『きょうのキラ君』:2017、日本

高校2年生のニノ(岡村ニノン)は、苛められて人と目を合わせるのが怖くなり、前髪を伸ばしていた。ある日、彼女は教室で男子生徒とぶつかってしまう。男子生徒は「雑巾女かよ」と言い、大げさに痛がる芝居をする。ニノが何も言えずにオドオドしていると、男子生徒は「ごめんなさいも言えないのかよ。死ねよ」と告げる。それを見ていたクラスメイトのキラ(吉良ゆいじ)は、冷めた表情のまま男子生徒を殴り倒した。何度も殴り付けたキラは友人たちに制止され、興奮した様子で教室を出て行った。
ニノは屋上へ行き、キラに会う。しかし彼女はキラに歩み寄ったものの、なかなか言葉が出て来ない。キラが立ち去ろうとすると、彼女は「貴方死ぬのか」と咄嗟に告げる。「何言ってんの?意味分かんねえ」とキラは無表情で告げると、その場を後にした。放課後、馴染みのカフェで友人たちと遊んでいたキラは、1人で下校するニノの姿を目撃した。友人たちが「なんか不気味だよね」「視界に入ってこない感じ」とニノを馬鹿にする中で、キラは無言のまま彼女を見つめた。
1人で公園へ出向いたキラは、怪我を負った小鳥を見つけた。その様子を見掛けたニノが木陰から密かに観察していると、キラは小鳥を飛ばそうと「行け、頑張れ」と呼び掛けた。小鳥が飛び立つとキラは「やった。すげえ」と漏らし、「死にたくないな。死にたくない。1人は嫌だ」と泣き出した。ニノは彼に歩み寄り、「あの、私がキラ君に心動かされてる理由が何なのか、最近分かったんです。それは、恋でした。だから、私じゃダメですか」と語る。
ニノはハサミで前髪を切り、「私、365日キラ君と一緒にいます」と告げた。キラが唖然としながら「お前、なんか知ってるの?」と問い掛けると、ニノは慌てて「失礼しました」と走り去った。帰宅したニノは、母・かのんに指摘されて前髪を切ったことを思い出した。ニノが「反省です」と寝室へ駆け込んだので父の隆弘は「もしかして、誰かに虐められたのか」と心配するが、かのんは笑顔で「違うわね。青春の匂いがしたもの」と言う。ニノは飼っているオカメインコのインコ先生に、「ずうずうしいにも程がありますよね」と話し掛けるが、「すげえじゃん。お前」と言われる。
2015年、夏。教室でインコの編みぐるみを作っていたニノは、女子生徒2人に奪われて「鳥女」「気持ち悪い」と馬鹿にされる。するとニノは、「私は気持ち悪いかもしれないけど、鳥は気持ち悪くないです」と声を荒らげた。その様子を見ていたキラは、後でニノに声を掛けた。彼はニノの前髪を上げて、「別に気持ち悪くねえよ」と告げる。キラは「何も言い返せないかと思ってたけど、すげえじゃん、お前」と言い、ニノの額に「たいへんよくできました」と書かれたハート型のシールを貼った。それ以来、ニノはキラに恋心を抱き続け、いつか真っ直ぐに彼を見たいと思っていたのだった。
翌朝、ニノが緊張しながら学校へ向かうとキラが待っており、「おせえよ」と言って歩き出す。ニノが慌てて付いていくと、キラは「お前が言ったんじゃん。365日、一緒にいるって。責任取ってもらう」と告げた。2人が一緒に学校へ行くと、キラの親友である矢部和弘や三上翔太は驚いた。ニノが「おはようございます」と挨拶すると、矢部たちは彼女が誰なのか気付いて変化に戸惑った。キラはニノが動物好きと知り、放課後に動物園へ連れて行く。するとニノは週1で来ていることを明かし、彼を案内しながら詳しく解説した。キラは感心し、「なんか今、かなり楽しいよ」と笑顔で告げた。
ニノはキラと初めてのプリクラを撮り、楽しい気分で帰宅した。しかしキラと一緒に過ごせるのが残り1年だと、ニノは知っていた。キラは心臓病を患い、余命1年と宣告されていたのだ。次の日、キラがニノと一緒に歩いていると、矢作澪という他校の女子生徒が声を掛けて来た。キラはニノについて澪から「彼女?」と訊かれると、「違うよ」と否定した。キラはニノに、澪のことを「病気仲間。小学校の頃から同じ病院に入院してたんだよ」と説明した。澪は露骨な敵対心を示すが、ニノは全く気付かなかった。
登校したニノは矢部からキラと付き合っているのかと問われ、「とんでもないです」と否定した。ニノは矢部にキラの誕生日が11月12日だと教えてもらい、サプライズパーティーを企画する。彼女はクラスメイトに招待状を配り、キラには内緒にしてほしいと頼んだ。ニノはケーキを作るなどして準備を進め、カフェのマスターにも協力を要請した。11月12日、カフェにキラの友人たちが集まり、澪もやって来た。ニノがケーキを用意していることを知った澪は、キラには食事制限があって糖分を控えなければいけないのだと言う。彼女は厳しい口調で指摘するが、ニノは素直に感謝した。そこへキラが登場し、パーティーは大いに盛り上がった。
2次会へ行く途中、キラはニノがいないことに気付いた。友人たちの言葉で、キラはニノがパーティーの準備で頑張っていたことを知る。かのんと遭遇したキラは、「今日はホントにありがとうね。ニノンのために、お誕生日会開いてくれるなんて」と言われて困惑する。ニノも同じ誕生日だと知ったキラは電話を掛けようとするが、番号を知らなかった。彼は友人たちと別れ、ニノを捜索する。ケーキを捨てようとするニノを見つけたキラは、慌てて制止した。
服を脱いだキラは背中のタトゥーをニノに見せ、「中学の時に入れた。ガキの頃から体が弱かったから、そう見られたくないって気持ちだけあってどんどん道間違えて、落ちるトコまで落ちたんだよ」と語った。彼は荒れた生活を送り、主治医や父の幸平にも反抗的な態度を取った。彼は「なんも満たされなかった。誰かと一緒にいても、1人な気がして」と漏らし、「お前が隣に来てから、なんか分かんないけど気が付くと笑ってんだよ。病気のことも忘れられた。1人じゃないって思えた。まだ諦めなくていいかな」と泣きながら語る。ニノは「はい」と大きくうなずき、キラは「お前が好きだ。一緒にいたいんだ」と言うニノが「一緒にいます。365日、ずっと」と告げると、キラは彼女にキスをした。
翌朝、登校したキラはクラスメイトの前でニノを抱き寄せ、「こいつ、俺の彼女になったから。誰も触らないように」と宣言した。キラとニノはクリスマスイヴの夜、デートに出掛けてプレゼントを交換した。終業式を迎えたキラは、「受験シーズンまで、あと1年」という貼り紙に気付いて顔を強張らせた。年が明けてからカフェでキラと会ったニノは、矢部が澪に好意を寄せていることを聞かされる。澪がカフェに現れると、同行していた矢部は忠実な下僕のように振る舞う。澪はキラとニノが付き合い始めたと知り、「有り得ない」と口を尖らせた。
キラがトイレに行っている間に、澪はニノに「もう寝たの?私はもう寝たよ」と言う。上半身裸でポーズを取るキラの写真を見せられたニノは、激しく狼狽して店を飛び出した。後を追い掛けたキラは、「澪とは何でもない。あいつとは戦友だ。あいつもそう思ってるだけだと思う。今の俺にはお前しかいねえだろ」とニノに語る。2人が抱き合ってキスしていると、矢部と澪が現れた。澪が「これで満足。ニノちゃん、ゆいじのこと、よろしくね」と言った直後、キラが発作を起こして倒れた。澪は矢部に救急車を呼ぶよう指示し、ニノも病院まで同行した。
澪は「このぐらいのことだったら、命に関わることじゃないよ」と言うが、病気のことを知らない矢部は動揺する。ニノは澪から「逃げるなら今だよ。ゆいじは体に爆弾を抱えてる。こういうのが日常って思えないと無理。これが現実だから」と言われ、「逃げたくなるようなことがあるかもしれません。でも、逃げません」と泣きながら宣言した。澪はキラが手術を受けないと決めていることを教え、「受けても無事に退院できるとは限らない。上手く行かなかったら、全部終わるんだよ」と話す。意識を取り戻したキラは病室で付き添っている幸平に気付き、ニノと付き合っていることを問われて「やっと生きる意味が見つかったんだ」と口にした…。

監督は川村泰祐、原作は みきもと凜『きょうのキラ君』(講談社「別冊フレンド」刊)、脚本は中川千英子、脚本協力は松田裕子、製作は岡田美穂&村田嘉邦&三宅容介&寺島ヨシキ&鈴木伸育&東城祐司、エグゼクティブプロデューサーは重松圭一、企画・プロデュースは中畠義之&木村元子、プロデューサーは大畑利久&布施等、ラインプロデューサーは渡辺和昌、アソシエイトプロデューサーは宮城希、撮影は金澤賢昌、照明は長谷川誠、録音は小松将人、映像は山下輝良、編集は森下博昭、音楽は富貴晴美。
主題歌「今まで君が泣いた分取り戻そう」[Alexandros] 作詞・作曲:川上洋平、編曲:[Alexandros]。
出演は中川大志、飯豊まりえ、葉山奨之、平祐奈、安田顕、三浦理恵子、岡田浩暉、松嶋亮太、津田寛治、川上洋平[Alexandros]、松本大志、笠松将、高橋直人、星名美雨、春川桃菜、金子大地、小林万里子、遊馬萌弥、赤楚衛二、瀬口美乃、宮城大樹、西條裕美、生越千晴、横山涼、加弥乃、塗木莉緒、テット・ワダ、門田宗大、川合諒、歓修寺保都、高士幸也、高田舟、田代安里、中村太郎、東拓海、渡辺碧斗、石崎日梨、北原帆夏、基村樹利、岬杏、小林瑠璃、税所ひかり、早乙女ゆう、白石聖、田中茉莉香、都丸紗也華、西野凪沙、升澤理子、みゅう、梁川夕輝菜、山田菜子、里於奈ら。
声の出演は高橋茂雄(サバンナ)。


みきもと凜の同名少女漫画を基にした作品。
監督は『L・DK』『海月姫』の川村泰祐。
脚本は『サムライ・ロック』『ザ・ムービー アルスマグナ危機一髪!』中川千英子、脚本監修は『L・DK』『黒崎くんの言いなりになんてならない』の松田裕子。
キラを中川大志、ニノを飯豊まりえ、矢部を葉山奨之、澪を平祐奈、隆弘を安田顕、かのんを三浦理恵子、幸平を岡田浩暉、カフェのマスターを松嶋亮太、心臓外科医を津田寛治が演じており、インコ先生の声を高橋茂雄(サバンナ)が担当している。
主題歌を担当した[Alexandros]の川上洋平が、英語教師役で友情出演している。

映画冒頭、学校の廊下を脇目も振らず走っているニノの姿が写し出される。ところが、途中で教室にカットが切り替わり、彼女が男子生徒とぶつかる様子が描かれる。
「教室に駆け込んだら男子とぶつかった」ということではなく、そこは全く別のシーンなので、どういうことなのかと困惑させられる。
しばらく見ていると、「その男子をキラが殴り倒し、屋上にいる彼の元へ向かうためニノが走っていた」ということが分かる。だけど、そこで時系列を入れ替えて、無駄にややこしくする必要性を全く感じない。そんなの、順番通りに描けばいいことでしょ。
「走るニノ」から始めて勢いを付けたかったのかもしれないけど、デメリットの方が圧倒的にデカいぞ。

キラが男子生徒を殴り倒すシーンには、違和感がある。
これが新入生という設定なら、それも理解できる。だけど高校2年の10月の出来事なのだ。つまり、これまでもニノはイジメを受けていたはずだ。
そのシーンでキラが男子生徒を殴り付けるってことは、今までもニノがイジメを受けていたら同じような行動を取ったはず。
それが分かっていれば、他の生徒はニノをイジメないだろう。どうやらキラは、クラスでも大勢の友達がいる人気者みたいだし。
なので、そのシーンが成立する環境ってのは、どういうことなのか分からない。

「その時に初めて、ニノが虐めを受けている時にキラが相手を殴り付けた」ってことなら、そのシーンが一応は成立する。
ただし、そうなると今度は「なぜ今までは無視していたのに、その時だけ助けたのか」という疑問が生じる。
また、その時まで放置していたとすれば、キラが男子を殴ったのは「単なる気まぐれ」とか「たまたイライラしていたから」ということになってしまい、少なくとも「ニノを助けるヒーロー」ではなくなってしまう。

そんな出来事があった放課後、カフェからキラがニノを見ていると、それに気付いた友人たちは彼女について「なんか不気味だよね」とか「視界に入ってこない感じ」と馬鹿にする。
だけど、こいつらは昼間にキラがニノを助けた様子を見ているはずだよね。
だったら、そこでニノを平然と馬鹿にするのは、ちょっと違和感があるぞ。
キラが気にしている相手と分かったら、ちょっと気にするはずでしょ。あるいは、「あんな女を、なぜ助けたのか」とキラに疑問をぶつけることがあってもいいだろうし。

導入部の時点で、ニノが引っ込み思案な性格であること、イジメの標的になっていることは分かる。ただ、それはあくまでも「表面的な設定としては分かる」というだけであって、キャラクター紹介は全く足りていない。
そこから、しばらく彼女のキャラ設定を伝えるための手順が続くのなら、それは別に構わない。しかし、始まって10分ほどで、キラに告白する展開に到達してしまう。
そうなると、「いやビフォーの描写が少なすぎるわ」と言いたくなる。
「ヒロインの決意や変化」という展開に行く前に、まずは「今までの彼女はどうだったのか」ということを、充分に見せておくべきだろう。

ニノはキラに「私じゃダメですか」と言った時、ハサミで前髪をバッサリと切り落として両目が見えるようにする。
それが彼女にとって、ものすごく意味のある行動だったことは分かる。だけど、「前髪を切ったからって、だから何なのか」と言いたくなるのだ。
本人としては思い切った行動かもしれないが、前髪を切る行為と「365日キラ君と一緒にいる」ってことの関連性がサッパリ分からないのよ。
前髪を切らなかったとしても、ずっとキラと一緒にいることは出来るわけだし。

インコ先生が「すげえじゃん、お前」と言った直後、シーンが切り替わるとニノが教室で女子生徒2人に虐められている姿が写し出される。この時、後ろの黒板には「2015夏セミナー」と書いてあるので、そこに気付けば回想シーンってことは理解できる。
「いっそテロップで2015年と出してしまえばいいんじゃないか」と思ったりはするが、それは置いておこう。
ただ、回想シーンってことが分かっても、「その入り方、そのタイミングで本当に正解なのか」と言いたくなる。
あと、その時点でまだインコ先生が一言しか喋っていないのよね。「ニノが何かある度、先生に相談している」「先生は色んなことを話す」ってことが観客に伝わっていないので、ニノがキラと一緒にいるようになる前に、そこを提示した方がいいんじゃないかと思っちゃうのよね。

キラは女子生徒に言い返したニノを見ると、前髪を上げて「別に気持ち悪くねえよ」「すげえじゃん、お前」と言い、額に「たいへんよくできました」と書かれたハート型のシールを貼る。
「いかにも少女漫画のヒロインが惚れる相手っぽい行動」ではあるし、現実では絶対に有り得ないような行動なのは良しとしよう。ただ、「それにしても」と言いたくなるのは、「ツンデレの描き方が下手すぎやしないか」ってことだ。
そのシーンまでのキラは、ニノに優しさを見せることは皆無だった。初めての優しさがそれなのだが、だとしたら「その時点でニノに対して少なからず恋愛感情を抱いている」ってことでもなきゃ、ちょっと変に思えるのよ。
でも実際には、まだ全く恋心は無いわけで。「実は以前からニノが好きだった」と後で判明するようなことは無いわけで。
そうなると、その行動は、幾ら少女漫画であっても無理があるんじゃないかと思っちゃうのよね。

翌日、キラが「責任取ってもらう」と歩き出すと、「大変です。キラ君が私の隣にいます。至近距離にいるキラ君は、遠くから見てるよりずっと背が高くて、キラキラしています」というモノローグが入る。
そのタイミングで初めてのモノローグって、どういうことなのよ。ニノは先生に語り掛けるだけじゃなくて、モノローグで心情を説明することもやるのかよ。
だったら、もっと早い段階から「この映画ではモノローグも入りますよ」ってことを示しておいた方がいい。そこが一発目ってのは、タイミングとして遅すぎる。
っていうか先生の存在にしろモノローグにしろ、ほとんど使われないし、途中で忘れ去られるんだよね。だったら、完全にゼロにした方がいいよ。

動物園デートからニノが帰宅して自室でいる様子の後、両親がキラについて「心臓の病気ですって」「あと1年か」と話している様子が挿入される。
この会話が、いつのことなのかがサッパリ分からない。
導入部でニノが「貴方死ぬのか」と言っているので、たぶん「彼女は以前に両親の会話を盗み聞きして、キラの病気を知ってしまった」ってことなんじゃないかとは思う。ただ、それを上手く伝えることが出来ていないのだ。その両親の会話が回想シーンなのかどうかさえ、ボンヤリしているぐらいなんだから。
あと、なぜ両親はキラの病気について知っているのか。それもサッパリ分からんぞ。
あと、帰宅したニノの様子を写し出した後、「両親の会話シーン」「再びニノが自室でいるシーン」と来て、「デートの帰り道にキラとニノが喋るシーン」と配置するのは、どう考えても順番がおかしいだろ。

キラはニノに、澪のことを「病気仲間」「小学校の頃から同じ病院に入院してたんだよ」と説明する。
しかし、彼は病気のことをニノに明かしていないのに、そういう説明をするのは違和感がある。
そんなことを言ったら、普通は「どういう病気だったのか」「今でも病気なのか」と質問されても仕方がない。ニノに全てを打ち明けるつもりがあるなら別にいいけど、そうじゃない様子だ。
だったら、そこでの説明は不可解だ。心臓病について話したくないのなら、病気で入院していたことも出来る限り隠したがるんじゃないかと。

ニノがキラの誕生パーティーを企画すると、みんなが参加してくれる。
だけど、つい最近まで馬鹿にしていた奴の企画なのに、そんなに簡単に乗っちゃうのは不自然だよ。
そりゃあキラは一緒に過ごすようになっているかもしれないけど、それを仲間が全面的に受け入れていることからして違和感があるし。矢部はともかく、女友達は嫌悪感を抱いたり「キラに近付くな」と脅したりしてもいいんじゃないかと思うぐらいなのに。
あと、澪がパーティーに来るのも不自然だよ。まず、どうやって連絡先を知ったのか。矢部たちは知らないはずでしょ。
あと、なぜクラスメイト以外で、澪だけは呼ぶことにしたのかも分からないし。

キラはニノが同じ誕生日だと知って連絡しようとするが、電話番号が分からないので町を歩いて捜索する。その途中「なんだよ、あいつ。誕生日って、なんで言わねえんだよ」というモノローグが入る。
まずモノローグが邪魔。そして、そのシーンの演出も違和感がある。
そこを盛り上げようとしているのは分かるんだけど、そういう空気にまで高まっていない。色んな作業を飛ばして段取りを慌ただしく処理しているせいで、観客の気持ちが充分に温まっておらず、演出に乗れないのだ。
そこまでの流れや内容からすると、「キラがニノの頑張りを知り、連絡先さえ知らない自分に愕然とする」ってのは、後半じゃないとキツいようなシーンになっている。

話の流れを考えると、まずは「ニノが暗くてクラスメイトから虐められている」「キラは友人が多いが、どこか陰がある」というキャラ紹介が必要だ。
それから、「ニノがキラに接近しようとする」「最初は敬遠したキラだが、一緒にいることを承知する」という手順になる。
続いて、「キラは一緒にいることを承知したけど、ニノを受け入れようとはしない」というトコから、「でもニノと一緒にいる内に、自然と楽しい気持ちになる」という流れに入る。そして「キラがニノと正式に交際することを決める」という展開へ繋がるべきだろう。
それら全ての手順が雑で薄っぺらいので、そりゃあ心に響くモノなんか無いさ。

キラはケーキを捨てようとしたニノを見つけると、いきなり服を脱いで背中のタトゥーを見せる。
その直前に箱を開けてケーキを見るので、てっきり「糖質制限があるのにケーキを食べる」という無茶な行動にでも出るのかと思ったら、予想の斜め上を行く行動だった。
だけど、「そのタイミングで、なぜタトゥーを見せるのか」と言いたくなるぞ。
っていうか、心臓病なのに大きなタトゥーは入れるし、普通に動き回っているし、ちっとも病気らしくないよな、こいつ。
あと、中学で不良になった彼が、なぜ高校生になったら足を洗ったのか、そこはサッパリ分からんぞ。

キラはニノに荒れた生活を送っていたことを明かした後、「だからあと1年って言われた俺の人生、楽しいことなんか何にも無い。ただこのまま死んでいくだけなんだって、そう思ってた」と話す。
だけど、まだ彼はニノに「実は心臓病で余命1年と言われている」ってことを打ち明けていないのよね。
その状況で、いきなり「だからあと1年って言われた俺の人生」と言われても、「いや、どういうことだか」ってことになるでしょ。
たまたまニノは知っていたけど、そこは明らかにキラが会話に必要な手順を飛ばしているぞ。

澪は恋のライバルとして登場させたのかと思ったら、あっという間に解決する問題を起こすためだけの役割だった。
彼女がキラと寝たという嘘をつくとニノは動揺するが、すぐにキラから話を聞いて納得する。それ以降、澪は2人の関係を壊すための行動なんて全く取らない。何しろ、直後にキラが倒れて入院しちゃうので、それどころじゃなくなるしね。
じゃあ何のために登場したのかというと、キラとニノにキスさせるためである。ニノが「私だってヤキモチぐらい焼きます」と言い、キラが「かわいすぎだろ」と漏らしてから「チュー、していいっすか」と問い掛けてキスに至るシーンをやるための道具である。
だけど、「その程度のキャラなら要らんわ」と言いたくなるし、キスシーンも含めてカットでいいわ。
まあ澪に限らず、脇のキャラは誰一人として活かされていないけど。
少女漫画の映画化が失敗する時って、そういう状態に陥るケースが多いんだよね。

映画開始から1時間ほど経過したところで、初めてキラが発作を起こして倒れる。ここで彼は病院に運ばれるが、すぐに退院して普通の生活に戻る。
なので、実は「キラは心臓病で、いつ発作を起こすか分からない」ってのは、恋愛の障害としては、ほとんど機能していない。
そのままだと以降の展開が平板になってしまう恐れがあるので、新たな障害として「ニノの両親の反対」という要素を持ち込む。
だけど、もう残り30分程度なので、タイミングが遅すぎるとしか感じない。しかも、大した障害になっていないし。

キラと連絡が取れなくなってニノたちが捜索を開始すると、澪が「彼は何かあると亡き母の墓参りに行っていた」という情報を教える。ここで矢部が不自然に存在感をアピールし、「俺に行かしてくんないか。ここは俺に任せてよ」とニノに言う。
どう考えたってヒロインを動かすべきなのに、矢部は「キラと話したいことあるんだよ」と告げる。
そして矢部が走り出すと、陰気なオタクだった彼がキラと友達になった時の回想シーンが挿入される。
これまたタイミングが遅すぎるし、そんなの今さら入れなくてもいいよ。

なんでクライマックスで、いきなり「友情ドラマ」で盛り上げようとすんのよ。
そこは絶対にキラとニノの関係で盛り上げるべきだろ。
どうせ矢部なんて全く活用できていないんだから、そこでリカバリーしようとしても焼け石に水だし、邪魔なだけだわ。
そこまではニノを「キラのために頑張って行動する」というキャラにしていたのに、クライマックスで「手はずを整えてくれる周囲の面々に動かされるだけのお姫様」になっちゃうのも全く賛同できないし。

(観賞日:2018年7月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会