『狂い咲きサンダーロード』:1980、日本

幻の街サンダーロード。街中の暴走族のリーダーたちは、「ストリートファイアー」に集まって幹部会を開いた。久米が会合を仕切り、 全てのグループを解散する話し合いが行われた。それは警察からの圧力を受けてのことだった。“魔墓呂死”特攻隊長の仁は覆面を顔を 隠し、仲間を引き連れてストリートファイアーに乗り込んだ。彼らは幹部たちをメッタ打ちにするが、さすがに“魔墓呂死”のリーダーで ある健にだけは手を出さなかった。
魔墓呂死の溜まり場である店「クロコダイル」に現れた健は、族の連中に解散が決まったことを告げる。「これからはエルボー連合の一員 として、幹部会の決定に従って動いてもらいたい」と話していると、仁と彼の仲間である忠、幸男、英二が現れた。仁は健に向かって 「恥ずかしくねえのかよ。俺は承知した覚えねえよ」と言い放ち、「今日から俺が新しい魔墓呂死の頭だ。今日からお前ら全員、敵だ」と 宣言する。彼は可愛がっている弟分の茂も誘い、店を出て行った。
他のメンバーが去った後も、健は店に残った。彼が暴走族を辞めると決めたのは、そこで働く恋人の典子と穏やかな生活を送るためだった 。サンダーロードの暴走族はバトルロイヤル広場に集まり、久米たちは「平和的に手を組み、愛される暴走族になろう」と呼び掛けた。 しかし、襲撃を受けた際に健だけが無傷だったこともあり、「そっちが笛を吹いても簡単に踊れない」と反発が出た。
健たちがクロコダイルに戻って対策を考えていると、8年前に“魔墓呂死”を作った剛が現れた。彼は右翼団体のリーダーになっていた。 仁たちの行動に弱っていることを健が語ると、剛は「任しとけよ」と告げた。一方、魔墓呂死特攻隊の暴走に連合会の連中は激昂し、報復 に動き出した。魔墓呂死特攻隊がアジトのバックブリーカー砦に戻ると、剛が待っていた。剛は右翼団体に入るよう誘うが、仁は帰るよう 要求した。剛は連絡先を茂に渡し、その場を去った。
仁に内緒で女としけこんでいた忠、幸男、英二は、“髑髏”の連中に襲撃された。一味は幸男を車に拉致し、「仁に伝えろ。明日の朝9時 、デスマッチ工場跡へ来い」と告げて逃走した。髑髏は幸男をリンチし、連合グループにも連絡して兵隊を集めた。仁が準備をしていると 女たちが現れ、連合全ての特攻隊が来ていることを知らせた。仁は全く怯まず、不敵に笑って「全員まとめて面倒見ようじゃねえの」と 言う。だが、隊員はビビって腰が引け、逃げ出そうとする奴まで現われた。
忠と英二は、助っ人として健を呼んでくるよう茂に指示した。仁は残った忠と英二を引き連れ、デスマッチ工場跡へ赴いた。待ち受けて いた大勢の暴走族に向かい、仁は金属バットを握って突っ込んだ。そこへ典子を乗せた健のバイクと、剛の街宣車がやって来た。剛は拳銃 を構えて威嚇発砲し、喧嘩を鎮める。そして連合会の連中に対し、「こいつらは俺が預かっていく。落とし前は俺が付ける。仁たちは 俺たちが教育して、一人前の男にする」と述べた。
既に幸男は死んでおり、仁はクロコダイルで荒れるが、剛の仲間たちに取り押さえられた。忠、英二、茂、松永と、残った特攻隊員は全て 右翼団体に入り、訓練の日々が続いた。茂はすっかり右翼思想に洗脳された。反発していた仁も後から加わったが、全く馴染めなかった。 スーパー右翼本部のロッカールームで右翼メンバーの林崎とケンカになった彼は、「やめてやるよ」と吐き捨てて去った。
バイクでサンダーロードに戻った仁は、早速、パトカーを挑発する。すると忠と英二も、右翼団体を抜けて付いて来た。茂は組織に残り、 剛に抱かれて彼の愛人となった。連合会の幹部たちは剛たちに会い、「話が違うじゃねえか。仁たちをおとなしくする条件でアンタらを 大目に見てるんだよ」と非難する。剛は冷静な口調で、「たかがハンパ者の一人や二人じゃないか」と告げた。
仁たちはディスコへ行き、踊っていた連合会の連中に襲い掛かった。バックブリーカー砦に戻ったところで、彼らは連合会に襲われた。仁 はチェーンソーで片方の手首から先を切断された。病院で意識を取り戻した仁を、右翼団体の幹部となった茂が見舞った。仁は忠から、 英二が植物人間になったことを知らされた。やがて仁は退院するが、忠は彼をバックブリーカー砦に残して姿を消した。
バイクに乗れない体になった仁は、荒れた日々を送る。そんなある日、彼はヤク中の少年・小太郎と出会った。「殺したい奴がいる」と仁 が言うと、小太郎は指名手配中のマッドボンバーのオッサンの元へ案内した。仁が「街中の奴ら、みんなぶっ殺してやる」と口にすると、 オッサンはニヤリと笑い、武器屋に紹介した。仁は警察、連合軍、右翼団体の連中を、立て続けに爆弾で攻撃した。連合軍と右翼団体が サンドーロードに集結する中、全身武装した仁は銃弾の雨を降らせた…。

監督は石井聰亙(現・石井岳龍)、脚本は石井聰亙&平柳益実&秋田光彦、製作は秋田光彦(狂映舎)&小林紘(上極東映)、助監督は 緒方明、撮影は笠松則通、編集は石井聰亙&松井良彦、録音は吉田修、照明は手塚義治、アート・ディレクター&音楽は泉谷しげる、 メイク・アーチストは中村優子、テクニカル・クリエーターは古沢敏文。
出演は山田辰夫(劇団GAYA)、小林稔侍、南条弘二、小島正資、戎谷広、大池雅光、中島陽典、上谷忠、木村明宏、中村育二、広世克則、 大関正洋、清末裕之、高橋達也、谷昌樹、河田光史、林崎巌、飯島大介、北原美智子、山野上智子、森村明美(友情出演)、吉原正皓、 小水一男、大森直人、沢田一夫、栗田八郎、鎌田婦記子、土方鉄人、樋口亨&ペガサス、佐野和宏、緒方明、松井良彦、手塚義治、栄俊貴 、椚山幹、原田利裕、佐藤じゅんじ、古沢敏文、藤沢直治、井手国弘、浅間寿治、市川久祥、服部隆宏、岡田裕之、柿花清、田村三郎、 佐藤千春、津田渉、大屋龍二ら。


まだ学生だったにも関わらず『高校大パニック』で商業映画デビュー(澤田幸弘との共同監督という形)した石井聰亙(現・石井岳龍)が 、その2年後に日本大学芸術学部の卒業制作として手掛けた作品。
学生の卒業制作ではあるが、東映の配給で劇場公開されている。
仁を山田辰夫、剛を小林稔侍、健を南条弘二、茂を小島正資、忠を戎谷広、幸男を大池雅光、英二を中島陽典が演じている 。山田辰夫と中島陽典は、これが映画デビュー作。
16mmで撮影されている。

泉谷しげるがアート・ディレクターと音楽を担当し、『眠れない夜』『火の鳥』『遥かなるセーヌの下に』『国旗はためく下に』など彼の 楽曲が11曲使用されている。
特に、『電光石火に銀の靴』の本作品における貢献度は非常に高い。
タイトルが表示され、夜の街をバイクが走るオープニング・クレジットに『電光石火に銀の靴』が流れると、観客のテンションを一気に 高揚させるものがある。
他に、パンタ&HALの曲も『ルィーズ』『IDカード』『オートバイ』『つれなのふりや』など6曲が使われている。さらに、当時は 「めんたいビート」中心的存在としてインディーズで活動していた森山達也とTHE MODS(現在は「THE MODS」)も、『気絶しそうだ』 『う・る・さ・い』『B♭のウ』『ゆうわく』など8曲が使用されている。
この映画に楽曲が起用されたことがきっかけで、THE MODSは全国区のパンクバンドになっていく。

右翼団体のリーダーである剛は、バックヤード砦で君が代を歌いながら特攻隊を待ち受ける。男色趣味で、茂と肉体関係を持って後継者に 据える。
小学生か中学生の設定だと思われる小太郎は、ドラッグで気持ち良くなっている。
仁は幸男を助けに行く際、「マジに戦ってマジに殺す。今までみたいにガキの遊びじゃねえんだ。全員殺して、全員カタワにしろ」と物騒 なこと&差別用語を口にする。
カタワという言葉は何度も出てくるし、ヤク中の少年は出てくるし、たぶん現在だったら、作るのは難しいだろう。

仁たちがクロコダイルを去った後、残った健と典子の「やめるの、私のためなんでしょう……」「関係ねえよ」といった会話をテロップで 表示し、サイレント映画のように表現するのは、ハッキリ言ってダサい。
あと、たまに入る健と典子のホノボノ生活は、仁たちの荒れた暮らしと対比するためかもしれないが、全く要らない。
最後、典子が「健のために」という理由で彼と別れて別の男と一緒になっている様子が写るが、それも要らない。
っていうか正直、このキャラが要らない。

バックブリーカー砦に現れた剛は、「お前たちが敵を作ってまでも自由に走ろうとする心意気は良しとしよう。だがな。今、この街に おいてそうすることが、どれだけ無駄な労力を浪費するか分かっているのか。この状況で、お前たちに一番有効な方法を提案したい。諸君 の有り余る若いエネルギーを我々の部隊に預けてみないか」と語るが、仁は「もっと簡単に話せよ。さっきから何言ってんだかサッパリ 分かんねえんだよ」と言う。
ものすごく分かりやすい説明なのに、それが理解できないんだから、かなりのボンクラである。
そんなオツムがパッパラパーの連中による暴力映画である。
いや、決してバカにしているわけではないよ、ホントに。

仁が途中で街を去り、また戻ってくるというのはいいんだが、去っている間にいる場所が右翼団体ってのは、時代ってこと なのかなあ。
そこは反発しながら参加するよりも、自らが「自由に暴れられる」と思って足を踏み入れる組織の方がいいなあ。
あと、そこだけで右翼が退場するよりは、もちろん終盤も関与してくる方がいいけど、連合軍と結託して仁を消そうとするのは違和感が あるなあ。

サンダーロードに戻った仁は連合軍の襲撃を受け、カタワにされる。
そりゃあ、そこで仁が死んだら話が終わってしまうんだけど、普通なら殺すよな。カタワにしただけで済ませる意味が全く無い。
あと、病院のシーンで、アップの時は仁の左の手首から上が無かったのに、引いた映像だと右手に変わっているというミスがある。
それと、ホントは手首から上じゃなくて、腕そのものが切断されている設定にすべきだよなあ。実際には腕があるのに無いように見せる のは難しいから、手首から上ってことにしたんだろうけど。
あと、英二は植物人間にされたのに、なぜ一緒にいた忠は全くの無傷なのかと。

仁はチェーンソーで腕を狙って切断されたんじゃなくて、たまたま腕を斬られて隻腕になったとか、助かるためには病院で切断せざるを 得なくなったとか、そういう設定の方が自然だったようにも思う。
それと、どうやら片手だけじゃなくて片脚も切断されている設定らしいんだが、病院のシーンだと、それは分からない。
退院した時も、右足を引きずっているけど、切断されているようには見えないぞ。松葉杖をついているシーンはあるけど、それも1シーン だけ。
切断されているのなら、足を引きずるだけじゃ済まないだろ。
あと、仁が退院する時に、看護婦姿のダッチワイフの乳を揉んでいる医者がいるが、ありゃ何のつもりだ。

構成はお世辞にも上手いとは言えない。 小太郎とオッサンが終盤のわずかな時間しか登場しないのは、明らかに構成として失敗で、この2人も前半から登場させておくべきだ。
それと、仁がオッサンや武器屋と会った後の処理は上手くない。警官、連合軍、右翼団体のそれぞれを爆破するシーンがあった後、復活 した仁の姿がハッキリ写らないまま、団体の幹部となった茂が「やるしかないでしょう。話し合って分かる相手じゃない」と仲間たちに 話している様子が来るが、そこはまず復活した仁の姿を見せるべきだ。で、「仁が街の連中に攻撃を仕掛けている」ということをハッキリ と描き、それから敵側の対応に移った方がいい。
右手に鉤爪を装着し、肩パットやフルフェイスで武装した仁の姿を、無造作に見せているのは勿体無いよ。そこは、もっとケレン味を 付けて登場させるべきでしょ。
あと、なんで引きずっていた足を引きずらなくなったのかね。
それは武装して直るものじゃないと思うぞ。

かつての弟分だった茂が敵になるのだが、そこに「絆と反目」というドラマが無いので、設定が活かされているとは言い難い。
あと、仁には苦戦してほしくなかったなあ。もっと圧倒的な強さで暴れまくり、一方的に敵を蹴散らしてほしかった。
最後に剛を撃つのが仁じゃなくて小太郎ってのも冴えないなあ。
まあ予算と時間の問題もあっただろうし、学生の自主制作だということを考えると、あまり文句を付けすぎるのも酷かも知れないけどね。

リアリティーを無視し、映画は暴力と破壊のサンダーロードを突っ走る。
パンクロックが鳴り響く中、山田辰夫はダミ声で喚き散らし、野獣の目で鋭く睨み付ける。
この頃の石井聰亙は、まさに怖いもの無しといった感じで、大雑把だが溢れるエナジーはビンビンに伝わって くるような映画を撮っていた。
そんなアウトサイダーが、いつの間にやら、気の抜けたサイダーのような監督へと変貌していった。

(観賞日:2010年9月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会