『劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」後編』:2021、日本

天王はるか、海王みちる、冥王せつなは土萠ほたるの面倒を見ながら、一緒に暮らしていた。皆既日食の日、せつなは何かが異空間から地球へ侵入したことを感じ取った。彼女は詳しく調べようとするが、セーラー戦士に変身できなかった。その翌日から、ほたるが恐ろしい速度で成長を始めた。みちるがほたるにヴァイオリンを演奏させていると、ちびうさとペガサスの幻影が出現した。ペガサスの死を悲しむちびうさの姿を、ほたるはサターンのような目で見つめた。
はるかはほたるに太陽系を育てるゲームをさせて、力の暴走を防ぐための手伝いをした。ほたるは過去からの出来事を高速でシミュレートし、はるかとみちるは月と地球が闇に包まれるビジョンを目にした。ほたるが入浴の準備をしていると、スーパーセーラーサターンが鏡の中に出現した。彼女は「私は貴方の中の眠れる貴方」と言い、目覚める時が来たのだとほたるに説いた。ほたるは記憶を取り戻し、その姿は一気に成長した。
ほたるははるかたちに「私たちは生まれ変わった」と告げ、クリスタルを渡した。プリンスとプリンセスの危機を知った4人は、すぐに家を飛び出した。4人はセーラー戦士に変身し、窮地に陥っている亜美、レイ、まこと、美奈子を救った。はるかは亜美たちに、今のうさぎには声が届かないだろうと告げる。うさぎは体調が悪化して寝込み、ちびうさが心配していた。ほたるは亜美たちに、うさぎと衛に危機が迫っていることを教えた。
うさぎとちびうさは、はるかたちが戻ったことを知った。うさぎはちびうさに後から追い掛けると告げ、先に行くよう指示した。うさぎと合流した衛は、自分と同じように肺が侵されていることを見抜いた。はるかは亜美たちに、サーカス上空に巨大な黒い新月が出現していること、異空間から悪夢が地上に吹き出していることを教えた。世界中が悪夢に飲まれ出し、地球は暗黒バリアに覆われていた。うさぎと衛はちびうさに追い付き、セーラー戦士と再会した。
ジルコニアはセーラー戦士の前に巨大な姿で出現し、うさぎと衛を小学生の姿に変貌させた。エリオスは2人を救うため、エリュシオンに避難させた。ちびうさとほたるはアマゾネス・カルテットを追い掛け、テントに突入した。ほたるはカルテットに向かって、「心を悪夢に支配されてる。目覚めなさい」と呼び掛けた。ちびうさはカルテットの悪夢に悲しさを見て、敵ではないと感じる。カルテットはほたると握手しようとするが、ジルコニアが現れて4つの石に閉じ込めた。
ジルコニアはちびうさとほたるを攻撃し、ガラス片の中に封じ込めた。彼女は鏡を出現させ、4つの石とガラス片を投じた。うさぎと衛が目を覚ますと、元の姿に戻っていた。エリオスは2人に、エリュシオンの浄化の力が作用したのだと説明する。しかしエリュシオンは悪夢に侵され、浄化の力は残り少なくなっていた。神殿にはクリスタルがあり、中では2人のメナードが眠っていた。衛はエリオスから、そこは王国のゴールデン・キングダムがあった場所で、ゴールデン・クリスタルはプリンスのクリスタルになる力を発することを聞かされた。さらにエリオスは、祈りの塔でプリンセスレディセレニティから啓示を受け取ったことを明かした。
うさぎはエリオスの話を聞き、ゴールデン・クリスタルが衛の体の中に封印されていることを確信した。塔にある鳥籠にはペガサスが監禁されており、うさぎが近付こうとすると強力なバリアに弾き返された。エリオスはネヘレニアからうさぎと衛を守るため、地球へ戻した。セーラー戦士と衛は悪夢の熱気を吸い込み、全員が倒れ込んだ。エリオスは最後の力を振り絞り、エリュシオンの浄化の力を送り込んだ。上空に巨大なジルコニアが現れ、うさぎたちを悪夢に包んだ。悪夢から脱出したうさぎたちは、ジルコニアを追った。
うさぎたちがサーカスのテントに飛び込むと、ジルコニアは鏡の中に逃げた。うさぎがジルコニアを追って鏡に入ると、ネヘレニアが待ち受けていた。うさぎはちびうさとほたるをガラス片から救い出し、彼女の指示を受けた亜美とまことが鏡を割った。ほたるは4つの石を回収し、うさぎたちは鏡から脱出した。サーカスは消滅するが、街にも異空間にも変化は無かった。ネヘレニアがエリュシオンにいることを確信したうさぎたちは、すぐに移動した。
うさぎたちは目覚めたメナードの案内で、祈りの塔へ赴いた。ちびうさは鳥籠の中で倒れているペガサスを見て、ショックを受けた。衛はエリオスが自分たちを救って力尽きたことを話すが、ちびうさは「死んでない」と泣いた。そこにネヘレニアが現れ、うさぎに「私の呪いに、お前は勝つことが出来ない」と言い放った。うさぎの攻撃は反射し、セーラー戦士は前世のビジョンを見た。うさぎが誕生した時、招かれざる客であるネヘレニアがやって来た。彼女はクイーン・セレニティに、闇を受け入れるよう促した。クイーン・セレニティが鏡に封印すると、ネヘレニアは「王国は滅ぶ」と呪いの言葉を残した。
ネヘレニアは銀水晶を手に入れ、うさぎたちを攻撃する。うさぎが衛とキスを交わすと、新しいパワーが生まれた。ずっと待機していたルナ、アルテミス、ダイアナは人間の姿になり、うさぎたちの元に瞬間移動した。亜美たちの前にはセーラーパワーガーディアンが出現し、生まれ変わる時が来たのだと説明した。セーラー戦士たちが力を結集すると、うさぎはエターナルセーラームーンに変身した。ちびうさとセーラー戦士、さらに衛からもクリスタルの力を受け取り、うさぎはネヘレニアを攻撃した…。

監督は今千秋、原作・総監修は武内直子「美少女戦士セーラームーン」(講談社刊)、脚本は筆安一幸、製作は古川公平&村松秀信&佐藤明宏&宮本純乃介&木下直哉&飯田雅裕、企画は鷲尾天&角田真敏、シニアプロデューサーは小佐野文雄、プロデューサーは田中瑠佳&五味秀晴、アニメーションプロデューサーは浦崎宣光&市岡大輔、キャラクターデザインは只野和子、サブキャラクターデザインは山口仁七、美術設定は伊井蔵、プロップデザインは小坂知&亀谷響子、服装設定協力は亀谷響子、絵コンテは今千秋、演出は今千秋&わたなべひろし、総作画監督は只野和子&藤井まき&藤岡真紀&菊地洋子&工藤裕加&番由紀子、色彩設計は佐野ひとみ、特殊効果は斎藤丈史、美術監督は斎藤陽子、撮影監督は浜尾繁光、3D監督は濱村敏郎、編集は小野寺桂子、音響演出は郷田ほづみ、録音は阿部智佳子、音楽プロデューサーは平野宗一郎&森優也&島谷浩作、音楽は高梨康治。
主題歌『月色Chainon』は ももいろクローバーZ with セーラームーン(三石琴乃)&セーラーマーキュリー(金元寿子)&セーラーマーズ(佐藤利奈)&セーラージュピター(小清水亜美)&セーラーヴィーナス(伊藤静)、『“らしく”いきましょ』は ANZA。声の出演は三石琴乃、野島健児、福圓美里、金元寿子、佐藤利奈、小清水亜美、伊藤静、皆川純子、大原さやか、前田愛、藤井ゆきよ、菜々緒、渡辺直美、松岡禎丞、小山茉美、広橋涼、村田太志、中川翔子、上田麗奈、諸星すみれ、原優子、高橋李依、田村睦心、野口瑠璃子、広瀬ゆうき、寺崎千波也、宮園拓夢、田中啓太郎、小宮逸人、元吉有希子、川口莉奈、久保田ひかり、根本京里、角倉英里子。


武内直子の漫画『美少女戦士セーラームーン』を基にした作品。
2014年から2016年まで3期に渡って放送されたTVアニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』の劇場版で、2部作として製作されている。
TVシリーズでは原作の第3期までを扱っており、前後編の劇場版では第4期の内容を描いている。
監督は『美少女戦士セーラームーンCrystal』のデス・バスターズ編でシリーズディレクターを務めていた今千秋。
脚本はTVアニメ『探偵オペラ ミルキィホームズ』や『ご注文はうさぎですか?』シリーズの筆安一幸。

うさぎ役の三石琴乃、地場衛役の野島健児、ちびうさ役の福圓美里、亜美役の金元寿子、レイ役の佐藤利奈、まこと役の小清水亜美、美奈子役の伊藤静、はるか役の皆川純子、みちる役の大原さやか、せつな役の前田愛、ほたる役の藤井ゆきよ、ルナ役の広橋涼、ダイアナ役の中川翔子は、『美少女戦士セーラームーンCrystal』のレギュラー陣。
ネヘレニア役の菜々緒、ジルコニア役の渡辺直美、アルテミス役の大林洋平、エリオス役の松岡禎丞、セレセレ役の上田麗奈、パラパラ役の諸星すみれ、ジュンジュン役の原優子、ベスベス役の高橋李依は、前編に続いての登場となる。
『美少女戦士セーラームーンCrystal』でクイーン・セレニティを担当していた小山茉美が、同じ役で出演している。

前作のラストでは亜美&レイ&まこと&美奈子がアマゾネス・カルテットに捕まり、うさぎが肺を侵されて咳き込んでいる様子が描かれた。
なので今回は「ビンチの亜美たちは助かるのか」という展開から始めるのかと思いきや、はるかたちが平穏に暮らす様子が描写される。
外部太陽系戦士の4名は前作でもキャストとしてクレジットされていたが、実際の出番は全く無かった。
そんな4人の様子が静かに描かれ、ほたるの目覚めからセーラー戦士に変身できるようになり、外へ駆け出すシーンで映画のタイトルが出る。
意表を突く始まり方だが、これはこれで導入部としては悪くない。

タイトルが開けると、外部太陽系戦士が亜美たちの元に到着し、変身して技を繰り出す。ここは文句なしに気分が高まるし、4人が一斉に変身して見得を切るのもテンポがいい。
前作がダラダラしていたのに比べると、今回の導入部は「静」から「動」への切り替えがいいし、話の盛り上げ方も上手く行っている。
しかし残念ながら、その勢いは長く続かない。
ザックリ言うと最初から最後まで戦いが続くのだが、停滞を感じさせる時間がものすごく長い。

全員に個人で活躍する場を与えるのは無理だと感じたのか、うさぎ、ちびうさ、衛を除いて特別扱いされるのは、ほたるだけに限定されている。
そして、そんなほたるざてえも、充分に扱い切れているとは言い難い。
彼女はちびうさと共にアマゾネス・カルテットを追うのだが、急に「目覚めなさい。その力はお前たちの眠れる力が歪められた物」と言い出すので困惑させられる。
何の脈絡も無く、いきなり諭すようなことを言い出すので、唐突にしか感じない。

本来ならば、ここはアマゾネス・カルテットの揺らぎや迷いを描いたり、彼女たちが悪ではないことを匂わせるヒントを観客に示したりして、そのシーンヤに向けた流れを作っておくべきじゃないかと思うのよね。
何の布石も打たないままで「アマゾネス・カルテットは悪党じゃなくて力を利用されているだけだから目覚めさせようとする」という展開に入ろうとするから、まるで乗って行けないのよ。
だから、アマゾネス・カルテットがほたると握手しようとするのも、まるで説得力に欠ける急速旋回になっている。

うさぎと衛はエリオスの力でエリュシオンに移動するが、ここで戦いが勃発することは無い。なので、ただ説明のためだけに用意されたシーンになっている。
そこに限らず全体を通して、やたらと「説明のための時間」が多くなっている。
その後、今度は全員でエリュシオンに来る展開があるが、その場所移動はテンポを悪くするというマイナス要素が大きいし、「めんどくせえなあ」と強く感じさせる。
それ以外の部分でも、「ピンチ」→「脱出」→」「攻撃」のパターンが繰り返されたり、話のメリハリに乏しかったりで、モタモタとダラダラを強く感じさせる仕上がりになっている。

エリオスは熱気に倒れたうさぎたちを助けるため、命懸けで浄化の力を送り込む。
だけど、これをちびうさが知らないのは、見せ方として上手くない。
後から鳥籠を見た時に「エリオスがうさぎたちを助けて力尽きた」という説明は聞くけど、その行動を取った時点で知る形にしておいた方が絶対にいいよ。前作の批評でも書いたけど、ちびうさは今回の実質的な主人公なんだし。
だからエリオスとの淡く切ない恋愛劇には、もっと力を入れた方がいいはずで。

それを考えると、「エリオスが求めていた美しき乙女は、ちびうさじゃなくてうさぎだった」ということで決着しているのも、どうなのかと思ってしまうんだよなあ。
もちろんエリオスが啓示を受けた相手はうさぎだから、彼女に助けを求めるのは当然っちゃあ当然なのよ。
だけど、そのせいでちびうさの「美しき乙女は私じゃなかった」という落胆と失望を、否定できなくなっちゃうのよね。
最後にエリオスが「自分にとっての乙女はちびうさだ」と感じるシーンはあるけど、付け足しみたいになっちゃってるし。

前述したように、エリオスは自分を犠牲にして、熱気に倒れたうさぎたちを助けている。
でも、その直後に巨大なジルコニアが出現して、うさぎたちを悪夢に落とすんだよね。
そうなると、エリオスの自己犠牲は何だったのかと言いたくなる。
すぐに悪夢からは脱出するけど、「エリオスがうさぎたちを助けて力尽きる」→「巨大ジルコニアの攻撃でうさぎたちが悪夢に落ちる」という展開を畳み掛けるのは、どう考えても構成に難があるでしょ。エリオスの行動が、無意味みたいになっちゃうでしょ。

終盤、うさぎは衛とのキスで新しいパワーに目覚めると、「私たちのパワー、見せてあげるわ」と言う。
するとセーラー戦士はドレス姿に変身し、猫たちは人間の姿でワープしてくる。セーラーパワーガーディアンが出現し、セーラー戦士に語り掛ける。
セーラー戦士が1人ずつ決め台詞を喋り、うさぎに力を集める。うさぎがエターナルセーラームーンに変身すると、今度はセーラー戦士が1人ずつ「ビーナスクリスタルパワー」などと叫び、うさぎがネヘレニアを攻撃して倒す。
ここ、すげえ間延びしちゃってるのよね。
1人ずつの口上が2度もあるのは、ダレてしまう。1度で終わらせるべきだわ。

っていうか本当は、うさぎに全員のパワーを集約するのも、いかがなものかと思っちゃうんだよね。
そりゃあ他の戦士はプリンセスの護衛だから、うさぎだけが特別扱いなのは当然ではあるのよ。でもクライマックスとしては、全員で同時に攻撃した方が盛り上がるんじゃないかなと。
あと、せっかく助けたアマゾネス・カルテットが、戦いが終わるまで石の中ってのは、どうなのよ。ラスト直前にセーラー戦士として蘇るけど、戦いにおいては何もしていないのよね。
せっかくほたるが助けたのなら、仲間として何か貢献するシーンが欲しくなるわ。

(観賞日:2023年7月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会