『カンフーくん』:2008、日本
中国少林寺の武術学校に通うカンフーくんは、わずか7歳にして三十六房の試験に辿り着いていた。そのことを担当教師から知らされたピン・コー師匠は、三十五房まで突破したカンフーくんを呼び寄せた。「何のために免許皆伝が欲しいのだ?」という師匠の質問に、カンフーくんは「一番強くなりたいんだ」と答えた。師匠は「お前は本当の強さが分かっていないようじゃ」と言い、彼の右腕に鈴を結び付けた。そして「そなたの最後の相手は、サムライの国、日本にいる」と言い、日本へ弾き飛ばした。最後の敵に会った時、右腕の「封印の鈴」が鳴るという。師匠は「間違った相手に拳を使うと、お仕置きが待っている」と忠告した。
日本では、黒文部省という組織がブラックゲーム社を隠れ蓑にして国の支配とコントロールを目論んでいた。文部省に入り込んだ彼らは、学校の一部を手に入れることに成功していた。黒文部省は開発したゲームを使い、全ての子供たちを洗脳してダメ人間にしようと企んでいた。一方、日本に降り立ったカンフーくんは、公園で太極拳の稽古をしていた泉ちゃんと遭遇した。中華料理店「ニュー幸楽」の女将である泉ちゃんは、空腹を訴えるカンフーくんを見せに連れ帰って食事を与えた。
泉ちゃんの孫娘で店を手伝っているレイコは、カンフーくんを一目見て「可愛い」と漏らす。言葉は通じないが、レイコの同級生である通訳くん1と通訳くん2が翻訳し、カンフーくんの事情を泉ちゃんたちに説明した。泉ちゃんはカンフーくんを家に住まわせてやろうと決めた。レイコはカンフーくんを弟として可愛がることにした。レイコは彼に、亡き祖父がカンフーの先生だったことを話した。
翌朝、レイコが学校へ向かっていると、同級生のイケメンくんがいつものように口説いて来た。レイコが無視していると、そこへ学校一の暴れん坊であるボスバーガーと子分のモミアゲくんが現れた。彼らがレイコに言い寄っていると、公園で稽古をしていたカンフーくんが助けに入る。ボスバーガーを軽くやっつけたカンフーくんだが、最後の敵ではない相手と戦ってしまったために鈴が作動し、腕が勝手に動いて自分を殴り倒してしまった。
カンフーくんがレイコに連れられて小学校へ行くと、黒校長の近くで鈴が反応した。レイコのクラスメイトのさゆりちゃんも、担任教師の優香先生も、カンフーくんの可愛さにメロメロになった。授業に退屈したカンフーくんは、鈴が鳴ったので慌てて教室を飛び出す。校長室では、黒女教師の訪問を受けた黒校長が「いよいよ、この日がやってきましたな。我々は全面的に協力致しますよ」と口にした。しかしカンフーくんが校長室に乗り込んだ時には、2人の姿は無かった。
次の日、カンフーくんがイケメンくんや通訳くん1&2たちにカンフーを教えていると、モミアゲくんが「僕も」と参加した。見学していたさゆりちゃんは、電話を受けて公園を去った。一緒に練習するよう促されたレイコは、既にカンフーの基礎が出来ていた。一行は街で食べ歩きをしたり、遊園地を訪れたりして楽しんだ。回転寿司店に入ると、女性店員もカンフーくんの可愛さにメロメロだった。
カンフーくんとレイコがニュー幸楽に戻ると、ボスバーガーの父親が「息子が怪我をさせられた」と怒鳴り込んでいた。ボスバーガーが「何もしていないのにカンフーくんが後ろから突き飛ばした」と嘘をついたからだ。しかし泉ちゃんも常連客たちも、「この子は根性の曲がったことをする子じゃないんだ」とカンフーくんを擁護した。ボスバーガーが父親に連れられて立ち去ろうとすると、泉ちゃんは「喧嘩するんなら堂々とやんな」と諌めた。
その夜、泉ちゃんはカンフーくんに、自分の父、つまりレイコの祖父はカンフーが強かったが、決して人に手出ししなかったことを語る。かつて地上げ屋が店を荒らした時も耐えていた。しかしレイコの父親は我慢できず、喧嘩など一度もしたことが無い男なのに立ち向かった。病弱だった妻、すなわち泉ちゃんの娘は喧嘩に巻き込まれ、それが原因で死んだ。それ以来、レイコの父はすっかり変わってしまい、絶対に開けてはいけないと言われていた先祖伝来の壺の封印を解いてしまった。そして家を飛び出し、そのまま戻らないという。
泉ちゃんはカンフーくんに、「何かを守るために戦う、それが生きるってことだよ。なぜ自分は戦うのか。その意味を良く考えて。それが本当の強さってもんだよ」と説いた。カンフーくんに眠るよう行った泉ちゃんが暖簾を片付けようと外へ出ると、ボスバーガーが立っていた。彼はオドオドしながら「2人に謝ろうと」と言い、逃げるように走り去った。翌朝、レイコたちが登校しようとすると、公園ではボスバーガーがカンフーくんからカンフーを教わっていた。
レイコたちのクラスには、新しい担任として黒女教師がやって来た。手下たちを引き連れてクラスに入って来た彼女は、生徒たちの教科書を没収してブラックゲーム社のゲームを配布した。ゲームで遊ぶよう指示され、大半の子供たちは能天気に喜んだ。黒文部省は今までの教師を全て辞めさせ、抗議する優香先生を連行した。黒女教師だけでなく、風神、雷神、龍神という3人も黒文部省から派遣されていた。龍神はテスト用紙を配るが、「やらなくてもいいですよ」と言い、生徒たちがゲームに興じるのを黙認した。
他の子供たちがゲームばかりして勉強をしなくなる中で、レイコだけはテストで高得点を取った。そこで黒女教師は、彼女を校長室に連行した。レイコは黒文部大臣から「私がお前の父親だ」と言われ、「貴方が私のお父さんのわけがない」と反発する。黒文部大臣はレイコに、「お前の母親は、この不平等な社会に殺された。だから私は自らの手で、この国を変える。お前は勝ち組になる人間なのだ。私と一緒に、この国の頂点に立つのだ」と語った。
モミアゲくんは不信感を抱き、さゆりはようやく黒文部省の陰謀に気付いた。他の仲間たちにも声を掛け、一行はレイコを捜して校長室へ行く。黒女教師は「ここにはいません」と告げるが、さゆりたちはレイコちゃんの髪飾りが落ちているのに気付いた。危険を察したさゆりの号令で、一同は逃げ出した。追っ手に包囲されると、さゆりは文部省潜入捜査課捜査官の身分証を掲げる。しかし何の効果も無く、彼女とイケメンくん、モミアゲくん、ボスバーガーは捕まってしまった。
別行動を取っていた通訳くん1&2の知らせを受け、カンフーくんは小学校へ向かう。彼は黒校長や手下たちを叩きのめし、捕まっていたさゆりたちと優香先生を救出した。黒女教師がレイコを車に乗せて走り去るのを目撃したカンフーくんは、後を追い掛けようとする。そこに龍神が立ち塞がると、泉ちゃんが戦闘態勢で駆け付けた。彼女はカンフーくんにレイコを追わせるため、龍神の相手を買って出た。カンフーくんはレイコを救うため、ブラックゲーム社に乗り込んだ…。監督・VFXは小田一生、原案は山岸きくみ、脚本は大地丙太郎、製作は黒井和男、企画は中沢敏明、エグゼクティブプロデューサーは中川滋弘、プロデューサーは富田敏家&二木大介、Co.プロデューサーは梅村安&西村敬喜&小曽根太、アソシエイトプロデューサーは大野貴裕&吉田啓、撮影は谷川創平、美術は稲垣尚夫、照明は金子康博、録音は山田均、編集は滝石大志、アクション監督は谷垣健治、VFXスーパーバイザーは仲西規人、音楽は大坪直樹、音楽プロデューサーは古川ヒロシ、エンディング曲『吉祥三宝』歌は吉祥三宝。
出演は張壮(チャン・チュワン)、泉ピン子、西村雅彦、笹野高史、佐田真由美、伊武雅刀、矢口真里、藤本七海、藤田ライアン、佐藤和也、長内大祐、蒲地竜也、松田昴大、佐藤めぐみ、堤下敦(インパルス)、川平慈英、古田新太、上野樹里、金剛地武志、桜塚やっくん、武田真治、広澤草、宮川一朗太、鮎貝健、大地丙太郎、杉村暁、藤邦有子、浅井明、金澤ゆかり、高瀬直紀、ホリケン。、松本光生、今野悠夫、増田俊樹、松田一輝、田端英二、増田修一、浅利英和、榎木智一、世理、山岡麻依子、川北冬樹、洲嵜もなみ、荒巻信紀、岡憲二、寺田知全、川渕かおり、相馬伸之介、佐橋美香ら。
VFXスーパーバイザーとして数々の映画に携わり、『笑う大天使(ミカエル)』で監督デビューした小田一生がメガホンを執った作品。
原案は『カタクリ家の幸福』の山岸きくみ。ちなみに本作品の企画を担当したセディックインターナショナル代表の中沢敏明が、彼女の旦那らしい。
脚本はアニメーション監督としてTVアニメ『おじゃる丸』や『あたしンち』などを手掛けている大地丙太郎。
カンフーくんを演じたのは、オーディションで選ばれたチャン・チュワン。泉ちゃんを泉ピン子、黒文部大臣を西村雅彦、黒校長を笹野高史、黒女教師を佐田真由美、レイコちゃんのおじいちゃんを伊武雅刀、さゆりを矢口真里、雷神を金剛地武志、風神を桜塚やっくん、龍神を武田真治、レイコちゃんを藤本七海、優香先生を佐藤めぐみ、ボスバーガーの父を堤下敦(インパルス)、文部省潜入捜査課の課長を川平慈英が演じている。まず根本的な問題として、チャン・チュワンがそんなに可愛くない。
劇中では「可愛い少年」として描かれているが、そうでもないだろ(それは容姿よりも表情の問題が大きい)。
それと、彼が演じるカンフーくんの「わずか7歳にして三十六房を突破するほどのカンフーの達人」という設定には、相当の無理を感じてしまうのよね。
冒頭シーンでは三十六房の試練で大人の武術家と戦って簡単に勝っているのだが、「そりゃあ相手が合わせてくれているからね」と冷めた気持ちになる。チャン・チュワンの動きは、もちろん7歳にしては素晴らしいけど、「それなりの腕がある大人の武術者と戦っても軽く勝つ」というほどの腕前には見えない。
子供向けのコメディーだから大目に見るべきなのかもしれないけど、やっぱ無理。
だって、リュー・チャーフィーがすげえ苦労して、ようやく突破した試練だぜ、三十六房って。
戦う相手を「不良高校生」とか「チンピラ」とか、そのレベルにしておいてくれれば、そいつらに圧勝しても全く違和感は抱かなかっただろうけど。ピン・コーが「かめはめ波」的な技でカンフーくんを飛ばす時、最初のカットではカンフーくんが画面右に位置している。火の玉状態になったカンフーくんが画面の奥へ向かって飛ばされるカットを挟んで、彼が右から左へ向かって飛んでいく様子が写し出される。
えっと、彼は中国にいて、日本へ向かって飛ばされているんだよね。だったら普通は、「左から右へ」という形で描くよね。
そこを逆にしている意味やメリットが、私には全く分からない。
ただ、その時点で監督のセンスに疑問を抱いたことは確かだ。
疑問っていうか、この人の前作『笑う大天使(ミカエル)』を見ているので、「やっぱりセンスは無さそうだ」という確信に近い気持ちだったけど。序盤の段階で感じたのは、「この映画って、対象にしている観客層はどの辺りなんだろう?」ってことだ。
主人公が7歳の少年であることを考えれば、やはり子供向け映画なんだろうとは思う。幾ら子供向け映画とは言っても「カンフーくん」「ピン・コー師匠」「泉ちゃん」「イケメンくん」「モミアゲくん」といったネーミングは幼稚すぎやしないかと思わないでもないが、そこは置いておくとして。
で、子供向け映画であるならば、泉ピン子を中華料理店「ニュー幸楽」店主として起用するのは、ちょっとズレてるんじゃないですか、と言いたくなる。
それは明らかにTVドラマ『渡る世間は鬼ばかり』を意識した配役と設定だが、子供向け映画を観賞するような低年齢層の子供たちが、あのドラマを見ているとは思えないのよ。だから、そこでパロディーをやっても、子供たちには分からないでしょ。しかも、もっと酷いことに、泉ピン子を「ニュー幸楽」店主として起用したことを「子供を連れて映画館に来る保護者向け」の仕掛けだと捉えても、そこをパロディーとして充分に活用しているわけではないのだ。
ぶっちゃけ、泉ピン子を「ニュー幸楽」の店主役で起用したところで、ほぼ終了なのだ。
その設定を使って、ネタを盛り込んで遊ぼうという意識は全く感じられない。
出オチで終わらせちゃうぐらいなら、そんな仕掛けを中途半端に持ち込むんじゃないよ。泉ピン子を使ったパロディーの部分を厚くしないのであれば、彼女の起用はマイナスでしかない。何しろ、格闘アクションの能力は全く持ち合わせていないんだから。
アクションに関与させず、喜劇パートのみで使うという手もあっただろうに、太極拳の達人という設定にしちゃってるんだよな。
彼女が戦うシーンは当然のことながら「アクションの出来る俳優」としての見せ方が出来ず、スタント・ダブルを起用せざるを得ない。
本人が戦うカットはチラッとしか用意されていないが、それでも動きが鈍いことは分かる。矢口真里の使い方も、脱力感を誘う。
最初に「レイコの同級生」として登場した時点で、それは「彼女が小柄であることを使ったネタ」として受け止めた。周囲の人間も、誰もツッコミを入れたりしないし、そう解釈するのは仕方が無いと思うのよ。
ところが、彼女が小学生の役を演じているという仕掛けを笑いに利用しようという気配が、これっぽっちも見えない。
特に触れることも無く、単なるレイコの同級生として扱われる状態でのまま、どんどん話が先へ進んでいく。後半に入って、「さゆりは潜入捜査官だった」ということが明らかになる。
いや、そのドンデン返しは、物語の仕掛けとして下手だし、ギャグとしても成立しないわ。
潜入捜査官の設定なら、序盤で観客には明かしておいた方がいいわ。レイコたちには内緒でもいいけど。
で、正体を観客に明かした上で、「矢口真里がチビっ子に見られがち」というのをコメディーのネタとして使っていけばいいでしょ。ストーリーの安っぽさやキャラクターの薄っぺらさ、テンポの悪さや展開のグダグダっぷりを百万歩譲って置いておくとしても(それは本当に置いておくことが出来ているんだろうか)、アクションシーンさえ優れていれば、そこでリカバリーすることは不可能じゃない。
だけど、カンフーくんの動きに迫力やキレがあるわけじゃないし、見せ場になるようなアクションシーンも見当たらない。
谷垣健治がアクション監督に入っているので、カンフー・アクション自体はキッチリと作れるはずなんだけど、シオシオのパーだ。そもそも配役からして、カンフーくんが戦う相手に金剛地武志、桜塚やっくん、武田真治という格闘能力に長けているわけではないメンツを起用し、ボスキャラが西村雅彦と来たもんだ。
てっきり、彼の側近としてアクションの出来る俳優を用意して、そいつとカンフーくんの戦いをクライマックスにするのかと思っていたら、西村雅彦との戦いがクライマックスなのよね。それは冴えないわ。
その後、「黒校長に憑依していたCG製の巨大な悪魔が出現し、カンフーくんが泉ちゃんと一緒に光線を発射して倒す」という展開もあるが、格闘アクションとして盛り上がるわけじゃないし、ただの蛇足でしかない。
大人の鑑賞に堪えないということじゃなく、子供向けアクション映画としても相当にドイヒーな作品だ。(観賞日:2014年2月27日)