりは毛頭無い。
ただ、その当てブリが「本人が演奏しているようには全く見えない」という状態に見えるのは、かなりの痛手だ。
経験者であれば、技術レベルはともかく、実際に弾いているような演技という部分では、もう少し上手く見せることが出来たのかもしれない。
楽器を演奏する人物が主人公の場合、そこは作品の評価に大きく関わって来る問題なのよね。

わざわざ言うまでもないだろうが、山崎賢人と言えば女子から大人気の若手俳優だ。この作品が上映される前には、『L・DK』や『ヒロイン失格』、『オオカミ少女と黒王子』といった少女漫画原作の映画でモテ男の役を演じ、女性ファンをキュンキュンさせてきた。
そんな彼に、今回の公生というキャラクターは全く似合わない。
もちろん役柄なので、必ずしも実際の俳優とピッタリじゃなきゃダメというわけではない。でも「内気で弱々しくて純朴で繊細な男子」という人物には、全く見えないのだ。
モテ男としての匂いを、まるで隠し切れていないのよ。
公生に全く魅力を感じられないのはキャラクター描写の失敗もあるだろうが、演者と役が合っていないってのも影響しているんじゃないかと思うぞ。

かをりに関しては、広瀬すずとのミスマッチは起きていない。ただ、分裂症気味の女に見えてしまう。
彼女は風でスカートがめくれ上がるタイミングで公生がスマホを向けていたので勘違いし、「変態」と罵る。ところが、明らかに嫌悪感を見せていたのに、公生が去ろうとすると腕を取って笑顔で「行こ」と言う。
伴奏を頼む時は、それまで笑顔で明るく喋っていたのに、唐突に泣き出して「挫けそうになる私を支えて下さい」と頭を下げる。
「天真爛漫で自由奔放な少女」というのが表面的なキャラ設定だと思われるが、「ちょっとヤバい奴」という匂いが漂って来るのだ。

かをりが橋から川へ飛び込むシーンは、かなり高い場所なので、「もはや自殺の高さだぞ」と言いたくなる。
なので、彼女に続いて公生がダイブするのも、「なんでだよ」と言いたくなる。
爽やかで感動的なシーンとして演出しているのだが、川の水深も浅そうだし、「危険すぎるだろ」ってことばかりが気になってしまう。
勢いよくダイブするシーンで両名が人形モロバレ状態でストーンと落下するのは甘受するとしても、そこはどうなのかと。

公生が『愛の悲しみ』を弾いてもいいのかと悩んでいると、紘子は「音が聞こえなくなるのは、贈り物なのじゃないかな」と言う。だが、どういう意味なのかは教えてくれないので、それについて公生は悩んでしまう。
悩み相談をされたのに、別の悩みを与えてどうすんのよ。そこで謎めいた言葉を語り、その意味を教えない意味って何なのよ。
しかも、後から「こういう意味だった」と明かされる展開が当然のことながら用意されているだろうと思いきや、全く意味が分からないままで終わってしまうのだ。
たぶん製作サイドは「説明したつもり」になっているだろうけど、明らかに説明不足だぞ。

ガラコンのステージに1人で上がった公生は、なぜか母が優しかった頃の様子だけを思い出し、華麗に演奏できるようになる。
それまでは母のことを思い出しても厳しい指導ばかりが浮かんで音が聞こえなくなっていたのに、その時だけは優しい思い出が浮かんで演奏できるようになるのだが、何がどうなって大きく変化したのかはサッパリ分からない。
1つだけ確実に言えるのは、「ほぼ自分の力だけで公生は演奏できるようになっちゃった」ってことだ。
かをりが全く貢献していないとは言わないけど、肝心な時に彼女はいないわけで。

公生がガラコンで演奏すると、早希が「私がいなくなっても、ちゃんとピアニストとしてやっていけるようにしてあげなきゃならないの。あの子が生きていくために。幸せになれるように」と紘子に言っていた様子が挿入される。
それによって、「厳しすぎる指導は全て息子の将来を思ってのことだった」と明かしているわけだ。
でも、どんな理由があろうと、大勢の人がいる前でヒステリックに息子を叱責してビンタするとか、早希は酷い母親でしかないぞ。
「余命わずかだから」ってのは免罪符として成立しない。

最初は公生がトラウマから立ち直る物語として進行していたが、それは途中で解決される。
それも、幾ら頑張っても病気になった母が叱責ばかりで厳しく当たった理由を公生が知ったわけではないのに、優しかった頃の母を思い出しただけで、簡単にトラウマは解消されている。
それ以降は、闘病モノと切ない恋物語の組み合わせになる。
主な観客であろう若い女性たちを感動させるには、そういう分かりやすいお涙頂戴の方がいいという判断だったのだろう。

切ない恋物語のパートに入ると、椿の公生に対する恋心も重視されるようになる。
椿が公生に向かって「かをちゃんは渡が好きなんだよ。だからアンタは私と恋をするしか無いの」と唐突に言い出すなど、かをりが基本的には病室から出られなくなった分、第二ヒロインの出番が増える。
そんな椿のシーンだけでなく、ギクシャクした展開も色々と出て来るし、「公生が心の傷を克服し、ピアニストとして成長していく物語」という要素は完全に消滅している。
だけど、広瀬すず、公生を山崎賢人が胸をキュンキュンさせてくれて、広瀬すずが可愛くて可哀想だったら、それでいい、それだけでいいってことじゃないかな。

(観賞日:2017年11月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会