『劇場版おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』:2019、日本

天空不動産の春田創一は、上海勤務を経て香港に来てから半年が経過していた。大型マンションの開発プロジェクトも一区切り着いて帰国することになった彼は、通り掛かった宝石店の店員からダイヤの指輪を勧められた。指輪を購入した春田は、停まっていたバイク便の荷台に箱を置いてリュックを開けようとする。しかしバイク便が発進したため、彼は慌てて後を追う。大きな壷を運ぶ老人と遭遇した春田は、自転車が転倒しそうになるのを助けた。老人の元から走り去る時、彼は天空不動産のキーホルダーを落としたことに気付かなかった。春田はバイク便に追い付き、指輪の箱を取り戻した。
春田は送別会で夜中まで盛り上がり、マンションに戻った。翌朝、彼が目を覚ますと、外国人男性がベッドの隣で眠っていた。春田が困惑していると、牧凌太が訪ねて来た。春田は久々の再会を喜ぶが、外国人男性の姿に気付いた牧は怒って立ち去った。東京へ戻った春田は、出勤の途中で若い男とぶつかってしまった。スーツケースが開いて荷物が道路に散らばると、男は拾うのを手伝った。その際、春田と男の手が触れ合った。
東京第二営業所に戻った春田は、部長の黒澤武蔵や主任の武川政宗、営業部員の栗林歌麻呂や瀬川舞香と久々に再会した。そこへ先程の男が現れ、春田は新入社員の山田正義だと知った。春田が牧の居場所を尋ねていると、本社の開発事業部に所属する狸穴迅を含む6人の男女がやって来た。狸穴は春田たちに、「東京ベイ・ラピュータ計画に関連して、該当エリアの資料を本社で預かることになりました」と通告する。彼が部屋から退出するよう要求したので、春田たちは困惑した。そこへ牧が現れ、春田は彼が本社に戻ったことを初めて知る。春田が牧に詰め寄って質問しようとすると、狸穴が割って入った。
その夜、春田は荒井鉄平の営む居酒屋『わんだほう』へ行き、愚痴をこぼした。すると荒井ちずが現れ、自分も牧の本社異動を知っていたと話す。春田が「あいつ、なんかすげえ変わった」と言うと、ちずは「浮気なんかするからじゃないの?」と告げる。春田は慌てて否定し、道で酔い潰れていた男を助けて連れ帰っただけだと説明した。帰宅した彼は、なぜ異動を黙っていたのかと牧に尋ねた。すると牧は、そのことも話すために香港まで行ったのだと告げた。
天空不動産の会議が開かれ、東京ベイ・ラピュータ計画を指揮する「ジーニアス7」の面々が紹介される。それは第二営業所にやって来た7人のことだった。東京ベイ・ラピュータ計画とはベイエリアに日本最大規模のリゾート施設を建設するブロジェクトのことで、アジアを代表する企業である鳳凰山リゾートと手を組んで進めることになっている。ジーニアス7のメンバーには、鳳凰山の朱宇航や周天凱も参加している。狸穴は営業部の面々に対し、今月を目処に担当エリアの権利獲得を全て終わらせるよう求めた。最後は会長の速水禮次郎が檀上に立ち、全員に檄を飛ばした。
春田たちは今月中に終わらせることなど絶対に不可能だと感じつつも担当エリアを回るが、商店主の面々からは色好い返事を貰えなかった。春田は牧と組んで担当エリアを回っている最中にウマが合うと感じ、学生時代の部活の話で盛り上がった。2人はうでん屋『ゆで二郎』へ赴くが、主人の五郎は威嚇する態度で出て行くよう要求した。牧がバランスを崩して倒れそうになり、春田は彼を支えた。牧は春田に礼を言い、「お兄ちゃんみたいですね」と告げた。
帰宅した春田は仕事中の牧に何度もメールを送るが、返信は無かった。夜遅くになって牧が戻って来たので、春田は不満を漏らす。「この先、結婚するってなったら、もっと協力しなきゃいけねえんじゃねえの」と彼が告げると、牧は「結婚って、本気で言ってます?そんなに焦ってやんなくてもいいんじゃないかな」と口にした。そこへ春田の母の幸枝が急に押し掛け、恋人のATARUと暮らすと言う。春田は困惑するが、牧は「ちょうど実家に戻ろうと思ってたんで」と語る。彼は荷物をまとめ、実家に戻った。
東京ベイ・ラピュータ計画に関する会議に出席した黒澤は、もうしばらく時間が欲しいと告げる。しかし狸穴から急ぐよう要求され、黒澤は反発した。会議の後、黒澤は階段で足を踏み外して頭を強打した。彼は病院に運ばれ、春田&武川&栗林に加えて元妻の西園寺蝶子も駆け付けた。主治医は春田たちに、検査に異常は無いが数日の安静が必要だと告げた。眠っている黒澤の両手を握って心配している武川の姿を見た春田たちは、彼の思いに気付いた。
夜、春田は『わんだほう』へ立ち寄り、牧が病院に来なかったことへの不平を漏らした。そこへ牧が来て黒澤の容態を尋ね、仕事が多忙で病院に行けなかったことを詫びた。春田が体の心配をすると、牧は今の仕事に遣り甲斐を感じていることを語った。店を出た牧は「大江戸大華火祭」のポスターに気付き、一緒に行く約束を忘れていないかと春田に確認した。その日だけはスケジュールを空けていることを彼が話すと、春田は喜んだ。
翌日、退院した黒澤は元気に出社してくるが、なぜか春田に関する記憶だけがスッポリと抜け落ちていた。黒澤は春田のことを思い出そうとして観察を続け、彼に恋をした。『ゆで二郎』へ交渉に赴いた時、黒澤は春田と正義の仲睦まじい態度に嫉妬した。正義は五郎の若い頃の家族写真を見つけ、考え込むような様子を見せた。春田は粉を頭から被ってしまい、五郎の怒りを買った。残業した牧は、狸穴から同棲の解消について質問された。一緒に生活することの難しさを牧が吐露すると、狸穴は「ちょっと付き合えよ」と告げた。
春田は正義とサウナに入り、「写真を見てた時、なんか変だったよ」と指摘する。正義は「暑くなってきちゃった」と誤魔化し、外へ出た。彼と入れ違いでサウナに来た黒澤は、春田に「好き」と告白した。春田は狼狽し、付き合っている相手がいると告げた。そこへ牧と狸穴が来たので、春田は驚いた。春田と相手が牧だと知り、黒澤は対抗心を剥き出しにする。牧も黒澤に突っ掛かり、春田と狸穴も絡んで口論になった。正義も来て余計に問題がややこしくなる中、閉館のアナウンスが入ったので一行は解散した。
春田は牧の父の芳郎に呼び出され、「息子と別れてほしい。仕事に集中させてほしい」と告げられる。春田が困惑していると、芳郎は牧が過労で倒れて入院したことを話す。何も知らなかった春田が慌てて病院へ行くと、牧は狸穴に付き添われてタクシーに乗り込んでいた。第二営業所には立ち退きを要求された住民が乗り込み、激しく抗議した。春田は「何もかも上手くいかねえ」と頭を悩ませるが、正義からバスケに誘われて元気を取り戻した。その様子を見た黒澤は、嫉妬心に悶えた。
狸穴はジーニアス7を呼び出し、鳳凰山リゾートとの業務提携を解消すると告げた。突然の発表に納得できない朱宇航が理由を尋ねると、狸穴は「重大な問題が発生した」とだけ語った。春田は牧の母である志乃の訪問を受け、芳郎の発言について謝罪される。牧と花火大会に出掛けた春田は、香港で買った指輪を渡そうと考える。牧がトイレへ行っている間に、彼が置いていった携帯に狸穴から「今後について話したい」「今夜、会えないか」などと何度もメールが届く。それを見た春田は、嫉妬心から牧に文句を言う。牧も反発し、2人は口論になった。春田は別れを告げ、牧は険しい顔で立ち去った。
その様子を見ていた正義が春田に声を掛け、「いいんですか?」と尋ねる。春田が指輪の箱を海に投げると、正義は急いで拾おうとする。春田が「もういいって」と止めると、彼は「自分の気持ちはちゃんと伝えないとダメです」と言う。正義は両親と兄が3年前に事故死していることを明かし、兄の誕生日だったのに「おめでとう」ではなく「うるせえな」と言ってしまったことへの後悔を吐露した。彼が泣いて「大切な人に明日も会えるとは限りません」と話すと、春田は指輪の箱を拾った。
担当地域の商店がことごとく閉鎖しているのを知った春田は驚き、正義と共に本社へ抗議に乗り込んだ。すると速水が狸穴に、娘の薫子が鳳凰山グループの人質になっていることについて詰め寄っていた。「要求を飲んで土地を全て手放すのか」と速水が言うと、狸穴は「全て私にお任せください」と告げた。正義は春田に、狸穴が鳳凰山グループとグルなのではないかと告げる。そこへ狸穴が来て、春田にホテルまで来るよう指示した。
春田がホテルの部屋に赴くと、狸穴はバスローブ姿でワインを飲んでいた。春田は自分が肉体関係を持てば牧に手を出さないだろうと考え、覚悟を決めてベッドに飛び込んだ。しかし狸穴は体を求める気など無く、なぜ本社に来たのかと質問した。春田が疑惑を追及すると、彼は鳳凰山グループがドラッグビジネスに手を染めている情報が入ったので提携を解消したのだと説明した。狸穴が「この件は俺と牧で処理する」と言うと、春田は牧の名前が出たことに引っ掛かる。彼は「俺に行かせてもらえませんか。ちゃんと相手に気持ちを伝えて、誠意を持って話せば分かってくれると思うんです」と訴えるが、狸穴は自分の仕事に戻るよう命じた。
春田は狸穴の指示に従わず、勝手に鳳凰山グループのビルへ乗り込んだ。彼は朱宇航と部下たちに、薫子を返すよう頼んだ。すると朱宇航は部下たちに銃を構えさせ、春田を監禁した。彼は同じ部屋に閉じ込められている薫子の命令を受け、携帯電話で第二営業所に連絡する。彼は監禁場所の情報を伝えるが、電池が切れてしまった。薫子が時限爆弾のコードを切断すると、タイムリミットが24時間から10分に短縮されてしまった…。

監督は瑠東東一郎、脚本は徳尾浩司、製作総指揮は早河洋、制作統括は亀山慶二、製作は西新&市川南&佐藤政治&堀義貴&細野義朗&清水厚志、エグゼクティブプロデューサーは佐々木基、Co.エグゼクティブプロデューサーは赤津一彦、チーフプロデューサーは桑田潔、ゼネラルプロデューサーは三輪祐見子、プロデューサーは貴島彩理&村上弓&神馬由季&松野千鶴子、撮影は高野学、映像は高梨剣、照明は坂本心、録音は池谷鉄兵、編集は神崎亜耶、美術は丸山信太郎、衣装は佐久間美緒、音楽は河野伸、主題歌はスキマスイッチ「Revival」。
出演は田中圭、林遣都、吉田鋼太郎、眞島秀和、大塚寧々、沢村一樹、志尊淳、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉、栗田よう子、春海四方、生田智子、桜木健一、木場勝己、ゆいP(おかずクラブ)、水橋研二、真木恵未、藏内秀樹、西村誠治、小玉丈貴、文曄星、羅麗雅、すわいつ都、カナキティ、山本章博、大友義喜、高木悠暉、渋谷宏之郎、堀畑俊介、桑原辰旺、成瀬優和、高山与、宇田恵菜、盛永さくら他。


テレビ朝日系「土曜ナイトドラマ」枠で放送された『おっさんずラブ』の劇場版。
監督の瑠東東一郎、脚本の徳尾浩司は、いずれもTVドラマのスタッフ。
春田役の田中圭、牧役の林遣都、黒澤役の吉田鋼太郎、武川役の眞島秀和、蝶子役の大塚寧々、ちず役の内田理央、栗林役の金子大地、瀬川役の伊藤修子、鉄平役の児嶋一哉らは、ドラマ版のレギュラー。
他に、狸穴を沢村一樹、正義を志尊淳、幸枝を栗田よう子、芳郎を春海四方、志乃を生田智子、速水を桜木健一、五郎を木場勝己、薫子をゆいP(おかずクラブ)、宇航を水橋研二が演じている。

今さら言うまでもないだろうが、『おっさんずラブ』は男たちの恋愛劇を描いた作品だ。だから当然のことながら、この映画版も同性愛を描いている。
しかし、実際にゲイの人が見た場合、素直に楽しむことは難しいかもしれない。まだカミングアウトしている人はともかく、それを隠している人からすると、不愉快に思えるかもしれない。
それは同性愛を笑いにしているからだ。
コメディーだから、笑いを取りに行くのは構わないのよ。ただ、この作品って「ゲイであること」を茶化しているからね。

TVシリーズは春田、牧、黒澤による三角関係を描く恋愛コメディー作品だった。中でも特に黒澤の存在が重要で、「オッサンの黒澤が春田に恋して積極的にアタックする」という部分が肝になっていた。
しかしTVシリーズの最終回で春田と牧がカップルになり、黒澤が恋を諦めたことで、この三角関係には決着が付いている。なので普通に考えれば、映画版では同じことが出来ない。
ただ、前述したように黒澤がキーマンなので、そこは使いたい。
そこで本作品は「記憶喪失になる」という設定を用意し、また「オッサンの黒澤が春田に恋して積極的にアタックする」というパターンを描いている。

しかしTVシリーズと大きく異なる点があって、それは「春田が牧を選ぶことは最初から確定している」ってことだ。
なので、幾ら周囲に「恋のライバル」的なキャラクターを配置したところで、実質的には三角関係が成立しないのだ。
今回は新たに狸穴や正義というキャラを登場させることで相関関係を広げようとしているけど、これも同様だ。
春田と牧は惹かれ合っている関係であり、どれだけ周囲のキャラがワチャワチャしようと関係性は全く揺るがないのだ。

ただし、この映画で一番の問題は、そこではない。東京ベイ・ラピュータ計画を巡るエピソードと、「おっさんずラブ」としての恋愛劇が、まるで上手く絡み合っていないってことだ。
東京ベイ・ラピュータ計画で何が起きようと、それは春田や牧たちの恋愛劇に全く関係が無いことなのだ。
天空不動産で働く面々による恋愛劇だから、仕事の話を絡ませようってのは歪んだことではない。ただ、極端に言うと、仕事関連のエピソードはゼロでも構わないぐらいなんだよね。
だから、そっちはオマケ程度にして軽く触れるだけにして、「その後の春田と牧」を描くことに集中してもいいぐらいなのだ。

正義は花火大会で春田に「自分の気持ちはちゃんと伝えないとダメです」と言った後、両親と兄が3年前に事故死していることを明かす。そして彼は、その日が兄の誕生日だったのに「おめでとう」ではなく「うるせえな」と言ってしまったことへの後悔を吐露する。
ここで感じるのは、「その後悔を語りたいなら、両親の死って要らなくねえか?」ってことだ。
春田に懐いたのも、兄の面影を求めたからでしょ。だったら、「兄は事故死しており、後悔の念がある」という部分だけが重要なわけで。
そこに「一緒に両親も死んでいる」という設定が入ると、その要素は邪魔でしょ。

花火大会の口論のシーンで、牧は「春田さんみたいに、何でもギャーギャー言いたくないんですよ」と告げる。
彼の台詞は、この映画を見事に言い表している。
この映画って、春田を演じる田中圭が、無闇にギャーギャーと騒ぎまくるのだ。彼の大げさな顔芸やリアクションで、全ての心情をバカみたいにアピールしようとする。
それは春田に限らず、黒澤も似たようなモンだ。決して演者の能力が低いわけではなく、そういう芝居をさせているのだ。
これがホント、すんげえ騒がしい。

特に春田の騒がしさは酷くて、不快感さえ催すほどだ。
能天気なコメディー映画だから、繊細な心情表現が無いのは別にいいよ。だけど、主人公が「ただ騒がしいだけのウザい奴」になっているのはダメでしょ。
特に後半、鳳凰山グループへ乗り込んで人質になる辺りの展開における彼の疎ましさは、「死ねばいいのに」と言いたくなるほどだ。
彼の「ちゃんと相手に気持ちを伝えて、誠意を持って話せば分かってくれると思うんです」という台詞は、たぶん牧との関係に重ね合わせようとしているんだろうと思うけど、薫子を人質にとっている鳳凰山グループに対して「話せば分かる」という考え方で何の策も取らず乗り込んでいくのはボンクラが過ぎるし。
っていうか、前述の台詞を牧との関係に重ね合わるってことも出来ていないし。

そもそも、「鳳凰山グループが薫子を人質に取り、時限爆弾をセットする」という展開自体、「そういうの要らないから」と言いたくなる。
「映画だから派手でスケールの大きい展開を」「クライマックスだから見栄えのするアクションを」ってことだったのかもしれないけど、「おっさんたちの恋愛を描くコメディー」とは全くフィットしていないし。
監禁現場に駆け付けた牧と黒澤が春田を巡って言い争う展開を用意して強引に絡み合わせようとしているけど、「そんなことで揉めてる場合じゃねえわ」と言いたくなるし。

(観賞日:2021年4月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会