『劇場版ポケットモンスター 結晶塔の帝王』:2000、日本

少女ミーの父親シュリー博士は、幻のポケットモンスターであるアンノウンを探し求めている。ミーが好きなポケモンは、父のように強くて優しいエンテイだ。アンノウンの手掛かりを発見したという連絡を受け、シュリー博士は遺跡へと向かった。
アンノウンについて書かれた古代文字を発見した博士だが、そのまま消息不明となってしまう。一人ぼっちとなったミーの流した涙はアンノウンを召喚し、父親への想いはエンテイを生み出した。そして博士の屋敷は、結晶塔へと変貌した。
ポケモントレーナーのサトシと仲間達は、同じくポケモントレーナーのリンと出会った。サトシ達は彼女と共に、女の子の憧れの土地であるグリーンフィールドへ向かう。しかし、緑豊かな土地だったはずのグリーンフィールドには、結晶世界が広がっていた。
テレビの映像でサトシの母を見たミーは、母親が欲しいという願いを口にする。彼女の願いを叶えるため、エンテイはサトシの母を連れ去ってしまう。結晶塔に向かったサトシ達の前に、ポケモントレーナーに変身したミーが立ち塞がる…。

監督は湯山邦彦、原案は田尻智、脚本は首藤剛志&園田英樹、演出は日高政光&須藤典彦、スーパーバイザーは石原恒和、プロデューサーは吉川兆次&松迫由香子&盛武源、アニメーションプロデューサーは奥野敏総&神田修吉、アニメーション監修は小田部羊一、エグゼクティブ・プロデューサーは久保雅一&川口孝司、キャラクターデザインは一石小百合&松原徳弘&香川久、総作画監督は香川久、撮影監督は白石久男、美術監督は金村勝義、編集は辺見俊夫、音楽は宮崎慎二、音楽プロデューサーは斎藤裕二。
声の出演は松本梨香、大谷育江、石塚運昇、飯塚雅弓、上田祐司、関智一、矢島晶子、竹中直人、薬丸裕英、加藤あい、山寺宏一、林原めぐみ、三木眞一郎、 犬山犬子、豊島まさみ、白石文子、西村ちなみ、こおろぎさとみ、かないみか、愛河里花子、小桜エツ子、小西克幸、沢海陽子、坂口候一ら。


ポケットモンスターの劇場版3作目。
レギュラーの声優陣に加え、今回は竹中直人、薬丸裕英、加藤あい、山寺宏一が特別出演している。今回は少女ミーと彼女の父親代わりとなるエンテイの関係を中心に、親子愛・家族愛が描かれている。

物語は一見すると緻密に練り上げられているようだが、実は「ミーの母親が既に死んでいる」と前半の内に観客に思わせてしまうという、致命的なミスを犯している。
しかし、最後に母親はミーの前に姿を現してしまうのだ。
こうなると、ミーがサトシの母親を「ママ」と言ってしまうのは不自然ということになる。ミーの母が生きていることを明かすと作品の展開が崩壊してしまうので、あえて最後まで触れなかったのかもしれない。
だが、理由はどうあれ、それはミステイクだろう。

どれだけ時代が変化しようとも、大人の希望が子供の欲求と一致しないという実態は、そう簡単に変わるものではない。特に“良識派”を自認する大人達の考え方は、頑ななまでに子供の意志を認めようとはしない。
この映画は、家族愛をテーマにした作品である。家族の結び付きを、全面に打ち出した作品である。そのメッセージは、良識派の大人達の心には強く響くことだろう。普段なら子供アニメを非難するような人々にも、称賛されるかもしれない。

そう、これは非常に「良い」映画である。しかし、「良い」映画が「面白い映画」であるとは限らない。むしろ、その逆になっている場合が少なくない。大きな問題は、この作品が良識派の大人達にとって「良い」映画だということだ。
子供が十分に楽しめて、しかも大人の鑑賞にも耐えるというのならば文句無しだろう。しかし、この作品は大人、いわゆる保護者に向けて作られて印象が強く、子供に楽しんでもらうという意識が希薄になっている。

教育的なメッセージを入れることで保護者を取り込み、子供達を楽しませる娯楽精神を失っているのでは、完全に本末転倒であろう。ちなみに、教育的な主張を強めた結果、レギュラーメンバーであるロケット団は完全に存在価値を失っている。
これは誰のための映画なのか。
大人に向けて作られた映画なのか。
それとも、オタクをターゲットにして作られた映画なのか。
違うはずだ。
この作品がターゲットにせねばならない最も重要な観客層は、子供達であるはずだ。

子供、その保護者、オタク、それら全ての人々を取り込む作品が作れるなら、それがベストだ。しかし、全員を満足させる作品を作ることは困難である。その中で、まずは誰の満足を優先させるのかを考えれば、それは子供達ではないのか。
だが、実際には内容が深すぎて、子供達よりも、「子供達を映画館に連れてくる大人達」にアピールするような状態になっている。込められた主張の強さからすると、オタクを惹き付けることも可能かもしれない。
で、これはいったい誰のための映画なのだろうか。


第24回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の続編】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会