『くれなずめ』:2021、日本

吉尾和希、明石哲也、曽川拓、田島大成、水島勇作、藤田欽一の6人は、結婚披露宴の会場でセッティングの打ち合わせを行っていた。3日後に友人の結婚式があり、6人で余興をする予定になっているのだ。曽川が赤フンを着用するプランを口にすると、他の面々は「それは聞いてないぞ」と言い出す。曽川は不思議そうな顔を浮かべ、「学園祭の流れじゃないんですか?」と問い掛けた。田島は同席していたウエディングプランナーの竹下弘美に、「僕らが声掛けるっていう段取りで」と告げる。弘美が「5名様が準備を始めたタイミングで」と言うと、明石が「5人じゃなくて6人が立ち上がったら声かけます」と修正した。
5人が会場を出た後、吉尾は1人だけ残ってマイクを握る。彼が「みんなが集まるのは5年ぶりです」などとスピーチしていると、仲間が呼びに来た。6人はカラオケに繰り出し、大声で熱唱した。音を止めた6人は、昔の話で盛り上がった。明石はマイクを握り、ここで解散にしようと告げる。彼は「最後に吉尾から一言」と述べ、吉尾にマイクを渡した。吉尾が「ずっと気になってたんんだけど。もしかして俺ってさ、5年前に。お前らも分かってるよね」と話す間、6人は黙って聞いていた。しかし吉尾が「俺、死んで……」と言い掛けると、全員が騒いで遮った。
結婚式当日、披露宴会場を出て来た6人は浮かない顔をしていた。田島は仲間たちに、「どうします、2次会?」と問い掛ける。2次会は3時間後で、藤田は「持て余すなあ」と軽く笑う。すると田島は、「じゃなくて。あれやって2次会行けます?」と口にした。余興は全く受けず、会場を引かせてしまったのだ。口論が始まるが、吉尾が「俺ら素人なんだしさ、一生懸命やったと思うし、それで良くない?」と告げて収束させた。他の面々が席を外し、その場には吉尾と明石が残った。吉尾はバイト店員が女性店長に説教されている様子を目撃し、明石に教えた。明石は吉尾に、「女の店長って大体厳しいんだよ」と告げた。
12年前、高校生だった明石は、清掃委員のミキエが後輩の男子2名を厳しく注意する様子を目撃した。後輩たちはゴミの分別が全く出来ておらず、ミキエは声を荒らげて注意した。そこへ後輩たちを指導する立場である清掃委員の吉尾が来たので、ミキエは「この子たちに分別教えたの?」と詰め寄る。吉尾が「俺の教え方が悪かったというか」と釈明すると、後輩たちは「僕らは分別してたんですけど、吉尾先輩が燃えたら全部一緒だって」とミキエに話す。ミキエは吉尾に平手打ちを浴びせ、「もっと真剣に掃除しろ」と怒鳴った。
明石はトイレで吉尾に話し掛け、部活をやっていないと確認する。彼は「放課後、暇でしょ。屋上来いよ。面白いことやるから」と言い、文化祭でコントをやるのだと告げた。現在。吉尾たちは2次会まで時間を潰せる場所を探して歩き回るが、周辺の喫茶店は全て埋まっていた。田島は仲間たちに、新郎から2次会でも余興をやってくれという電話が入ったことを教えた。明石は泣いていることを気付かれて、「色々思い出しちゃって」と口にした。
12年前、6人は文化祭の打ち上げでカラオケに繰り出し、大いに盛り上がった。文化祭のコントは受けたので、6人は上機嫌だった。だが、怖い生徒の松岡がビールジョッキを片手に部屋へ押し掛けたため、6人は静まり返った。松岡は「罰ゲームで閉じ込められた。女子たちと飲んでてさ」と言い、文化祭で披露したソーラン節が盛り上がったと自慢する。松岡はコントを再現するよう要求し、吉尾が一部分だけ披露した。松岡がソーラン節を盛り込んだ内容に変更すると、明かしは愛想笑いで壁に頭をぶつけた。
曽川は松岡に腹を立て、「僕らの方が面白いです」と主張した。明石が頭から出血したため、松岡は「俺の部屋に来い。絆創膏あるから」と連れ出した。田島&水島&藤田は明石に同行し、部屋には吉尾と曽川だけが残った。吉尾は松岡が残していたビールジョッキを見ると、曽川が付けていた赤フンを浸して笑い出した。そこへ松岡が戻り、何も知らずにジョッキを奪い取ってビールを飲んだ。松岡が去った後、吉尾と曽川は大笑いした。
現在。吉尾たちは移動しながら店を探すが、居酒屋は全て全滅だった。曽川は「またみんなで余興やりたくないですか」と吉尾に言うと、持っていた赤フンを顔に押し付ける。吉尾が「臭い」と顔を背けても、曽川はしつこく押し付けた。吉尾が逃げ出すと、曽川は追い掛けた。そこに他の面々も加わり、赤フンを持ちながら走り回った。そこへ余興で使ったCDを探しに行っていた水島が戻って来ると、曽川が「余興やりますよね」と赤フンを押し付けた。
9年前。田島の部屋に泊まりに行った吉尾は、水島から「セックスしたことがあるか」と問われて童貞じゃないと答えた。「寝ましょう」と田島が電気を消した後、吉尾は水島に「好きな人いる?」と訊かれて「分からない」と告げる。「いるんでしょ、誰?知ってる人?」と水島は言い、先生や同級生の名前を次々に挙げる。彼がミキエの名前を出すと、吉尾は少し黙ってから「もう寝る」と言う。水島が笑って「好きだったの?なんで?」と尋ねても、彼は答えなかった。
水島が「明日、絶対訊くからな。お休み、また明日ね」と告げると、少し考えてから吉尾が「また明日って、いいよな」と呟いた。すると田島が笑い出し、「ツッコミ所が多すぎる」と告げた。現在。公園のベンチで眠り込んでいた水島は目を覚まし、「行く所、決まった?」と仲間に尋ねる。どこも無いと聞いた彼は、「ちょっと踊ろうか」と持ち掛けた。藤田が「余興なんて、どうでも良くない?。グダグダになって良かったじゃない」と話すと、吉尾は「お前はそれでいいの?」と問い掛けた。
6年前。就職して仙台に住んでいる吉尾は、東京で劇団を主宰する藤田が訪ねて来たのでおでん屋台で一緒に飲んだ。吉尾が「人の気持ちが分からなくて芝居なんか出来んのかよ。逃げてばっかだな、お前は。戦えよ、もっと」と厳しい言葉を浴びせると、藤田は「だから一緒に戦おうぜって。マジで出てほしいのよ、次の芝居。それでわざわざ東京から来たんだよ」と語る。吉尾は拒否し、「前の芝居、何だよ。っともない自分の人生晒して、今は自分もこんなに大きくなって違うんですけどって言いてえのか。いや言いたがってる時点で違えから。みっともねえままだから、全然俯瞰できてねえから」と酷評した。
他の客たちが来たので、吉尾は黙り込んだ。しばらくしてから、彼は藤田に「お前に演劇託してんだよ。毎日働いてんだよ。仙台から見に行くから。招待すんなよ、揉めたくないから」と静かに告げた。現在。公園で余興の練習をする5人を微笑ましく眺めていた藤田は、そこに加わって激しく踊った。「もっと感情を出そうよ。祝福したい気持ちが伝わらないから」と彼が熱く語ると、明石が「腹減ったから休憩していいですか」と言う。引き出物のクッキーを食べようとした明石は落としてしまうが、「3秒ルール」と拾って食べた。
2年前。雨の中、明石は水島に車で駅まで送ってもらった。「去年は3回忌だったから、たくさん来て」と水島が告げると、「すみません、その時は出張で行けなくて」と明石は話した。少し会話を交わした後、水島は「次の人、来るから。また」と言う。貰ったお菓子の礼を明石が述べると、水島は「吉尾の好きだったお菓子だから、食べて」と口にした。階段を歩きながらお菓子の封を開けた明石は、誤って落としてしまう。お菓子を拾って食べた彼は、ホームにミキエがいるのを見つけた。
明石が声を掛けると、ミキエは線香を上げに来たと語る。駅前の方に水島がいることを明石が教えると、ミキエが駅を出て行こうとする。「最近、恋とかしてますか?ちょっと気になって」と明石が尋ねると、ミキエは彼が自分に好意を抱いているのだと誤解して笑い出した。明石が慌てて「いやいや、僕は全然好きじゃないです」と否定すると、彼女は「弄ぶなよ」と腹を立てた。明石は「吉尾さんのこと、どう思ってるかなって」と訊き、「悲しいでいいだろうが」と声を荒らげるミキエを笑って見送った。
現在。公園で練習中の6人は、ミキエが通り掛かるのを目撃した。声を掛けられたミキエは、「二次会、行かないの」と尋ねる。6人が余興を練習していると知って、彼女は「さっきの奴、またやんの?」と呆れ果てた。藤田はミキエを呼び止め、「吉尾さんが言いたいことあって」と告げる。「何?」とミキエは近付くが、吉尾がモジモジしているので「言いたいことがあるなら早く言ってよ」と苛立つ。彼女は吉尾に、ツイッターやインスタグラムのアカウントを消してほしいと要求した。
吉尾は仲間が背中を押され、長々と前置きした上で、ようやく「出会った日から大好きです」とミキエに告白した。するとミキエは携帯を取り出し、娘の写真を見せた。彼女が「友達待たせてるから」と立ち去ると、吉尾は大声で「幸せになれよ」と叫んだ。ミキエは憤慨して戻り、「もうなってるし。話聞いてた?」と吉尾に詰め寄った。吉尾が「死んでるんで、大目に見てほしいなって」と弁明すると、彼女は「死んでたら偉いのか」と声を荒らげた。吉尾が狼狽していると、ミキエは「死んでても死んでなくても、お前は変わんないんだよ」と怒鳴って立ち去った。
曽川は吉尾に「成仏、まだっスか?」と言い、藤田は「どんどん成仏のタイミング逃してるよ」と告げる。吉尾が「だったらもうちょっと、しんみりとやってくれよ」と要求すると、5人は彼を高く持ち上げる。しかし成仏の気配は全く見られず、「くれなずんでんなあ」と5人は呆れた。彼らは吉尾の存在を忘れたら消えるのではないかと考え、無視することにした。5人は夕日を眺め、隣に立っている吉尾を無視した。彼らは「疲れたから2次会までタクシーで行こうか」と話して歩き出し、吉尾が話し掛けても無視を続けた。水島が「一番最後にさ、6人で会ったの覚えてる?」と問い掛けると、全員が立ち止まった。
5年前。吉尾は藤田が演出して明石が出演する芝居を観劇するため、仙台から東京へ赴いた。彼は芝居の後で曽川と田島に声を掛けられ、一緒に飲もうと誘われる。そこに残りの3人も合流し、改めて飲みに誘う。吉尾は仙台に帰ると言って別れ、他の5人は飲みに出掛けた。盛り上がった彼らは、新幹線に乗り遅れた吉尾からの着信に気付かなかった。吉尾は留守電にメッセージを残し、夜行バスに乗って仙台へ戻った。後日、妻の愛とスーパーで買い物をしていた曽川は、吉尾の父親からメールを受け取った。文面を読むと、吉尾が亡くなって葬儀が執り行われる旨が記されていた。驚いた彼は水島に連絡し、同じメールが届いていることを知った。他の3人もメールで吉尾の死を知り、それぞれにショックを受けていた。
現在。5人は吉尾が姿を消したので、彼の引き出物を捨てることにした。彼らは車道の横の土地に捨てようと決め、穴を掘り始めた。そこに土地の持ち主だと主張する男が来て注意するが、それは吉尾だった。吉尾が「迷惑なんで」と言うと、明石は「お前が勝手に出て来たり消えたりしてさ。迷惑なのはこっちだよ」と激怒して詰め寄ろうとする。仲間に制止された彼は、「次は電話出てやるから。絶対、電話出てやるからな」と、吉尾を怒鳴り付けた…。

監督・脚本は松居大悟、製作は森田篤&佐々木卓也&太田和宏&村上正樹&宮前泰志、プロデューサーは和田大輔、協力プロデューサーは永田芳弘、撮影は高木風太、照明は秋山恵二郎、録音は竹内久史、編集は瀧田隆一、振付はパパイヤ鈴木、音楽は森優太、主題歌『ゾウはネズミ色』はウルフルズ。
出演は成田凌、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、城田優、高良健吾、岩松了、滝藤賢一、近藤芳正、飯豊まりえ、内田理央、前田敦子、小林喜日、都築拓紀(四千頭身)、パパイヤ鈴木、Q-TARO、中嶌ジュテーム、大津年金手帳、善雄善雄、本折最強さとし、東迎昂史郎、奥村徹也、木村圭介、井上翔太、井筒しま、東郷知典、樹林輝、西牟田七帆、憐雅、田部乃詠、ちなにむ、阿部みさと、阿部遼哉、大森雄大、兼尾洋泰、河野凌太、永田隼人、西間木猛、比嘉良樹、松岡真吾、三輪尚立ら。


『アズミ・ハルコは行方不明』『君が君で君だ』の松居大悟が監督&脚本を務めた作品。
松居監督の実体験を基にした舞台劇を映画化している。
吉尾を成田凌、明石を若葉竜也、曽川を浜野謙太、田島を藤原季節、水島を目次立樹、藤田を高良健吾、松岡を城田優、弘美を飯豊まりえ、愛を内田理央、ミキエを前田敦子、清掃委員の後輩を小林喜日&都築拓紀(四千頭身)が演じている。
おでん屋台の店主役で滝藤賢一、演劇界の先輩役で近藤芳正、警察官役で岩松了が出演している。

打ち合わせの後のカラオケのシーンで、吉尾は「もしかして俺ってさ、5年前に。お前らも分かってるよね」と告げて「俺、死んで……」と途中まで口にする。
この段階で、「吉尾は5年前に死んでいる」と明示したも同然だ。
「死んで」まで台詞にするってことは、その事実を観客に隠したまま話を進める気は無いってことなんだろう。
ただ、そういう仕掛けを用意したなら、終盤まで隠した方が良くないかね。逆に、隠す気が無いのなら、最初に「吉尾は死人」ってのをハッキリと示した方が良くないかと。
なんかね、そこの表現が、中途半端になっている印象なんだよね。

弘美が「5名様が準備を始めたタイミングで」と言った時、明石は「5人じゃなくて6人が立ち上がったら声かけます」と修正する。
ここぐらいしか、カラオケボックスのシーンまでに「吉尾は既に死んでいる」という答えに繋がるヒントは無い。その気があれば、終盤に入るまで吉尾の死を隠したまま進めることは出来ただろう。
っていうかさ、「吉尾は死んでいる」という事実を隠さずに物語を進めるのなら、その仕掛けの意味って何なんだろうか。
「死んでいると分かった上で、周囲の仲間たちが普通に接している」というトコに面白さを見出すべきなのかもしれないけど、別に何も感じないんだよなあ。
その趣向、充分に活かし切れていないんじゃないかと。

粗筋には書かなかったが、おでん屋台のシーンでは、吉尾と藤田は風俗店に行った帰りだ。楽しそうな藤田に対し、吉尾は「不謹慎だよ。こっちはさ、震災で家が流された人たちが人の温もりを感じるために行くんだよ。そんなに軽い気持ちで」と強い怒りを込めて説教する。
それって、ものすごく疎ましい。
たぶん、「芝居に関する苛立ちが、そういう部分にまで広がってしまった」ってことなんだろうとは思う。
ただ、「他の話題でも八つ当たり」という内容を描くにしても、そこに震災を絡める必要なんて無いはずで。
わざわざ震災という深刻な出来事を俎上に乗せることで、批判しにくい雰囲気を作っているようにも見えて「なんだかなあ」と。

あと、おでん屋台の店主がカタコトの日本語を喋ったり、やたらと注文を間違えたりするのは、ありゃ何のつもりなのかと。
もしギャグのつもりなら、これっぽっちも笑えないぞ。
今時、バリバリの日本人である滝藤賢一に、昭和のコント番組に出てくるエセ中国人みたいなキャラクターを演じさせて、何がしたかったのか理解に苦しむ。
あえて古めかしさの笑いを狙ったのかもしれないけど、どういう意図であろうと完全に外している。

現在のパートでは、吉尾以外の面々に1人ずつスポットが当てられ、仲間と離れて何か行動を起こすタイミングで「吉尾との思い出を振り返る」という回想シーンが挿入される。
だが、そのタイミングで全員が必ず吉尾との出来事を思い出すのは、ものすごく無理がある。
その人物が吉尾と話している流れがあったり、過去を思い出す流れがあったりすれば、全員が吉尾との思い出を回想する内容でも全く問題は無いと思うのよ。
でも、そんな流れを全く作り出せていないので、不自然極まりないのよね。

あと、それぞれの現在や過去の状況描写が薄いため、そういう情報を前提としてドラマを描かれても、こっちに熱が伝わらずに空回りしているだけになる。
例えば、吉尾が芝居について藤田に強い口調で気持ちをぶつけるシーン。それって、「藤田が劇団の主宰で、以前は吉尾も盟友だった。
彼も芝居に情熱を傾けていたが、その道を諦めて仙台で就職した」という過去があってこそ、伝わるモノが大きいんだよね。
でも、藤田の芝居に対する情熱も、吉尾の「自分は芝居を諦めてしまった」という複雑な思いも、まるで描けていないのよ。
だから全てを脳内補完しなきゃいけなくなってるわけで、それは観客に強いる負担がデカすぎるでしょ。

メインの6人は「既に死んでいる吉尾と成仏させてやりたい5人の仲間」という関係性であり、そこから逆算してドラマを紡いでいるのは別に構わない。っていうか、そういう話だからね。
ただし、あまりにも「吉尾のために」という意識が強すぎるせいで、それが不自然さとして伝わって来るのは上手くない。
彼らは友人の結婚式と二次会に出席しているわけだが、それを「吉尾のためのイベント」として利用している印象があるんだよね。
そうじゃなくて、友人を祝福する気持ちは充分にあって、その上で「それとは別に吉尾のために何かしてやろう」という形であるべきじゃないかと。

終盤の回想で、5人が吉尾の死を知らされた時の様子が描かれる。平静を装っていた曽川はスーパーを出ると崩れ落ち、水島は車の中で静かに落胆する。
演劇界の先輩との飲み会で馬鹿にされた藤田は愛想笑いで対応し、明石は怒って反発する。田島は自転車に八つ当たりし、警察官に呼び止められる。
だけど、死を知らされてショックを受けた時の回想シーンとか、全く要らないわ。ショックを受けるのは当然だし、想定内の「悲しみの様子」を描いているだけだし。
そういうのを抜きにして、吉尾が生きていた過去と喪失後の現在の様子だけで、5人の悲しみが伝わるような形にしておいた方が味わいがあるんじゃないかと。

粗筋に書いた「明石が吉尾に激昂して仲間に制止される」というシーンの後、明石と藤田が掴み合いになって互いの心臓を抜き取る様子が描かれる。他のメンバーも心臓を取り出し、吉尾は体を炎に包んで浮遊する。
これ、何なの?
最初は心臓が作り物でコントでも始めたのかと思ったけど、だとしたら吉尾が炎を出したり飛んだりするのは余計な装飾だし。それに、5人は衰弱して菜の花畑に移動しちゃうし。
それって、天国に行ったってことでしょ。何だよ、その唐突なファンタジー展開は。急にVFXで飾り付けるのも、ただ邪魔なだけだし。
「吉尾が死んでいる」という設定以外は、変にファンタジー要素なんて入れずに話を構築した方がいいでしょうに。

5人は天国から地上に戻る時、「過去でも書き換えてやろうぜ」ってことで、最後に吉尾と会った5年前に戻る。そしてバスで仙台に帰る吉尾を見送る時、ちゃんと別れの挨拶をする。「あの時に別れを言えなかったから、そこに戻ってやり直す」ってことだ。
そこを感動的なシーンとして描いているけど、「いやダメじゃん」と言いたくなるわ。
どんな後悔があったとしても、過去に戻ることは、リアルでは絶対に出来ない。だから本作品は、現在のシーンだけで過去に決着を付けるべきなのよ。
そこで「過去に戻る」というファンタジーに頼ってしまったら、全てが台無しになっちゃうぞ。

(観賞日:2022年10月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会