『劇場版ポケットモンスター ベストウイッシュ/ビクティニと黒き英雄 ゼクロム』:2011、日本

大地の民の青年ドレッド・グランギルは、氷原にある村を訪れていた。彼は村民のドヌークに「大地の民には住むべき場所があるんです」と熱く訴えるが、「ただの言い伝えでしょ。何度来てもらっても無駄です」と言う。村長のヤジンと息子のリークが植物を採取しようとしていると、氷に亀裂が入った。ドヌークが助けに駆け付けるが、3人とも陸地から切り離されてしまう。巨大な氷塊が迫る中、ドレッドが現れた。彼は伝説のポケモン、ゼクロムを出現させて氷塊を破壊した。ドレッドはヤジンに「大地の民が、大地の絆を取り戻す時が来たんです」と訴え、ゼクロムは「希望の先に理想はある」と語った。
イッシュ地方を旅するサトシとピカチュウ、アイリス、デントたちは、山間にあるアイントオークの町に辿り着いた。そこでサトシたちは、「大地の剣」と呼ばれる城に足を踏み入れる。デントはサトシたちに、その城が谷から空を飛んで突き刺さったという言い伝えを語る。サトシはデントが作ったマカロンを食べようとするが、いつの間にか手から消えていた。それはビクティニというポケモンの仕業だった。実は、サトシが谷底に落ちそうになったシキジカを助けた時から、密かにビクティニは尾行していた。
サトシたちはビクティニの存在に気付かないまま、バトル大会の申し込みをするために城を出ようと。すると、城の修復作業をしていたドレッドが外への道案内をしてくれた。城を出たサトシたちは、ビクティニ人形の屋台を発見する。屋台の女主人であるジャンタによると、ビクティニは町に昔から住んでいるポケモンだという。ビクティニはパワーをくれるが、出会った人は、ほとんどいない。大昔、その力で城を守ったという言い伝えが残されているのだという。
村長のモーモントが収穫祭の挨拶を終えると、記念バトルが開始された。サトシはポカブをパートナーに、ダイケンキを使うトレーナーと戦う。しかしポカブはダイケンキに全くダメージを与えられず、弾き飛ばされてしまう。その時、屋台に隠れて様子を見ていたビクティニがポカブの尻尾に触れてパワーを与えた。ポカブは急激にパワーアップし、ダイケンキを倒した。そのバトルを目撃したジャンタの娘カリータは、ビクティニが関与したことを確信した。
カリータはサトシに声を掛け、バトルを要求した。サトシは戦う意欲を示したズルッグをパートナーにするが、カリータのサザンドラに体当たりして草むらまで弾き飛ばされる。カリータが草むらを監察していると、ビクティニが現れてズルッグにパワーを与えた。急に強くなったズルッグがサザンドラに勝利した後、カリータはサトシたちにビクティニがポケモンにパワーを与えたことを説明した。サトシが呼び掛けてマカロンを差し出すと、ビクティニが姿を現した。
サトシはビクティニと仲良くなり、その手を取って走り出した。するとビクティニは目に見えない壁に激突し、炎の球を吐き出した。ビクティニは何かに怯えるような表情を浮かべると、飛び去ってしまった。サトシたちはジャンタの元へ行き、ビクティニの出現を話す。デントは彼女に、村で最も心地良い場所を尋ねる。ビクティニが気分を回復するために、そこへ行くだろうと推測したのだ。
ジャンタはサトシたちを連れて、モーモントの果樹園へ向かう。その途中、カリータが「たぶんビクティニは結界を嫌がったのよ」と言い、ジャンタは「この町には目に見えない結界が張られていて、ビクティニは守りの柱の外には出られないと言われているの」と語る。一行が歩いていると、ドレッドとモーモントが現れた。ドレッドはカリータの兄だった。サトシがビクティニを呼ぶと、果樹園のポケモンたちが集まって来た。ポケモンたちは一行をビクティニの元へ導いた。
ドレッドはカリータに、「僕はビクティニの力を借りようと思っている」と告げた。モーモントはサトシたちに、自分もジャンタも大地の民の末裔であることを教える。千年以上前、大地の民の国は栄えていた。その時の王のポケモンがビクティニだった。大地の民が暮らす場所は、大地の里と呼ばれていた。龍脈のエネルギーを利用し、自然と人間とポケモンが調和して暮らせる環境が作られていた。
王には知恵と勇気を兼ね備えた2人の王子がいた。2人はそれぞれ理想の勇者、真実の勇者と呼ばれた。彼らにはゼクロムとレシラムというポケモンが付いていた。自分たちが認めた人間だけに知恵と勇気を貸した伝説のポケモンだ。しかし、やがて国の行方を巡り、2人の王子は対立した。その対立は大きな戦へと発展し、命を消耗したゼクロムとレシラムは、その姿を石に変えて長い眠りに就いた。
戦によって龍脈のエネルギーは乱れ、王はビクティニの力を借りることにした。王は守りの柱で城の周囲に結界を作り、ビクティニの力を集約させた。人々を乗せた城は空を飛び、山の上に辿り着いた。しかし王は力尽き、守りの柱と結界はそのまま残ってしまった。やがて龍脈は安定し、反省した2人の王子はゼクロムとレシラムの石を誰も知らない場所に安置した。だが、大地の絆を失った大地の民は、散り散りになってしまった。取り残されたビクティニは、千年以上前から結界の中で暮らしてきたのだ。
ドレッドはジャンタやカリータたちに、「大地の里を復活させたいと思ってる」と明かした。モーモントはジャンタたちに、ドレッドから3年前に「世界に散らばっている大地の民を集め、大地の里を復活させたい」と言われたことを話した。大地の民を探す旅に出たドレッドだが、最初の内は全く相手にしてもらえなかった。そんな中、彼は「お前の理想は、そんなものか」という声を耳にした。その声は城の方から聞こえてきた。
ドレッドが城の地下洞窟に入ると、そこには大いなる龍の石があり、ゼクロムが姿を現した。ドレッドはゼクロムから、かつて大地の民が城を使って龍脈をコントロールしていたことを教わった。モーモントが話を終えると、ドレッドの考えに共鳴して集まった大地の民たちがジャンタとカリータの前にやって来た。一方、サトシはビクティニが海へ行きたがっている様子を見て、「絶対に連れて行ってやる」と力強く約束した。
ドレッドは城に入り、シンボラーを使って守りの柱を集めた。それを目にしたビクティニが城に来ると、ドレッドは「お前の力を貸してくれ」と持ち掛けた。ビクティニは守りの柱によって包囲された。ドレッドはビクティニの力を利用し、城に集めたエスパーポケモンたちをパワーアップさせる。城は空に浮上し、大地には龍脈が現れて谷への道筋を示した。苦しむビクティニを目撃したサトシは助けに行こうとするが、ドレッドに阻止される。
ジャンタとカリータが城に現れると、ドレッドは動揺を示す。その隙にサトシはビクティニを救い出そうとするが、駆け付けたゼクロムに妨害された。ビクティニは柱に包囲されて苦悶しながら、死ぬ間際に王様から「再び城を動かせば龍脈は乱れ、世界を滅ぼすかもしれん。二度と城を動かしてはならん」と言われたことを思い出す。その映像は、監禁されたサトシの脳内に送られた。サトシから「城を動かすと龍脈が暴れる」と聞かされたジャンタは、「レシラムならゼクロムを止められるかもしれない」と口にした…。

監督は湯山邦彦、原案は田尻智&増田順一&杉森建、脚本は園田英樹、プロデューサーは盛武源&吉川兆二& 川崎由紀夫&岡本順哉&川瀬好一、製作は亀井修&鶴宏明&富山幹太郎&芳原世幸&田村明彦&佐々木信幸&八木正男、スーパーバイザーは石原恒和、アニメーション監修は小田部羊一、エグゼクティブプロデューサーは久保雅一&福永晋、制作担当は小坂橋司、アニメーションプロデューサーは神田修吉、キャラクター設定は松島賢二&松宮稔展、演出は飯島正勝&日高政光&外山草&吉川博明&孫承希&うえだしげる、キャラクターデザインは毛利和昭&一石小百合&佐藤和巳&松原徳弘&山田俊也、総作画監督は佐藤和巳&一石小百合、美術監督は武藤正敏、色彩設計は佐藤美由紀&吉野記通、撮影監督は池田新助、CGI監督は伊藤良太、編集は辺見俊夫、音響監督は三間雅文、音楽は宮崎慎二。
オープニングテーマ「ベストウイッシュ!」作詞:戸田昭吾、作曲:たなかひろかず、編曲:小谷野謙一、コーラスアレンジ:河野陽吾、歌:松本梨香。
エンディングテーマ「響 -こえ-」作詞:持田香織、作曲:菊池一仁、編曲:十川知司・Every Little Thing、歌:Every Little Thing。
声の出演は松本梨香、大谷育江、悠木碧、津田美波、宮野真守、林原めぐみ、三木眞一郎、犬山イヌコ、谷原章介、高橋英樹、水樹奈々、つるの剛士、石原さとみ、大地真央、山寺宏一、中川翔子、内海賢二、たかはし智秋、石塚運昇、最上嗣生、古島清孝、紗ゆり、佐藤健輔、福圓美里、水田わさび、渡辺明乃、かないみか、藤村知可、西村ちなみ、寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥、豊崎愛生、早志勇紀ら。


TVアニメ『ポケットモンスター』の映画版第14作。
『ポケットモンスター ダイヤモンド&パール』の続編として、2010年9月23日からテレビ放送が開始された『ベストウイッシュ』の劇場版第1作。『ベストウイッシュ』はゲーム版『ブラック・ホワイト』の発売に合わせて開始された新シリーズ。
今回の劇場版は『ビクティニと黒き英雄 ゼクロム』と『ビクティニと白き英雄 レシラム』の2作品が同日公開された。
サトシ役の松本梨香、ピカチュウ役の大谷育江、アイリス役の悠木碧、アイリスのポケモンであるキバゴ役の津田美波、デント役の宮野真守、ロケット団のムサシ役の林原めぐみ、コジロウ役の三木眞一郎、ニャース役の犬山イヌコといった面々は、テレビシリーズのレギュラー声優陣。新シリーズになっても、劇場版におけるロケット団の存在価値の無さは変わらない。
他に、ビクティニの声を水樹奈々、ゼクロムを高橋英樹、レシラムを谷原章介、ドレッドをつるの剛士、カリータを石原さとみ、ジャンタを大地真央、モーモントを山寺宏一が担当している。

観賞する前は『白き英雄 レシラム』を別の角度から見た内容なんだろうと勝手に思っていたのだが、そうではなかった。
ほぼ同じ筋書きをなぞり、「レシラムが先か、ゼクロムが先か」という部分だけを変えているのだ。
どういうことかというと、『白き英雄 レシラム』では最初にゼクロムが復活しており、サトシはビクティニを助けるためにレシラムを復活させようとする展開になっていた。
それに対して、本作品では最初にレシラムが復活しており、サトシがゼクロムを復活させようとする内容になっているのだ。

つまり「似たような内容だけど別の物語」ということになっているわけだが、それは大いに違和感があるぞ。
別の物語ってことは、サトシは「ビクティニと出会い、ビクティニを助けるために行動する」という出来事を2度体験していることになる。
で、ほぼ同じ内容だけど、復活させるポケモンの種類が異なる体験をしていることになる。
『白き英雄 レシラム』を先に体験したとすれば、『黒き英雄 ゼクロム』の時には「あれっ、同じようなことが前にもあったぞ」と感じるはずだし、前回の経験を踏まえた行動が取れるはず。
「2つの映画はパラレル・ワールドの出来事」という設定なのかもしれないけど、違和感は強い。

っていうかさ、レシラムの復活が先か、ゼクロムの復活が先かという以外、ほとんど同じ内容なんだよね。
冒頭部分は『レシラム』ではドレッドが氷原の村を訪れてゼクロムを出現させるエピソード、『ゼクロム』では荒野の村を訪れてレシラムを出現させるエピソードだから全く違うけど、サトシが登場してからは、ほぼ同じ内容だ。
ゼクロムとレシラムの部分を入れ替えているとか、それに伴ってセリフを少し変更しているとか、ドレッドの使用ポケモンが違うとか、細かい違いはあるけど、内容はほとんど一緒。
映像としても、同じ内容の部分では同じフィルムを使い回している。
登場するポケモンが違っていても、場面が同じなら背景は使い回しだ。
だから感想や批評も、『白き英雄 レシラム』と全く同じになる。

それにしても、ほぼ同じ内容の映画を同時公開するって、どういうつもりなんだろうか。
ポケモンが大好きな子供たちは、親に頼んで2本とも見たがる可能性も充分に考えられる。
だけど実際に見てみると、もう一方の焼き直しと言ってもいいような、っていうか大半がコピーしただけの内容なのだ。
ほとんど1本分の手間しか掛かっていないのに、2本の映画として公開しているってことでしょ。
それって、あこぎな商売じゃないのかね。

(観賞日:2012年8月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会