『黒の天使 Vol.2』:1999、日本

“黒の天使”と呼ばれる殺し屋の魔世は、黒のママから指令を受けて、東陽組の二代目組長を殺害しようとする。だが、そこへ男女2人組のヒットマンが現れ、東陽に向けて発砲した。魔世も東陽を狙って銃を向けるが、ボディガードの山部を見て驚く。
10年前、暴漢に襲われた魔世は、山部に助けられた。だが、誤って人を殺してしまった山部は、母親の自殺という不幸に遭い、人生を狂わせていた。銃を持った手を止めた魔世に、山部は発砲した。だが、弾丸は魔世をかすめて、通りかかった夫婦の夫に命中する。妻・すずが必死に助けを求める中、魔世は慌てて立ち去った。
すずはショックで流産したが、すぐに花屋の仕事に復帰した。東陽から目撃者を殺害するよう指示を受けた山部は店に行くが、銃を抜くことが出来なかった。彼は、すずに金を渡して、逃げるように立ち去った。そんな様子を、魔世は見ていた。
すずは、亡夫の暴走族時代の仲間から、犯人が東陽だという噂を聞かされる。だが、すずは、その男に連れて行かれたホテルで、東陽の兄弟分・矢崎の子分にレイプされてしまう。すずは、矢崎の子分が持っていた銃を手にして、その男を射殺した。
すずは、横浜のディスコ“バーズ”に出向いて東陽を殺そうとするが、山部に阻止され、捕まってしまう。一方、黒のママから再指令を受けた魔世もディスコに来ており、逃げようとした東陽を射殺した。山部は、すずを救出し、矢崎を敵に回す。金の支払いを巡って矢崎と揉めた魔世は、山部の運転する車でディスコから逃亡する…。

監督&原作&脚本は石井隆、プロデューサーは清水一夫&石井隆、撮影は佐藤和人、編集は北澤良雄、録音は矢野勝久、照明は安河内央之、美術は山崎輝、衣装は小野今朝義、アクション・コーディネイターは柴原孝典、ガン・コーディネイターは納富貴久男、音楽は安川午朗。
主演は天海祐希、共演は大和武士、片岡礼子、伊藤洋三郎、鶴見辰吾、山口祥行、小林滋央、古田祐健、飯島大介、寺島進、野村祐人、村松恭子、くぬぎたかし、原サチコ、速水典子、中山俊、近藤誠人、林田直樹、夏川さつき、秋水政之、角秀一、中村浩二、石倉良信ら。


石井隆の同名劇画を基にした、葉月里緒菜の主演作『黒の天使 Vol.1』の続編。
ただし、ヒロインは1作目と同じく魔世という名の殺し屋だが、完全に別の人物として描かれているし、話としての繋がりも全く無い。
魔世を天海祐希、山部を大和武士、すずを片岡礼子、矢崎を伊藤洋三郎、黒のママを鶴見辰吾が演じている。

まず、天海祐希を主演にキャスティングした時点で間違っている。1作目の葉月里緒菜よりも、さらにミスキャストだと言えよう。
石井隆という人は、女性を苛めて苦しむ姿を見せたがるが、そういう石井隆のヒロイン像に、天海祐希は合わないのではないか。天海祐希の演じる魔世というキャラクターが、ちっともカッコ良くないというのが辛い。

天海祐希を殺し屋にするのなら、もっとタフでワイルドな部分が強調された方がいい。クールなのはいいが、暗いのは勘弁してほしい。適度に軽さかユーモアを持たせた方が、天海祐希が生きると思う。男女の特異な恋愛劇を情念たっぷりに描くのは十八番かもしれないが、陰気な世界観の中で、天海祐希という女優が全く輝きを放っていない。
しかも、魔世というキャラクターは、途中でヒロインとしてのポジションが危うくなる。最初の殺しに失敗した後、後半に入るまでは特にすることも無いので、部屋でアイスを食べたりゴロゴロしたり、ウジウジと考え込んだりしているだけになっている。

むしろ、すずの方が、役柄や、復讐という行動目的を考えれば、ヒロインとしてふさわしいのではないかと思えてくる。夫を殺された上にレイプされて、おまけに復讐に失敗して捕まるという救いの無さは、いかにも石井隆ワールドのヒロインらしいし。
すずと山部には、それぞれ強い行動理由があるし、この2人の話にしちゃった方が、スッキリしているような感じもある。それにしても、タコ殴りにされた直後というシーンのために真っ裸にされちゃう片岡礼子さんって、ホントに大変よねえ。

あと、石井監督は、どうもアクションシーンの撮り方が上手くないようだ。石井監督はスピード感を持ち込むことはやらないし、むしろジメッとした停滞感が好きなようだから、その持ち味はアクションとは基本的に合い入れないような気がするのだが。
暗い映像が好きだというのも関係しているのだろうが、迫力が無い。画面の暗さは石井隆監督の持ち味なのだが、アクションの良さを引き出すためには使われていない。暗い映像の中で黒い服でアクションをするから、動きが良く分からないし。
スローモーションやストップモーション映像を使ったりもしているのだが、そもそも、アクションシーンにスピード感が無いわけだから、スローやストップモーションが効果的に作用しない。アクションに流れを生み出すということも、見えてこないし。

 

*ポンコツ映画愛護協会