『機動戦士ZガンダムIII −星の鼓動は愛−』:2006、日本

カミーユ・ビダンやクワトロ・バジーナ、ブライト・ノアたちがグワダンへ赴くと、アクシズのハマーン・カーンはザビ家の正当な後継者として幼いミネバ・ザビを紹介した。ミネバはクワトロがシャア・アズナブルだと気付き、再会を喜んだ。クワトロはミネバを担ぎ出したことに激昂し、ハマーンに掴み掛かった。彼はハマーンの部下たちに制圧され、カミーユたちと共に監禁される。クワトロはカミーユと組んで芝居を打ち、見張りの兵士を騙した。彼らは脱走し、ランチでアーガマに戻った。
パプテマス・シロッコの差し向けたモビルスーツ部隊が現れたため、カミーユたちは出撃した。メタスのレコアはヤザンのハンブラビと戦っている最中、特別な気配を感じた。レコアが「私を呼んだのは貴方なの?」と問い掛けると、彼女の気配を感じていたヤザンは戸惑う。メタスは攻撃を受けて破壊され、ヤザンは投げ出されて意識を失ったレコアを連れ帰ることにした。シロッコはサラ・ザビアロフたちを従えてグワジンへ赴き、ミネバへの忠誠を約束した。
レコアが戻って来ないため、エマ・シーンやファ・ユイリィは彼女が死んだと思い込んで悲しんだ。バスク・オムはジャミトフ・ハイマンに、シロッコからドゴス・ギアを取り上げてジュピトリスを戦場へ引きずり出す考えを明かした。ウォン・リーはクワトロとブライトに、ティターンズがコロニーレーザーを用意していることを伝えた。カミーユは白旗を掲げてグワジンへ行き、ハマーンに接触した。ハマーンはアーガマを訪ね、グラナダのメラニー・カーバインからの親書を受け取った。
ハマーンはザビ家の復興を認めるよう要求しており、それが飲めなければ地球に核を撃ち込む用意があることを話す。クワトロは彼女に、サイド3の譲渡と引き換えに、その核を使ってゼダンの門とグリプス2を潰してもらいたいと持ち掛けた。ハマーンがジャミトフとの先約があることに触れると、ゼダンの門だけでも何とかしてほしいと依頼した。ハマーンは「エゥーゴが牽制するなら、核も使わず平和な宇宙にすることを目指す」と述べ、アーガマを後にした。
シロッコはレコアにパラス・アテネを与え、サラにはハマーンを探るよう命じた。ジャミトフはハマーンとの会見を前にジェリドを呼び、銃を仕込んだ腕輪を渡して警護を指示した。ハマーンはジャミトフの脅しを笑い飛ばし、アクシズをゼダンの門にぶつける考えを明かした。彼女は青酸ガスでジャミトフたちを牽制し、ランチでゼダンの門から逃走した。ブライトは会談の決裂を知り、モビルスーツ部隊を出撃させた。しかしカツ・コバヤシはジオンと組む作戦に納得できず、出撃を拒否した。
カミーユたちが戦う中、カツも出撃を承諾した。サラの気配を感じ取ったカツは、彼女の捜索に向かう。カミーユはサラに気付き、「まだシロッコの人形のままでいるのか」と怒鳴る。サラを追ってゼダンの門に入ったカミーユは、彼女の言葉でレコアがシロッコと一緒にいることを知る。サラはシロッコのためなら死も受け入れる覚悟を騙り、カミーユの隙を見て逃走した。シロッコはレアコにデータ収集を命じ、パラス・アテネで出撃させた。
ファはレコアに気付き、後を追ってゼダンの門に入った。なぜ敵に回ったのかと問われたレコアは、「今の私は女として充足しているの。アーガマの男たちは自分のことしか考えていなかった」と語った。レコアがパラス・アテネで逃亡すると、カミーユが見つけて問い詰める。レコアは彼を拒絶し、その場を去ろうとする。ファはメタスでジェリドのバイアランを攻撃し、彼女を守ろうとしたリック・ディアスのアポリーが死亡した。アクシズはついにゼダンの門に激突し、エゥーゴは撤退した。
クワトロはグワダンへ出向いてミネバと会い、彼女がグワンバンへ移ることを知った。クワトロはハマーンの動きを探るため、しばらくはグワダンで居座ることにした。シロッコはハマーンと面会するため、レコアとサラを率いてグワダンへ赴いた。ハマーンが2機の着艦しか認めなかったため、レコアは外で待機する。シロッコの動きを知ったカツは、勝手にGディフェンサーでグワダンへ向かう。彼はシロッコを殺害し、サラの考えを変えさせようと目論んでいた。
カツの動きを知ったカミーユはZガンダムで後を追い、強引にグワダンへ着艦した。ハマーンの部下たちに制圧された彼はサラを見つけ、カツを止めるよう頼んだ。艦内の兵士を倒しながらシロッコの元を目指していたカツは、クワトロと遭遇した。シロッコがハマーンの元へ行くと、既にジャミトフが来ていた。ジャミトフはハマーンを射殺しようとするが、クワトロが駆け付けて阻止した。ハマーンが去った後、シロッコはジャミトフを始末した。
カツはクワトロの指示に従ってGディフェンサーに戻り、カミーユと共にグワダンから離脱する。グワダンを出たシロッコはティターンズの面々に向けて、「ハマーンがジャミトフを暗殺した」と嘘を吹き込む。ジ・Oを操縦するシロッコは、キュベレイで出たハマーンを攻撃する。そこにカツが現れ、シロッコを攻撃しようとする。サラはシロッコの盾になり、カツの攻撃を受けて死亡した。カツはシロッコを追い掛けようとするが、カミーユがアーガマに戻るよう叱責した。
ハマーンは地球連邦軍を引き込むため、エゥーゴであろうとティターンズであろうとグリプス2に近付くモビルスーツは全て叩き潰すよう部下たちに命じた。エゥーゴはグリプス2を包囲し、クワトロは百式でマイクロウェーブを破壊した。ヤザンは部下たちと共に、ドゴス・ギアを沈めた。ハマーンは嫌な感覚に見舞われながらキュベレイで出撃し、待ち受けていたカミーユのZガンダムと交戦になった。想念の海に引き込まれたハマーンは激しく苛立ち、キュベレイが損傷したので離脱した。
カミーユはジェリドに襲撃されるが、特別な感覚を察知してそちらに向かう。カツはヤザンたちと交戦になり、隕石に激突して死亡する。ヘンケンはエマの危機を知り、ラーディシュで助けに駆け付けるが撃墜される。ジェリドはカミーユを執拗に狙い続けるが、攻撃を受けて死亡する。カミーユはヘンケンの死にショックを受けているエマの元へ行き、気合を入れて正気に戻らせた。シロッコはレコアと出撃し、ハマーンと遭遇する。コロニーレーザーが発射された後、カミーユはレコアと交戦になる。クワトロはメガバズーカランチャーを撃とうとするが、気付いたハマーンに阻止される…。

総監督は富野由悠季、製作は吉井孝幸、企画は内田健二、原案は矢立肇、原作・脚本・絵コンテは富野由悠季、プロデューサーは松村圭一&久保聡、キャラクターデザインは安彦良和、メカニカルデザインは大河原邦男&藤田一己、キャラクター作画監督は恩田尚之、メカニカル作画監督は仲盛文、美術監督は甲斐政俊、デジタル色彩設計は すずきたかこ、撮影監督は木部さおり、編集は坂本久美子、音響監督は藤野貞義、スタジオ演出は松尾衡、設定協力はカトキハジメ、録音は高木創、音楽は三枝成彰、テーマ曲「Love Letter」「Dybbuk」はGackt。
声の出演は飛田展男、池田秀一、鈴置洋孝、島田敏、榊原良子、井上和彦、岡本麻弥、勝生真沙子、西村知道、郷里大輔、古谷徹、鵜飼るみ子、白石冬美、古川登志夫、小杉十郎太、浪川大輔、新井里美、島村香織、大塚芳忠、田中和実、ゆかな、浅川悠、平本亜夢、拡森信吾(現:森しん)、塩屋浩三、大川透、柴本浩行、望月健一、戸谷公次、石井康嗣、檜山修之、上田敏也、菊池正美、相田さやか、沢村真希、柳井久代、小松由佳、矢部雅史、三川二三、井上富美子ら。


1985年3月2日から1986年2月22日まで全50話が放送された日本サンライズ制作のTVアニメ『機動戦士Ζガンダム』に新作映像を追加し、再構成した劇場版3部作の第3作。TVアニメの放送20周年を記念して公開された。
TVシリーズと同じく、富野由悠季が総監督を務めている。
カミーユを飛田展男、クワトロの声を池田秀一、ブライトを鈴置洋孝、シロッコを島田敏、ハマーンを榊原良子、ジェリドを井上和彦、エマを岡本麻弥、レコアを勝生真沙子、ジャミトフを西村知道、バスクを郷里大輔が担当している。
この第3作では、TVシリーズ第33話『アクシズからの使者』から第50話『宇宙を駆ける』までの内容を再構成している。

この劇場版で何かと問題視される声優交代の問題だが、この第3作から登場するキャラクターは全てTVシリーズと同じ声優が起用されている。
ただし1人だけ、3作目になって声優が交代しているキャラクターがいる。それはサラだ。
「テレビ版は水谷優子だったのに劇場版では池脇千鶴に交代したんでしょ」と思うかもしれないが、それは第2作のことだ。その仕事については前作の批評で触れた通りだが、富野由悠季も音響監督の藤野貞義も、さすがに彼女たけはマズいと思ったのかもしれない。
ってなわけで、この3作目では島村香織に交代している。だったら水谷優子を起用すりゃいいのに、今さら頭を下げて頼めないってことだったんだろう。
そういうトコに男のカッコ悪さが、見事に出ているよね。

前作のラストでハマーンたちが登場し、この第3作では「エゥーゴ対ティターンズ」の図式にアクシズが絡む展開に入っていく。
どうせTVシリーズを見ている人が大半だろうから早々とネタバレしても何の問題も無いだろうけど、この戦いは完結しないまま作品が終わる。
そしてハマーンは生き残り、エゥーゴとアクシズの戦いは次のTVシリーズ『機動戦士ガンダムZZ』に続く。
しかし困ったことに、この劇場版では『機動戦士ガンダムZZ』に上手く繋がらない展開が待ち受けている。
それについては後述する。

レコアは前作から、やたらとシロッコのことを気にしていた。そして今回は序盤でシロッコの気配を強く感じて「呼ばれている」と確信し、ついにはティターンズに寝返ってしまう。
しかし、なぜ彼女がシロッコの存在を強く感じ取り、エゥーゴを捨てて彼の元へ走るのかがサッパリ分からない。
実はTVシリーズでも、レコアの心情変化を描くドラマが不充分で、その展開には無理があると感じていた。映画版だと彼女に関する描写も色々とカットされているため、それが余計に酷くなっている。
しかもエマの描写も薄くなっているので、「レコアとエマの考え方や生き方の相違」という対比も失われているし。

ヤザン・ゲーブルはレコアを連れ帰る時、彼女に対して何か特別なモノがあると感じている。そんなレコアはシロッコの配下になるのだが、じゃあヤザンは彼女に固執するのかというと、それは無い。
しかも、シロッコかグワダンへ行く時は同行しているが、バスクがドゴス・ギアを取り上げると彼の下に付いている。
そもそもヤザンはシロッコ直属の部下ではないので、ドゴス・ギアと共にバスクの元へ戻るのは当然っちゃあ当然なのだ。
ただ、その辺りの説明が著しく不足しているため、ヤザンの動きが分かりにくくなっている。

エゥーゴがゼダンの門を攻撃する時、カツは出撃を拒否している。その前に彼がアクシズと手を組む作戦への強い拒否反応を示すシーンがあるので、反発するのは良く分かる。
ところが次に彼が登場すると、出撃する気になっているのだ。
「サラの気配を感じたからでしょ」と思うかもしれないが、そうではない。その前に、「本当に出していいんだな」とカツに尋ねるクルーの台詞があるのだ。
しかも、これが追加撮影のシーンなのよね。
なんで辻褄が合わなくなるようなシーンを追加するんだよ。そこは「サラの気配を感じてカツが出撃する」という流れでいいでしょうに。

レコアは寝返ったことをファに批判され、「今の私は女として充足しているの。アーガマの男たちは自分のことしか考えていなかった」と語る。
でも、そんな台詞だけで納得できる観客は、たぶん皆無に等しいだろう。
それに彼女は「アーガマの男たちは自分のことしか考えていなかった」と言うけど、シロッコだって自分のことしか考えていないからね。自分の野望のために、レコアを都合良く利用しているだけの奴だからね。
なので、そんなシロッコに簡単に転んだレコアが、浅はかで愚かな女にしか見えないんだよな。

シリーズ第3作では、TV版と劇場版で最も大きく変化した展開が訪れる。それは作品の結末だ。
簡単に言うと、TV版ではバッドエンドだったが、劇場版ではハッピーエンドに変更されている。簡単に書くと、カミーユが精神崩壊を起こして終了する結末だったのが、映画版では「シロッコを倒したカミーユは精神を病むこともなく生き残る」という内容に変更されているのだ。
この変更は公開当時、TV版のエンディングが好きだったファンから激しい批判を浴びた。
しかも結末を変更すると、続編となる『機動戦士ガンダムZZ』には繋がらなくなってしまうのだ。

個人的には、「結末の改変」自体は決して悪くないと思う。
そもそも『機動戦士ガンダムZZ』は、「ガンダム」シリーズのファンからの評価が高いとは言い難い作品だ。だから、そこに繋がらない形になっていることは、そんなに気にしなくてもいいだろう。
それに、TV版の『機動戦士Ζガンダム』は何の救いも見えない結末となっていたので、そこを「明日への希望が見える結末」に変更するのは賛成できる。
ただし問題は、「どういう形で改変するか」ってことだ。

前述したように、映画版ではカミーユの精神が崩壊しない。それは別にいいんだけど、「シロッコを倒したカミーユが安堵の息を吐き出し、ファと抱き合ってイチャイチャする」という結末の描写が、あまりにも能天気で軽すぎるのだ。
ついさっきカミーユはカツやエマの死を見てきたはずなのに、その軽薄さは何なのか。
しかもハマーンの一派は生き残っているから、何も終わっちゃいないし。
私は初代ガンダムの原理主義者ではないけど、無印ガンダムのエンディングは心に深く刺さるような形で「希望のある結末」になっていた。
それに対して本作品の結末は、ただの呆れ果てるだけの内容になっている。

(観賞日:2020年8月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会