『機動戦士Zガンダム −星を継ぐ者−』:2005、日本

一年戦争から7年後、宇宙世紀0087年。反地球連邦政府組織のエゥーゴに参加しているクワトロ・バジーナ大尉はリック・ディアスに搭乗し、グリーン・ノア2(グリプス)へ潜入した。ティターンズの軍事施設を盗撮した彼は、テスト中のガンダムMk-Uに見つかった。ノア2から脱出した彼は、まだ組織は出来上がっていないと感じた。同じ頃、彼の部下であるロベルトとアポリーはノア1を観察し、ガンダムMk-Uの飛行訓練を確認した。
グリーン・ノア1に住む少年のカミーユ・ビダンはMPに捕まり、ティターンズへの強い怒りを口にした。母の要請で駆け付けた弁護士が釈放の手続きを済ませるが、カミーユはMPに激怒して殴り掛かる。彼はMPの部下たちに取り押さえられるが、直後にガンダムMk-Uが本部ビルへ墜落する事故を起こした。MPたちが対応に追われている間に、カミーユは隙を見て逃げ出した。Mk-Uに搭乗していたジェリド・メサは、士官のエマ・シーンが叱責しても全く悪びれなかった。
クワトロはロベルトとアポリーを率いてノア1に突入し、ジムの部隊と戦闘になった。カミーユは地球連邦軍のブライト・ノアやエマたちの目を盗み、回収されようとしていたMk-U3号機に乗り込んだ。2号機のカクリコン・カクーラーはジェリドが乗っていると思い込み、敵がMk-Uを生け捕りにするつもりだと伝える。カミーユは彼を完全に無視し、MPを見つけて威嚇した。カミーユは2号機を本部ビルに叩き付け、コクピットから出るよう要求した。
ブライトはカクリコンに呼び掛け、指示に従うよう促す。カクリコンが外に出ると、カミーユは2号機を確保してクワトロたちとグリーン・ノア1から逃亡した。ブライトはティターンズの総司令官であるバスク・オムの元へ行き、ノア1で勝手にMk-Uの訓練を行っていたことを問い質した。するとバスクは彼を殴り付け、「ここはティターンズの拠点だ」と言い放った。ブライトが抗議すると、バスクの部下であるジャマイカン・ダニンガンたちが激しい暴行を加えた。
バスクはカミーユの両親であるフランクリン・ビダン技術大尉とヒルダ・ビダン技術士官を呼び寄せ、重巡洋艦のアレキサンドリアを出航させた。カミーユはエゥーゴの1番艦であるアーガマに到着し、ブレックス・フォーラ准将からMk-Uの確保について礼を言われた。アムロ・レイの名前をブレックスが口にすると、カミーユは「その名前ならアングラの出版物で良く知っています」と語る。Mk-Uの装甲が昔のままというデータを知ったクワトロはカミーユに質問し、「あれは訓練用ですから」という返答を得た。
ジャマイカンはジェリドにバスクの命令書を渡し、後から行ったカプセルが視界に入ったら開け」と命じた。彼はエゥーゴへの使者を担当するエマに、交渉は15分間が限度だと告げた。エマがカプセルについて「強力な爆弾か何かですか」と訊くと、ジャマイカンは「そんなところだ」と答えた。彼はフランクリンに、エマへの同行を指示した。エマはMk-U1号機に搭乗し、ハイザックのフランクリンとアーガマへ向かった。1号機が白旗を掲げていたため、アーガマは着艦を許可した。
エマは内容を知らないまま、バスクからの親書をブレックスに渡す。親書を読んだブレックスやヘンケン・ベッケナー艦長は激昂し、エマに見せた。そこにはカミーユとMk-U2機を引き渡さなければビダン夫妻を殺害すると書かれており、エマは驚愕した。宇宙空間に浮かんだカプセルに母が閉じ込められていると知ったカミーユは、Mk-U3号機で勝手に出撃した。彼はカプセルを回収しようとするが、その中身を知らないジェリドが狙撃したためヒルダは死亡した。
憤慨したカミーユはジェリドのハイザックに襲い掛かり、Mk-U2号機で駆け付けたエマが制止に入る。ブレックスはクワトロの進言を受け、ティターンズに停戦を持ち掛けた。フランクリンはクワトロのリック・ディアスを奪い、アーガマから逃亡する。エゥーゴのレコア・ロンドはメカニックのアストナージ・メドッソと救出に向かい、アレキサンドリアからはライラ・ミラ・ライラが出撃する。戦闘が始まる中でカミーユは、フランクリンがリック・ディアスに乗っていると気付いた。カミーユは母の死を知らせるが、フランクリンは冷たく無視する。彼はMk-U3号機を攻撃するが、リック・ディアスが被弾した。
ティターンズは撤退し、バスクは部下たちに「エゥーゴの秘密基地とやらが月にあると思うなよ。地球連邦軍の半分はエゥーゴだと思え」と説いた。エマはカミーユを連れてアーガマに戻り、エゥーゴで行動することにした。アーガマはティターンズの追跡を受け、ルナツーを盾にして地球へ向かう。レコアはクワトロに、ブレックスの意向でジャブローを偵察するため地球に降りることを話す。それを耳にしたカミーユは、レコアを心配した。
レコアはクワトロの許可を得て、エマにサイド1の30バンチコロニーを撮影した映像を見せる。反政府運動が起きた30バンチにバスクが猛毒のG3ガスを注入したため、大勢の住人が犠牲となっていた。エゥーゴはティターンズの温床となっているジャブローを叩く作戦を決定し、そのためにレコアが偵察へ赴くのだ。彼女はシャトルで地球へ向かう際、心配して駆け付けたカミーユに「貴方もジャブローの戦いには引っ張り出される」と告げた。
ジャマイカンはエゥーゴの地球降下作戦を阻止するため、モビルスーツ部隊を準備させる。ジェリドはライラからパイロットとしての甘さを指摘され、助言を求めた。ブライトが船長を務めるテンプテーションがビーム攻撃を受け、アーガマに救難信号が送られた。カミーユはMk-Uに搭乗し、百式のクワトロと共に救助へ向かった。2人は謎のモビルアーマーと遭遇するが、クワトロが攻撃すると敵は姿を消した。テンプテーションはアーガマに収容され、カミーユは同級生のファ・ユイリィと再会した。ファはカミーユに、両親が捕まってしまったことを話した。
ブレックスとヘンケンはブライトにアーガマの艦長を任せ、ティターンズ総帥のジャミトフ・ハイマンがいると思われるジャブローへ乗り込むことにした。同じ頃、地球で暮らすアムロの元に、フラウ・コバヤシと養子のカツ&レツ&キッカが避難してきた。アムロはフラウたちに、メイドの監視を受けていることを密かに教えた。カツはハヤトがカラバの一員としてエゥーゴの支援に向かったことをアムロに語り、なぜ行動しないのかと批判する。アムロが「ニュータイプは危険分子として閉じ込められている」と言っても、彼は納得しなかった。アムロはフラウたちのために、日本行きのチケットを手配していた。
エゥーゴの地球降下作戦が開始されると、ティターンズのモビルスーツ部隊が出撃した。そこにジュピトリス船団のパプテマス・シロッコがメッサーラで現れ、カミーユはエマの危機を悟って助けに向かった。カミーユはライラのガルバルディβを沈め、メッサーラを攻撃した。メッサーラは去り、クワトロはカミーユに距離を取るよう指示した。双方のモビルスーツ部隊が大気圏に突入する中、最後までMk-Uを攻撃することに固執したカクリコンは死亡した。
ジャーナリストのカイ・シデンと共にジャブローで監禁されていたレコアは、兵士たちの動きでエゥーゴが来たことを確信した。エゥーゴはジャブローに突入するが、空き家のような状態となっていた。ジェリドは簡単にジャブローを明け渡したことに憤慨するが、ジャミトフの「ティターンズは宇宙へ上がる」という命令が出ていたことを知る。ティターンズはジャブローの地下深くに爆弾を仕掛け、1時間後に爆破する起爆スイッチを作動させていた。カミーユは爆弾のことを知らないまま、レコアの気配を感じて救出に向かう…。

原作・脚本・絵コンテ・総監督は富野由悠季、製作は吉井孝幸、企画は内田健二、プロデューサーは松村圭一&久保聡、原案は矢立肇、キャラクターデザインは安彦良和、メカニカルデザインは大河原邦男&藤田一己、キャラクター作画監督は恩田尚之、メカニカル作画監督は仲盛文、美術監督は東潤一&甲斐政俊、デジタル色彩設計は すずきたかこ、撮影監督は木部さおり、編集は山森重之、スタジオ演出は松尾衡、音響監督は藤野貞義、音楽は三枝成彰、テーマ曲「Metamorphoze 〜メタモルフォーゼ〜」「君が待っているから」はGackt。
声の出演は池田秀一、飛田展男、古谷徹、鈴置洋孝、古川登志夫、鵜飼るみ子、井上和彦、岡本麻弥、檜山修之、郷里大輔、キートン山田、島田敏、沢木郁也、高島雅羅、小杉十郎太、勝生真沙子、浪川大輔、新井里美、戸谷公次、浅野まゆみ、浅川悠、中村秀利、石井康嗣、拡森信吾(現:森しん)、塩屋浩三、大川透、柴本浩行、望月健一、松本大、今村直樹、沢村真希、柳井久代、小松由佳、宇垣秀成、田中一成、藤原勝也、三川二三、岡本寛志ら。


1985年3月2日から1986年2月22日まで全50話が放送された日本サンライズ制作のTVアニメ『機動戦士Ζガンダム』に新作映像を追加し、再構成した劇場版3部作の第1作。TVアニメの放送20周年を記念して公開された。
TVシリーズと同じく、富野由悠季が総監督を務めている。
シャア(クワトロ)の声を池田秀一、カミーユを飛田展男、アムロを古谷徹、ブライトを鈴置洋孝、カイを古川登志夫、フラウを鵜飼るみ子、ジェリドを井上和彦、エマを岡本麻弥、ハヤトを檜山修之、バスクを郷里大輔が担当している。
この第1作ではTVシリーズの第1話『黒いガンダム』から第14話『アムロ再び』までの内容を扱っている。。

TVシリーズはエゥーゴ、ティターンズ、地球連邦軍、カラバ、アクシズという複数の組織が複雑に絡み合い、途中で組織を移るキャラもいたりして、お世辞にも分かりやすいとは言えない内容だった。
そんな全50話の物語を、95分、98分、99分という3本の映画で再構成しているんだから、余計に説明不足で分かりにくくなっている。
何しろ、いきなりカミーユが捕まっているぐらいだからね。
TVシリーズを見ていなかったら、何が何やらサッパリ分からないことは確実だ。

だから、これはTVシリーズを見ていた人のためだけに作られたファン・ムービーと言っていいだろう。
しかし、TVシリーズのファンが改めて観賞する価値は乏しい。「新作映像がある」という部分だけが、ファンへの訴求力になっている。
だが、多くの声優がTVシリーズと異なっているなど、マイナスも少なくない。
それを天秤に掛けると、「見るべき価値」よりも「見ない方がいい」という考えが上回ってしまうのだ。

ちなみに「声優の交代」に関しては、この第1作ではカツ・コバヤシ、ファ・ユイリィ、ライラ・ミラ・ライラ、ロザミア・バダムなどの声優が交代している。
この内、最も影響が大きいのはロザミア・バダムだ。終盤に彼女が出ずっぱりになる戦闘シーンが用意されているため、他のキャラクターに比べて目立つのだ。
そんな彼女の声をTVシリーズで担当していたのは藤井佳代子だが、映画では浅川悠に変更されている。
ちなみに藤井佳代子は、音響監督を務めている藤野貞義の元妻だ。
藤野貞義としては、「別れた妻には仕事を回さねえぞ」ってことだったんだろう。

それにしても、大胆に省略しなきゃ全50話の内容を3本の映画で収めるのが無理なのは当然だけど、よりによってカミーユがジェリドに馬鹿にされて殴り掛かるシーンをカットするかね。
前述した「カミーユが捕まっている」ってのは、それが理由だからね。そこをカットしたら、なぜカミーユが捕まっているのかワケが分からないでしょ。
しかも、それが物語を転がしていく発端になっていると言ってもいいような、ものすごく重要なシーンなのに。
どこを削ってどこを残すかというセンスが、かなりズレているんじゃないか。

ブライトは途中でアーガマの艦長に就任するが、そこに何の迷いも無い。
幾らティターンズの連中に暴行されたからって、彼は地球連邦軍の所属なのだ。つまりエゥーゴに参加するってことは、ティターンズだけでなく地球連邦軍に対する背信行為になる。
そこに何の迷いも苦悩も無いってのは、かなりメチャクチャな行為に見える。
ここに関しては、TVシリーズでも心情の変化を示す描写が不足していると感じた。そして映画版では、その印象がさらに強くなっている。

カットしちゃいけないような箇所を無雑作に捨てているため、映画版だけではワケが分からなくなっているシーンもある。
例えば、レコアが地球に降下した後、再登場するシーン。
彼女はジャブローで捕まっているが、その隣にカイ・シデンがいる。でも、いつの間に、どんな経緯でカイと知り合り、一緒に捕まったのか、サッパリ分からないのだ。
もちろんTVシリーズではレコアがカイと出会うシーンがあるが、そこをカットしているため、映画版では「レコアがカイと一緒に捕まっている」というシーンが唐突に訪れるのだ。

そこに限らず、TVシリーズを知らないまま本作品で初めて『機動戦士Ζガンダム』に触れたという危篤な人で、「キャラの行動や心情に無理があるんじゃないか、支離滅裂じゃないか」と感じる人がいるかもしれない。
それはレコアとカイのシーンのように、「映画版で大幅に省略したのが原因」って可能性も、もちろん考えられる。ただ、そうではない可能性も充分に考えられる。TVシリーズの時も、そういうトコを丁寧に表現できていたとは言えないからね。
だから本来なら、映画版は「TVシリーズで描き切れなかった部分を補完する」という役目を果たす物であることが望ましいと思うんだよね。
でも、アニメにしろ実写ドラマにしろ、TVシリーズの映画版でそういう仕事をやっているケースって稀だよね。

「TVシリーズに新作映像を追加して3部作として再構成する」というのは、『機動戦士ガンダム』と同じ手法だ。
ただし、大きく異なる点がある。
『機動戦士ガンダム』の場合、TVシリーズの放送終了が1980年1月26日で、劇場版第1作の公開は1981年3月14日。つまり、ほぼ1年後には映画が公開されているわけだ。
それに対して『機動戦士Ζガンダム』は、TVシリーズの放送終了が1986年2月22日で、劇場版第1作の公開は2005年5月28日。
19年もの月日が経過しているのだ。

それだけ時間が経つと、アニメーションの技術も進歩する。そのため、TVシリーズと新作映像の画質が大幅に違う。
だから、そこが切り替わると、ハッキリと分かってしまう。皮肉なことに、新作映像が入ると、TVシリーズの画質の低さが浮き彫りになってしまう。
「TVシリーズ」「新作映像」「TVシリーズ」が1カットずつ切り替わるような箇所では、ちょっと笑っちゃうぐらい悲惨なことになっている。
話の流れとしては繋がっているが、新作映像の部分は他の映画のフィルムが間違って紛れ込んだかのように見えるのだ。

19年も経って『機動戦士Ζガンダム』を映画にするなら、オール新撮で作り直すか、TVシリーズの映像だけで再編集するか、どちらかにしておいた方が良かったのだ。もちろん前者の方が望ましいのは言うまでもないけどね。
でもオール新撮だと、予算も時間も掛かり過ぎる。だからってTVシリーズの映像だけで再編集すると、さすがにファンが納得しないと思ったんだろう。
そこで「TVシリーズに新作映像を追加」という形を採用したんだろうけど、やはりファンが納得できない仕上がりになってしまった。
簡単に言うと、「サンライズが楽して稼ぐために作った低品質の粗悪品」である。

(観賞日:2020年8月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会