『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』:1998、日本

伝説のポケモン“ミュウ”の一部の化石が発見され、研究所に運ばれた。科学者達は化石を使い、ミュウの能力を強化したクローン“ミュウツー”を誕生させた。目覚めたミュウツーは研究所を破壊し、自分を生み出した全てに対する逆襲を誓った。
さて、マサラタウンのサトシ少年はオーキド博士にピカチュウを貰い、ポケモンマスターを目指して修行の旅を続けている。仲間のカスミとタケシも一緒だ。ピカチュウを狙うロケット団のムサシ、コジロー、ニャースが、サトシ達の後を尾けている。
サトシ達の元に、最高のポケモントレーナーを自称する人物から、パーティーへの招待状が届いた。場所はニューアイランドのポケモン城だ。行く気満々のサトシ達だが、悪天候のためにニューアイランドへの渡し船が欠航になってしまった。
船着き場の管理人ボイジャーの制止を振り切り、数名のポケモントレーナーはニューアイランドへ向かった。サトシ達も偶然に現れた渡し船に乗るが、船頭は変装したロケット団だった。荒波に飲まれて船は難破するが、サトシ達は何とか城に辿り着く。
城でサトシ達を出迎えた女性は、船着き場で捜索願いが出ていた女性ジョーイに瓜二つだった。大広間に行くと、スイート、ウミオ、ソラオという3名のポケモントレーナーが集まっていた。そこに最高のポケモントレーナーとして登場したのは、ミュウツーだった。
ミュウツーは突っ掛かって来たウミオを叩きのめした。そして「役目が終わった」として、、サトシ達を出迎えた女性のコントロールを解く。やはり彼女はジョーイで、ミュウツーは自分の世話をさせるためにポケモンセンターから連れ去っていたのだ。
ミュウツーは、立ち向かう態度を見せたサトシ達に対し、ゼニガメやフシギダネの強化クローンを差し向ける。そしてミュウツーはサトシ達が持つポケモンを奪い、全ての強化クローンを誕生させた。そんなミュウツーの前に、ミュウが姿を現した…。

監督は湯山邦彦、原案は田尻智、脚本は首藤剛志、演出は日高政光&井硲清高、製作は河井常吉&富山幹太郎&坂本健&宮川鑛一&福田年秀&河村秀文、プロデューサーは吉川兆次&五十嵐智之&盛武源、アソシエイトプロデューサーは三浦卓嗣&石川博&山内克仁&香山哲&紀伊高明&吉田紀之、エクゼクティブ・プロデューサーは久保雅一&川口孝司、キャラクター原案は杉森建&森本茂樹&藤原基史&西田敦子、キャラクターデザイン&総作画監督は一石小百合、絵コンテは湯山邦彦&横田和、アニメーションプロデューサーは奥野敏総&神田修吉、スーパーバイザーは石原恒和、アニメーション監修は小田部羊一、作画監督は松原徳弘&浅野文彰&藤森雅也&福本勝&山田俊也&柳田義明&高橋英吉&志村泉、色彩設計は吉野記通、色指定は岡田初美&中島淑子&小川志保、特殊効果は太田憲之&中島正之、撮影監督は白石久男、編集はジェイ・フィルム&辺見俊夫&伊藤裕、美術監督は金森勝義、音楽は宮崎慎二&たなかひろかず、原曲は増田順一、音楽プロデューサーは齊藤裕二&吉田隆、オープニングテーマ曲は松本梨香『めざせポケモンマスター’98』、エンディングテーマ曲は小林幸子『風といっしょに』。
声の出演は松本梨香、大谷育江、飯塚雅弓、上田祐司、こおろぎさとみ、林原めぐみ、三木眞一郎、犬山犬子、市村正親、小林幸子、佐藤藍子、鈴置洋孝、白石文子、西村ちなみ、山寺宏一、秋元羊介、古谷徹、高木渉、レイモンド・ジョンソン、玄田哲章、大友龍三郎、小形満、愛河里花子、小西克幸、芝原チヤコ、石塚運昇ら。


ゲームボーイのソフトを基にしたTV東京系の人気アニメシリーズの劇場版第1作。
TVシリーズのレギュラー声優陣の他、ミュウツーの声を市村正親、ボイジャーを小林幸子、スイートを佐藤藍子が担当している。“完全版”では、ミュウツーの誕生までの経緯を描くエピソード“ミュウツーの誕生”が冒頭に追加されている。

最初に細かいところにツッコミを入れておくと、嵐の中で海を渡るシーンが引っ掛かる。
サトシ達は「この荒波だと、オレ達のポケモンでは渡れない」とか言ってるんだが、ロケット団の渡し船が難破した後、島まで辿り着いている。
おい、渡れてるじゃねえか。

この映画、最初にミュウツーが「自分が何者か」と自問自答するモノローグから始まる。主人公が登場しないまま、しばらくミュウツーの物語が続く。
その後にサトシ達が登場するのだが、カスミやタケシ、ロケット団についての説明は全く無い。つまり、TVを見ていない人は、完全に観客層から除外されているということになる。
そりゃあ、大抵の観客は、TVシリーズのファンだから映画も見るのだろう。しかし1作目ということを考えれば、まず主人公や脇役キャラを紹介し、世界観を説明することから始める方がいい。これだと、子供の付き添いで来た大人達は全く話が分からないぞ。

ミュウツーはサトシ達の前で、人間がポケモンを支配し、利用することを否定する。
で、そんな深い問い掛けを提示しておきながら、物語が進む中で全く論破できていないんである。
というか、論破する気が無いんである。
というか、そもそもポケモン映画で、そこまで深い問い掛けをしちゃってもいいのかという問題もあるしね。

基本的に、ミュウツーはナチュラルに悪党としての振る舞いを見せている。ところがサトシ達が立ち向かう姿勢を見せた後、急に子供映画らしさを思い出したのか、競技場に移動してポケモンバトルを行うという、不自然な行動に出る。そこまではシリアスな悪党だったのに、急に初期007の悪党みたいに荒唐無稽になっちまうんである。
このミュウツー、一転の曇りも無く悪党である。
最後まで勧善懲悪の世界で行くのであれば、それは何の問題も無い。
しかし最終的に、ミュウツーは改心するのだ。
だったら、サトシ達と敵対関係にある段階から、人間やポケモンへの怒りだけでなくクローンとしての哀しみを見せるなどして、もっと同情できる点をアピールすべきだろう。

さて、前述したように、この映画はミュウツーがクローンとして生まれたアイデンティティーを自問自答するという、かなり重くて深いテーマを持ち込んでいる。
これがTVシリーズの中の1エピソードなら、異質だが印象に残る一編として評価されたかもしれない。
しかし、これは劇場版の1作目なのだ。
映画版としては、まず主人公や主要キャラクター、ポケモンがいる世界観、そういったものを描写することから始めるべきだろう。
そこを端折っておいて、いきなり“ポケモンのクローンのアイデンティティー”とか言われても、「その前にポケモンという生物の存在がどうなのよ」って話になっちゃうぞ。

しかもクローン問題を持ち込んでおきながら、そこをマトモに処理する気が無い。
「みんな同じ生き物」などと、何の説得にもならないような答弁で誤魔化そうとする。
倒れたサトシを全てのポケモンの力で復活させて(この経緯も良く分からんのだが)、なぜかミュウツーが改心する。
クローンのアイデンティティーという問題は、何処へ?


第22回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪のアニメ】部門

ノミネート:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門
ノミネート:【最大の期待外れ(誇大な宣伝に応えない作品)】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会