『劇場版 ラジエーションハウス』:2022、日本

放射線技師のための災害支援診療研修会が開かれ、放射線技師会の会長を務める及川貴史が参加者の前で講義を行っていた。及川は72時間の壁について話し、広瀬裕乃を指名してトリアージの説明を要求した。裕乃は動揺して答えられず、及川は「指導者の顔が見たい」と馬鹿にした。小野寺俊夫は黒羽たまきに、及川は元同僚だと教えた。同じ頃、五十嵐唯織は甘春杏との別れが近付いているため、冷静さを完全に失っていた。アメリカ留学を控えた杏は辻村駿太郎と一緒にいる時、母からのメールで父の危篤を知らされた。母のメールには、すぐに島へ来るよう杏に求めていた。
五十嵐は威能圭と悠木倫から「災害研修は?」と言われ、慌てて会場へ向かった。及川は小野寺とたまきを患者に見立て、トリアージについて説明していた。彼は再び裕乃を指名し、どちらの患者を優先すべきか質問した。及川は答えに窮する裕乃を馬鹿にして、たまきの方だと教える。遅れて会場入りした五十嵐は、患者を発見した時の条件について詳しく質問した。及川が狼狽すると、彼は「あらゆる条件を考慮しないと、答えは分からない」と告げる。及川は憤慨し、「遅刻した人間に発言の権限は無い」と追い出した。
テレビのニュースでは、台風8号が明日にも関東に最接近すると報じられていた。そのニュースを見た威能と悠木は、明日が鏑木安富のライブ配信であることを話題にする。鏑木は手術のライブ配信を控えて気合が入っており、田中福男と軒下五郎は準備を手伝わされていた。五十嵐たちは病院から出て来る杏と遭遇し、たまきは何かあったのかと尋ねる。杏は事情を説明しようとするが、バイクを用意した辻村が戻って来て急ぐよう促す。杏はヘルメットを被り、バイクの後ろに乗って去る。たまきは「最後のお泊まり旅行だったりして」と茶化すように言い、五十嵐は激しく動揺した。
たまきは後輩の高橋圭介から電話を受け、あと15分ぐらい掛かることを知らされる。彼女は裕乃に、圭介には妊娠9ヶ月になる妻の夏希がいること、羊水の量が多いと言われたので検査に来ることを説明した。五十嵐が「僕には時間が無いんです」と漏らすので、裕乃たちは心配する。しかし「杏ちゃんとの別れまで、残り72時間を切っちゃった」と言うので、皆は呆れて無視した。圭介が病院へ向かっていると、反対車線を走っていた塚田和也の車が急に中央分離帯を超えて正面衝突した。
大森渚は小野寺に、6歳の鳴海海斗が軽いチアノーゼで精査することになったことを説明した。海斗は母子家庭で、母親は息子を預けて仕事に向かった。大森は海斗を検査してカテーテル治療が必要だと判断し、裕乃にサポートを指示した。高橋夫妻と塚田が運び込まれ、五十嵐たちが処置に当たった。夏希は意識不明の状態で、辻村たちは圭介と塚田の治療を優先した。裕乃は小野寺の前で、夏希を後回しにした判断への疑問を口にした。すると小野寺は「感情で決めるんだとしたら、自分の手で命を選別することになる。医療従事者に、そんな権限ねえぞ」と説教した。
夏希はいつ容態が悪化して死んでもおかしくない状態にあり、お腹の子を救うためには緊急帝王切開が必要だった。しかし本人の意識が無いため、手術には圭介の承諾が必要だった。杏は美澄島に到着し、母の弘美や島民の野山房子たちと会った。父の正一は診療所のベッドにいて、心配した大勢の島民が集まっていた。正一は杏に「病気を診るな。人を見る医者になりなさい」と言い残して、息を引き取った。圭介は手術の承諾を求められて激高し、妻を助けるよう要求した。たまきが説得を試みるが、彼は耳を貸さなかった。
杏は美澄島を去ろうとするが、目の前で房子が胸の痛みを訴えて倒れ込む。房子は正一が最後まで気にしていた患者で、杏は弘美に「もう少し残る。次の便で帰るから」と告げた。房子は「今夜は台風が来るから、次の便がいつ来るか分からない」と言うが、杏は「それよりも診察させてください」と頼む。杏は渋る房子を診察するが、何の異常も見つからなかった。塚田は弁護士に電話を掛け、「金なら幾らでも出すから、何とかして下さいよ」と文句を言う。それを見ていた圭介が激怒して掴み掛かろうとすると、小野寺が制止した。その夜遅く、台風が美澄島を直撃した。
翌朝、鏑木がライブ配信に向けて気合を入れていると、塚田がロビーで倒れた。鏑木は裕乃たちに頼まれ、仕方なく塚田の処置を優先することにした。彼が手術室で待機していると、男が侵入してにナイフを突き付けた。その様子がライブ配信され、及川は警察に通報した。すぐにライブ配信は中止されるが、病院には警官隊とマスコミが押し寄せた。手術室に立て籠った犯人は圭介で、妻を助けるよう要求した。たまきの説得で彼はナイフを落とし、五十嵐は夏希と話すよう提案した。五十嵐は心の動きを司る脳の領域は機能している可能性があると圭介に説明し、夏希に気持ちを伝えられるかもしれないと話した。美澄島では房子が再び倒れ、診療所に搬送された。
警官隊が病院に乗り込むと、小野寺は飛び出しナイフを使って鏑木と演技をしていたように装った。彼らが時間を稼いでいる間に、五十嵐は装置を使って圭介に脳の動きを見せた。彼は圭介に、マイクを使って夏希に思いを伝えるよう促した。脳が反応するのを確認した彼は、お腹の子供を助けてほしいと五十嵐たちに頼んだ。福田は小野寺にその様子を見せられ、目に涙を浮かべた。帝王切開で赤ん坊が産まれ、圭介は夏希に「良く頑張ったな」と声を掛けて泣き崩れた。
裕乃は大森から、海斗は喀血で窒息する危険性があることを知らされる。大森はカテーテル治療を行うと告げ、裕乃にサポートを指示した。杏は房子の胸を調べるためにレントゲンを撮ろうとするが、診療所には旧型の機械しか無かった。テレビで台風のニュースを見た辻村は、杏が美澄島にいることを五十嵐たちが聞かされていないと知った。辻村から話を聞いた五十嵐は、杏に電話を入れた。杏が状況を告げると、小野寺たちは「俺たちの指示に従えば大丈夫だ」と励ました。
五十嵐たちの的確な指示を受けた杏はレントゲンを撮影するが、特に異常は見られなかった。しかし改めて房子のカルテを確認した彼女は、コレステロール値が異常に高いことに気付いた。海斗の手術時間になると、五十嵐は裕乃のサポートに行こうとする。しかし裕乃は杏の連絡を待つよう促し、自分だけで大森の助手を務める決意を示した。杏は五十嵐に電話を掛け、患者のコレステロール値が高くて遺伝性疾患の可能性があることを伝えた。五十嵐は踵のレントゲンを撮るよう指示し、杏の説明を受けて家族性高コレステロール血症だろうと判断した。一方、海斗は心停止の危険に見舞われるが、裕乃が迅速に対応して手術は成功した…。

監督は鈴木雅之、原作は『ラジエーションハウス』(原作:横幕智裕&漫画:モリタイシ 集英社『グランドジャンプ』連載)、脚本は大北はるか、製作は小川晋一&瓶子吉久&細野義朗&松岡宏泰、プロデューサーは中野利幸&小原一隆&太田大&草ヶ谷大輔&玉井宏昌&和田倉和利、撮影は江原祥二、照明は杉本崇、美術はd木陽次、録音は反町憲人、アートコーディネーターは杉山貴直&佐々木伸夫、美術プロデュースは三竹寛典、編集は田口拓也、音楽は服部隆之、主題歌『More Than Words』はMAN WITH A MISSION。
出演は窪田正孝、本田翼、和久井映見、広瀬アリス、山口紗弥加、遠藤憲一、八嶋智人、嶋政宏、浅野和之、原日出子、高橋克実、キムラ緑子、山崎育三郎、鈴木伸之、佐戸井けん太、浜野謙太、丸山智巳、矢野聖人、若月佑美、渋谷謙人、浅見姫香、勝矢、今野浩喜、川原瑛都、青木凰、田中隆三、足立智充、古川真司、水野智則、外川貴博、清水由紀、イワゴウサトシ、辻義人、小多田直樹、細野今日子、一條恭輔、中村尚輝、西泰平、中川あきら、永山愛、大西沙紀、安達雪乃、川越遼、新山新、金井凛空、大島美優、奥原さやか、青木渉、ありな、今村航、茎田俊幸、久野正喬、志武明日香、清水静凪、納本歩、廣嶋美佳、松井トモキ、望月萌衣、渡辺裕也ら。


横幕智裕とモリタイシによる漫画『ラジエーションハウス』を基にしたTVドラマ『ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜』の劇場版。
監督の鈴木雅之、脚本の大北はるかは、TVシリーズのスタッフ。
五十嵐役の窪田正孝、杏役の本田翼、大森役の和久井映見、裕乃役の広瀬アリス、たまき役の山口紗弥加、小野寺役の遠藤憲一、田中役の八嶋智人、灰島役の嶋政宏、鏑木役の浅野和之、辻村役の鈴木伸之、正一役の佐戸井けん太、軒下役の浜野謙太、威能役の丸山智巳、悠木役の矢野聖人、里美役の浅見姫香は、TVシリーズからの続投。
弘美を原日出子、及川を高橋克実、房子をキムラ緑子、圭介を山崎育三郎、夏希を若月佑美、塚田を渋谷謙人が演じている。

粗筋でも触れているように、交通事故で圭介たちが搬送されて来る出来事、裕乃が海斗のサポートを任される出来事、杏が島へ戻る出来事など複数のエピソードが並行して進行する構成になっている。
これはアメリカのドラマだと良くあるが、まだ日本だと多くないだろう。
だけど最もやりたいことはハッキリしていて、それは「五十嵐と杏の関係にケジメを付ける」ってことだ。
TVシリーズではフワッとしたままで終わっていたので、そこにキッチリとした答えを出そうという目的がある。

平成に入って以降、TVドラマの安易な劇場版が一気に増えた印象がある。それに伴って、映画にする意味や必要性を全く感じないケースも増加した。極論かもしれないが、劇場版の大半がそうだと言ってもいいかもしれない。
そして本作品も、「TVの2時間スペシャルで充分」と感じる典型的な映画だ。
そんな風に各テレビ局は次から次へと安易にTVドラマを映画化し、自分たちが生み出したコンテンツを乱暴に摩耗させている。
この悪しき慣習は、余程のことが無い限り、ずっと続けてて行くことになるんだろう。

TVドラマの劇場版を作る時、番外編的な内容にするケースもある。しかし本作品は、ガッツリとTVシリーズから続く内容になっている。そして杏が島へ行き、病院と島の様子を並行して描く時間が続く。
つまり主要メンバーの中で、杏だけが別の場所にいる時間が長い構成になっているわけだ。
杏だけを他のメンバーから切り離しているのは、ひょっとすると本田翼のスケジュール調整が関係しているのかもしれない。
ただ、理由はどうであれ、これが悪手であることは断言できる。

この作品に限ったことではないが、特に本作品では、本田翼の演技力が良くも悪くも視聴者の話題に上がることが少なくなかった。
他のメンバーと一緒に動かしておけば、アンサンブルに紛れさせるとか、掛け合いで上手く隠蔽したりすることも出来たかもしれない。しかし単独で動かすと、観客は彼女の演技力とストレートに直面することになる。
それが果たして正解なのかと考えると、まあアレだよね。
ただ、実は本田翼ばかりが俎上に載せられがちだけど、実は和久井映見の方が色々と気になるぞ。特に発声の部分が。

鏑木が人質にされた時点では犯人の顔を写さないが、圭介なのはバレバレだ。だから、そこを安っぽいミステリーにしている意味など無い。
っていうか、用意されているエピソードに新鮮味は無く、使い古されて手垢の付いたような話ばかりだ。
海斗のエピソードは全く使いこなせておらず、裕乃に見せ場を与えるために無理にネジ込んだような印象を受ける。
「命とは」「医療とは」といった深いメッセージで、観客に考えさせるような方向性は感じない。
それっぽい台詞が無いわけじゃないが、全ては表面的だ。

圭介が塚田への怒りや恨みを簡単に忘れたり、夏希の手術への固執を捨てて子供を助けてほしいと頼むようになったりするのは、かなり安易な展開に感じる。
ずっと不遜な態度だった塚田が、圭介が夏希に語り掛ける様子を見て涙を流すのも同じく。
そこまでの慇懃無礼な態度からすると、そこで急に反省の気持ちに目覚めるのは違和感が強い。
それと、涙を流すのを見せるだけってのも、中途半端だと感じるしね。そこまで描くのなら、もう少し掘り下げないと。

終盤に入ると島で謎の感染症が発生し、島民が次々に倒れて診療所に運び込まれる。台風で応援が来ない中、五十嵐たちも灰島から助けに向かうことを禁じられる。
こう書いた時点でバレバレだろうけど、もちろん五十嵐たちは島へ向かう。そして小野寺は及川に頭を下げて、病院の仕事を手伝ってもらう。
その辺りでは、「一刻も早く感染症の原因を究明して処置しないと、大勢の島民が死ぬかも」という危機的な状況に陥っているはずだ。
ところが「五十嵐たちが上司の指示を無視してでも杏のために駆け付けた」とか、「及川が小野寺の頼みで助っ人に来た」という要素を使い、感動系の演出ばかりに意識を向けている。そのせいで、島で起きている事態の深刻さや、対処に当たる面々の緊迫感が著しく不足している。
そのくせ緩和だけは入れるので、クライマックにふさわしい盛り上がりに欠ける。

(観賞日:2023年6月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会