『劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班』:2020、日本

2021年1月25日、内閣情報調査室次長の三谷宗久は、ハイヤーに乗り込もうとしていた。その直前、何者かがハイヤーに近付き、注射器でフロントグリルに液体を注入した。ハイヤーが発進した後、三谷と運転手の村田は車内に充満した有毒ガスで苦悶した。車は道路を外れて暴走し、爆発炎上した。警視庁刑事部長の青木潤基は、ヘロンガスが使われたことを知った。彼は記者会見で殺人であることを発表するが、使用された有毒ガスについては詳しい説明を避けた。すると記者の小泉ミチルが、2001年の事件と同じヘロンではないかと指摘した。既に調査済みであることを彼女が話すと、青木はヘロンが使われたことを認めた。
2001年に発生した西新宿テロ事件では、ヘロンによって21名が死亡した。しかし首謀者の雨宮竜一は死刑が執行され、テログループは壊滅してヘロンは全て押収されていた。テロ事件の関係者を徹底的に洗い直すことを決めた青木に対し、公安部長の山崎聡史は調査資料を全て開示する代わりに情報は1つ残らず提供するよう要求した。内閣官房長官の板垣真二郎は政府幹部と公安幹部の怠慢を鋭く批判し、青木に「会見、見ました。もう次はありませんよ」と通告した。
未解決事件捜査班の三枝健人は、2009年11月21日に法務省の加藤正政務官、同年12月5日に防衛相の中野幸恵政務官が事故死した事件に着目した。彼は桜井美咲、山田勉、小島信也に、2つの事故を洗い直すことを提案した。2つの事故は運転手の突然死が原因とされていたが、鑑識結果も検死記録も残っていなかった。加藤の事故現場に居合わせた警察官の報告書だけは残っていたが、大半は黒塗りになっていた。目撃者の警察官が大山剛志だと知り、三枝は驚いた。
大山は加藤の車が事故を起こした時、巻き込まれた母親と幼い娘に駆け寄って助けようとする。しかし母親は死亡し、娘は植物状態になる可能性が残った。大山は加藤も運転手も車が衝突する前に意識を失っているのを目撃したが、本庁は事故として処理した。大山は捜査をやり直すべきだと考えるが、班長から一喝された。三枝は大山との無線が繋がり、情報を貰った。彼は三谷が西新宿テロ事件と同じ手口で殺されたことを説明し、12月5日に中野が狙われることを知らせた。
大山は12月5日に中野を張り込み、車に注射器でヘロンを入れようとする立花という男を捕まえた。大山が警察署で尋問すると、立花は「俺を無視するからだ」と告げた。公安の人間が警察署に現れ、問答無用で立花を連行した。大山の行動で中野の殺害は防がれたが、三谷の事件は無くならなかった。また、大山が事件を防いだ記録も残っていなかった。立花は公安に釈放された後、遺体で見つかった。公安は「酒に酔って川に転落死した」と発表するが、大山は納得できなかった。
大山は元公安の伊藤に接触し、情報提供を求めた。伊藤は西新宿テロ事件を担当していたが、加藤の事件が起きた直後に公安を辞めていた。彼は二度と会わない条件で、大山に情報を教えた。立花はテログループの残党で、加藤の事件が起きる直後には公安に犯行予告が届いていた。しかし公安はイタズラと判断し、その予告を無視していた。立花は失態を犯した公安にとって都合の悪い人間であり、山崎によって消されたのだ。大山は三枝に、その情報を伝えた。
山崎と三谷はテロ事件の担当者であり、保身から全てが始まったのだと三枝は確信した。彼は山崎の元へ行き、大山が立花を逮捕したのに公安が釈放した件を追及した。山崎は全面的に否定し、証拠の提示を要求した。三枝と桜井は雨宮の手記を編集した小泉に接触し、情報を交換した。小泉は雨宮から、政府が保管している以外にヘロンは残っていないと聞かされていた。三枝たちは慶明大学医学部法医学教室の安西理香から、2010年に科警研で新設された化学兵器を扱う部署があることを教えてもらった。
科警研からヘロンほ持ち出すことなど無理だと安西は言うが、三枝は内部犯行の可能性を疑った。三谷事件の3日後、研究員の吉川和夫が首吊り死体で発見されていたのだ。吉川を調査した三枝たちは、彼が秘密クラブの顧客で少女買春で不起訴になっていることを突き止めた。青木は三枝が三谷事件を独自に調べていると知り、呼び出して意見を求めた。三枝は吉川の関与を調べていること、警察内部の犯行も視野に入れていることを語った。
三枝は山崎から「真実を伝えたい」というメールを受け、晴海第九倉庫へ赴いた。すると山崎はヘロンで殺害されており、都合良く警官隊が駆け付けた。三枝の車から注射器が発見され、逮捕されそうになった彼は逃亡した。三枝は桜井に電話を掛けて大山への連絡を依頼し、携帯を破壊した。桜井は大山に連絡して簡単に事情を説明し、「三谷と山崎を殺さねばならなかった人物を捜してほしい」という三枝からの要請を伝えた。
桜井たちは吉川は早退して車を停めていたて駐車場の防犯カメラを調べ、彼がフードで顔を隠した男にスーツケースを見せている姿を発見した。三枝は小泉のアパートへ行き、彼女が両親を西新宿テロ事件で亡くしていることを知る。そこへ3人の刺客が押し掛けると、小泉は三枝にスマホを渡して窓から逃亡させた。小泉は一味に撃たれ、命を落とす。刺客から逃げ切った三枝は桜井に連絡を取って合流し、大山と話す。大山は彼に、三谷と山崎が板垣と繋がっていること、加藤の事件に巻き込まれたのが青木の妻と娘だったことを教えた。
三枝は駐車場の防犯カメラ映像を確認し、スーツケースを確認する男が青木と同じ腕時計を付けていることに気付いた。彼は青木が犯人と断定し、まだ板垣が残っていると大山に告げる。大山は「青木を説得する」と言うが、三枝は「真実を全て伝えたらテロが早まる」と反対する。大山は「このまま黙ってるなんて出来ませんよ」と納得せず、そこで通信は途絶えてしまった。青木が行方をくらましたことを知った三枝は、翌日に開かれる板垣の総裁選出陣パーティーを狙うつもりだと確信した。
翌朝、桜井と山田は板垣の元へ行き、テロの標的になっているのでパーティーを中止してほしいと要請する。しかし板垣が拒否したので、桜井は警護に参加させてほしいと頼んだ。三枝&山田&小島は不審な内装業者がホテルにいると知って捕まえようとするが、エレベーターが停止する。会場で張り込んでいた桜井は、ドアが全て封鎖されたことに気付いた。三枝はコントロールセンターで捕縛されていた従業員を救助し、青木の一味が予備タンクにヘロンを入れてスプリンクラーで会場に散布するつもりだと悟った…。

監督は橋本一、原案『シグナル』脚本はキム・ウニ、脚本は仁志光佑&林弘、製作は岡田美穂&石原隆&笠置高弘&藤田浩幸&市川南、エグゼクティブプロデューサーは中畠義之&臼井裕詞、プロデューサーは萩原崇&豊福陽子&小原一隆&笠置高弘&石田麻衣、アソシエイト・プロデューサーは小椋久雄、撮影は柳田裕男、照明は宮尾康史、録音は田中靖志、編集は只野信也、美術は小林蘭、アクション監督は田中信彦、音楽は林ゆうき&橘麻美、主題歌『Film out』はBTS。
出演は坂口健太郎、北村一輝、吉瀬美智子、伊原剛志、鹿賀丈史、田中哲司、杉本哲太、奈緒、木村祐一、池田鉄洋、青野楓、阪田マサノブ、山田純大、大川ヒロキ、水橋研二、長田成哉、林泰文、三元雅芸、新井敬太、中村織央、浜田学、光宣、新虎幸明、石毛元貴、並樹史朗、大河内浩、山口翔悟、西山繭子、岡本智礼、武田幸三、日向丈、篠原さとし、津村和幸、中村敦、高梨将、わかばかなめ、尾関伸次、内田章文、平隆人、高津康、丸山ユウスケ、一條恭輔、中野剛、林田直樹、木崎絹子、山崎莉里那、佐々木もよこ、金田誠一郎、滝川ひとみ、金原泰成、大水洋介、宮田佳典、波多野嵩三、古賀將嗣、山田桃子、五島龍之介、波多江良一ら。


韓国ドラマ『シグナル』をリメイクしたカンテレ制作のTVドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』の劇場版。
監督は『王妃の館』『相棒 -劇場版IV- 首都クライシス 人質は50万人! 特命係 最後の決断』の橋本一。
脚本は『劇場版 MOZU』の仁志光佑と、映画デビューとなる林弘の共同。
三枝役の坂口健太郎、大山役の北村一輝、桜井役の吉瀬美智子、山田役の木村祐一、小島役の池田鉄洋、安西役の青野楓は、TVシリーズのレギュラー。三谷役の杉本哲太や山崎役の田中哲司は、TVスペシャル版からの続投。
他に、小泉を奈緒、青木を伊原剛志、板垣を鹿賀丈史が演じている。

TVシリーズで大山は行方不明になり、三枝は彼と会えないままだった。大山を狙った犯人の正体や目的も、判明しないままだった。
続編を狙っていることは明らかだったが、TVドラマの第2シリーズではなく劇場版という形を取ったわけだ。
ただ、大山の殺害を巡る事件を解き明かすことがメインではなく、それとは関係の無い事件を軸に据えている。
ネタバレを書いてしまうが、大山を巡る謎は今回も残ったままになっており、TVドラマや劇場版でのシリーズ続行を匂わせている。

三枝は山崎殺しの罪を着せられて逃亡すると、小泉のマンションへ行って匿ってもらう。
そりゃあ桜井たちは監視されているだろうから頼るのは無理だろうけど、だからって情報を得るために接触したばかりの小泉に助けを求めるのも「気遣いゼロで身勝手だな」と感じるぞ。そのせいで、何の関係も無かった小泉をトラブルに巻き込んでしまうわけだから。
その上、刺客が来ると三枝は小泉を守ろうともせず、逃がしてもらう。
そのせいで小泉は殺されるが、三枝は全く気にすることも無く桜井と合流し、大山と連絡を取って事件の捜査に没頭する。残して来た小泉の心配をすることも無いし、罪悪感や責任を覚える様子も無い。
サイテーな野郎じゃねえか。

結局、三枝は小泉が死んだかどうかさえ確認しないまま、青木の犯行を止めるための行動に取り掛かっている。小泉のことなんて、まるで頭に無いのだ。
どうせ大山に動いてもらって歴史を改変したら、小泉の殺害は無かったことになるとでも思っているんだろうか。そうとでも考えないと全く理解できないぐらい、あまりにも薄情だ。
しかも、自分たちが青木の犯行を止めるために動くだけだと歴史の改変は起きないから、小泉が生き返ることは無いんだよね。
ってことは、ホントに小泉のことなんて何も考えちゃいないんだね。都合良く利用しただけで、もう用が無いから関係ないってことなのね。
クソ野郎じゃねえか。

大山の存在意義って、実はものすごく薄いよね。立花を捕まえて中野の殺害は阻止しているけど、それ以降は「別にいなくても良くね?」と思ってしまう。
表面的な流れを追っていくと、彼は元公安の伊藤に接触して情報を入手し、それを三枝に伝えている。でも彼が入手した情報って、「三枝たちが現代で捜査して事実を突き止める」という手順で消化できないのかと考えた時、そんなに無理せずに出来てしまうことなんだよね。
そして伊藤と接触する以外では特に何もしていないので、じゃあ大山って何のためにいるのかと。
仕方が無いことではあるけど、クライマックスにおいて大山は何も出来ず、完全にカヤの外へと置かれているし。

三枝は板垣を始末しようと目論む青木と対峙した時、「諦めなければ未来は必ず変えられます」と訴える。
しかし青木が妻と娘を失った過去は変えられないので、相手の気持ちに全く寄り添わない浅薄な説得にしか感じない。
三枝は「まだ間に合います」とも言うけど、何が間に合うのかサッパリ分からない。
青木は妻と娘を無くしており、三谷と山崎を始末しているので、どっちの意味でも間に合わないでしょ。
なので、それは舌先三寸で定型文を出しているだけにしか思えない。

とは言え、青木も板垣だけでなくパーティー参加者も皆殺しにしようと企んでいるので、その時点で「妻と娘を失った復讐」に対する同情は消える。
「板垣を応援する奴らも死ぬべき」ってことになると、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」なので、それは手を広げ過ぎ。
それと、青木が板垣を殺そうとする理由は分かるけど、彼と一緒にいる一味の目的は何なのか。復讐という動機は無いので、ただのテロリストってことになるよね。そいつらを組んでいるのも、青木の主張が説得力を持たなくなるよね。
まあ、それ以前に、三枝に罪を着せたり、小泉を殺したりしているので、青木が単なる卑劣なクズ野郎になっちゃってるけどさ。

完全ネタバレだが、青木が捕まった後、2009年で大山を狙ったスナイパーを桜井が退治する。これを受けて、山崎が逮捕され、板垣は辞任に追い込まれる。青木はテロ事件を起こさず警視総監に就任し、小泉は記者として精力的に活動する。
大山が殺されずに済んだだけで、それだけのことが起きている。全ての出来事が好転するという、見事なぐらいに安易すぎる都合の良さが待ち受けているわけだ。
その結末には、笑っちゃうぐらい呆れてしまう。
バタフライ・エフェクトを、デウス・エクス・マキナみたいに利用してんのね。

(観賞日:2022年8月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会