『今日、恋をはじめます』:2012、日本

15歳の日比野つばきは、代々続く写真館の娘である。古い母屋に、父の庄一郎、母の節子、妹のさくらと4人で暮らしている。さくらは可愛くてオシャレで、ちょっとお調子者だ。それに比べて、つばきは地味で何の取り柄も無い。つばきはアガリ症で受験に失敗し、滑り止めの明慶高校へ通うことになった。入学式の朝、節子は「頭はいいんだから、大学ぐらいはいいトコ出とかないと」と笑顔で告げ、つばきも笑顔で「分かった」と答える。
明慶高校に向かったつばきは、他の生徒たちがオシャレな格好をしていることに困惑し、「みんな遊びに来てるの?」と心で呟く。周りに惑わされてはいけないと考えて校舎へ向かおうとした彼女は、椿京汰という同級生とぶつかった。京汰からダサい見た目をバカにされ、つばきは腹を立てる。京汰は入学前から噂になっていた有名人らしく、女子高生たちが彼に気付いて駆け寄って来た。携帯番号を教えてほしいとせがまれた京汰は、肩に腕を回して「いいよ」と軽く告げた。
入学式で新入生代表の挨拶に指名されたのが京汰だったので、つばきは驚いた。代表ということは、入試成績がトップということなのだ。京汰が登壇すると、熱烈ファンの有砂、美咲、香奈が立ち上がって声援を送った。京汰は「適当に過ごして、適当に楽しくやるんで、まあよろしく」と軽薄な調子で挨拶を終わらせるが、女子生徒たちは「ステキ」「カッコイイ」と歓声を上げた。だが、つばきには京汰がカッコイイとは全く思えなかった。
つばきは教室で一番後ろの席になり、「後ろだから目立たない」と安堵する。しかし隣の席になったのは京汰で、つばきの格好をバカにする。つばきは耐え切れなくなり、ハサミを取り出して「これ以上、からかうんだったら、ホントにその髪、バサッと行きますから」と怯えながら脅した。すると香奈が歩み寄り、「京ちゃんに手え出したらマジで許さないから」と凄んだ。有砂がハサミを取り上げてつばきの髪を切ろうとすると、京汰は「悪い、今日からさ、こいつ、俺の女にする」と宣言する。
つばきはクラスメイトがいる前で京汰にキスされ、ショックで教室を飛び出した。つばきは大切なファーストキスを奪われた上、次の日から完全にクラスメイトのからかいの的にされた。春祭の実行委員を決める際には、美咲がつばきを推薦した。すぐに京汰が立候補し、2人で実行委員をやることになった。しかし実際に話し合いが始まると京汰は居眠りし、つばきが一人で進行する羽目になった。
有砂たちは非協力的な態度を取り、さっさと帰ろうとする。つばきが困っていると京汰が手招きし、「デートした下さいって俺にお願いすれば、俺もお前のことを助けてやる」と言う。もちろん拒否したつばきだが、「ウチのクラスだけ出さないってことになると、実行委員の責任になっちまうなあ」と脅しを掛けられ、仕方なく承諾した。京汰はクラスメイトに事細かく指示を出し、一挙に問題を解決して全員の気持ちを簡単にまとめてしまった。
クラスメイトが京汰の意見を受け入れてノリノリになっている様子を見て、つばきは「自分なんて要らないのでは」と考える。すると京汰は女子全員に浴衣の着用を提案し、つばきの肩を抱いて「この女が全員の着付けを担当するから」と告げた。「浴衣の着付けなんか」とつばきが断ろうとすると、京汰は「出来なくても覚えろ。役に立てよ、少しは」と述べた。下校時、つばきは京汰から「俺に惚れてるだろ。俺の女になって良かったって思ってるだろ」と自信満々に言われ、「貴方の女になんかなったつもりはありません」と反発した。
京汰からキスのことを言われると、つばきは「あんなのはキスじゃない。キスっていうのは、ちゃんとお互い好きになって、そういう人とするもので。一生添い遂げると決めた人とするもので」と語った。春祭当日、つばきは着付けを済ませた後、クラスメイトの市倉深歩の髪をアレンジして喜ばれる。つばきの元へやって来た京汰は親友の西希からナンパに誘われるが、「今日はパスするわ。こいつのフォローで色々あるしな」と断った。
コスプレのコーナーで着替えたさくらが遊びに来ると、西希は心を奪われる。だが、さくらは京汰に一目惚れし、彼を連れ出した。日が暮れた後、つばきが一人で片付けをしていると、京汰がやって来た。他人の写真ばかり撮影していたことを京汰に指摘されると、彼女は「目立つのは嫌いで、人をキレイにしてあげる方が好き」と告げた。つばきはロンゲの京汰に「絶対に、もっと似合う髪型があるはず。カッコ良くしてあげるから」と言い、半ば強引に椅子へ座らせた。
つばきは髪を切りながら、「色々とありがとうね。椿君のおかげで、私にも友達が出来たみたい」と礼を述べた。完成して「こっちの方がずっと似合ってるよ」とつばきが言うと、京汰はキスをしようとする。しかし、つばきが「本気なの?」と尋ねると、少し戸惑ってから「本気で遊んでんだ、バカ」と答えた。京汰が「お前なんかに本気で本気になるわけねえだろ」と言うので、つばきは「分かってる」と口にした。京汰は「今日はお前のフォローで何も出来ねえし。埋め合わせはデートでしてもらうからな」と告げた。
つばきは妹に服を借りようとするが、結局はいつも通りのダサい格好で待ち合わせ場所へ赴いた。京汰はエロい映画を見に行こうとするが、つばきが強引に動物園へ連れて行く。京汰は「やっぱその格好、デートにはどうかと思うぜ」と言い、つばきの服を買いに行く。京汰は彼女を着替えさせ、仲のいい美容師の花野井にヘアメイクもしてもらった。彼はつばきを鏡の前に立たせ、オシャレな姿を見せた。
京汰がつばきを案内したカラオケボックスは、室内がプラネタリウムのようになっていた。つばきが見覚えのある星座を口にすると、京汰は間違いを指摘して詳しく説明する。つばきに「星とか好きなの?」と訊かれた彼は「ガキの頃、天体望遠鏡をプレゼントされて」と話すが、それ以上のことは喋ろうとしなかった。京汰に押し倒されたつばきは、「これが目的だったの?」と涙をこぼす。つばきは腹を立てて彼を非難し、部屋を飛び出した。
次の日、教室に一人でいたつばきは、京汰の机に星座の本が入っているのを見つけた。つばきが本を開いていると、京汰がやって来た。彼が「何なら昨日の続き」と軽い調子で触れて来るので、つばきは振り払って拒絶する。京汰は「そんなに嫌いか。分かった、もうお前のこと、からかうのはやめる」と言い、中学の時から西希と「クラスで最も真面目な女子を落とせるか」という賭けをして遊んでいるのだと語った。「お前は結婚までやらせてくれない女だって分かったし、今回は俺の負けでいいや」と言い、彼は教室を去った。
つばきが帰宅すると、京汰に買ってもらった服が消えていた。さくらは勝手にその服を着て、京汰がアルバイトしているレストランへ行く。さくらが勉強を教えてほしいとせがんでいると、西希が来て「勉強なら俺が」と名乗り出る。京汰が断っても、さくらは諦めずに頼む。京汰はつばきが外から様子を窺っているのに気付いた。しかし、つばきは京汰の視線に気付くと、逃げるように去る。京汰が追って「俺に会いに来たんだろ」と言うと、つばきは「私はあの服を取り返しに来ただけで」と説明した。「そんなに大切にしてるんだ」と京汰は笑みを浮かべ、自分と西希、つばき、さくらの4人で勉強会を開くので家へ来るよう一方的に告げて立ち去った。
つばきは京汰の家を訪れ、彼の父である圭汰に挨拶した。圭汰は「あいつが女の子を連れて来るなんて珍しいんですよ」と言い、仕事で出掛けた。つばきが京汰の部屋へ行くと、宇宙工学の本が置いてあった。西希はつばきとさくらに、「こいつ昔から宇宙が好きでさ、東大の理一目指してるんだ」と教えた。さくらが「勉強会、今日だけじゃ足りないよ。勉強合宿しようよ」と言い出すと、西希は賛同する。西希は京汰に、「伊豆に爺ちゃんの別荘あんだろ。夏休み、このメンツで集まって泊まりに行くってどうよ」と持ち掛けた。
夏休み、4人は伊豆を訪れるが、つばき以外の3人は遊んでばかりだった。京汰はビーチに来てまで恥ずかしがっているつばきを誘い、4人で一緒に遊んだ。つばきはさくらと2人になった時、「京汰さんから部屋に呼ばれちゃった」と打ち明けられて動揺する。だが、彼女が浜辺にいると、京汰が現れた。つばきが「さくらと一緒じゃないの?」と尋ねると、彼は「一緒にいるのは西希。どうしてもお前の妹と2人きりになりたいって言うから、部屋貸してやっただけ」と答えた。
つばきは急いで別荘へ戻り、西希がさくらとキスしようとしている現場へ飛び込んで「妹に手え出さないで」と叫んだ。だが、さくらに「邪魔しないでよ。さくらの方から誘ったんだよ」と言われてしまう。さくらは西希を部屋から去らせた後、困惑するつばきに「京汰さんは顔が好みだけど、西希は優しいからキープするのにいいかなって」と屈託の無い笑顔で語る。部屋の外で盗み聞きしていた西希は落胆した。つばきは「人の気持ちを弄ぶのは、一番ダメな人間がすることだよ」と妹を叱った。
さくらは真剣に怒る姉に戸惑い、小さく笑いながら「お姉ちゃんに関係なくない?」と言う。つばきは「関係あるよ」と言い返し、少し間を置いてから「ホントは、椿君が好きなんだもん」と明かした。すると、さくらは「分かったよ、京汰さんはお姉ちゃんに譲る。まだ分かんないの?私も京汰さんに振られたんだよ。でもいいんだ。さくらも愛するより愛されたい派だし」と明るく話し、京汰に堂々と告白するよう背中を押した。
その夜、つばきは京汰の祖父が道楽で作ったという天文台で、彼と2人きりになった。京汰はつばきを後ろから抱き締めるが、「ダメだな。もうお前に手え出さないって決めたのにな」と告げて離れた。「知ってるか、来年のクリスマス・イヴにこぐま座流星群が来るって話。ここに来て一緒に見ようぜ。約束な。絶対にお前のこと連れて来てやるからな」と彼が言うと、つばきは「約束だね」と微笑した。
つばきは自分から京汰に歩み寄り、「手、出してもいいよ。私、椿君が好きだから」と思い切って言う。ところが、京汰は冷淡な態度で「お前でもそんなこと言うんだな。同じだな」と吐き捨て、その場を立ち去った。訳が分からないまま、つばきの夏休みが終わった。京汰に振られたと感じた彼女は、傷心の中で2学期を迎えた。学校が始まっても、京汰の冷たい態度は変わらなかった。つばきは西希から、京汰の母・京香が男を作ったこと、8歳の誕生日に家出したこと、「愛してる」や「好き」と言われると母のことを思い出すので禁句になっていること、女は自分を裏切るものだと決め付けていることを聞かされる…。

監督は古澤健、原作は水波風南『今日、恋をはじめます』(小学館『Sho-Comi』フラワーコミックス刊)、脚本は浅野妙子、プロデューサーは武田吉孝&幾野明子&渡邉義行、企画プロデュースは平野隆&森川真行、エグゼクティブプロデューサーは田代秀樹、撮影は喜久村徳章、照明は関輝久、美術は丸尾知行&小林亜妃、録音は小原善哉、編集は張本征冶、VFXスーパーバイザーは菅原悦史、音楽プロデューサーは溝口大悟、音楽はFlying Pan。
出演は武井咲、松坂桃李、木村文乃、山崎賢人、新川優愛、高梨臨、村上弘明、麻生祐未、高岡早紀、長谷川初範、青柳翔、ドーキンズ英里奈、藤原令子、上遠野太洸、山谷花純、山崎紘菜、江田結香、岩崎名美、津島穣司、瑛蓮、牧田哲也、小橋川よしと、西田有沙、KENTA、倉崎由衣、近藤真彩、三橋奈波、古結塔子、葉山奨之、清水元揮、佐伯聖羅、関修人、高橋真夏、中山聖也、坂元秀平、岡城也、本庄雅行、嶋竜輝、岡田佑介、岸村ユウスケ、當間マルコス、根岸麻里奈、うえきみゆ、野田一馬、金子りえ、真菜、森田梨沙、山崎竜太郎(子役)、石田竜輝(子役)ら。


水波風南の同名漫画を基にした作品。
監督は『アベックパンチ』『アナザー Another』の古澤健、脚本は『大奥』『ICHI』の浅野妙子。
つばきを武井咲、京汰を松坂桃李、京汰の中学時代の恋人・菜奈を木村文乃、西希を山崎賢人、さくらを新川優愛、有砂を高梨臨、圭汰を村上弘明、節子を麻生祐未、京香を高岡早紀、庄一郎を長谷川初範、花野井を青柳翔、美咲をドーキンズ英里奈、香奈を藤原令子、深歩を山谷花純が演じている。

「ヒロインが冴えない非モテ女で、傲慢で身勝手な男と出会って腹を立てる。だが、やがて惹かれるようになっていき、一方で男の方も本気で彼女を好きになっていく」という、少女漫画としては、とてもベタなパターンを使った物語である。
そういう性格に問題のある不愉快な男がヒロインのハートを掴んでしまうってのは、モテない男からすると承服し難い部分もあるのだが、それが現実だから仕方がない。
これの原作は少女漫画だが、それを読む女子が求める男が、そういうタイプってことなのだ。
だからホストクラブでもオラオラ系がモテたりするわけよ。

これ、男女を入れ替えて、少年漫画で考えてみると、モテない男でも納得できるかもしれない。
「主人公が冴えない非モテ男で、生意気で自由奔放と出会って腹を立てる。その女に振り回されたり翻弄されたりして不愉快な思いもするが、次第に惹かれて行く。一方で女の方も、男に本気で好意を抱くようになっていく」という少年漫画の恋愛物があったとして、何となく分かるでしょ。
古臭いっちゃあ古臭いパターンではあるけど、いつまで経っても廃れない王道ってことでもあるのだ。

なので、ベタベタのパターンを使った古臭さを感じるプロットであっても、「だからダメな作品」と確定するわけではない。重要なのは、どのように飾り付けるか、どのように膨らませるか、どのように調理するかということだ。
その部分で、この映画は工夫が見えない。
根本の物語に新鮮味という部分で力が不足している以上、カメラワークや映像に凝ったり、キャラ造形に特徴を付けたり、細かいエピソードで面白さを出したり、何かしらの工夫が必要なはずなのに、ベタな話を陳腐に描いているだけだ。
映像表現に関しては、黒いシロクマの絵が出て来るとか、つばきの妄想を映像化するといった演出が見られるが、それが映画の魅力に繋がっているわけではないしなあ。

っていうか、もはや「オーソドックスで使い古された恋愛劇」という基本的な部分さえ、ちゃんとした形で描き出すことが出来ていない。
まず序盤で感じるのが慌ただしさで、「つばきがいかに真面目しか取り柄が無いダサダサ女であるか」「京汰がいかにモテモテで頭がキレる万能男であるか」という描写が不足したままで物語を先へ進めて行ってしまう。
一応、「話を進めながらキャラ描写もしていこう」ということではあるんだが、キャラ描写が不充分な状態で話を進めることで問題が生じている。

映画開始から、まだ10分ほどしか経過していない辺り、春祭の話し合いで京汰が指示を出した途端、クラスメイトが男子も女子も同意して話し合いに前向きな態度を取るという展開がある。
その際、つばきが「なんでみんな、こいつには掌を返したように(言うことを素直に聞くのか?)」と違和感を覚えるのだが、それと同じ気持ちが沸いてしまう。
「なぜ京汰がそんなに人気者なのか」というところに、納得のいく説明が無いのだ。みんなが京汰に従うことろに説得力を感じるほど、こいつが魅力的な奴には見えない。
女子はともかくとして、男子もモテモテで偉そうな京汰を妬んだり反発したりする奴が一人にもいないんだよな。
まだ入学してから間もない時期で、中学からの知り合いはともかく、基本的にはゼロから人間関係を作り上げて行く段階なのに、もう京汰は「クラスの人気者」としてのポジションを完全に確立しているのだが、「いや全く分からんわ」というのが正直なところだ。
そもそも「女子からモテモテ」という部分にしたって、「だって演じているのが松坂桃李だから」という部分に全面的に頼っているからね。

簡単に言うと、春祭の準備に入るのが早すぎるってことだ。
その前に、つばきと京汰のキャラクター造形、その周辺にいる仲間たちのキャラクター紹介、相関関係の説明、つばきが京汰に恋人宣言されてからの2人の関係性の変化、それに伴うクラスメイトの態度の変化、そういった部分の描写に、もう少し時間を割いた方が良かった。
春祭の準備をする中で、そういうことを描写していくという方法もなくはないけど、それも出来ておらず、短いダイジェスト処理を経て、あっという間に春祭が訪れちゃうんだし。
そのせいで、生徒たちの名前は、ほとんど分からない。いつの間にか、つばきには親しいメンツが出来ている。京汰との一件でクラスからからかいの的になっていたはずなのに、どういう経緯で普通に仲良くできる関係の相手が出来たのかは全く分からない。
着物の着付けを担当することになったつばきだが、女子からは京汰のことで嫌われているはずだから嫌がらせや拒絶があっても不思議じゃないのに、そういう様子が全く見られないってのも引っ掛かるし。

つばきは春祭で深歩の髪をパパッとアレンジして喜ばれ、メアドの交換を持ち掛けられる。
そこは「つばきは真面目が取り柄だけでなく、他人をオシャレにする才能がある」ということを示す重要なシーンのはずなんだけど、サラッと軽く処理されている。
あと、つばきが着物の着付けを覚える経緯は全く描かれていないのね。最初から知ってたのかもしれないけど、だとすれば「最初から知っていた」という描写が必要なはずだし。
その春祭のシーンで、つばきは「絶対に、もっと似合う髪型があるはず。カッコ良くしてあげるから」と自信満々に言い、京汰を椅子に座らせて髪を切る。
なんか、急激にキャラが変化しているという印象を受ける。つばきって、そんなに積極的に行動するタイプなのか。
「なるべく目立たないように」と自分でも言ってるんだから、ってことは何事にも消極的であるべきだろうに、それって目立つ行動だろ。
だったら「何かのきっかけで積極的に」とか「次第に変化していく」という手順が必要なはずなのに、そういうのは無いのよね。

つばきが髪を切った後に京汰からキスを迫られて「本気なの?」と訊くってことは、もう彼に対して恋心を抱いているという解釈になる。
だけど、いつ頃から、どういうところに惹かれるようになったのかはサッパリ分からない。
何しろ、京汰に対する拒絶姿勢を示している様子があった後、春祭準備のダイジェスト処理があって、もう春祭になっているのだ。
だとすると、「春祭で一気に気持ちがマイナスからプラスへと変化した」ということなのか、「春祭の準備中に少しずつ気持ちが変化していった」ということなのか、どちらかだろうけど、どっちにしても、つばきの心情変化は全く描かれていない。
一方で、京汰の態度からすると、彼もつばきに本気で惹かれるようになっているようだが、それも「いつ頃から心情が変化したのか」ってのはサッパリ分からない。

「中学の頃からガリ勉で浮いた存在だった」と本人も認めているつばきが、性格や行動の部分で明るく前向きになり、それに伴って友達が出来るようになる、という流れは、まるで描写できていない。
その友達ってのは深歩のことだが、着付けのシーンで初めて存在が明らかになるような扱いで(それまでのシーンでも登場していたのかもしれないが、たぶんセリフは無いはずだし、印象にも無い)、そこも描写が足りないと感じるし。
全ての面において描写が足りていないのは、詰め込み過ぎで処理能力を超過しているからだろう。
その後も色々とあるけど、いちいち細かく批評していくのが面倒になるぐらい、序盤からの印象は何も変わらない。
メインの男女に魅力を感じないし(それどころか後半に入ると、つばきがウザい女に見えてくる)、脇役のメンツを充分に活用できていないし、ストーリー展開は粗くて慌ただしいし、1つ1つのエピソードは薄いし、映像や編集に面白味があるわけでもない。
ザックリと言うならば、つまらない映画なのだ。
出演者の熱烈なファンでもない限り、この映画を最後まで楽しんで観賞することは困難だろう。むしろ、忍耐が必要になる可能性もある。

せめて、欲張って全てを盛り込もうとせず、高校1年の2学期、つまり「つばきが京汰に改めて告白し、京汰も心を開いて両想いに」というところをラストに持って来るぐらいの構成にしておけば、時間的には余裕が出来て、質が改善できた可能性もあるんじゃないかなあ。
前述したように色々と問題は多い映画だけど、一番の問題は「内容量に対して上映時間が全く足りていない」ってことなのでね。
もちろん、時間に余裕があっても、それだけで面白い物語が仕上がるという保証は無い。もしも「大人の事情で用意された12曲のテーマソングを劇中で流す」という縛りがある企画だったとすれば、どうしようもないし。
それが映画を盛り上げる道具として使われるのではなく、むしろ「12曲ものテーマソング挿入を強いられたせいでドラマが薄っぺらくなる」というマイナス方向に作用しているのでね。

(観賞日:2014年4月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会