『恋と嘘』:2017、日本
仁坂葵は親友の小夏&秋帆と共に、同級生である春奈の結婚式に出席した。春奈と新郎である二郎の挙式を見て、葵たちは心から祝福する。ブーケトスの時間になると、女性陣は一斉に集まった。ブーケをキャッチしたのは司馬優翔だったが、彼は幼馴染の葵にプレゼントした。葵は小夏&秋帆と一緒に、9月生まれ対象講習会に参加した。超・少子化対策法の制定により、16歳の誕生日を迎えると遺伝子情報に基づいた理想のパートナーが政府から通知される。この法律に罰則規定は無いが、政府通知相手と結婚すれば様々な優遇措置が受けられる。葵も親友たちも、政府通知相手との結婚に何の反発も無く、むしろ早く理想のパートナーに会いたがっている。
葵は16歳の誕生日を迎える前日、優翔とクレープを食べに出掛けた。その帰り道、優翔は彼女に「いつも通りの葵でいれば、きっと上手くいくよ」と告げる。「やっと叶うね。お姫様になるっていう葵の夢」と言われた葵は、帰宅してから幼稚園の頃の出来事を思い出す。彼女は幼稚園のお遊戯会で、お姫様役を希望していた。人気者の優翔は満場一致で王子様役に選ばれたが、葵は森のお花Bだった。王子様とお姫様のキスシーンになった時、葵は耐え切れずに優翔を捕まえ、彼の唇を奪っていた。
その夜、葵は父の遥一、母の真理恵、母の弟の四谷大輔の3人に、一日早い誕生日パーティーを開いてもらった。遥一と真理恵は政府通知の従って結婚していたが、四谷は葵から結婚について問われると多くを語ろうとしなかった。四谷は葵にプレゼントを渡し、「大事な人に会う時に使って」と述べた。寝室に入った葵が眠れずにソワソワしていると、優翔から電話が掛かって来た。出て来ないかと誘われた葵は、プレゼントされたばかりのワンピースに着替えて公園へ出向いた。
葵は優翔にワンピースを見せ、パートナーと会う時に着て行くつもりだと話す。彼女が挨拶の練習相手を頼むと、優翔は急に「ずっと好きだった」と告白してキスをする。葵が「やめて」と嫌がると、彼は謝ってから「これが俺の気持ちだから」と言う。葵が困惑していると、優翔は「もし俺が政府通知の相手じゃなかったら、幼馴染として応援する」と告げた。深夜12時になると、政府通知相手である高千穂蒼佑がやって来た。優翔は葵に「おめでとう」と言い、その場を去った。蒼佑から花束を貰った葵は喜ぶが、「明日12時に、ロイヤルガーデンホテルのカフェラウンジで。遅刻すんなよ」と彼が冷たく言って去ったので戸惑った。
次の日、葵は緊張しながら蒼佑と会い、高千穂総合病院の御曹司であることに触れて羨ましがる。蒼佑は全く表情を崩さず、「政府通知の相手だから結婚するだけだ。俺に迷惑だけ掛けないでくれれば、それでいい」と言うと次のデート日時を伝えて去った。小夏と秋帆は時間が経てばパートナーに慣れると言うが、葵はデートを繰り返しても蒼佑との距離を縮めることが出来なかった。何とか相手に合わせようと努力する葵だが、蒼佑の冷淡な態度は全く変わらなかった。
葵が「私といて楽しい?」と尋ねると、蒼佑は淡々とした口調で「余計なことを考えなくていいから」と語る。彼が次に会う日時を言おうとすると、葵は「無理に時間を割いてくれなくていいから」と述べた。クレープ屋で優翔と遭遇した彼女は、悩んでいることを見抜かれた。蒼佑の気持ちが分からず自己嫌悪に陥っていることを葵が相談すると、優翔は「ちゃんとパートナーを好きになってる」と指摘した。彼は葵に、「やっぱり会いたい」と伝えるべきだと助言した。
葵は事前に連絡を入れず、いきなり優翔の住む豪邸を訪れた。すると彼の両親である匠杜と香澄が応対し、高千穂家と病院を守るためにふさわしい人間になってほしいと話す。そこへ優翔が現れ、「彼女にアンタの価値観を押し付けるなよ」と匠杜を怒鳴り付けて葵を家から連れ出した。葵が「私のこと庇ってくれて嬉しかった」と口にすると、彼は「勘違いするなよ。あの人たちに好き勝手されたくない」と言う。家に飾ってあった兄の写真に葵が言及すると、優翔は「あいつのことは気にしなくていい。5年前に事故で死んだ」と告げた。彼は兄について、「嫌な奴だったが、親に生き方を決められ、周りから妬まれ、勝手に失望されたのかもしれない」と語った。
葵が「高千穂くんと友達になりたい。もっと高千穂くんのことを知りたい。これからは殻を破れるように頑張るから、高千穂くんのことを全部教えて」と語ると、優翔は「無理だ」と拒絶する。しかし葵がバスに乗って去ろうとすると、彼はキスして抱き締めた。葵は喜んで優翔に報告し、「司馬くんの時も相談に乗るからね」と言う。そこへ厚労省の役人である田所が現れ、葵に「不必要な異性との接触は慎むように」と釘を刺した。
蒼佑とのデートに出掛けた葵はプランを変更し、雑貨店に立ち寄って優翔の誕生日プレゼントに雑貨店でマフラーを購入した。すると蒼佑は不機嫌になり、嫉妬してくれたと知った葵は嬉しくなった。彼女が抱き付くと、蒼佑はキスをした。次の日、葵は優翔にマフラーを渡し、パートナーについて尋ねる。優翔は多くを語ろうとせず、離れた場所に住んでいるので会っていないと告げた。葵は優翔が蒼佑の友達になってくれたら嬉しいと考え、デートに連れて行く。蒼佑は優翔を受け入れ、3人で遊びに出掛けた。その途中で優翔は心臓が痛くなるが、葵と蒼佑は気付かなかった。
優翔は蒼佑と2人になると、葵に関して気付いていないことが多すぎると指摘する。そんな2人の様子を、葵が密かに見ていた。優翔が「今のままじゃ応援できない。葵を幸せに出来る?」と彼が問い掛けると、蒼佑は黙り込んだ。「即答できない?」と言われた蒼佑は、「関係ないだろ」と口を尖らせた。「関係ないわけないだろ」と優翔が掴み掛かると、葵が慌てて止めに入った。優翔は謝罪し、その場を去った。彼は気付かずに薬を落とし、それを蒼佑が拾った。
次の日、優翔は学校を休み、葵は何があったのか気になった。彼女は小夏がパートナーからプロポーズされたと聞き、自分も蒼佑と結婚したいと考える。その夜、彼女は蒼佑からの電話で、京都の大学へ推薦で進学することを知らされる。医学部なので6年も会えないと聞き、葵は寂しがる。蒼佑から「京都へ来ないか?」とオープンキャンパスに誘われた彼女は、一緒に暮らすつもりだと早合点した。そのことを知った蒼佑は、「本気で考えてくれないか」と告げた。
葵は大輔に相談し、とりあえオープンキャンパスに言ってはどうかと勧められた。京都を訪れた葵は蒼佑とオープンキャンパスに参加し、その後はデートを楽しんだ。東京へ戻った彼女は大輔に土産を渡し、蒼佑とのデートを楽しそうに報告した。葵が今後について考えていることを話すと、大輔は「葵のペースで考えればいい」と告げる。彼は葵に、結婚前にパートナーを解消したこと、人生の全てをバレエに捧げている相手の邪魔をしたくないと思ったことを明かしたす。葵が驚くと、大輔は相手が今はロンドンで成功していること、自分も幸せであることを語った。
蒼佑は葵をデートで教会に連れて行き、指輪を見せてプロポーズした。葵は喜んでOKし、彼に同行して京都へ行くことを決めた。彼女は結婚式の招待状を友人たちに送るが、ずっと学校を休んでいる優翔からの返事が無いので気になった。そんな中、優翔から電話を受けた葵が会いに行くと、彼はパートナーのことでバタバタしていたのだと弁明した。優翔は結婚について、「葵を幸せに出来るのは高千穂くんしかいないよ」と祝福した。
葵は結婚する前に、蒼佑の両親に挨拶したいと考えていた。しかし蒼佑は「あの人たちに干渉されたくない」と嫌がり、決して会わせようとしなかった。葵は匠杜に結婚の挨拶をするため、蒼佑には内緒で高千穂総合病院を訪れた。蒼佑が「自分の将来は自分で決めたい」と口にしていたことを葵が話すと、葵は「決めるのはあいつじゃない」と述べた。病院を去ろうとした葵は蒼佑を目撃し、密かに尾行した。すると蒼佑は匠杜に頭を下げ、紹介状を書いてほしいと頼んだ。匠杜から病院を継ぐ条件を出された彼は、それを承諾した。2人の会話を盗み聞きした葵は、優翔が脳腫瘍でグレード3だと知る…。監督は古澤健、原作はムサヲ『恋と嘘』(週刊少年マガジン編集部『マンガボックス』連載)、脚本は吉田恵里香、製作は村田嘉邦&勝股英夫&吉羽治&相馬信之&阿南雅浩&志村彰&松井毅、エグゼクティブプロデューサーは松本整&西山剛史、プロデューサーは大畑利久&柳昌寿&高石明彦、アソシエイト・プロデューサーは小松重之&古林都子、撮影は宮本亘、照明は冨川英伸、録音は高野泰雄、美術は小林大輔、デザイナーは黒瀧きみえ、編集は松竹利郎、衣裳は森岡美代、音楽は吉俣良、主題歌は阪本奨悟『HELLO』。
出演は森川葵、北村匠海、佐藤寛太、徳井義実、木下ほうか、三浦理恵子、中島ひろ子、遠藤章造、眞島秀和、温水洋一、浅川梨奈、田辺桃子、矢部昌暉、工藤美桜、松川星、五島百花、粟國愛鈴、東加奈子、津村和幸、坂本文子、日中泰景、山下メイ、佐々木七海、河上英里子、東城幸久、彩音、岸田結光、志水透哉、宇都宮太良、川北のん、小幡晃聖、落合晴音、日野優太郎、中山恵梨香ら。
ムサヲによる同名漫画を基にした作品。
監督は『今日、恋をはじめます』『クローバー』の古澤健。
脚本は『脳漿炸裂ガール』『ヒロイン失格』の吉田恵里香。
葵を森川葵、優翔を北村匠海、高千穂蒼佑を佐藤寛太、四谷を徳井義実、匠杜を木下ほうか、真理恵を三浦理恵子、香澄を中島ひろ子、遥一を遠藤章造、田所を眞島秀和、クレープ屋の店主を温水洋一、小夏を浅川梨奈、秋帆を田辺桃子、二郎を矢部昌暉、春奈を工藤美桜が演じている。徳井義実と遠藤章造のキャスティングが引っ掛かったが、吉本興業が製作に関わっているわけではなかった。
それはともかく、この2人の存在が映画の質を下げるために大きく貢献している。ハッキリ言って、ものすごく芝居が下手なのだ。
まだ遠藤章造は出番が少ないからともかく、徳井義実に関しては関西弁によるセリフ回しも邪魔だ。この作品に関西弁は全く合わない。
しかも、こいつはヒロインの考えに影響を及ぼす重要な役回りなので、演技力の低さと関西弁が、ますます厄介な負債となっている。まず最初に触れておくべきなのは、「同名漫画は原作であって原作ではないベンベン」という問題だろう。原作と言うよりも、「原案」か「着想」という表記の方が適切ではないか。
何しろ、原作の内容とは全く違うのだ。
何が違うって、登場人物からして全く違う。
原作では根島由佳吏という男子高校生が主人公で、彼と幼馴染と政府通知相手による「男1女2」の三角関係が描かれる。それに対して映画版では、ヒロインと男子2人との三角関係となっている。ちなみにヒロインの父親である仁坂遥一は、原作の主人公の親友の兄だ。この映画は原作の「超・少子化対策法が制定されている近未来」という世界観だけを拝借し、それ以外は完全にオリジナルの内容を作っている。
原作のファンからすると、「タイトルだけ拝借した別物」にしか思えないのではないか。
『恋と嘘/アナザー・ストーリー』とか『恋と嘘 〜葵の場合〜』みたいにサブタイトルでも付けていればともかく漫画と全く同じタイトルでの公開なので、それだと「タイトルに偽り有り」になっちゃってるわな。超・少子化対策基本法が制定された近未来の世界観設定は、かなり荒唐無稽なモノだ。そこに「実際に起きるかもしれない」という類のリアリティーは無いが、それはどうでもいい。そして荒唐無稽であることも、どうでもいい。
この作品は、まるでジャンルが違うように思えるかもしれないが、実は「セカイ系」と称される作品と似たようなモノが根底には存在する。
どういうことかと言うと、「世界観の設定はあくまでも恋愛劇を盛り上げるための仕掛けに過ぎず、それ自体に深い意味は無い」ってことだ。
だから細かいディティールは気にしちゃいないし、仮に整合性が取れなかったとしても大して重要ではないのだ。なので、そこが気になる人は、この手の映画を見るのを避けた方が賢明だ。原作は未読なので内容の詳細は知らないが、映画版に関しては、もはや超・少子化対策基本法の設定は全く意味を成していない。
恋愛劇の背景としてさえ、完全に機能不全と化している。その設定を排除しても、ほぼ同じような物語を構築できてしまうのだ。
具体的に書くと、「ヒロインには幼馴染がいて仲良くしているが、大病院の御曹司である許嫁との結婚こそが、幸せへの道だと盲信している」という設定でいいのだ。
中途半端なSF的設定など使わずとも、何の問題も無いのだ。この映画は、特殊な世界観を積極的に活用して物語に面白味を持たせようとする意識を全く感じさせない。それとは全く無関係な場所で、恋愛劇に障害を用意している。それが「幼馴染の難病」という要素だ。
もはや説明不要だとは思うが、こんなのは超・少子化対策基本法と何の関係も無い。
ちなみに恋愛劇で「病気」という要素を持ち込むのは定番であり、多くの作品で採用されている。
ただ、よっぽど上手く使わないと、安っぽさに直結する危険な仕掛けだ。
そして、この映画で上手く使えているかというと、これも説明不要だろう。映画が始まると、優翔がブーケをキャッチし、プレゼントされた葵が喜ぶ様子が描かれる。その後には、葵と優翔がクレープを食べている様子が描かれる。
後者に関してはデートにしか見えないのだが、ただの幼馴染という設定だ。
でも、その設定に対して描写が合致しているとは言い難い。原作を知らなければ、変に誤解を招くような描写になっている。
ずっと同級生の男女が仲良くしている様子が続いたら、恋人同士だと誤解されても仕方が無いだろう。
そこは最初の段階で、台詞でも使って否定しておいた方が得策だ。ただ、幼稚園の回想シーンにおいて、葵は王子様役の優翔に駆け寄り、「他の子とチューしちゃダメ」と言ってキスしているのよね。
それをヒロイン視点から描いておいて、「でも単なる幼馴染で恋愛感情はありません」と主張されても、どういうつもりなのかと言いたくなる。
そんな回想シーンを入れておいて、それなのに葵は政府通知相手との結婚にウキウキしているのよね。
それなら幼稚園の頃の回想シーンって要らなくないか。入れるにしても、タイミングはもっと後にした方が良くないか。そもそも、超・少子化対策基本法に反発したり嫌悪したりする奴が存在せず、レジスタンス的なグループも存在しないってのは、かなり異常な世界だ。それを全員が前向きに受け止めて歓迎しているってのは、ものすごく不気味だ。
国民が洗脳状態にあるというディストピア映画にしか見えない。例えばジョージ・オーウェル原作の『1984』みたいな感じのね。
軽い気持ちで鑑賞できる恋愛映画として製作去れているけど、実は怖い部分があるのだ。
でも、そこを掘り下げる作業は皆無で、恋愛要素だけを進めて行く。なので、実際は重苦しさのある世界観の設定が、ただの足かせにしかなっていない。こんな作品に対して指摘するようなことじゃないのは承知の上で、あえて野暮なことを書くと、この映画の世界観って完全にLGBTの存在を無視しているよね。実際の社会には大勢のLGBTがいるけど、そういう面々は政府通知に従わない可能性が高いはずで。
それと、同性愛者がカモフラージュとしてパートナーと付き合ったり結婚したりした場合、本当に好きな相手と会っても相手が異性じゃないから厚労省の役人は気付かないってことになるだろう。
そんな風に色々と考えると、実は超・少子化対策基本法って欠陥だらけだったりする。
でも、そんなことを気にするより遥か前の段階で見事にポンコツなので、これは余計な指摘だね。葵は誕生日の前夜に優翔から呼び出された時、大輔に「大事な人と会う時に」と言われたワンピースを着て出掛ける。
「パートナーと会う時に着る予定なので、変じゃないか確認してもらうため」という言い訳はあるが、かなり無理がある。そこでワンピースを見せるのは、それこそが変だと感じる。
仮に「気付いていないけど惚れている」ってのを示す狙いがあるとしても、完全に失敗しているし。
あと、大輔がプレゼントした時点では中身が何か明かさないので重要な小道具として使うのかと思ったら、直後にワンピースを見せちゃうのよね。
だったらプレゼントされた時点で、中身を観客に明かしちゃった方がいいよ。葵は優翔から告白されて戸惑うが、蒼佑が現れると能天気に浮かれている。優翔が祝福して立ち去っても、まるで気にしていない。翌日に学校で会った時には少しだけ気まずそうな様子も見せるが、それ以降は全く気にせず優翔とのデートだけに意識を傾けている。
そうなると、優翔の告白が無意味になってしまう。
そんなシーンを排除したまま話を進めて、しばらく経ってから優翔に「実は好きだった」と告白させる形にでもした方がいいんじゃないかと。
それに、「政府通知相手じゃなかったら幼馴染として応援する」とか中途半端なことを言うぐらいなら、最初から告白なんかしなきゃいいだろ、と思っちゃうしね。優翔は「政府通知相手じゃなかったら幼馴染として応援する」と言っているものの、ちゃんと好きだってことは伝えている。
それなのに葵は、平気で彼に蒼佑のことを相談する。蒼佑のことを嬉しそうに話したり、デートに連れて行ったりする。
この女の無神経ぶりには呆れてしまう。こんな女の、どこに魅力を見出せばいいというのか。
三角関係でドキドキさせたりキュンキュンさせたりってのを狙っているのは、どんなバカでも一目瞭然だろうけど、葵と蒼佑の関係がドイヒーすぎるので優翔が不憫に思うだけ。葵は優翔が学校を休むと気にするが、小夏がプロポーズされたことを聞くと完全に忘却の彼方へ去り、蒼佑と結婚することばかり考える。
ずっと学校を休んでいた優翔からの電話で久々に会う時は「心配したんだよ」と言うが、ずっと蒼佑のことでウキウキモードだったでしょ。
招待状の返事が来ない時までは、まるで優翔のことなんて頭に無かったはず。
なので、そのシーンで「ちょっと結婚への気持ちに迷いが生じている」みたいな様子を見せても、取って付けたようにしか見えない。しかも、もう手遅れとは言え、ようやく三角関係をマトモに描くのかと思ったら、「蒼佑の両親に挨拶したい」ってことになっているのだ。そのため、やっぱり三角関係の図式は見えないままになってしまう。
葵って、ちっとも2人の男の間で揺れ動かないのである。「優翔は幼馴染だし、向こうもそう思っているはず」という認識ならともかく、告白されているにも関わらずだ。
結局のところ、彼女の気持ちが心底から揺れ動くようになるのは、優翔の病気が判明してからなのだ。
そうなると、そこにあるのは優翔への恋心じゃなくて、ただの憐れみや同情なんじゃないのかと思ってしまうぞ。葵が微塵も応援できない奴なので、最終的に優翔を選んでも祝福できない。こんな女と一緒になる優翔が可哀想だと感じるからだ。
しかも本作品は、さらにドイヒーな展開を用意している。葵が海外へ行こうとする優翔を空港で見つけ、告白からキスに至ってエンドロールになるのだが、これで終わりではないのだ。
エンドロールで「海外で幸せな日々を過ごした」ってことが語られて幾つかのシーンが描かれた後、最後に「葵が死んだ優翔の墓参りに来る」という数年後の様子が写し出される。そこへ蒼佑が来て、去ろうとする葵に「クレープを食べに行かないか」と持ち掛けるシーンで映画は終わる。
これは「これから葵と蒼佑がカップルになる」ってのを匂わせるシーンだ。
もう優翔が死んで葵は独り身になったので、そりゃあ誰と恋愛しようが再婚しようが自由だよ。でも、「葵が優翔と蒼佑の両方をゲットした」という形にしか見えないし、決してプラスの評価には繋がらない「その後の葵」の描写じゃないかと。(観賞日:2019年4月22日)