『機動戦士ZガンダムII −恋人たち−』:2005、日本

カラバに所属するジャーナリストのベルトーチカ・イルマはアウドムラに着艦し、カミーユ・ビダンやクワトロ・バジーナたちに会った。記憶を強化されたロザミア・バダムは「エゥーゴが地球人を根絶やしにする」と思い込んでおり、ブラン・ブルタークは彼女の出撃を許可した。ベルトーチカはアムロ・レイに「カミーユとクワトロだけでも宇宙に戻せ」というブライト・ノアからの命令を伝え、キスをする。クワトロはアムロが宇宙に戻るのを恐れていると知り、ララァ・スンに会うのが怖いのだろうと指摘した。
アムロはヒッコリーのシャトル基地へカツ・コバヤシを送り届けるため、リック・ディアスでカミーユやクワトロと共に出撃する。ブランの部隊が現れたため、アムロは基地でカツをクワトロに任せてカミーユと共に戦う。アムロはブランを倒し、カミーユはギャプランを大破させ、ロザミアが脱出するのを目にした。強化人間のフォウ・ムラサメはムラサメ研究所の主任インストラクターを務めるナミカー・コーネルとスードリに到着し、サイコ・ガンダムで出撃した後は自由にさせてほしいとベン・ウッダーに要求した。
ハヤト・コバヤシはルオ商会のステファニー・ルオをアウドムラに送り届け、カミーユとアムロがコーラル・オリエンタルの難民船にいることを部下に知らされた。アムロはミライにアウドムラで宇宙へ行くよう勧めるが、彼女は遠慮した。フォウは港へ行き、アムロの姿を確認した。彼女は車で外出しようとしているカミーユに声をかけ、市街地まで乗せてほしいと頼んだ。夜、フォウはティターンズの士官と会い、頭痛が消えないことに関して文句を言う。そこへカミーユが現れると、彼女は「もうしばらく自由にさせてほしい」と士官に頼んだ。士官は発信機を付けることを条件に許可し、フォウはカミーユと街に出掛けた。
フォウが「過去の記憶が無い」と話すと、カミーユは「思い出なんて、これから作ればいいじゃないか」と言う。カミーユはアウドムラへ行こうと誘うか、サイコガンダムが街に現れるとフォウは「あそこに私の記憶がある」と走り去った。ウッダーはサイコガンダムをテストのために動かしたが、操縦不能に陥っていた。彼はフォウを発見し、サイコガンダムを引き渡した。リックディアスで出撃したアムロはカミーユを見つけてアウドムラまで送り、Mk-Uで出るよう指示した。
カミーユはMk-Uで出撃し、サイコガンダムにフォウが乗っていると気付いた。彼は戦わないよう呼び掛けるが、フォウは冷徹に無視した。サイコガンダムが飛び去るとカミーユは追い掛けようとするが、アムロが「女のことは忘れるんだ」と忠告した。ウッダーはアウドムラを止めるため、フォウをサイコガンダムで出撃させた。彼は「足止め出来ない時はスードリで自爆攻撃を仕掛ける」と部下たちに告げ、脱出するよう促した。しかし数名の有志は、ウッダーと共に残ることを選んだ。
Mk-Uで出撃したカミーユはフォウに接触し、両親のことを詳しく語った。フォウは拳銃を向け、威嚇発砲でカミーユを追い払った。彼女はサイコガンダムをスードリに突っ込ませ、カミーユを宇宙に送るためブースターを使わせようとする。その動きに気付いたウッダーは、フォウに弾丸を浴びせた。カミーユはブースターを使って宇宙へ行き、アーガマに着艦した。シロッコはティターンズからドゴス・ギアを借り、ジェリドやマウアー・ファラオたちに訓練を積ませていた。サラ・ザビアロフからアーガマを補足したと知らされた彼は、ジェリドたちに出撃を命じた。
カミーユやエマたちがティターンズのモビルスーツ部隊と戦っていると、アポリーがZガンダムに乗って駆け付けた。ジェリドは怪我を負い、マウアーと共に退却した。アポリーはカミーユに、「Zガンダムはお前に使わせる」と告げた。サラはシロッコの指令を受け、白旗を掲げたハイザックでアーガマに投降した。彼女はプライトたちに、ティターンズが月面へのコロニー落としを目論んでサイド4に集結しているという情報を教えた。カミーユはサラがスパイだと睨み、シロッコはコロニー落としが成功すると困るので彼女を送り込んだのだと推理した。カツがサラに惹かれると、カミーユは「危険だ」と忠告した。
連邦議会総会に出席するため地球に降りていたブレックス・フォーラは、ジャミトフ・ハイマンの差し向けた刺客に暗殺された。彼は死の間際、クワトロに「君がエゥーゴの指揮を執れ、シャア・アズナブル」と言い残した。サラはモビルスーツ部隊への参加を希望するカツの気持ちを利用し、「私ならハイザックの操縦方法を教えてあげられる」と告げる。彼女はハイザックまで案内させるとカツを蹴り落とし、アーガマから逃亡した。
カミーユやエマ、レコアたちは、モビルスーツでサイド4へ向かった。カミーユたちが戦っている間に、エマがコロニーの進路を変更してティターンズの作戦を阻止した。ジェリドはカミーユの攻撃を受けそうになるが、マウアー・ファラオが盾になって死亡した。ウォン・リーはクワトロ&ブライト&ヘンケン・ベッケナーに、「アクシズとシロッコが手を組もうとしている」と懸念を示す。彼はクワトロに、アーガマで接触してアクシズを説得するよう要求した。
プライトはヘンケンに、カツには情が移るのでラーディッシュで預かってほしいと頼む。エマに好意を寄せるヘンケンは、彼女を回す条件で引き受けた。クワトロが地球から連れて来たシンタとクムを見つけたウォンは、ジュースを御馳走した。シンタとクムが姿を消したので、カミーユとファはアームストロング公園へ捜索に向かう。シロッコの指令を受けたサラは2人に気付き、見つからないよう港のパイプに爆弾を仕掛けた。
カミーユはサラを発見し、逃げ出そうとする彼女を捕まえた。カミーユはカツが人間不信に陥ったことを非難し、二度と自分たちの前に姿を見せないよう要求する。彼が「アーガマに戻る」と口にすると、サラは「ダメよ」と慌てて引き留める。不審を抱いたカミーユが問い詰めると、彼女は爆弾を仕掛けたことを告白した。カミーユはファに電話を掛けて事情を説明し、ブライトに伝えてアーガマを離脱させるよう指示した。彼はサラから仕掛けた場所を聞き出して爆弾を解除を試みるが、失敗してしまう…。

総監督は富野由悠季、製作は吉井孝幸、企画は内田健二、原案は矢立肇、原作・脚本・絵コンテは富野由悠季、プロデューサーは松村圭一&久保聡、キャラクターデザインは安彦良和、メカニカルデザインは大河原邦男&藤田一己、作画監督は重田敦司&中島利洋&中谷誠一&仲盛文&恩田尚之、美術監督は甲斐政俊、デジタル色彩設計は すずきたかこ、撮影監督は木部さおり、編集は坂本久美子、音響監督は藤野貞義、録音は高木創、音楽は三枝成彰、テーマ曲はGackt、スタジオ演出は松尾衡、テーマ曲「mind forest」はGackt.C。
声の出演は飛田展男、池田秀一、古谷徹、鈴置洋孝、白石冬美、潘恵子、ゆかな、池脇千鶴、井上和彦、岡本麻弥、檜山修之、西村知道、キートン山田、島田敏、榊原良子、小杉十郎太、勝生真沙子、川村万梨阿、浪川大輔、新井里美、浅川悠、中村秀利、大塚芳忠、林真里花、田中和実、西前忠久、石井康嗣、拡森信吾(現:森しん)、塩屋浩三、大川透、柴本浩行、望月健一、上田敏也、津田匠子、夏樹リオ、田中一成、相田さやか、沢村真希、矢部雅史、三川二三ら。


1985年3月2日から1986年2月22日まで全50話が放送された日本サンライズ制作のTVアニメ『機動戦士Ζガンダム』に新作映像を追加し、再構成した劇場版3部作の第2作。TVアニメの放送20周年を記念して公開された。
TVシリーズと同じく、富野由悠季が総監督を務めている。
カミーユを飛田展男、シャア(クワトロ)の声を池田秀一、アムロを古谷徹、ブライトを鈴置洋孝、ミライを白石冬美、ララァを潘恵子、ジェリドを井上和彦、エマを岡本麻弥、ハヤトを檜山修之が担当している。
この第2作では、TVシリーズ第15話『カツの出撃』から第32話『謎のモビルスーツ』までの内容を再構成している。

3部作の2作目なので当たり前っちゃあ当たり前だが、第1作と同じく駆け足で物語を消化していく。
もちろん今回も、TVシリーズを観賞していない人は絶対に付いて行けない。そして「TVシリーズは未見だが、劇場版の1作目を見ている」という人も付いて行けない。
TVシリーズを観賞し、その内容をちゃんと覚えている人だけが、脳内補完することで初めて把握できる内容になっている。
ホントは省略しちゃダメなトコでも平気で省略しちゃってるので、途中で話が何度も分断されており、そこを脳内補完する必要があるのだ。

サブタイトルに「恋人たち」と付いているように、今回は恋愛劇をメインに据えて再構成している。
そもそも『機動戦士ガンダム』は既存のロボットアニメへのアンチテーゼとして人間ドラマを重視しようとしていたし、その中で恋愛劇に的を絞るのが悪いとは思わない。
ただ、98分という上映時間の中で多くの恋愛模様を描こうとして、まるで手に負えなくなっている。
全てを万遍なく描こうとするのではなく、2つぐらいを軸にして、他は飾り程度に留めておくぐらいの決断が必要だったのではないか。

全く時間が足りていないため、どの恋愛劇も総じて中途半端で薄味になっている。
例えば冒頭で登場するベルトーチカは、本来なら「弱気になっていたアムロを勇気付け、彼にモビルスーツで戦う気持ちを湧き立たせる」という重要な役回りを担うキャラだ。しかし本作品だと、アムロは彼女の激励など関係なくモビルスーツで出撃して戦うのだ。
そのため、ベルトーチカは「別にいなくても構わないキャラ」に成り下がっている。
しかも、アムロがクワトロとの会話でララァを死なせてしまった『機動戦士ガンダム』の映像を思い出すシーンもあり、ベルトーチカよりもララァの方が彼にとって大きな存在になってしまっている。

この2作目で最も重要な「恋人たち」は、カミーユとフォウだと断言できる。フォウというキャラクターは、『機動戦士Ζガンダム』を語る上でも重要なキャラクターだ。
だが、ここの関係描写も、ものすごく淡白に処理されている。
カミーユはフォウと出会った時、すぐに「また会いたい」と言う。そして次のシーンでは、もうアウドムラを抜け出している。「アムロから忠告され、反発する」というきっかけがあったわけでもない。
そんなカミーユはフォウと再会するが、そこに彼女がいると分かった理由は不明だ。

そのくせ、「カミーユがフォウに両親のことをベラベラと喋る」という、ワケの分からないシーンは追加している。
カミーユがハッとして「何を喋ってるんだ」と漏らすけど、その通りだよ。フォウの洗脳を解くために必死になっているはずなのに、なんで選んだのが両親の話題なんだよ。
ただ、なぜかフォウが、その話で簡単に転んじゃうんだよね。カミーユのために、命懸けで行動するんだよね。
どういうことか、サッパリ分からないぞ。

フォウはブースターをカミーユに使ってもらおうとして行動を起こし、ウッダーに撃たれる。
TVシリーズだと、彼女は洗脳が強化された状態で再登場する。しかし劇場版では、ここで彼女の出番は終わる。つまり、「ウッダーに撃たれて死んだ」という設定になっている。
しかしカミーユは彼女の死を知らないまま、アーガマに戻っている。そして恐ろしいことに、すっかりフォウのことを忘れてファと楽しくキスしちゃうのだ。
キスしてイチャイチャする追加シーンを用意するセンスは、どうかしてるぞ。
そんなシーンを追加してカミーユとファを「恋人たち」として描くのなら、いっそのことフォウの出演シーンをカットすればいいでしょ。どうせTVシリーズと違って、フォウはカミーユに全くと言っていいほど影響を与えないんだから。出会った時は夢中になるけど、すぐ忘れるんだから。

カミーユとフォウは「敵対する組織に所属する2人」という関係だが、そんな立場を超えて惹かれ合う。
だが、それを充分に表現するには、時間が全く足りていない。
そもそもTVシリーズでさえ充分とは言えなかったのに、そこから大幅に省略しているんだから、それも当然だろう。
しかも、ダイジェスト描写の中で何とか辻褄を合わせようとしたのかもしれないが、むしろ整合性が取れなくなって、すっかり話が破綻しちゃってるのよね。

シンタとクムが急に登場しており、「クワトロが地球からアーガマへ連れ帰った子供たち」という説明が入る。でも、クワトロが地球にいたシーンでは、クムとシンタって全く登場していないんだよね。
だからクワトロがどういう経緯でシンタ&クムと知り合ったのか、どういう経緯で宇宙へ連れ帰ることに決めたのか、それはサッパリ分からない。
どうせシンタ&クムって全くと言っていいほど存在意義が無いキャラなんだから、登場シーンは全カットでもいいだろ。こいつらがいなくても、カミーユが公園でサラと遭遇する展開は処理できるし。
それよりは、残した方がいいシーンが他にあっただろ。

タイトルになっているZガンダムだが、実は劇場版第1作では登場していない。この第2作になって、ようやくお目見えする。もちろん、それを操縦するのは主人公のカミーユだ。
ところが「カミーユがZガンダムで強敵を倒す」という見せ場を全てカットしてしまったため、カミーユが全く活躍できなくなっている。
なんとZガンダムの一番の見せ場は、アポリーが運んで来るシーンなのだ。
こういうトコでも、「どこを残して、どこをカットするか」という感覚には大いに疑問があるわ。

ジェリドとマウアーの恋愛劇にも触れているけど、マウアーって第2作で初登場なのよね。ジェリドとの関係性なんて、ほとんど描かれていない。
そんな中で「マウアーがジェリドの盾になって死ぬ」という出来事を描かれても、何も心に響くモノなんて無いよ。そこの関係を描くぐらいなら、前作でライラを殺さず、2作目まで引っ張ってマウアーのポジションを担当させれば良かったんじゃないかと言いたくなるわ。
ただ、そうなると追加シーンが大幅に増えるし、再編集も大変になる。そこまでの手間は掛けられないってことだろう。
予算や時間、人員など色んな事情はあるだろうけど、厳しい言い方をするなら「言い訳を付けて手抜き作業を良しとした、気概の足りない作品」ってことだよね。

さて、前作の批評では短く片付けていた「声優の交代」という問題について触れよう。
TVシリーズから随分と年数が経過しているので、もう声優業を引退しているとか、年を取って若者の声が出なくなってしまったとか、そういうケースもあるだろう。
だから、望ましいのはオリジナルキャストの続投だが、事情によっては声優の交代があっても仕方がない。
しかし本作品の場合、「止むを得ない事情」「納得できる理由」だけで、全ての声優の交代が行われているとは到底思えないのだ。

富野由悠季は後に、世代交代の必要性があったとコメントしている。
劇場版の製作に当たっては、カミーユ役の飛田展男でさえ改めてオーディションを受けさせられている。
しかし結果として、カミーユやシャア、アムロ、ブライト、ミライ、ジェリド、エマ、ハヤト、ジャミトフ、ジャマイカン、シロッコなど多くの役はTVシリーズのキャストが続投している。
そうなると、逆に「じゃあ交代させられたキャストは何なのか」と言いたくなる。

そんな中で際立って問題視されるべきは、フォウ役とサラ役の交代劇だ。
この2つの役は、TVシリーズではそれぞれ島津冴子と水谷優子が担当していた。ところが、なんと彼女たちはオーディションの連絡さえ受けていないのだ。それはあまりにも不誠実な対応だろう。
この映画が公開された当時、声優の交代劇、特にフォウ役についてのゴシップがネットで広まったが、たぶん概ね事実だろうと思う。
声優のキャスティングに関して音響監督が持っている力って、ものすごく大きいらしいからね。

これがオール新撮で最初から作り直しているのなら、「新解釈のリメイク」ってことになるから、声優の交代も受け入れやすかったと思う。しかしTVシリーズの映像を使っておきながら、TVシリーズの時とは異なる声でキャラクターに喋られちゃうと、「それはやり方が違うんじゃないですか」と言いたくなっちゃうんだよね。
ただ、ゆかなは声優としてのキャリアを積んでいるので「TVシリーズのフォウと違うなあ」とは感じるものの、「声優」としての違和感は無い。
それより問題なのは、サラの方だ。
私は女優としての池脇千鶴に全幅の信頼を寄せているのだが、この作品における彼女の仕事は残念なことになっている。「餅は餅屋」ってのは、まさにこのことだなと強く感じさせられる。

(観賞日:2020年8月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会