『銀幕版 スシ王子! 〜ニューヨークへ行く〜』:2008、日本

米寿司は天才寿司少年と呼ばれ、スシ王子として名を馳せた。16年前に親父と祖父を宮古島の海で亡くした彼は、寿司と縁を切った後、 自然流琉球唐手の師範・武留守リリーの元で修行に励んだ。師匠がこの世を去った時、彼は奥義を会得するため寿司の道へ戻った。日本で 旅の修行を続けていた彼に、師匠の魂はシャリの達人がいるアメリカの「八十八」へ飛ぶよう告げた。そこで彼は、半年間の船旅を経て ニューヨークへ上陸した。
ニューヨークに寿司屋は多く、「八十八」という名前の店だけで3件もあった。最初に赴いた「エイトプラスエイト」では、間違った寿司 を外国人が出していた。次のスシバー「八十八」では、軽薄な職人が錆びた包丁で寿司とは呼べない料理を作っていた。3件目に赴いた 場所には落書きだらけの建物があり、中に入ると雰囲気にそぐわぬ寿司屋の看板が出ていた。司が店に入るとガランとしていたが、魚の 匂いは無く、清潔感に満ちていた。
店の中には、メキシカンの寿司職人カルロスとナエという留学生がいた。店の奥から弟分の河太郎が現れたため、司は驚いた。河太郎は 一足先にアメリカへ到着し、その店で働き始めていた。そして、ナエは彼の恋人だった。河太郎は「ここにアンタの居場所は無い。もう 兄貴とは呼ばない」と司にライバル宣言する。そこへ、外人部隊出身の豊穣稲子、元軍人のマクガイヤー、キューバから亡命してきた フリオとマルガリータの夫婦、関西人のハルキが次々と現れた。稲子は店の用心棒で、それ以外の面々は常連客だった。
親方の俵源五郎が店に戻って来たため、司は弟子入りを志願する。断られた司が「あんな男より役に立つ」とカルロスを指差すと、源太郎 は2人に米を炊くよう命じた。出来上がった米を食べ比べたハルキたちは、声を揃えて「カルロスの方が美味しい」と言う。源太郎は司に 、カルロスが繊細に手間を掛けて丁寧に米を焚いていたことを説明した。そこへマフィアのペペロンチーノ一家が現れ、拳銃を構えて稲子 たちを脅した。司は戦う稲子に助太刀し、手下を叩きのめした。
一味が去った後、彼は改めて源太郎に「シャリを教えてくれ」と土下座で頼む。ビルのオーナーであるティプラは、司に部屋を貸した。 稲子は司に事情を説明した。1年前までビルは活気に溢れており、八十八にも大勢の客が集まっていた。しかし観光名所にしようとした 金持ちのミスター・リンという男が、ビルを買収しようと動き出した。他の面々が出て行く中、源太郎たちは立ち退きを拒否したので、 リンはペペロンチーノ一家を使って脅しを掛け始めたのだという。
翌朝、司は早くから店を清掃し、米を細かく選別し、源太郎に認めてもらおうとする。源太郎は司を自分の田んぼに呼び出し、「シャリを 覚えに来たんだろ。だったら、まず米を知れ」と仕事を手伝わせる。店に戻った源太郎は、司に寿司を握らせた。それを食べた源太郎は 「空気を包んでいない。力が入りすぎだ」と言い、適度な力の入れ方を教える。ナエは河太郎に「アンタの方が上手くやれる」と吹き込み 、こっそりと田んぼの地図を渡した。
河太郎から「親方があいつにこだわる理由が分かりません」と告げられた源太郎は、「奴の目からは、寿司に選ばれた男が持つ定めを 感じる」と述べた。河太郎は悔しがって店を飛び出した。司と源太郎が田んぼへ行っている時、ペペロンチーノ一家が店に現れた。彼らは フリオとマルガリータをハバナに残した子供たちの写真で、カルロスを妹マリアの写真で脅し、店から追い払った。
河太郎に仮面を着けたリンが接触し、スシバーへ連れて行って「今日から、ここで寿司を握れ」と告げる。「源五郎の寿司は時代遅れだ。 私の寿司こそがニューヨークを席巻する。君の彼女も呼んでおいた」とリンが言うと、ナエが現れる。働く気になった太郎に、リンは 「源五郎と司に、ちよっとしたイタズラをしてやろうじゃないか」と持ち掛ける。そこにペペロンチーノが笑いながら現れた。
翌日、ペペロンチーノから田んぼの水を抜くよう指示された河太郎は、ためらいを示した。彼がペペロンチーノの金的を蹴って逃げようと すると、ナエとマフィアの一味がやって来た。ナエはリンの手先だったのだ。一味は河太郎を取り押さえ、田んぼの水を抜こうとする。 それを邪魔しようとした河太郎は、ペペロンチーノにナイフで刺された。一味が立ち去った後、作業をしていた司が河太郎に気付いた。 河太郎は涙で「ごめんよ、俺もスシ王子になりたかった」と司に謝り、息を引き取った。
源太郎は店で太郎を弔った後、司たちに「今日で店仕舞いだ。お前たちに迷惑は掛けられない」と告げた。リンが店に現れ、源太郎に寿司 の勝負を提案する。彼は「ニュートラルな審査員を用意し、負ければビルには手を出さない。ただし司が出ることが条件だ」と言う。司は 怒りに燃え、「この勝負、受けてやる」と言い放った。勝負は10日後、場所はペペロンチーノの館だと告げて、リンは去った。源太郎は司 に、「米を知れ。風を読め。五感を研ぎ澄ますんだ」とアドバイスを送った…。

原案・脚本・監督は堤幸彦、脚本は河原雅彦、製作は島本雄二&松尾好章&上松道夫&藤島ジュリーK.&小岩井宏悦&神康幸&会田郁雄& 吉田鏡&二木清彦&河上努、エグゼクティブプロデューサーは白石統一郎&山本晋也&亀山慶二&長坂信人、プロデューサーは福山亮一& 日枝広道&中沢晋、アソシエイトプロデューサーは西出将之&梅澤道彦&桑田潔&藤本一彦、プロデューサー補は花田聖&赤羽智比呂、 撮影は唐沢悟、編集は大野昌寛、録音は臼井久雄、照明は川里一幸、美術は相馬直樹、アクションコーディネーターは諸鍛冶裕太&村上潤 、VFXスーパーバイザーは野崎宏二、寿司指導は小川明男&武田博行&本卦佐知子&小森純子、音楽は見岳章。
主題歌「No more」作詞/白井裕紀、新美香、作曲/Thomas G:son、編曲/Thomas G:son、唄/米寿司。
出演は堂本光一、中丸雄一(KAT-TUN)、北大路欣也、伊原剛志、釈由美子、石原さとみ、太田莉菜、平良とみ、永澤俊矢、竹山隆範、 長田奈麻、Alberto M.Albuquerque、Rex Jones、John Kaminari、Adogony Baudouin Eulong、Carlyne Rossignol、Inge Murata、 辻本一樹、竹嶌厚、向田翼、沖原一生、信川清順、鈴木舞花、大山愛子、笹本昌幸、牛舌喰らう、EIGO、YOSSY、CHU-CHU、SHIDO、MACKY、 ENA、MASAKO、阿久津賀紀、田中明、冨宿颯、前川貴紀ら。


2007年7月から9月までテレビ朝日の金曜ナイトドラマ枠で放送された全8話の連続ドラマ『スシ王子!』の劇場版。
司役の堂本光一、 河太郎役の中丸雄一(KAT-TUN)、リリー役の平良とみは、TVシリーズからの続投。源五郎を北大路欣也、ハルキを伊原剛志、ナエを 太田莉菜が演じており、リリーがギャルに変身した姿として石原さとみが友情出演している。
監督はTVシリーズに引き続いて堤幸彦。
脚本は『ハチミツとクローバー』の河原雅彦。

この映画は、公開される前から負け戦が決まっていたと言ってもいい。
なぜなら、TVシリーズの視聴率は低迷し、まるで受けなかったからだ。
視聴率が低くても、一部の熱狂的なファンが付いてカルト化する作品というのは存在するが、『スシ王子!』に関しては、ただダメな ドラマというだけだった。
それなのに、なぜ映画化したのかと。
ドラマ放送前から映画化が決定していたらしいが、その評価が散々だったのだから、映画化は中止するのが賢明な判断というものでは なかろうか。
無意味な特攻精神を出してどうするのかと。

序盤、司が船でアメリカに到着したら港に「ようこそニューヨークへ」という門があって、イミグレーションに国境警備員が1人だけいて 、デューティー・フリー・ショップが隣にある。ゲートを通過した司は、警備員が「まだ国境を越えていない」と言われると拳法の構えを 見せ、それに対して警備員はアルマジロの構えで戦いを仕向ける。司がユルいファイトでビビらせたら、警備員が「ようこそアメリカへ」 と認める。
そんな風に、学生の内輪受けみたいなネタが続く。
そのシーンは、何かのパロディーというわけではない。
もちろんギャグでやっていることぐらいは分かる。ただ、笑えるかというと、まあ笑えないんだよな。
そのユルさが堤監督の持ち味なんだろうけど、単純にチープだとしか感じられない。

堤監督と映画スタッフの「アメリカでヒットする映画は何か」という雑談から企画が始まっているらしいが、その結果として出来上がった 映画が、これなのか。
どういうセンスなんだろうか。寿司と空手の組み合わせだから、アメリカで受けるという考えなのか。
ただ、喜劇として作ったら、アメリカで受けるのは難しいよな。日本とは笑いの感覚が全く違うんだし。
しかも、ここでやってるギャグって、日本の文化や日本語が分からないと理解できないようなモノが多くて、万国共通で理解できるような 「動きで笑わせる」というギャグをやっているわけじゃないし。
寿司とアクションを組み合わせた結果、それが相乗効果になっておらず、どっちも邪魔し合って、打ち消し合っている。
寿司に関するウンチクも、格闘アクションの迫力&スピード感も、どっちも中途半端の生煮え状態。

司が八十八に到着した時、次々に人がやって来るのは慌ただしいし、主要キャラの整理整頓が上手くない。
あと、いきなり稲子がファイトを仕掛けて来るのは強引すぎる。その八十八の営業時間が良く分からない。
源太郎が不在の時に客が来ており、稲子たちが招き入れるってことは営業時間のはずだが、だとしたら親方がいないのはダメでしょ。
ノンビリと農作業なんかしている場合じゃないぞ。

司をヘタレなキャラにしているのは大いに疑問。
いや、「普段はヘタレだけど戦ったら強い」ということなら分かるのよ。だけど、戦う姿勢になっても、やっぱり弱いのよ。
だから、アクションシーンになっても、彼の活躍はそれほど見られない。終盤だけは、ちゃんと戦っているけど。
そもそも、そんなにアクションシーンが盛り込まれているわけじゃない。そこに使っている時間も中途半端だし、見せ場になるような アクションシーンは無い。
ホントにアクションをセールスポイントにしようという意識があるのかと疑いたくなる。

ずっとユルユルのノリで来ていたので、中盤で太郎が殺されるのが違和感たっぷり。
この映画で、シリアスに人が死ぬ場面なんて用意しちゃダメでしょ。
そこも含めてストーリー展開はヘナチョコで、修行シーンでのテンションの高まりも、クライマックスに向けての盛り上がりも全く 無い。
また、ティプラがタロット占い師をやっていることも、彼女がタロットで出すカードも、稲子が外人部隊にいたことも、彼女の父親が 寿司屋だったことも、まるで意味の無い設定になっている。

それどころか、司が空手をやっている設定さえ無価値なものと化している。
中盤以降は全く空手を使わず、寿司対決が終わった後に、付け足しのようなアクションシーンで使うだけ。
持ち込んだ設定を、ここまで野放図に散らかしてしまうとは。
寿司を作るシーンでも、空手をやっていることが全く意味を持っていない。要するに寿司と空手が全く融合していないのだ。
まあ、どうやったら融合するのかと問われたら、私の中に答えは無いけど。

リンからの勝負の提案に対して、司が「受けてやる」と言い出すのはアウトでしょ。
そこは対決を持ち掛けられているのも、負ければ店を失うのも源太郎なんだから、彼が決定権を行使すべきでしょうに。
つまり、そこは指名された司が「自分が代表でいいのか」と戸惑っていると、源太郎が司を信用して任せるということで「受けよう」と 言い出す流れにすべきでしょうが。それがセオリーってモンでしょ。
セオリーを崩して効果的に作用しているならいいけど、ただ単にセオリーを無視しているだけだ。

肝心の寿司対決では、相手は最初からマトモな寿司を作っておらず、ちっとも美味しそうに見えないという始末。
派手なパフォーマンスをやるとか、奇抜な食材を使うとか、そういうのは別にいいけど、最低限、「美味しそうに見える」ってのは 守らなきゃマズいでしょ。
あと、その審査結果に関しても、審査員が最初は全てリンの札を挙げ、少し時間が経過して、考えてから「やっぱり司に」となるのはダメ でしょ。
考えなくても審査員がスンナリと司の寿司を選んで、「なぜだ?」とリンが疑問を呈したところで、司なり源太郎なりが勝因を解説すると いう流れにすべきでしょ。

残り少なくなった頃になって、リンが急に、「300年前に自然流継承者に自分の一族が負けたので恨みを晴らすために戦う」ってなことを 言い出すのだが、伏線が薄すぎるでしょ。
冒頭に300年前のシーンがチラッと写るけど、それだけだよ。
物語の中で、300年前の因縁なんて全く出て来なかったじゃねえか。
そのアクションシーン自体が付け足し状態なのに、さらに蛇足感をアップさせてどうすんのよ。

この映画、とにかく勢いやパワーが全く足りないんだよな。これって、デタラメでもハチャメチャでもいいから、違和感や引っ掛かり の感覚を強引に捻じ伏せてしまうような突き抜けた勢いやパワーが必要だったと思うのよ。
だけど、そういう力押しのバカ・パワーって、堤監督の持ち味とは正反対なんだよな。
この人は、とにかくユルさ全開の人なので、弾けないのよ。
ってことは、企画と監督がミスマッチだったってことよね。
堤さんは企画だけに留まって、監督は別の人間に任せた方が良かったんじゃないの。


第2回(2008年度)HIHOはくさい映画賞

・特別賞:ワーナー・ブラザーズ映画
<*『L change the WorLd』『Sweet Rain 死神の精度』『銀幕版 スシ王子! 〜ニューヨークへ行く〜』『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』『ICHI』『252 生存者あり』の配給>

第5回(2008年度)蛇いちご賞

・作品賞
・監督賞:堤幸彦
<*『銀幕版 スシ王子! 〜ニューヨークへ行く〜』『20世紀少年』『まぼろしの邪馬台国』の3作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会