『きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい』:1988、日本

2月、大学の合格発表の日。高陵学園3年生の春日恭介と鮎川まどかは、結果を確かめるために大学へ向かった。不安を抱く春日恭介に、 まどかは「大丈夫よ、やるだけやったんだもん」と言う。一方の恭介も、同じセリフを彼女に言う。大学の構内を歩いていた恭介は、ある 女子が「先輩、私の出るお芝居、きっと見に来てくださいね」と男に言っている姿を目にした。恭介は、檜山ひかるから言われた「ねえ ダーリン、ぜひぜひ、お芝居、見に来てくださいね」という言葉を思い起こした。

[第一章]
7月、まどかがアルバイトをしている喫茶店ABCB(アバカブ)。模擬試験の結果が悪かった恭介は、後輩である恋人・ひかるから「大丈夫 ですよ」と励まされる。ひかるは「ねえダーリン、ぜひぜひ、お芝居、見に来てくださいね」と言い、芝居のチラシを見せた。卒業生を 送る特別公演で、ABCBのマスターも名作として知っている『ダウンタウン・キャッツ』が上演されるのだ。
今回は劇団季節風にいる高校のOBが演出するのだと、ひかるは語った。上演は来年だが、今からオーディションがあって、役が決まる までテストが繰り返される。そのオーディションに、ひかるは応募したのだ。「時々は練習を見に来て下さいね」と、彼女は言う。そこへ 、まどかが夏期講習会のパンフを持って現れた。ひかるは芝居の話をしようとするが、まどかは「後にしてね」と言い、恭介と夏期講習 のことを話し始める。その様子を、ひかるはカウンターから眺め、チラシを貼るために店の奥へと向かった。
ひかるは劇団の練習に参加し、ダンスレッスンに汗を流した。恭介はまどかと一緒に代々ゼミナールへ行き、夏期講習会の申し込みを 済ませた。ひかるはアイスクリームの差し入れをするため、恭介のマンションへ赴いた。恭介の双子の妹・まなみ&くるみに会った彼女は、 オーディションに受かったことを話す。まなみたちも、翌日にオーディションを控えている。ひかるは持って来た風鈴を恭介の部屋に飾り、 「ダーリンに他に何かしてあげられること無いかなって」と告げると、恭介にキスをした。
翌週、まどかは予備校の前で恭介を待っていたが、授業開始のベルが鳴ったため、中に入った。恭介が遅刻して教室に入ると、まどかが 怒っている。「先週、ひかるが遊びに行ったんだって?」と訊かれ、恭介は「陣中見舞いかな」と言う。まどかは「キスでもしたの?」と 尋ねるが、ひかるから聞いて知っていた。まどかに「ひかる、とっても嬉しそうだったよ。良かったね」と言われ、「何もしてないって」 と恭介は嘘をつく。まどかは「うそつき」と睨んで立ち去り、バイクを走らせた。
夜、恭介はまどかに電話を掛けるが、すぐに切られた。まどかの部屋には、恭介の写真が飾ってあった。翌日、恭介はひかるとデートした。 ファストフード店で、ひかるは「マフラーを編んであげる」と言う。彼女は、まどかが毛糸編みを得意にしていることを語った。もうすぐ お祭りがあるが、今頃になると毎年、何か編み始めるのだという。
ひかるから祭りに誘われた恭介は、「でも……」と困った態度を示す。ひかるは、すぐにハッと気付き「そんな場合じゃないですよね」と 謝った。まどかは自宅で、姉夫婦と話していた。荷物を車に運び込み、姉夫婦は去っていった。恭介とひかるは空に浮かぶ飛行船を眺めた 後、2度目のキスを交わした。夜、まどかは恭介に電話を掛けようとするが、受話器を置き、涙ぐんだ。

[第二章]
恭介の自宅には、友人の小松整司と八田一也が来ていた。勉強のために来たはずだが、2人はエッチ雑誌に夢中だった。彼らは恭介に、 ひかるとの関係を「いいトコまで行ってんだろ」と突っ込んだ。ひかるは芝居の稽古に参加し、休憩中にマフラーを編んだ。恭介はゼミに 行き、授業を受けた。授業の後、恭介は講師から「同じ高校なら、鮎川にテキストを持っていってやれ」と告げられた。この2、3日、 まどかはゼミを休んでいるのだ。
ひかるはまどかの家を訪れ、編み物を教えてもらっていた。まどかは「私の部屋に使いやすい編み棒があるから、持っておいでよ」と言う。 ひかるが編み棒を取りに行った後、まどかはハッと気付いた。ひかるは、恭介の写真を見つけて驚いた。しかし、まどかが部屋に行くと、 驚きを隠して平静を装った。ひかるはまどかに、恭介の誕生日プレゼントとしてマフラーを編んでいることを告げた。
ひかるは浴衣を着て、まどかと土手を歩いた。まどかは「心の底から明るくて、羨ましく思うことがある」と、ひかるに告げた。「春日君 とお祭り、行くの」と訊くまどかに、ひかるは「残念ながら、そんな気分じゃないらしいです」と答えた。「まどかさんも、そうでしょ」 と問われ、まどかは「うん、まあ」と誤魔化した。まどかが自宅に戻ると、恭介が届けたテキストがあった。
夜、まどかは浴衣に着替え、恭介に電話を掛けた。恭介は、泣いている声で、まどかだと気付いた。「私……つまんないことしちゃった。 さっき、浴衣、着ちゃったんだ。気分を変えようと思って。このままじゃあ勉強なんて出来やしないし。それで……バカなことなんだけど、 今日、お祭りだから、行くのはなんだか気が重いし、だからって勉強がはかどるわけじゃないよね」と、まどかは言う。
まどかは「貴方の気持ち分かってたつもりで安心してたから、その気持ちに甘えてた罰かもしれない。今回のひかるのこと」と告げた。 それを聞いた恭介は、「俺、鮎川のこと、好きだよ」と告白する。「春日君、会いたい。……私、そんなに強くないよ」と言われ、恭介は スクーターに乗って彼女の家に急行する。駆けつけた恭介は、まどかを抱き寄せる。まどかは、キスは避けるが、彼の体に寄り掛かった。 「やっぱり、ひかるちゃんのことが?」と恭介が訊くと、まどかは「ひかるのとこは別にいいの。それより、春日君の気持ちの問題なの」 と言う。恭介は「分かった」と言い、決心を固めた。
ひかるが編み物をしていると、恭介から電話が入った。恭介は公園でひかるに会って別れを切り出し、「やっぱり鮎川が好きなんだ」と 打ち明けた。ひかるは「そんなの信じない」と喚き、「先輩がまどかさんのこと好きなの、知ってたもん。知ってたけど、逆転できたと 思ってた。だって先輩、私にキスしたんだもん」と言う。恭介の「ごめん」という言葉で、ひかるは泣き出した。
舞台の稽古に参加しても、ひかるはショックから抜け出せない。名前を呼ばれて舞台に上がるが、恭介のことを思い出して言葉に詰まる。 まなみとくるみが心配すると、「何でもないよ」と明るく装った。ひかるは電話ボックスから恭介に電話を掛け、元気に振舞う。だが、 恭介からは「もう会っちゃいけない。切るよ」と言われた。電話が切れた後、ひかるは電話ボックスで座り込んだ。

[第三章]
別れ話の2日後。恭介とまどかはゼミの授業中、ひかるのことについて筆談する。夜、ビルの展望台に行っても、その話が続く。「ひかる、 納得するわけないよね」と、まどかは呟いた。「ひかるが春日君と仲良くするのは構わないと思っていたけど、キスしたのを嬉しそうに 話すのを見て、我慢できなかった」と彼女は明かし、「自分がこんなに嫉妬深いなんて、知らなかったよ」と言う。「でも俺、やっぱり 鮎川が好きだよ」と恭介が言うと、まどかは「私たち、そろそろ結論を出さなくちゃいけないんだね」と口にした。
恭介が自宅にいると、ひかるから電話が掛かってきた。ひかるは明るく振舞い、「コンサートの切符があるから、気晴らしにどうかと 思って」と誘う。恭介が冷淡に「もう、電話しないでくれる」と言うと、ひかるは泣き出した。恭介は自室に戻り、風鈴を引き千切った。 翌日、ひかるは差し入れを持ってやって来た。恭介が「これから夏期講習なんだ」と言うと、ひかるは「それでまどかさんと一緒に勉強 するんだ。駅まで一緒に行っちゃう。お見送り」と言う。
駅で電車を待つ間、恭介は付いてきたひかるに「いつまで、こういうこと続けるの?」と訊く。すると、ひかるは「先輩が私に振り向いて くれるまで。アタシ、諦められないもん」と悲壮な口調で言う。電車が来たので恭介が乗り込むと、ひかるは「アタシ、主役獲れそう なんです。一生懸命頑張りますから、見に来てください」と告げる。扉が閉まり、電車は動き始めた。
恭介とまどかは夏期講習が終わり、100段階段を歩いていた。来週からは二学期に入る。「今度の日曜日、映画でも行かない?」と、恭介 はまどかを誘った。まどかと別れた恭介が階段を上ると、ひかるが待っていた。恭介が無言で通り過ぎると、ひかるは「無視しないでよ」 と叫ぶ。恭介が「いいかげんにしてくれよ」と怒鳴ると、ひかるは涙をこぼした。
雨の夜、閉店間近のアバカブに、ひかるが現れた。まどかはマスターを先に帰らせ、ひかると2人になった。まどかが「ごめんなさい」と 言うと、ひかるは「まどかさん、何もしないでズルいです。先輩のために何かしましたか。アタシ、先輩のためなら何だって出来ます」と 感情的になった。まどかが「ひかる、私たち、もう3人ではいられないんだね」と言うと、ひかるは無言で店を出た…。

監督は望月智充、原作はまつもと泉、脚本は寺田憲史、企画は藤原正道&布川ゆうじ、企画協力は堀越徹、プロデューサーは河野秀雄& 深草礼子、制作担当は朴谷直治、キャラクターデザインは高田明美、絵コンテは望月智充、作画監督は後藤真砂子、美術監督は三浦智、 撮影監督は金子仁、音響監督は松浦典良、編集は掛須秀一、録音は大塚晴寿&小原吉男、音楽は鷺巣詩郎、音楽プロデューサーは大場龍男。 テーマ曲『あの空を抱きしめて』作詞は和田加奈子、作曲は伊豆田洋之、編曲は白井良明、歌は和田加奈子。
声の出演は古谷徹、鶴ひろみ、原えりこ、富山敬、富沢美智恵、本多知恵子、緒方賢一、屋良有作、難波圭一、龍田直樹、鈴木勝美、 川島千代子、速水奨、山寺宏一、川村万梨阿、丸尾知子ら。


まつもと泉による週刊少年ジャンプ連載の漫画を基にしたTVアニメの劇場版。
原作やTVアニメから離れて、恭介とまどかが大学受験を控えた頃の物語がオリジナル脚本で展開される。
原作では三角関係に決着が付いており、これは三角関係を残したまま終わったTV版の続編という位置付けで作られている。
監督と脚本は、TVシリーズ最終話を担当したコンビ。恭介役の古谷徹、まどか役の鶴ひろみ、ひかる役の原えりこなど、主要な声優陣は TVシリーズと同じ。

原作漫画を読んでいるか、TVシリーズを視聴しているか、いずれかでなければ、この作品に付いていくことは難しい。
TVアニメの映画版というのは大抵、そういうモノだ。TV版のファンに向けて作られており、それ以外の客層は意識していない。
しかし、そういうモノであるはずなのに、なぜか本作品は、ファンから反感を買うような作りになっている。
なぜ反感を買うのかというと、登場人物のキャラクター設定が全く違うのだ。
まず、アバカブで話す恭介とまどかを、ひかるが寂しげに見ているシーンがあるが、その時点で違う。
ひかるなら、恭介がまどかが仲良くしているのを、そんな風に見たりはしない。
その後、恭介がまどかに惚れているのを、ひかるが以前から知っていたという事実が明らかになるが、これも違和感を覚える。

恭介とひかるのキスを知ったまどかが泣くぐらい落ち込み、「貴方の気持ち分かってたつもりで安心してたから」などと言い出すのも 不可解。
恭介がハッキリと告白するのも違和感。
「春日君の気持ちの問題なの」と、まどかが恭介に三角関係の決着を要求するような言葉を言うのも違和感。
優柔不断な恭介が、ひかるにハッキリと別れを宣告するのも違和感。
その後、ひかるに対して徹底的に冷たく振舞う恭介にも違和感。幾ら別れたからって、そこまで冷淡になれないよ、恭介っていう男は。
まどかが、ひかるを押し退けてまで春日と付き合おうとするのも違和感。もちろん嫉妬はするだろうけど、恭介に別れるよう圧力を掛ける ようなことは絶対にしない。ひかるを不幸にしておいて、ラブラブで2人がデートをするのも違和感。

今回のテイストは、ものすごくシリアスだ。一応、まなみ&くるみ、小松&八田がコメディー的に振舞うシーンはあるが、コメディーの 雰囲気は全く醸し出されない。それぐらいシリアスが強い。
そして、ハッピーな雰囲気も全く無い。最後に歩いていく恭介とまどかの表情も、ちっとも幸せそうじゃない。最後は「そして、僕と鮎川 は合格した」というモノローグで終わるが、別に合格しようがしまいが、どっちでもいいよ、そんなことは。
漫画でもTVシリーズでも、終盤の恋愛劇からはコメディー色が抜けていたが、あくまでも「ラブコメの終盤戦」としてのシリアス度に 留まっていた。痛みや辛さに満ちた展開ではなかった。
ラブコメで、救いの無い展開にしてどうするのかと。
「三角関係が引き起こすリアルな痛み」なんて、この作品には要らないのよ。そりゃあシリアスな展開も時にはあったけど、基本的に、 ラブコメなのよ。ドロドロした感情が入り乱れる痛々しい恋愛劇なんて、この作品でやっちゃダメだよ。

とにかく本作品は、ひかるが徹底的に不憫。
恭介にフラれてストーカー化していくが、それも痛々しい。
そんで最終的に、ひかるには何の救いも無い。
エンドロールの後、芝居で喝采を浴びたひかるが演出家に誉められ、楽屋に戻ってカメラに向かって銃を撃つ真似で笑って「バーン」とか 言っても、何も取り戻せないよ。
それで救いになると思ったら大間違い。むしろ、そんな態度が不自然だ。

そして、ひかるを不幸にした恭介とまどかが、とても嫌な奴らに見えてしまう。
ようやく付き合い始めても、全く祝福する気分になれない。実質的には、ひかるが主役で、2人は悪役じゃないかと思うぐらいだ。
メイン両名を祝福する気分になれないような作品を作って、誰が喜ぶんだよ。
シリアスに恋愛劇を描くにしても、こんな祝福できない、ひかるが不幸になるような内容にするなよ。

TVシリーズと大きく異なっていても、これが「原作に近い形で作った」というのなら、話は分かる。
しかし、原作とも大きく異なる。
っていうか、そもそもTVシリーズは、かなり漫画に忠実にやっていた。恭平が「〜なわけで」という『北の国から』の吉岡秀隆みたいな 言葉遣いをするとか、そういう違いはあったが、キャラもテイストも、原作ファンが好感を持てるようになっていたと思う。
この映画は、漫画のファンも、TVシリーズのファンも、どちらも反発したくなるような内容になっている。
TVアニメの延長戦上にある映画として作っておきながら、この内容はどうしたことなのか。
監督と脚本家はTVシリーズにも関わっていたスタッフなのに、どうして、こんな内容にしてしまったんだろうか。理解に苦しむ。
TV版では三角関係に決着を付けなかったから、その後始末をしようってことなのか(TVアニメの最終回は、コミックス16巻の エピソードを基にした話になっている。コミックスは全18巻で完結)。
だとしても、これは無いだろう。

「三角関係に決着を付けるには、これぐらいシビアな態度が無ければダメなんだ」とでも言いたかったのだろうか。
こっちが「あの日(映画が作られなかった頃)に帰りたい」と思うような出来映え。
誰のために作ってるの?
作り手の自己満足やエゴイズムで作品をメチャクチャにするなよ。
あと、超能力が全く使われないのも、どうなのよ。使った結果として、ストーリーに何の影響も与えないとか、役に立たないとか、そう いうことなら別に構わないけど、全く使わないってのはダメだろ。

(観賞日:2009年11月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会