『クロユリ団地』:2013、日本

二宮明日香は父の勲、母の佐智子、弟の聡と共に、クロユリ団地の402号室へ引っ越してきた。佐智子に頼まれた明日香は、菓子折りを持って近所へ引っ越しの挨拶へ行くことになった。彼女は篠崎という表札が出ている401号室のインターホンを鳴らすが、応答が無かった。ドアをノックしても声がしないので、明日香は立ち去ろうとした。するとドアが少しだけ開いたので、明日香は近付いて呼び掛けた。するとドアは彼女の眼前で乱暴に閉じられ、呼び掛けても応答は無かった。
明日香は401号室のドアノブに菓子折りの入った袋を掛け、団地を出て近くを散歩する。彼女が公園へ行くと、砂場で遊んでいる男児がいた。公園には他に人の姿が無く、男児は一人で砂遊びをしていた。男児が視線を向けたので、明日香は笑顔で声を掛けた。すると男児は無言のまま、その場から走り去った。団地へ戻った明日香は、401号室のドアノブから菓子折りの袋が消えているのを目にした。その夜、隣の部屋から気になる物音が聞こえたので、明日香はベランダに出て様子を窺った。
翌朝の5時半、隣の部屋から目覚まし時計の音が鳴り響き、明日香は目を覚ました。着替えて朝食の席に就いた明日香は、両親からお祝いとして腕時計をプレゼントされた。介護学校へ登校した彼女はクラスメイトに問われ、家族と共にクロユリ団地へ引っ越してきたことを話した。するとクラスメイトの美樹は顔を強張らせ、幽霊が出るという噂があることを明かした。翌朝も5時半に隣の部屋から目覚まし時計の音が鳴り響き、明日香は目を覚ます。しかし彼女の家族は、誰も目覚まし時計の音を聞いていなかった。
公園へ出掛けた明日香は、あの男児が砂場にいるのを見つけて再び声を掛けた。自己紹介した明日香が名前を尋ねると、男児は「ミノル」と答えた。秘密基地を作っているというミノルに明日香は「お姉ちゃんも手伝っていい?」と告げ、一緒に砂場で遊んだ。「今度から一人で遊んじゃダメだよ。危ないし、それに寂しいでしょ」と彼女が言うと、ミノルは「寂しくないよ。お爺ちゃんがいるもん」と告げるが、「でも本当のお爺ちゃんじゃないんだ」と付け加えた。ミノルは「あそこに住んでるの」と言い、401号室を指差した。
ミノルに「また遊んでくれる?」と訊かれた明日香は、笑顔で「いいよ」と答えた。翌朝、悪夢を見た明日香は、恐怖で飛び起きた。学校では講師の金本が、練馬のマンションで老夫婦の遺体が見つかったこと、死後2週間以上が経過していたこと、夫の面倒を見ていた妻が先に死去したこと、世話人がいなくなった夫はベッドで身動きが取れないまま餓死したことを語った。その夜、明日香が401号室をノックすると、返事が無かった。鍵が開いていたのでドアを開けて中に入ると、餓死した篠崎老人の遺体があった。
明日香の通報で警察が駆け付け、篠崎の遺体は運び出された。明日香は松浦刑事から、篠崎の妻が随分と前に亡くなっていること、子供もいなかったことを聞かされた。明日香が野次馬に視線を向けるとミノルの姿があり、彼は笑顔で手を振った。翌朝早くに目を覚ました彼女は、隣の部屋から響く物音を耳にした。明日香がドアから401号室を覗くと、中で動く人影が見えた。しかし明日香が家族に「何かいる」と話しても、全く信用してもらえなかった。
明日香はドアの開いていた401号室に上がり込み、壁に残っている血の跡を確認した。そこへ遺品整理会社「石塚清掃」の笹原忍が現れ、妙な人影を見たり誰かに呼ばれたような気がしたりすることは珍しくないと話す。「じゃあ昨日のは、やっぱり」と口にした明日香に、彼は「関わらない方がいい。時間が違うんだ。君の時間は前に進んでる。死んだ人間の時間は、そこで止まる。本来、関わり合うわけじゃない。だが、中には生きてる人間と関わり続けようとする者もいる」と語った。
笹原は社長の石塚に呼ばれ、遺品整理の仕事へ赴いた。「あの子、似てるんじゃないか」と問われた笹原は、「ひとみとですか?全然」と言う。すると石塚は、「違うよ、お前とだよ」と告げた。夜、明日香の元を松浦が訪れ、篠崎は心臓発作による自然死だったことを話す。彼は死後3日ほど経過していたことを告げ、「誰か気付いてあげられたら良かったんですが」と述べた。松浦が去った直後にドアがノックされたので、明日香は彼が戻って来たのだと思う。しかしドアを開けるとミノルが立っており、「あそぼ」と明日香を誘った。
明日香がミノルを連れて公園へ行くと、彼は大勢の友達の名前を口にした。しかし彼は、「もう居ない。みんな引っ越しちゃった」と言う。「すぐに新しいお友達が出来るよ」と明日香が告げると、ミノルは「もう出来た」と彼女を指差した。不意に泣き出した明日香は、彼に「ごめんね。お姉ちゃん、自分のこと嫌いになってたの」と漏らす。「どうして?僕は大好きだよ、お姉ちゃんのこと」とミノルに言われ、彼女は「ありがとう」と頭を撫でた。「今度はお姉ちゃんちで遊んでいい?」と訊かれ、明日香は笑顔で承諾した。
学校で授業を受けている最中、明日香は「お前、死ぬ」という声を耳にした。篠崎の幻覚を見た明日香は、悲鳴を上げた。石塚清掃を訪れた明日香は、笹原に学校での体験を話して「怒ってるんです。私が気付かなかったから」と言う。「それは君のせいじゃないだろう」と笹原は告げ、401号室を清掃した時にクリーナーやスチームが動かなくなったことを明かした。「私、どうしたら」と漏らす明日香に、笹原は「知り合いに、そういうのに詳しいのがいる。紹介しようか」と提案した。
その夜、明日香が帰宅すると家族の姿が見えず、荷物も無くなっていた。父の携帯電話に連絡すると、その番号は使われていなかった。明日香は笹原に連絡するが、ノイズの後に「お前、死ぬ」という声が聞こえて来た。彼女は401号室に入り、「そんなに許せないの、私のこと?」と話し掛ける。すると部屋の奥に篠崎がいて、壁を激しく引っ掻いていた。明日香に気付いた篠崎は立ち上がり、ゆっくりと彼女に歩み寄った。
青山が明日香の実家を訪ねると、そこにいたのは伯父の武彦と妻の栄子だった。武彦は青山に、明日香の少女時代に家族が観光バスの転落事故で死んだこと、明日香は奇跡的に生き残ったことを話す。明日香が事故の悪夢で目を覚ますと、篠崎の姿は消えていた。話し声を耳にした明日香が402号室へ戻ると、朝食を食べようとしている家族の姿があった。ただし、そこには少女時代の明日香もいた。両親は少女の明日香に、お祝いとして腕時計を贈った。それは明日香がクロユリ団地へ引っ越した翌朝に体験したのと全く同じ出来事だった。
少女の自分が「学校のみんなに、旅行に行くって言っちゃったんだから」と言い、父と指切りをして旅行の約束を交わす様子を目にした明日香は、「やめて」と叫んだ。すると、その幻覚は目の前から瞬時に消え去った。笹原は明日香の元へ駆け付け、虚ろな目をしている彼女に呼び掛けた。正気を取り戻した明日香は、泣きながら笹原に抱き付いた。心配になった笹原は、翌朝までアパートに留まった。
明日香は笹原から腕時計が止まっていることを指摘され、「分かってます」と告げた。明日香がアパートへ持ち込んだダンボール箱の中には、家族の遺品が入っていた。「自分を責めなくていい。誰だって現実から目を背けたいことがある」と笹原が言うと、明日香は旅行先で撮った写真を見せて「決めたんです。絶対に目を逸らしちゃいけないって」と口にした。「何度も自分に言い聞かせて来たのに」と彼女が泣きそうになると、笹原は「とにかく、早くここから出た方がいい」と促した。
夕方、明日香が一人で部屋にいると、ミノルが訪ねて来た。「あそぼ」と言う彼を、明日香は部屋に招き入れた。何も無い部屋を見回したミノルに「どっか行っちゃうの?」と質問され、明日香は「家に帰るの」と答えた。「気付いたの、一人ぼっちだったって。だから、もうここにいる理由が無いの」と明日香が語ると、ミノルは「一人ぼっちじゃないよ。僕がお姉ちゃんの家族になってあげる」と告げた。
明日香が「ミノル君が弟になってくれたら嬉しいなあ」と微笑を浮かべると、「そしたらいつも一緒に遊べるね」とミノルは言う。その時、壁に突如として大きな亀裂が入り、瞬時にして広がった。明日香は怯えるミノルを抱き寄せ、「この子は関係ないの、手を出さないで」と叫ぶ。すると亀裂は消滅し、壁は元の状態に戻った。一方、笹原は意識不明で入院している婚約者・ひとみを見舞っていた。ひとみの母親は笹原を受け入れていたが、父親は激昂して追い払った。
笹原は知り合いである霊能力者の野々村早苗を訪ね、明日香を救うための手助けを依頼した。早苗は明日香と笹原を連れて401号室に入り、篠崎の話を聞く。早苗は明日香に、「もうお爺さんは出て来ないと思う」と告げた。さらに彼女は、篠崎が遺体を見つけてくれた明日香に感謝していることを語り、「問題は、お爺さんじゃない。貴方、部屋に入れたのね」と言う。笹原は明日香に、13年前に団地で5歳の男児が事故死する出来事があったことを話す。その男児がミノルだった。
ミノルは友達とかくれんぼで遊んでいた際、団地のゴミ箱の中に隠れた。しかし友達に見つけてもらえず、蓋の鍵が掛かってしまった。業者は気付かずに回収し、ミノルはゴミと一緒に焼却されてしまった。それ以来、クロユリ団地では原因不明の死亡事故が何件も発生していた。笹原は明日香に、篠崎が「お前も死ぬ」と教えようとしていたのだと話す。明日香は笹原から、またミノルが来ても絶対に会わないよう忠告された。明日香はミノルがドアをノックしても「もう遊べない」と告げるが、結局は中に招き入れてしまう…。

監督は中田秀夫、脚本は加藤淳也&三宅隆太、企画は秋元康、製作総指揮は佐藤直樹&榎本善紀、製作は鳥羽乾二郎&井坂正行&寺田篤&秋元一考&藤岡修、エグゼクティブプロデューサーは由里敬三、シニアプロデューサーは石田雄治&阿比留一彦、プロデューサーは田中正&秋枝正幸&末松崇洋&野地千秋、アソシエイトプロデューサーは山本章&鈴木恒夫、撮影は林淳一郎、照明は中村裕樹、録音は矢野正人、美術は矢内京子、編集は青野直子、VFXスーパーバイザーは立石勝、音楽は川井憲次。
出演は前田敦子、成宮寛貴、手塚理美、高橋昌也、田中奏生、勝村政信、西田尚美、佐藤めぐみ、佐藤瑠生亮、鹿野結芽菜、岩松了、朝加真由美、諏訪太朗、柳憂怜、並樹史朗、筒井真理子、上間美緒、吉倉あおい、中村朝佳、青山草太、岩崎光里、佐久間麻由、片岡富枝、土屋美穂子、箱木宏美、大野勢姫、永衣美貴、杉山美由紀ら。


『着信アリ』『伝染歌』の秋元康が企画し、『L change the WorLd』『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』の中田秀夫が監督を務めた作品。
脚本は『王様ゲーム』『篤姫ナンバー1』の加藤淳也と『怪談新耳袋 怪奇』『七つまでは神のうち』の三宅隆太。
明日香を前田敦子、笹原を成宮寛貴、早苗を手塚理美、篠崎を高橋昌也、ミノルを田中奏生、勲を勝村政信、佐智子を西田尚美、ひとみを佐藤めぐみ、聡を佐藤瑠生亮、少女時代の明日香を鹿野結芽菜が演じている。
日活創立100周年記念作品。

メインを張る前田敦子と成宮寛貴は、お世辞にも演技力が高いとは言えない面々である。それなのに、2人に難しい演技を要求しすぎている。
特に前田敦子に関しては、もっとシンプルに「悪霊に怯えるスクリーミング・クイーン」という役回りだけに限定してあげても良かったんじゃないだろうか。
秋元康が企画を担当しているってことは、たぶん「まず前田敦子の主演ありき」で進められたはず。
それならば、彼女の演技力に合わせたキャラクター造形やシナリオにすべきだろう。

ホラー映画におけるSEやBGMは、恐怖を盛り上げたり不安を煽ったりするために使われることが大半だ。
しかし、その使い方を誤ると、まだ対して怖いことが起きていないのにSEやBGMだけが先走ってしまったり、タイミングを誤ったり、過剰に鳴り響いたりして、逆に観客を白けさせることにも繋がりかねない。
そして本作品は、その失敗をやらかしている。

例えば、ミノルが「あそこに住んでるの」と言い、401号室を指差すシーン。そこで401号室の窓が写ると同時に衝撃音が入り、恐怖を煽ろうとする。
しかし、その段階では、まだ401号室は「目覚まし時計がうるさい部屋」でしかない。そこで恐怖を煽るのは、明らかに先走りすぎだ。
死体が発見されて初めて、401号室は「怖い部屋」へと変貌するのだ。それまでは、まだ明日香に取っても観客にとっても、「迷惑な住人の部屋」に留めておくべきなのだ。
ただし、それはSEだけの問題ではなく、明日香の表情も含めた全体の演出として、「何か怪しげなことがある不気味な部屋だ」というアピールが強くなっている。それ以前から401号室を恐怖の対象に据えようという意識は強く伝わっていたのだが、SE以外でも先走りが目立つ。
そうじゃなくて、そこは「迷惑な住人がいる部屋だと思っていたけど、そうではなかった」という見せ方をして、落差を付けて観客に恐怖を与えた方がいいでしょ。

序盤、明日香が公園へ行くと2人連続でミノルがいるが、他に人がいない。
そもそも、男児に声を掛けて一緒に遊んでいる時点で、明日香の行動は不自然だ。
夜中にミノルが「あそぼ」と誘いに来た時に、彼を連れて公園へ行くのも行動としては不自然だ。そんな夜中に両親の許可も取らず、男児を公園へ連れ出すのは非常識にも程がある。
そもそも、「両親はどうしているのか、心配しないのか」と尋ねないのが不自然極まりない。
っていうか、明日香はミノルから「お爺ちゃんがいる。でも本当のお爺ちゃんじゃない」と篠崎のことを聞かされているわけで、だったら「ミノルは篠崎と同居していた」と解釈しても不思議ではない。だとすれば、その篠崎が死んだ時点でミノルのことを警察に尋ねるべきじゃないのか。

篠崎の遺体が運び出された翌朝、明日香は物音を耳にして、401号室をドアの覗き窓から覗き込む。
だけど、その覗き窓から中を見ることが出来るのは、そこで初めて明かされる設定なのよね。だから、かなり安っぽい御都合主義だなあと感じる。
もっと引っ掛かるのは、前夜に死者が見つかって警察が来ているのに、ドアが開いていて明日香が当たり前のように上り込んでいること。
既に石塚清掃が来ていたからドアが開いているんだけど、その夜に松浦が明日香を訪ねて「事件性は無いようですので」と言っているんだよね。ってことは、まだ朝の段階では事件性はゼロじゃなかったわけだから、現場の状況を確保しておく必要があったんじゃないのか。誰でも自由に侵入できる状況にしてあるのは、警察の手落ちってことになるんじゃないのか。
あと、地味に驚いたのは、石塚清掃が株式会社ってことだな。社長が自ら笹原と一緒に団地へ来ているし、小さな会社かと思ったんだけどね。

本作品には、ある仕掛けが用意されている。
それは「明日香の家族は映画が始まった段階で既に死んでいる」という仕掛けだ。
それが観客に対してハッキリとした形で明かされるのは物語が半分ほど経過した辺りなのだが、早い段階で何となく気付いてしまった人も多いのではないか。
というのも、ひょっとすると対象年齢を低く想定しているのかもしれないが、あまりにもヒントの与え方が親切すぎるのだ。
例えば、隣の部屋から朝5時半に聞こえて来る目覚まし時計の音を明日香の家族が誰も聞いていないってのは、明らかに不可解だ。また、両親が同じ会話を何度も交わしているが、ここが「滑稽なシーン」ではなく「どことなく薄気味悪いシーン」として描かれているのも、その両親が何か普通じゃない存在であることを匂わせている。
そこまでは気付かなくても、「家族がいなくなった」と明日香がパニック状態に陥った段階で、「なるほど、最初から存在しなかったんだろうな」と気付く人は多いんじゃないかな。

そのネタを終盤まで引っ張らず、半分が経過した辺りで明かしているってことは、それが物語において最大の仕掛けやオチではないってことだ。
ただ、この映画の欠点は、「明日香の家族は全員死んでいる」というネタと、「ミノルは悪霊」というネタが、上手く融合して相乗効果を発揮していないってことだろう。「明日香の家族は死んでいる」という部分を排除し、「明日香がミノルを目撃する」という部分だけを残しても、特に問題も無く物語が成立する。
では「明日香の家族は死んでいる」という設定に何の意味があるのかと考えると、「それが明かされた時のサプライズ」ということ以外に見当たらない。あるいはミノルが悪霊であることを隠すための、かなり質の良く無い隠蔽工作にしか思えない。
もちろん真相を隠すための細工やミスリードはあってもいいんだけど、この映画の場合は、その手口が冴えない。『シックス・センス』的なことをやりたかったんだろうけど、それこそセンスが無かったってことかな(いや上手くないから)。

「家族の事故死と罪悪感」ってのを、「明日香がミノルに情を抱く」という部分に繋げるのであれば、家族の中でも特に弟との関係性を強く描いておく必要がある。
しかし明日香と弟の関係性ってのは、ほとんど描写されていないのだ。
ここの絆の強さ、明日香の弟に対する愛情や罪悪感の強さが全くアピールされていないので、「明日香がミノルに弟を重ね合わせて情を抱き、悪霊に付け込まれる」という話として上手く機能しないのだ。

明日香は家族がいなくなってパニックに陥った時、笹原に連絡を入れる。しかし、いつの間に彼の携帯番号を聞いていたんだろう。
一方、青山が二宮家を訪れているが、その理由が良く分からない。授業中に悲鳴を上げて飛び出すという行動は取ったけど、それだけで家庭訪問するってのは変だろう。
そこで急に青山という存在感の皆無だったキャラを使うのは、「明日香の家族が事故死している」という設定を観客に明かすためなんだけど、すんげえ不格好だわ。
笹原なり松浦なりを使って、もう少し上手くやろうよ。あるいは、明日香の幻覚から「彼女が事故のことを思い出して」という流れに繋げれば、第三者を使わなくても表現できるし。

伯父夫婦が明日香の一人暮らしを認めている時点で少々の引っ掛かりはあるが、そこは受け入れることの出来る範囲内だ。
しかし、明日香が勝手に一人暮らしを決めたわけでは無く、叔父夫婦が認めているってことになると、ある疑問が生じる。
それは、「一人暮らしにしては、そのアパートは広すぎやしませんか」ってことだ。
もしも明日香が「家族と一緒に引っ越した」という妄想でアパート決めたのなら、広くても理解できる。しかし、たぶん伯父夫婦もアパートを見た上で決めているわけだから、そこは違和感がある。

一人暮らし用のアパートに設定してしまうと、明日香個人の部屋を用意することなんて無理だろうし、他の家族3人が同居しているように見せ掛けるには色々と不都合が生じる。だから、広めのアパートに設定してあるのは、物語の都合としては理解できる。
だけど、前述したような疑問が生じることも確かなわけで。
そこを「無理のある設定」のままにせず、上手く消化できるようにしておかないと、やっぱり話としては粗があるという風に解釈せざるを得ないかなあと。
あと、広さの問題だけじゃなくて、ミノルの事故があってから何件も原因不明の死亡事故が起きているわけで、そんな場所に明日香を住まわせているのも不可解だし。

笹原は明日香に、ミノルが来ても絶対に会わないよう忠告される。そこで明日香はミノルがドアをノックしても「もう遊べない」と告げるのだが、結局は入れてしまう。
しかし、ここは明らかに展開として無理がある。
まだミノルが悪霊だと分かる前の段階で、笹原は「早くアパートを出た方がいい」と助言しており、明日香も出て行く支度をしている。もう荷物もまとめて、すぐにでも出て行ける状態なのだ。
それなのに、なぜ明日香は伯父夫婦の家へ戻らないのか。

笹原だって、「もうミノルとは会うな」じゃなくて「今すぐに実家へ戻るんだ」と明日香に忠告すべきでしょ。
いや、忠告だけじゃなくて、実家まで送り届けて伯父夫婦に事情を説明してもいいぐらいだぞ。
っていうか、笹原がそこまでしなくても、明日香には帰る場所があるわけだから、クロユリ団地に留まっている必要性が全く無いのだ。
これが例えば、「団地を出ようとしたら何か得体の知れないパワーで出られなくなる」とか、「荷物を忘れて取りに戻ったところでドアがノックされる」とか、そういうことでもあれば別だけどさ。

もっと根本的なことを言っちゃうと、そもそも「ミノルが悪霊として大勢の人々を殺しまくっている」という設定からして引っ掛かる。
彼はゴミと一緒に回収されて焼却されちゃったけど、団地や住民に対して恨みを抱いているわけじゃないと思うんだよね。
だから、そこは「ミノルは友達と一緒に遊びたいだけなんだけど、それが結果として生者を死者の世界へ引きずり込むことに繋がってしまう」という形にでもしておいた方が、話としては腑に落ちるんじゃないかなあと。
あと、ミノルの家族は今も生きているはずなのだが、登場しないだけでなく言及することも無いってのは手落ちに思えるぞ。

(観賞日:2014年10月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会