『劇場版 機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-』:1998、日本
地球連合宇宙軍総司令のミスマル・コウイチロウは、テンカワ・アキトと共に亡くなったユリカの墓参りに赴いた。第八番ターミナルコロニー「シラヒメ」はテロリスト集団の襲撃を受け、爆破された。地球連合宇宙軍第三艦隊所属戦艦「アマリリス」艦長を務めるアオイ・ジュンは、ボソンジャンプで出現する巨大ロボットを目撃した。ヒサゴプランの4つのコロニーが連続して破壊されたことを受け、地球連合は臨時総会を開いた。
調査委員会に出席したジュンは目撃した出来事を報告するが、「ボソンジャンプできるロボットは存在しない」と一蹴された。調査委員会と統合軍が事件を合同捜査することになり、宇宙連合軍は蚊帳の外に置かれた。参謀長のムネタケは調査のため、機動戦艦ナデシコBを派遣することにした。艦長のホシノ・ルリは副長の高杉三郎太や副長補佐のハーリーたちと共に、ターミナルコロニー「アマテラス」に到着した。警備責任者のアズマはルリたちを快く思わず、激しい怒りを示した。
コロニー開発公団次官のヤマサキは「臨検」という名目で、ルリを子供たちのヒサゴプラン見学ツアーに同行させた。ハーリーはルリからハッキングを命じられ、アマテラスに公式設計図に無いブロックが存在すること、ボソンジャンプの人体実験が非公式で繰り返されていたことを知った。その直後、アマテラスの非公式データが暴走し、全てのモニターに「OTIKA」という文字が表示された。ボソンジャンプでロボットの「ブラックサレナ」が出現したため、アズマはエステバリス隊「ライオンズシックル」のスバル・リョーコたちにコロニー内と周辺での攻撃を許可した。
ルリは「OTIKA」を逆から読めば「AKITO」だと気付き、それをキーワードに再びハッキングするようハーリーに指示した。ブラックサレナはアマテラスのシステムをハッキングし、13番ゲートを開けた。それは「遺跡」専用搬入口だが、アズマは存在を知らなかった。リョーコがブラックサレナを追って13番ゲートに入ると、ルリが通信して案内を買って出た。アズマの部下として行動していたシンジョウ中佐は反旗を翻し、仲間たちに指示を下した。アズマが「君らは何者だ」と訊くと、シンジョウは「火星の後継者だ」と答えた。
ルリはブラックサレナの搭乗者がアキトだと推理し、リョーコに頼んで回線に強制入力してもらう。ルリが「貴方は何者ですか」と訊くと、アキトは答えずにパスワードを解析してハッチを開けた。アマテラスの中枢部には火星の遺跡であるボソンジャンプのブラックボックスがあり、リョーコは憤りを覚えた。ルリは「ヒサゴプランの正体は、これだったんですね」と漏らし、モニターには「火星の後継者」の指導者である草壁春樹が出現して「それは人類の未来のため」と告げた。
火星の後継者はヒサゴプランを占拠し、アマテラスの爆破を通告した。ルリはハーリーに質問し、データが取れたことを確認した。アキトはリョーコに「お前は関係ない」と言い、早く離脱するよう要求した。そこへ草壁がロボットで現れ、「女の前で死ぬか」とアキトに言い放つ。アキトが憤慨する中、プラックボックスが開いた。すると中にはユリカの姿があり、リョーコは驚愕する。ルリは高杉にリョーコを救出させ、ナデシコBで宙域から離脱した。
ミスマルはルリたちにナデシコCが最終チェック中であることを教え、独立ナデシコ部隊として遺跡奪還の極秘任務に当たるよう要請した。正規の軍人を使わない方針が下され、プロスペクターがルリたちへの協力を引き受けた。まずルリたちはアマノ・ヒカルと会い、搭乗の快諾を得た。プロスペクターはバー「花目子」を訪れ、雇われママをしているマキ・イズミと会った。白鳥ユキナが帰宅すると、ハルカ・ミナトが急用だというメッセージを残して外出していた。怪しんだユキナはジュンに連絡を取り、事情説明を要求した。
ルリはウリバタケ・セイヤの家を訪ねるが、用事で不在だった。彼の妻が妊娠中だと知ったルリは、要件を明かさずに立ち去った。ルリは20人のメンバーを集め、ホウメイが営むレストラン「日々平穏」で昼食を取った。ハーリーが「なぜ昔の仲間が必要なんですか。僕たちだけじゃダメなんですか」と反発すると、ルリは返答しなかった。ハーリーが泣いて飛び出すと、ホウメイは彼が嫉妬しているのだとルリに教えた。ハーリーはミナトと遭遇し、ルリに弟として甘えるよう助言された。
統合平和維持軍は火星の後継者に対し、武力行使を開始した。しかし第十三ターミナルコロニー「サクヤ」攻防戦で、17隻を撃墜された。ヤマサキは仲間たちに、イメージ伝達率98%を達成したことを語った。彼らは自分たちのイメージをジャンプシステムに伝る人間翻訳機として、ユリカを使っていた。システム暴走の原因がユリカの夢にあると突き止めたヤマサキは、少女漫画を使って逆利用したのだ。一方、プロスペクターはゴート・ホーリーのゲームセンターにヒカルを呼び、ブランクを取り戻すためにリョーコと対戦させた。
ハーリーは連合宇宙軍地下ジャンプ実験ドームを訪れ、ナビゲーターを務めるイネス・フレサンジュと共に月へ移動した。ルリとミナトがイネスの墓参りに行くと、アキトの姿があった。ルリはアキトたちが火星の後継者に拉致されていたと悟り、そのことを口にした。草壁は部下を率いて墓地に現れ、アキトを連行しようとする。ルリを見た彼は、ラピス・ラズリと同じなので捕まえろと部下に指示した。ゴートや月臣元一朗たちが現れて包囲すると、草壁はボソンジャンプで姿を消した。
アキトはルリに実験で五感が狂ったことを明かし、ラーメンのレシピを渡して去った。ルリたちはシャトルに搭乗し、地球を飛び立った。ホウメイと共に見送ったプロスペクターはメグミ・レイナードとホウメイガールズを呼び寄せ、別の任務に取り掛かった。シャトルが宇宙に出ると、アララギ大佐の艦隊が護衛に就いた。ボソンジャンプで敵の部隊が出現すると、シャトルはスヒードを上げて突破しようとする。新たな部隊の襲来でシャトルは窮地に陥るが、ジュンやセイヤ、そしてイネスたちを乗せたナデシコCが駆け付けた…。監督は佐藤竜雄、脚本/絵コンテは佐藤竜雄、製作は角川歴彦&大月俊倫、プロデューサーは下地志直、キャラクター原案は麻宮騎亜(『遊撃宇宙戦艦ナデシコ』月刊少年エース連載/角川コミックス・エース刊)、キャラクターデザイン・総作画監督は後藤圭二、メカニックデザインは中原れい&鈴木雅久&武半慎吾&森木靖泰、メカニック原案(TVシリーズ)は明貴美加、メカニックデザイン協力は前田明寿&坂崎忠、カラーコーディネーターは青木弘美&上谷秀夫、美術監督は小山俊久、撮影監督は鳥越一志&金沢章男、音響監督は田中英行、編集は松村正宏、演出は玉田博、作画監督は前田明寿&山岡信一&石井明治&赤堀重雄&堀内修、色指定は青木弘美、音楽は服部隆之、劇中曲 作曲は手塚理、主題歌『Dearest』は松澤由美。
声の出演は南央美、上田祐司(現・うえだゆうじ)、桑島法子、日のり子、林原めぐみ、三石琴乃、山寺宏一、仲間由紀恵、三木眞一郎、伊藤健太郎、高野直子、岡本麻弥、飛田展男、小杉十郎太、小野健一、横山智佐、菊池志穂、長沢美樹、置鮎龍太郎、永島由子、松井菜桜子、森川智之、大谷育江、大塚明夫、松本保典、一城みゆ希、矢島晶子(現・うえちあき)、中川玲、本井えみ、川上とも子、今井由香、安井邦彦、真殿光昭、飯塚昭三、幹本雄之、小川真司、若本規夫、立木文彦、橋本昌也ら。
テレビ東京系で放送されたTVアニメ『機動戦艦ナデシコ』の劇場版。
監督はTVシリーズを手掛けた佐藤竜雄で、脚本も執筆している。
ルリ役の南央美、アキト役の上田祐司(現・うえだゆうじ)、ユリカ役の桑島法子、高杉役の三木眞一郎、アオイ役の伊藤健太郎、メグミ役の高野直子、ハルカ役の岡本麻弥、ウリバタケ役の飛田展男、ゴート役の小杉十郎太、プロスペクター役の小野健一、リョーコ役の横山智佐、ヒカル役の菊池志穂、イズミ役の長沢美樹らは、TVシリーズからの続投。
他に、ハーリーの声を日のり子、ラピスを仲間由紀恵、北辰を山寺宏一、マユミを三石琴乃、ヒサゴンを林原めぐみが担当している。TVシリーズの主人公は、アキトとユリカだった。しかし今回の劇場版では、この両者を脇に回してルリをメインに据えている。ユリカに至っては、ほとんどセリフさえ与えられていない。
ルリはTVシリーズで人気のあったキャラクターなので、メインに据えるのは分からんでもない。ただ、ルリを主人公に据えたのは「TVシリーズではアキトの成長を描けなかったので、ルリ視点で彼を描く」という狙いがあったらしい。
その目的からすると、「まるで結果を出せていない」と断言できる。
この映画を見て「アキトの成長」を感じ取れる観客は、ほとんどいないと思うぞ。
成長を抜きにして「アキトの物語」として捉えても、やっぱり全く足りていないし。TVシリーズは、かなり粗くて慌ただしさの目立つ仕上がりとなっていた。
『新世紀エヴァンゲリオン』に悪い形で影響を受けていたのか、「視聴者を置いてけぼりにしても考察してくれるでしょ」と調子に乗ったのか、情報過多で説明不足になっていた。
また、「駆け足にも程があるだろ」と言いたくなるほど慌ただしい展開にも関わらず、その一方でバランスやさじ加減を無視してギャグを詰め込んでいた。
「仲間が殺された直後、それを無視して登場人物が浮かれポンチな行動を取る」といった演出を平気でやっていた。そんなわけで、TVシリーズはお世辞にも質の高い作品とは言えなかった。だが、それでも人気はあった。だからこそ、この劇場版が製作されたわけだ。
しかしTVシリーズの反省が生かされることは無く、むしろ輪を掛けて粗さと慌ただしさの目立つ仕上がりとなっている。
まず冒頭の「シラヒメ」襲撃シーンからして、何が起きているのか分かりにくい。ヒサゴプランが何なのか良く分からず、「宇宙を巡る大らせん」と軽く語られるだけだ。
なので、「ヒサゴプランの正体はブラックボックスだった」と言われても衝撃もへったくれも無くて、「どういうことか良く分からない」と感じるだけだ。映画の冒頭では、アキトとユリカが死んでいることが示される。しかし、いつ、どういう原因で死んだのかは全く説明されない。
その死を仲間が悲しむシーンも無いので、「実は生きていた」と明かされてもピンと来ない。
TVシリーズのメインキャスト2人が死んでいるのは、ものすごく大きなポイントのはずだ。
にも関わらず、ものすごく雑に「もう死んでいますけど何か?」ってな感じで片付けて、どんどん話を進めているのだ。30分を過ぎた辺りで、ルリが悪夢を見るシーンがある。その夢で、「アキトとユリカとイネスがシャトルの墜落事故で行方不明になった」という新聞記事がチラッと写し出される。
そこでアキトたちが死んだ原因は分かるが、新たに「イネスも行方不明」という情報で明らかになる。
その辺りを断片的な申し訳程度の回想シーンだけで片付けるとか、どんだけ粗いんだよ。
今回の物語において、「アキトたちが事故に遭って死んだ」という出来事は、ものすごく重要なポイントのはずでしょ。ルリたちが旧ナデシコのメンバーを集める過程は、ものすごく雑な描写だし、無駄に手間と時間を掛けている。
そこはテンポ良く畳み掛け、「メンバー再集結」という同窓会的な高揚感を観客に与えるべきだろうに。
しかもメンバーが集まっても、ヌルッと次の展開に進んでしまうし。
あと構成としては、早い段階でメンバーを集結させて「全員でミッションに挑む」ってのをメインで描くか、逆に後半まで引っ張ってメンバーが集合したらクライマックスの戦いに突入するか、どちらかにすべきだろう。
でも本作品では、どっちで考えても中途半端な時間配分になっている。何よりダメなのは、「アキトとユリカが実験台にされて酷い目に遭わされた」という設定にして、2人の周囲から緩和の余地を完全に排除していることだ。
アキトは復讐の鬼と化しているし、ユリカは囚われの身で彫像のような姿になっている。シリアス一辺倒でトゲトゲしく、TVシリーズにおけるアキトとユリカの物語とは全く別物になっている。
劇場版や続編を望んでいたTVシリーズのファンからしても、そういうアキトやユリカが見たかったわけじゃないと思うのよ。
もちろんTVシリーズだってハードでシリアスな部分はあったけど、ここまでアキトとユリカを殺伐とした雰囲気の中に閉じ込めてしまうのは「コレジャナイ感」しか抱けないと思うのよ。(観賞日:2024年7月22日)