『3D彼女 リアルガール』:2018、日本
高校3年生の筒井光は、クラスメイトの五十嵐色葉から「つっつん、私と付き合って」と告白された。三日前。冴えない高校生の筒井は、『魔法少女えぞみち』というTVアニメのヒロインである「えぞみち」というキャラクターを愛する二次元オタクだ。アニメを見ていない時も、筒井は妄想の中で彼女と会話を交わしていた。しかし周囲からすると独り言を話しているようにしか思えないので、弟の薫は呆れている。父の充と母の紀江がいる前でも、筒井はアニメを見るために弟とチャンネル争いを繰り広げた。
その日、朝からツキの無さを感じていた筒井は遅刻しそうになるが、何とか間に合う。後ろの席には、常に猫耳を付けている二次元オタク仲間の伊東悠人が座っている。高梨ミツヤは友人から2人のことを聞かされ、馬鹿にした態度で嘲笑する。ミツヤは筒井に、「職員室に呼び出されちゃって。代わりに行ってくんない?」と告げる。承諾して職員室へ赴いた筒井が謝罪すると、教師は戸惑いの表情を浮かべた。教師は色葉を呼び寄せ、一緒にプール掃除をするよう筒井に命じた。
筒井は色葉について、不良とか男癖が悪いとか性格が悪いとか、よからぬ噂を幾つも耳にしていた。色葉がプールに来ないのではないかと予想した筒井だが、彼女は現れた。筒井は誤って色葉にぶつかってしまい、助けようとして一緒にプールへ落下した。プールから上がった色葉がブレザーを脱ごうとすると、筒井は激しく狼狽した。女性への耐性が無いことを知った色葉は興味を示し、筒井に話し掛けた。彼女は筒井の呼び方について、「呼びにくいから、つっつんね」と勝手に決めた。
「恋とかした方がいいよ。何なら私が付き合ってあげようか」と色葉が軽く笑うと、筒井は「ふざけんなよ。笑顔でズカズカと人の心に入り込んで。俺が喜ぶとでも思ったのかよ」と激怒した。すると色葉は、「冗談のつもりだったんだけど、ごめんね」と詫びて立ち去った。筒井は伊東に「ある女子に心を乱されて口答えしてしまった」と打ち明け、謝るよう助言された。筒井は書店で色葉を観察し、謝罪するタイミングを窺う。すると目の前で女子高生が雑誌を万引きし、色葉の横を通り過ぎて走り去った。
その直後、店員が色葉を捕まえ、万引き犯だと決め付けて連行しようとする。腹を立てた色葉は鞄の中身を全て見せた上、「ここで服を脱ぎましょうか」と言う。すると店員が「そうしてください」と要求するが、筒井がやって来て色葉の潔白を証言した。なぜ分かるのかと店員に詰め寄られた筒井は、「一日中、こいつのこと付けてたから」と色葉の行動を詳しく説明する。店員からストーカー扱いされたため、彼は慌てて逃げ出した。
翌日、登校した筒井が謝罪する練習をしていると色葉が現れ、「つっつん、私と付き合って」と告白したのだった。しかし筒井は謝る練習を繰り返していたため、反射的に「ごめんなさい」と言ってしまう。それは告白を断った形になり、色葉は「そっか」と告げて立ち去った。クラスメイトの石野ありさは、筒井を激しく責め立てた。慌てて色葉を追い掛けた筒井は、謝罪の意味について釈明した上で「付き合うという言葉の意味についてお聞きしたいんですが」と言う。「彼氏になってってこと」という色葉の言葉に動揺した筒井は、えぞみちに相談する。「新手のイジメではないか」と言われた彼は、その意見に納得した。
筒井が「彼氏になれば、許していただけますか」と質問すると、色葉は「良く分かんないけど、付き合うってこと?」と確認する。筒井が「甘んじて受け入れます」と苦悩の表情で告げると、彼女は「じゃあ半年間、よろしく」と笑った。色葉が近付いて「リアル彼氏が何するか、分かってるよね」と告げると、筒井は顔を強張らせた。最初のミッションとして、筒井は彼女から送り迎えを求められる。さらに色葉は「守ってほしい」「一緒にご飯を食べる」「デートする」「プレゼントも欲しいなあ」と言い、キスする素振りも見せた。帰宅した筒井は、えぞみちから「お前は踊らされてるだけだ。三次元の女に愛されるわけがない。さあ、繰り返せ」と告げられた。
翌日、筒井は色葉の求めに従い、学食で一緒に昼食を取った。その様子を見たミツヤが驚いて「付き合ってねえよな」と確認すると、色葉は即座に「付き合ってる」と述べた。ミツヤは「身分が違いすぎるでしょ」と言い、筒井を扱き下ろした。筒井は色葉に腕を触られ、今が守る時だと理解した。彼は立ち上がるとミツヤを抱き締め、バックハグから壁ドン&あごクイという行動に出た。学食にいた生徒たちから拍手が起こる中、色葉が倒れた。筒井が慌てて駆け寄ると、色葉は「間淵先生の所に」と弱々しく口にした。
筒井は色葉を背負って総合病院へ走り、主治医の間淵慎吾に引き渡した。心配する筒井に、間淵は「ただの貧血です」と伝える。筒井が「良かった」と安堵して泣き出すと、色葉は「ありがとう。守ってくれて」と礼を述べた。筒井は「彼氏としてやるべきことを1つは全うしたということで。残りも善処致しますので」と丁寧に語り、病室を後にした。次のミッションであるデートについて、筒井は伊東に相談する。しかし筒井だけでなく、伊東にも二次元の知識しか無かった。
すると、ありさが筒井に声を掛け、「こないだミツヤくんと絡んでたじゃん。仲いいの?」と質問した。筒井が「俺デートを教えてくれ」と頼むと、彼女はミツヤとのパイプ役になる条件で承諾した。ありさから教えてもらったプランを頭に叩き込み、筒井は待ち合わせ現場へ赴いた。彼をサポートするため、伊東が近くで張り込んでいた。しかし色葉は筒井の話すデートプランに「つまんない」と感想を述べ、「つっつんのおうちに行きたい」と言い出した。
想定外の事態に筒井は動揺するが、助けを求められた伊東は白旗を掲げて退散する。色葉は半ば強引に筒井の家へ行き、家族に挨拶した。筒井の家族は色葉を大歓迎し、なぜ付き合うようになったのかと尋ねた。色葉は「私、頭の中に悪い虫がいて。それで自暴自棄に」と真顔で言うが、すぐに「冗談ですよ。一目惚れです」と微笑んだ。色葉が「つっつんの部屋が見たい」と口にすると、両親は下手な嘘をついて見せないようにしようとする。しかし色葉はトイレを借りるフリをして、筒井の部屋へ乗り込んだ。
筒井が後を追うと、えぞみちのフィギュアコレクションを見た色葉は「これ、可愛いね」と口にした。筒井は「引かないのか」と驚くが、彼女は「つっつんの好きなアニメが見たい」と言い出した。色葉は筒井と一緒に『魔法少女えぞみち』を観賞して、「この女の子、魔法が使えるんだね。いいなあ」と言う。筒井が「俺もえぞみちを見た時、同じことを思った」と語ると、彼女は「初めてだね。話が合うの」と微笑を浮かべる。家を出た筒井が途中まで送ると、色葉は彼の頬にキスをして立ち去った。「こんな俺でも、恋していいのかな」と筒井が呟くと、えぞみちは「やめとけ。骨は拾わねえぞ」と告げた。
次の日、筒井は伊東に「俺はこの状況を楽しむことにした」と満面の笑顔で宣言し、応援の言葉を貰った。筒井はありさにプレゼントの相談をするが、「借りを返してから」と言われる。そこで彼はミツヤの元へ行き、ありさを推薦した。ミツヤは色葉が自分と付き合うべき理由について詳しく説明するが、筒井は全く聞いていなかった。彼はプレゼント代を稼ぐため、着ぐるみのアルバイトを始めた。泣き出す少女を助けようとした筒井だが、色葉が来たので狼狽する。色葉は少女を抱き上げて母親を呼び、無事に引き渡した。
色葉が間淵と合流して楽しそうにしている様子を見た筒井は、「馬鹿だな、俺。一人で勝手に浮かれてただけか」と落ち込んだ。しかし、色葉は間淵に、筒井のことばかり話していた。筒井は翌日の送り迎えに行かず、「すごいかぶれて触るとうつる」という嘘のメールを色葉に送った。「落ち着く」と感じていた筒井は、中庭の花壇で作業している1年生の綾戸純絵を目撃する。彼女が運搬作業に苦労している様子を見た筒井は、「手伝います」と声を掛けた。激しく動揺した純絵は、「新手のイジメですか。私みたいな底辺といるとイメージが悪くなっちゃいますよ」と早口で喋る。筒井は純絵も『魔法少女えぞみち』のファンだと知り、アニメの話題で盛り上がった。その様子を目撃したミツヤは色葉を呼び、筒井と純絵が話している様子を見せた。
色葉は筒井の前で嫉妬心を示し、「私といて楽しい?」と質問する。筒井は「こっちが聞きたい。俺のこと、からかって楽しいかよ」と言い、冷たい態度で立ち去る。次の日、筒井はミツヤの元へ行き、「貴方に言われた通り、彼女とは別れますが、貴方と付き合えなかった場合の保証は出来ませんので」と告げる。ミツヤは「ふざけんな」と殴り付け、「底辺のくせに調子に乗ってんじゃねえよ」と怒鳴った。そこへ色葉が駆け付け、ミツヤを睨み付けて平手打ちを浴びせた。
病院で間淵の診察を受けた筒井は、自分の誤解を知った。彼は色葉に謝罪し、2人の関係は修復された。筒井は純絵に、色葉と伊東を紹介した。色葉が「彼女です」と言うと、純絵は「まぶしくて見られません」と激しく動揺した。彼女の様子を見た伊東は、心を奪われた。筒井、伊東、純絵がアニメの話題で盛り上がっていると、ありさが色葉に声を掛けた。筒井はありさに頼まれ、この前の一件でハブられているミツヤを呼んで仲間に引き入れた。
ありさは色葉から筒井に焼き餅を焼いていることを聞き、キャンプに行く計画を提案した。筒井、色葉、伊東、純絵、ありさ、高梨の6人は、キャンプ場に出掛ける。ありさがリーダーを務め、役割分担で自分とミツヤが組むようにした。筒井と色葉は、晩御飯係を任された。伊東は純絵の様子を見て、彼女が筒井に好意を抱いていると気付いた。全員でマシュマロを焼いている時、筒井は「この究極のリア充空間に耐えられない」と言って席を外した。
純絵が「見て来ます」と筒井の後を追い掛け、ロッジのソファーで休む彼に歩み寄った。彼女は寝ている筒井の手に触れるが、色葉が来ると慌てて離れた。純絵が謝罪すると、色葉は「謝らないで」と走り去った。純絵は部屋に閉じ篭もって泣き出し、追って来た伊東に自分の気持ちを吐露した。伊東は純絵に猫耳を差し出し、「僕の屍を越えてゆけ」と告げた。ありさに促された筒井が色葉を捜しに行こうとすると、伊東が来て呼び止めた。彼は純絵が見ている前で、筒井に「僕は君が好きだ」と告白した。
「それは友人としてか?」と筒井に問われた伊東は、「いや、お前を真剣に愛している」と言う。彼は純絵が筒井について語った言葉を、そのまま拝借して伝えた。筒井は「お前の思いは受け止めた。でも俺には、あいつがいる」と語り、色葉の捜索に向かった。筒井は色葉に電話を掛け、「なんで私と付き合ってるの?」と質問される。筒井は「だってお前、可愛いじゃないか」と叫び、「見た目だけで言ってんじゃないからな」と具体的な魅力を詳しく語った。
泣き出す色葉を見つけた筒井は、「なんでお前が俺と付き合ってんのか、俺の方が分からねえよ」と口にする。彼は色葉に「お詫びじゃないんだが」と言い、色葉をイメージした魔法使いの自作フィギュアを渡そうとする。杖が折れているのに気付いた彼は慌てるが、それを色葉は喜んで受け取った。色葉は人形を眺めながら、「私も魔法使いになれたらいいのにな」と呟く。すると筒井は「使ってるよ、魔法」と告げ、彼女にキスをした…。監督は英勉、原作は那波マオ『3D彼女 リアルガール』(講談社「KCデザート」刊)、脚本は高野水登&英勉、製作は今村司&池田宏之&永井聖士&井上肇&小林栄太朗&角田真敏&船越雅史&谷和男&吉川英作&田中祐介&山田克也&佐竹一美、エグゼクティブプロデューサーは伊藤響、プロデューサーは伊藤卓哉&宇田川寧、撮影は小松高志、美術は金勝浩一、照明は蒔苗友一郎、録音は加来昭彦、編集は相良直一郎、振付は振付稼業 air:man、アニメーション監督は橋本満明、音楽は横山克。
主題歌『Bedtime Story』西野カナ 作詞:西野カナ、作曲:Katsuhiko Yamamoto。
出演は中条あやみ、佐野勇斗、清水尋也、恒松祐里、上白石萌歌、ゆうたろう、竹内力、濱田マリ、三浦貴大、櫻井圭佑、六車勇登、塩崎太智、野田美桜、竹田有美香、江田亮太郎、藤村悠大郎、矢部ユウナ、山本月乃、菅井知美、荒木飛羽、小橋正佳、長沼南帆、松本笑花、土肥真夕菜、宝辺花帆美、藤井俊輔、井澤崇行、中野久、菱沼つる子、中谷竜、梅舟惟永、豊田順子(日本テレビアナウンサー)ら。
声の出演は神田沙也加、広瀬さや、千葉祐輝、志波清斗、成原佑太郎、中島桃子、瀬沢夏美、柳井愛美、カート・コモン、廣瀬優里。
那波マオの漫画『3D彼女』を基にした作品。
監督は『あさひなぐ』『未成年だけどコドモじゃない』の英勉。
脚本担当は、これが映画デビューの高野水登と英勉監督による共同。
色葉を中条あやみ、筒井を佐野勇斗、高梨を清水尋也、ありさを恒松祐里、純恵を上白石萌歌、伊東をゆうたろう、充を竹内力、紀江を濱田マリ、間淵を三浦貴大、薫を荒木飛羽、死神姿の男を小橋正佳が演じている。
えぞみちの声を、神田沙也加が担当している。英勉監督の作品を何本か見ている人なら、序盤のコメディー描写は「いかにも英勉監督らしい」と感じるんじゃないだろうか。
筒井は弟にリモコンを投げ捨てられ、拾いに行こうとすると母とぶつかって熱いお茶を浴びた上に足を痛める。学校へ行こうとすると工事中で道路が封鎖されており、座り込んで助けを求める老婆と捨てられた猫を見つける。筒井は迷った末、老婆を背負って走り出す。
「ツイていない筒井の朝」ってのを表現しているのだが、それで笑えるのかというと「いや全く」と断言する。
そもそも、老婆と捨て猫で迷うシーンは、どういう意図なのか良く分からない。それは「ツイていない」ってことの表現として正解なのかと。
あと、迷う必要も無いだろ。どちらかを選ぶなら、間違いなく可及的速やかな助けを求めている老婆に決まっている。捨て猫は、後から戻っても間に合うし。ミツヤが筒井と伊東のことを友人に聞いて、嘲笑に来るシーンがある。ただ、猫耳を付けている伊東はともかく、筒井は見た目としては変な格好じゃないので、何をどう嘲笑できるのか良く分からない。
また、2人を知らないってことは、彼はクラスメイトではないんでしょ。それなのに、わざわざ別のクラスに来てまで、筒井に職員室へ行く代理を頼む意味が良く分からない。なぜ筒井が標的なのかと。
それと、脅されたわけでもないのに、簡単にOKする筒井の神経も理解不能。
ひょっとすると「面倒を嫌う性格なので」ってことかもしれないが、だとしても全く表現できていないし。職員室で色葉が教師に呼ばれると、彼女が登場する時にBGMと映像が飾り付けられる。「美女が登場しました」ってのを、分かりやすく表現しているわけだ。
その表現自体は、原作が漫画であることも含めて、全面的に賛成できる。ただ、その演出が中途半端で、もっと過剰に飾り付けてもいいんじゃないかと感じる。
特に引っ掛かるのは、「なぜ顔をアップにするカットを入れないのか」ってことだ。
観客へのアピールという意味でも、顔のアップは入れた方がいいでしょ。
っていうか、そういう演出をするのなら、冒頭で彼女を登場させるのは得策じゃないぞ。職員室のシーンが初登場の方がいいぞ。あと、「美女が登場しましたよ」という見せ方をしているんだけど、「色葉の美貌に筒井の目が釘付けになった」ってことではないのよね。
彼は色葉について悪い噂ばかりを聞いていて、厄介な奴と組まされたとしか思っていない。そもそも彼は三次元に全く興味が無いので、相手が美女だろうと誰だろうと、そこは一線を引いているのだ。
そうなると、果たして「美女が登場しました」という演出が良かったのかどうかも疑問が生じる。
そういう表現をするにしても、「筒井が対面する」というシーンじゃない方が良かったんじゃないかと。他の男子が彼女の美貌に魅了されるけど、筒井は全く興味を示さないという形で見せた方が良かったんじゃないかと。筒井と色葉がプールに落下するシーンでは、別角度のカメラで同じ出来事を再生する。
いやいや、バラエティー番組のドッキリじゃないんだからさ。なんで同じシーンを繰り返して見せるかね。
これがアクション映画で「主人公が強敵にキックを浴びせたシーン」とかだったら、別角度からも見せるのは分からんでもないよ。
でも、ただ「プールから落ちました」というだけのシーンだぞ。わざわざ粒立てておく意味が、どこにあるのかと。色葉が書店で万引き犯に間違われるシーンがあるが、それは無理があり過ぎる。真犯人が色葉に軽くぶつかって走り去った直後に店員が来て「万引きを見た」と彼女を連行するんだよね。
いやいや、見ていたのなら、なぜ色葉が盗んでいないことが分からないのかと。
映画で描かれた出来事だけを見る限り、店員が色葉を万引き犯と間違える要素が皆無に等しいんだよね。真犯人が雑誌を自分の鞄に入れた場所は、色葉が立ち読みしていた場所から随分と離れているし。
あと、さすがに大勢がいる場所で色葉が服を脱ぎましょうか」と言った時に店員が「そうしてください」と要求するのは、その店員を悪役として描いているにしても無理があり過ぎるわ。
この映画に限ったことではないけど、どうも英勉監督って「このぐらいはコメディーならOK」という感覚がズレているように感じるんだよね。
っていうかさ、「色葉が万引き犯に間違えられるシーン」って、もっとスムーズに描けるはずで。だから、そこは単純に雑なのよ。色葉が筒井の実家を訪れた時、家族は彼の部屋を見せないようにしようとする。それは、「筒井が二次元オタクだと分かったら幻滅されてしまう」と思っているからだ。
両親と弟が、そんな風に思うのは分かる。だけど、筒井が両親に同調し、色葉が部屋へ向かうと慌てて阻止しようとするのは不自然だ。
彼は最初から、二次元オタクであることを彼女に隠しているわけではない。それにミツヤも色葉の前で、筒井が二次元オタクであることは話している。それに筒井は「本気で色葉に愛されている」と信じて、交際を続けているわけでもないはずだ。
なので、そこで「部屋を見られたらフラれる」ってのを危惧するのは、行動として変でしょ。この状況を楽しむと決めた筒井だが、色葉が間淵と一緒にいるのを見て「2人が付き合っている」と勘違いする。
誤解によって2人の仲にヒビが入るってのは、漫画では良くある展開だ。とは言え、良くある展開だから悪いってわけでもない。
ただ、この映画だと、そこからの展開には大いに難を感じる。
何が問題なのかというと、慌ただしいってことだ。
筒井が色葉と間淵の関係を誤解した直後、純絵から好意を寄せられる展開になる。恋のライバルを登場させるのは恋愛物の常套手段だけど、尺に対して盛り込んだ分量が多すぎる。話の中身や全体の構成を考えた時、「筒井と色葉の関係」だけで精一杯じゃないかと感じるんだよね。
ありさとミツヤの存在でさえ、全く手に負えていないわけで。なので間淵は「ただの主治医」でいいし、純絵は全カットでもいいわ。そのぐらい思い切って切り捨てないと、メインの恋愛劇を充実させることは難しいんじゃないか。
あとさ、筒井って二次元オタクのコミュ障だったはずでしょ。それが着ぐるみも無いのに、困っている純絵を助けに行くんだよね。
「色葉と出会ったことで変化した」ってことなのかもしれないけど、そういう意図があったとすれば、「それに筒井が気付いた」ってことを分からせるような表現が無いとダメでしょ。色葉は筒井に交際を求めた後、かなり積極的に行動している。しかし純絵が現れた後は、ちょっと引いた態度を見せるようになる。
筒井がキャンプ場で休みに行った時も、なぜか後を追い掛けようとはしない。純絵が後を追うのを見送るだけで、遠慮した素振りを見せている。
筒井の家まで押し掛けたり、家族が止めようとしても部屋へ駆け込んだりしていた時とは、すっかり別人のようになっている。
まるで中の人が変わったかのようで、かなりの違和感を抱かせるぞ。伊東は純絵の筒井に対する気持ちを知り、「僕の屍を越えてゆけ」と言う。どうするのかと思ったら、筒井の元へ行って「僕は君が好きだ。お前を真剣に愛している」と語る。そして純絵が筒井について語った言葉を、そのまま自分の思いとして伝える。
「どういうこと?」と、首をかしげてしまう。
たぶん、「自分が純絵の思いを伝えた上で、代わりに振られる」という役目を引き受けたんだろうとは思うのよ。
でも、それで解釈としては成立しなくもないけど、「ヘンテコなシーン」という印象は微塵も揺るがないぞ。色葉は筒井に交際を求めた時、「じゃあ半年間、よろしく」と言っている。もちろん原作を読んでいる人は、「半年間」と期間を限定した理由を知っているだろう。読んでいない場合、「なぜ半年間の限定なのか」と疑問を抱くことだろう。誰がどう考えても、半年間という区切りを付けるのは変だからだ。
ところが筒井は、なぜか何の疑問も抱かずスルーしてしまう。
いやいや、それは不自然だろ。「交際という部分に意識が行ってしまい、そこに気付かなかった」という設定だったりするのか。
でも、どういう解釈を捻り出しても、そこの不自然さに納得することは出来ないぞ。1時間20分ほど経過した辺りで、色葉が半年間と言った理由は明らかにされる。彼女は脳に腫瘍があり、切除する手術が成功するかどうか分からないという状態だった。その手術が、交際を始めてから半年後だったのだ。
それまでに病気を匂わせる描写は「貧血で倒れた」というシーンしか無かったので、「強引に舵を切ったな」という印象を抱く。
で、それを打ち明けた色葉が筒井の前から走り去ってシーンが切り替わると、もう五年後になっている。
いやいや、色葉が手術を受けるにしても、筒井は面会に行くことぐらい出来たんじゃないのか。色葉が姿を消しても、筒井は見つけ出そうとする行動ぐらい取れたんじゃないか。間淵に詳細を尋ねることぐらい出来たんじゃないか。
なんで五年後に飛んじゃってんだよ。
それだと、筒井は色葉のことを簡単に諦めたようにしか見えないぞ。ここまで文句ばかり書き連ねてきたが、しかし考えてほしいのは、世の中には女優を見るための映画が存在するという事実だ。
例えば、『ローマの休日』は、新人だったオードリー・ヘップバーンの圧倒的存在感を感じるための映画だ。
『月曜日のユカ』は、和製ブリジット・バルドーと称された加賀まりこの小悪魔的な魅力を堪能するための映画だ。
もっとマイナーな作品に目を向けると、『ガラスの脳』は「とにかく後藤理沙が可愛い」というだけで成立している映画だ。
そういう映画は、世界的に何本も存在しているのだ。そこで本作品だが、これは「中条あやみが可愛い」ってことを堪能するための映画だ。
もちろん好みはそれぞれだから、彼女の顔がタイプじゃないという人もいるだろう。そういう人にとっては全く見る価値が無いってことになってしまうが、そうでなければ「中条あやみが可愛い」ということだけを感じながら観賞すればいい。この映画の存在価値は、それ以上でも、それ以下でもないと言っても過言ではない。
しかし「中条あやみが可愛い」という以外に、果たして何が必要だというのだろうか。
「可愛いは正義」なので、それだけで充分ではないだろうか。
そう言いたい。言い含めたい。言いくるめたい。
そして自分にも言い聞かせたい。(観賞日:2020年1月8日)