『劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」前編』:2021、日本

4月1日。月野うさぎは高校生になり、地場衛は大学の医学部に合格した。ちびうさは戦士に成長し、30世紀へ帰ることにした。その日は皆既日食で、大勢の人々が空を眺めた。水野亜美、火野レイ、木野まこと、愛野美奈子は皆既日食を見物しながら、互いの夢について語り合った。うさぎ、衛、ちびうさの前にはペガサスが出現し、「助けて、美しき乙女」と告げて消えた。衛は胸の痛みに襲われるが、大したことは無いと嘘をついた。
セーラー戦士と衛たちは、月の中からデッド・ムーン・サーカス団を名乗る巨大な船が飛び出すのを目にした。うさぎ、衛、ちびうさは街に貼られたサーカス団のポスターと、公園に設営されたサーカスのテントを目撃した。うさぎとちびうさは衛にせがんで、ガラスの万華鏡を買ってもらった。その日は人が多かったので、衛はちびうさに30世紀へ帰る予定を翌日まで延ばすよう勧めた。衛はうさぎとちびうさを家に招き、泊まらせることにした。ちびうさはうさぎのような大人になりたいと感じ、衛に愛される彼女を羨んだ。
ちびうさはうさぎと衛に、「鏡の向こうに真っ暗な別の世界があり、新月の日に覗くと引きずり込まれる」という話を教えた。サーカス団の団長であるジルコニアはアマゾネス・カルテットのセレセレ、パラパラ、ジュンジュン、ベスベスを呼び、仕事を命じた。ちびうさは夢の中でペガサスから「美しき乙女よ」と言われ、鈴を渡された。ペガサスはエリオスと名乗り、「必要なら呼んで下さい。必ず貴方の力になります。だから私に貴方の力を貸して下さい」と話した。
エリオスは「エリュシオンを救いたいのです、ゴールデン・クリスタルが必要なのです」と言い、姿を消した。目を覚ましたちびうさは鈴を握っていることに気付き、夢ではなかったのだと確信する。彼女は30世紀へ帰ろうとするが、時空の鍵が作動しなかった。エリオスは彼女の前に現れ、力を貸してほしいと頼んで消えた。ちびうさはうさぎと衛に、力を貸してあげたいと告げた。セレセレたちは誰かが結界を強行突破しようとしたと感じ、調べるために虎を放った。
うさぎとちびうさは市民が虎から逃げていることを知り、現場へ駆け付けた。しかし2人は変身できず、慌てて逃げ出した。今までと違う力が発動した2人は、スーパーセーラームーンとスーパーセーラーちびムーンに変身した。そこへセレセレとパラパラが現れ、2人を攻撃する。エリオスはちびうさの前に現れ、鈴を使って自分を呼ぶよう促した。エリオスはうさぎとちびうさに、万華鏡の武器を渡した。形勢が不利だと感じたセレセレとパラパラは、その場から退散した。
衛はうさぎとちびうさの元に来るが、胸の痛みに襲われて意識を失った。パラパラは鏡を使い、うさぎとちびうさの夢を見た。うさぎは「大人にならなくちゃ」、ちびうさは「大人になりたくない」と願っていたが、パラパラは本心は裏腹だと見抜いていた。彼女はうさぎを幼い姿に、ちびうさを高校生の姿に変身させた。ネヘレニアは幻の銀水晶のパワーを感じ取り、白い月の王国の者を悪夢の餌食にするようジルコニアに命じた。衛は亜美の母が勤務する病院で検査を受け、肺に影があると診断された。
ちびうさの前にはエリオスが出現し、「貴方の力が必要なのです、美しき乙女よ」と告げて消えた。彼は眠っている衛の部屋にも出現し、「許して下さい。エリュシオンを守り切れなくて」と詫びて消えた。アマゾネス・カルテットはサーカス団の虎、鷹、魚を人間の姿をしたタイガーズ・アイ、ホークス・アイ、フィッシュ・アイに変身させ、任務を命じた。フィッシュ・アイは亜美を熱帯魚店に誘い込み、魚を購入させた。亜美は母が男と一緒にする幻や、父が離れて行く幻を見た。亜美は幻から脱出しようとするが、フィッシュ・アイによって鏡の中に引きずり込まれた。
亜美は自分の分身に「本当の夢を思い出して」と言われ、スーパーセーラーマーキュリーに変身した。そこへうさぎとちびうさも来て変身し、フィッシュ・アイを退治した。強くて美しいうさぎの姿を見たちびうさは、目の前に現れたエリオスに「エリオスが探している乙女は私じゃないよ」と告げた。「いつか私も必要とされる時が来るのかな」と彼女が泣いていると、エリオスは人間の姿になってキスをした。彼は「貴方はいつだって求められている」と話し、姿を消した。エリオスの本体は、ネヘレニアによって鳥籠に監禁されていた。
サーカスの公演初日、うさぎや衛は公園へ赴いた。他の面々と離れたレイはミラーハウスに誘い込まれ、幻覚を見せられた。彼女は変身できずに眠りに落ち、タイガーズ・アイに襲われそうになる。そこへフォボスとデイモスが現れ、マーズクリスタルを渡した。レイは変身し、タイガーズ・アイを倒した。うさぎが衛の見舞いに行く時、エリオスのことが頭から離れないちびうさは同行を遠慮した。衛は吐血を隠すため、家に来たうさぎを帰らせた。
ちびうさはまことと遭遇し、恋について相談しようとする。ホークス・アイは2人をハーブ店に誘い込み、夢を叶えるお守りとして指輪をプレゼントした。ちびうさは衛の見舞いに行き、指輪を渡した。まことはハーブ店へ行き、夢についてホークス・アイに相談しようとする。指輪の力で眠りに落ちた彼女は、自分の分身に呼び掛けられた。ジュピタークリスタルを受け取ったまことは変身し、ホークス・アイを倒した。ホークス・アイは夢を叶えるよう言い残し、息を引き取った。
ハーブ店は消滅し、うさぎとちびうさははまことの元に駆け付けた。ちびうさは鈴が光るのを見て、エリオスが近くにいると確信する。うさぎは衛の危機を感じ取り、ちびうさ、まことと共に彼の元へ急行した。すると衛とエリオスが危機に陥っており、うさぎたちは部屋に飛び込んで助け出した。エリオスはうさぎたちに、自分がエリシュシオンの祭司であることを話す。エリュシオンは地球の聖地であり、エリオスは衛の守護祭司でもあった。
衛、地球、エリシュシオン、エリオスは繋がっており、共鳴し合う関係だった。衛とエリオスの胸には、呪われた黒いバラが出現していた。封印された王国、デッド・ムーンの女王であるネヘレニアによって、エリシュシオンは幽閉されていた。シルバー・ミレニアムの滅亡によって、デッド・ムーンを封印する力は弱まった。そして皆既日食の瞬間、ネヘレニアは地球に入り込んでいたのだ。エリオスはうさぎに、幻の銀水晶とゴールデン・クリスタルの力で悪夢から全てを救い出してほしいと依頼する…。

監督は今千秋、原作・総監修は武内直子「美少女戦士セーラームーン」(講談社刊)、脚本は筆安一幸、製作は古川公平&村松秀信&佐藤明宏&宮本純乃介&木下直哉&飯田雅裕、企画は鷲尾天&角田真敏、シニアプロデューサーは小佐野文雄、プロデューサーは田中瑠佳&五味秀晴、アニメーションプロデューサーは浦崎宣光&市岡大輔、キャラクターデザインは只野和子、サブキャラクターデザインは山口仁七、美術設定は伊井蔵、プロップデザインは小坂知&亀谷響子、服装設定協力は亀谷響子、絵コンテは今千秋、演出は今千秋&わたなべひろし、総作画監督は只野和子&藤井まき&藤岡真紀&菊地洋子&工藤裕加&番由紀子、色彩設計は佐野ひとみ、特殊効果は斎藤丈史、美術監督は斎藤陽子、撮影監督は浜尾繁光、3D監督は濱村敏郎、編集は小野寺桂子、音響演出は郷田ほづみ、録音は阿部智佳子、音楽プロデューサーは平野宗一郎&森優也&島谷浩作、音楽は高梨康治。
主題歌『月色Chainon』は ももいろクローバーZ with セーラームーン(三石琴乃)&セーラーマーキュリー(金元寿子)&セーラーマーズ(佐藤利奈)&セーラージュピター(小清水亜美)&セーラーヴィーナス(伊藤静)、『私たちになりたくて』は石田燿子。声の出演は三石琴乃、野島健児、福圓美里、金元寿子、佐藤利奈、小清水亜美、伊藤静、皆川純子、大原さやか、前田愛、藤井ゆきよ、菜々緒、渡辺直美、松岡禎丞、広橋涼、村田太志、中川翔子、上田麗奈、諸星すみれ、原優子、高橋李依、日野聡、豊永利行、蒼井翔太、阿座上洋平、新井良平、田口奏弥、山根綺、進藤尚美、掛川裕彦、三澤紗千香。


武内直子の漫画『美少女戦士セーラームーン』を基にした作品。
2014年から2016年まで3期に渡って放送されたTVアニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』の劇場版で、2部作として製作されている。
TVシリーズでは原作の第3期までを扱っており、前後編の劇場版では第4期の内容を描いている。
監督は『美少女戦士セーラームーンCrystal』のデス・バスターズ編でシリーズディレクターを務めていた今千秋。
脚本はTVアニメ『探偵オペラ ミルキィホームズ』や『ご注文はうさぎですか?』シリーズの筆安一幸。

うさぎ役の三石琴乃、地場衛役の野島健児、ちびうさ役の福圓美里、亜美役の金元寿子、レイ役の佐藤利奈、まこと役の小清水亜美、美奈子役の伊藤静、ルナ役の広橋涼、ダイアナ役の中川翔子らは、『美少女戦士セーラームーンCrystal』からの続投。
アルテミス役は大林洋平から村田太志に交代している。
エリオスの声を松岡禎丞、セレセレを上田麗奈、パラパラを諸星すみれ、ジュンジュンを原優子、ベスベスを高橋李依、タイガーズ・アイを日野聡、ホークス・アイを豊永利行、フィッシュ・アイを蒼井翔太が担当している。
ネヘレニアの声を菜々緒、ジルコニアを渡辺直美が担当している。

ちびうさはエリオスから「貴方の力を貸して下さい。エリュシオンを救いたいのです」などと言われ、鈴を見て夢ではなかったと確信する。
しかし彼はエリオスの言葉を気にしながらも、30世紀に帰ろうとする。しかし結界に阻まれて帰ることが出来ず、うさぎと衛に「30世紀に帰れなくても、力を貸したい」と言い出す。
だけど、30世紀に帰れないのと、エリオスの頼みの因果関係は不明だ。
だから、その台詞は変だと感じる。

そもそも鈴を見て「夢じゃなかった」と確信した時点で、30世紀に帰るのを先延ばしにしてでも、エリオスを助けるために動こうとすべきじゃないかと思うのよ。
その時は30世紀に帰ろうとしているので、ちびうさの行動は「30世紀に帰れなかったから力を貸そうとしただけで、帰れていたら力を貸さなかったんだろう」と見えちゃうのよ。
そこをスムーズに進めるためには、「ちびうさはエリオスに力を貸すため、30世紀に帰る予定を中止しようとする。だが、うさぎや衛に説得され、迷いを抱えつつも帰ろうとする。でも結界に阻まれて失敗して」という流れにすればいい。
そうすれば、「ちびうさがエリオスの依頼に応えない内に30世紀に帰ろうとしたのは、本人の意志じゃない」という言い訳が成立するでしょ。

虎が街で暴れた時、うさぎとちびうさはセーラー戦士に変身しようとするが出来ずに焦る。しかし、その直後に新たな力が発動し、変身できている。
うさぎとちびうさはパラパラによって、それぞれの見た目を幼女と高校生に変えられてしまう。しかし亜美の家に駆け付けて変身すると、元の姿に戻れている。
何がどうなって元に戻れたのか、サッパリ分からない。
ともかく、どちらのケースでも、ピンチが到来しても、あっさりと解決するのだ。もっと時間を掛けて描くようなピンチだろうに、サラッと片付けている。

5つか6つぐらいのストーリーを、串刺し式に並べたような構成になっている。ようするに、TVアニメを5話か6話ぐらい順番に連ねたような映画なのだ。
亜美をフィーチャーしたパートが終わった時点で「まさか」とは思ったが、その予想が的中する。それ以降、レイやまことでも、同じパターンのストーリーが用意されているのだ。
亜美をフィーチャーしたパートは、ザックリ言うと「夢に関する迷いを抱えており、そこに敵が付け込んで罠を仕掛ける。幻を見て罠だと気付くが、眠りに落ちてしまう。誰かの助けで変身し、敵を倒す」という内容。そして、そのパターンが繰り返されるのだ。

これがTVシリーズであれば、1話ごとに個々のセーラー戦士をフィーチャーする主人公回を用意して、同じパターンを繰り返しても別にいいかもしれない。
だけど、それを1本の映画でやっちゃうと、観客を退屈させることに繋がる。
美奈子は夢への迷いじゃなくて「変身できないことへの焦り」を抱えているので、そこだけは少し違っている。
でも「罠に落ちて眠らされ、誰かの助けで変身して」というのは全く同じであり、そんなに変化を感じるわけではない。

しかも厄介なことに、映画の最終エピソードは美奈子をフィーチャーするパートなんだよね。
だからクライマックスらしいクライマックスが存在しないままで、映画は終わってしまうのだ。
しかもマーキュリー、マーズ、ジュピター、ヴィーナスがピンチに陥っている状況で、映画は終わってしまうのだ。幾ら2部作の前編とは言え、何も解決しないままで「後編へ続く」なのだ。
せめて1本の映画として成立するような結末を用意して物語を盛り上げて、その上で後編への布石を打てば良かったんじゃないのか。

たぶん、あまりにも愚直に「原作の内容を映画化する」ってことを意識したせいで、そんな仕上がりになっちゃったんだろう。
だけど今回の内容は原作の「デッド・ムーン編」に当たる内容で、旧TVシリーズでは『美少女戦士セーラームーンSuperS』の全39話を使って描いていたのよ。
だから2部作の映画として製作すると決まった時点で、どう頑張っても無理があるのは誰の目にも明らかでしょ。
だから大幅に改変して、大胆に全体の構造を組み立て直す必要があったんじゃないかと。
今回の実質的な主人公はちびうさと言ってもいいぐらいなのに、そこのドラマも薄くなっちゃってるし。

(観賞日:2023年7月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会