『恋人はスナイパー 劇場版』:2004、日本
警視庁国際部国際二課刑事の円道寺きなこは、家族と共に中華料理を食べに出掛けた。その時、客の1人が狙撃されて死亡する。きなこは近くのビルの屋上に犯人を発見し、後を追った。撃ったのは、香港最大の闇組織「1211」のスナイパー、ハン・ホアチンだ。ホアチンは、きなこを挑発するように薬莢を投げ、姿を消した。
それ以降、同じような狙撃事件が各地で発生した。被害者には、何の共通点も無かった。きなこは婚約者の国際二課課長・船木健一と共に、ハン・ホアチンのことを報告した。すると2人は、首相官邸に呼び出された。きなこと船木は総理大臣の若田部正彦から、最初の事件の前に脅迫電話が掛かっていたことを聞かされる。
電話を掛けた男は自分が「1211」の人間だと紹介し、日本人1億3千万人を誘拐したと告げた。そして身代金として、5千億円の支払いを要求していた。首相筋は全く相手にしていなかったが、連続狙撃事件が発生した後、再び男から電話が掛かり、全て「1211」の仕業だと告げた。そして彼は、これ以上の犠牲を出したくなければ身代金を払えと要求してきた。
若田部は事件解決のため、スナイパーのウォン・カイコーを連れて来るよう命じた。ウォン・カイコーは元「1211」のメンバーで、狙撃の腕はナンバーワンと言われた男だ。そして、きなことの男女関係がワイドショーで騒がれた人物でもある。殺人罪で逮捕された彼は現在、250年の懲役刑を受けて香港の刑務所に収容されていた。
日本政府の要求で釈放されたウォンは、きなこと久しぶりに再会した。日本へ渡ったウォンは警察の指示を受け、事件の調査に当たる。ウォンは最初の事件現場を調べ、それ以降の事件現場の写真を確認する。そして彼は、最初の事件が間違いなくハンの仕業だと告げ、それ以降の事件は自衛官やライフルの代表クラスの選手の仕業だとする推理を語った。
警察が調べた結果、2人の容疑者が浮かび上がった。元自衛隊員の佐藤弘と、元ライフルの代表候補選手・村山朋子だ。2人はいずれも、スキャンダルによって職を追われていた。きなこと船木は朋子をマークし、神宮児正午の弁護士事務所に辿り着く。きなこ達が官邸に呼ばれた時、刑事局主席審議官・上杉勝幸と親しく話していた男だ。きなこは国際部部長の梨田から、警察官が不祥事を起こした際、秘密裏に神宮児に協力してもらっていることを聞き出した。
犯人はマスコミを通じて、「平和バッジ」を購入して身に着けた国民は狙撃しないと発表する。銀行の口座に国民1人辺りの身代金として5千円を振り込めば、バッジが送られてくるという。平和バッジとは、小さな印刷工場を営む三神徳太郎が1年ほど前に大量に作った物だが、全く売れずに在庫が余っていた。三神はマスコミの取材に対し、振り込みがあればバッジは送ると答えた。多くの国民が金を振り込み、バッジは飛ぶように売れ始める。しかし警察の調べで、三神は事件と無関係だと判明した。
ウォンは捜査に協力する時を除き、留置所に収容されていた。そこへ「1211」のボスであるコー・村木が現れ、ウォンを脱獄させた。村木はウォンに、事件が「1211」とは無関係であり、ハンが組織を抜けて別のボスに付いたことを語った。村木はハンのアジトを探り、地下鉄に爆弾を仕掛けたことを見抜いた。きなこはウォンからの連絡を受け、爆弾を見つけてハンの狙撃を阻止した。
犯人はマスコミを通じ、「地下鉄に仕掛けた爆弾を狙撃する予定だったが、平和バッジを付けた人が乗っていたので中止した」と発表する。これにより、ますます平和バッジは売れるようになった。マスコミはウォンが脱獄したことを報じ、上杉を糾弾した。上杉は神宮寺に相談するが、「日本政府は責任を全て押し付ける気だ」と告げられる。
上杉はきなこを呼び出し、射殺して彼女に全ての責任を押し付けようとする。きなこは反撃し、身を守るために上杉を射殺してしまう。きなこは逃亡し、追われる身となった。きなことウォンは神宮寺が犯人だと確信し、彼を追い込む作戦を立てる。神宮時は平和バッジの売上金を別の口座に移し、自ら街行く人を狙撃しようとするが、そこにウォンときなこが現れる…。監督は六車俊治、演出協力は内村光良、アクション監督は高橋伸稔、原作は西村京太郎「華麗なる誘拐」(徳間文庫)、脚本は君塚良一、 製作統括は早河洋、製作は木村純一&遠谷信幸&遠藤茂行&柵木眞&丸茂日穂、企画は青木真樹&出目宏&田村正裕&鈴木裕光、企画・ プロデュースは佐々木基、プロデューサーは島袋憲一郎、音楽は松本晃彦、共同プロデューサーは佐谷秀美、アソシエイトプロデューサー は高瀬巌、撮影監督は藤石修、編集は田口拓也&川村信二、録音は坂上賢治、照明は大寶学、 美術は北谷岳之、主題歌「ONE MORE TIME」はAJI。
出演は内村光良、水野美紀、田辺誠一、赤座美代子、いかりや長介、竹中直人、阿部寛、中村獅童、升毅、田口トモロヲ、牟田悌三、 古田新太、川端竜太、一戸奈未、小林すすむ、須永慶、水谷あつし、村杉蝉之介、天野浩成、大沢樹生、木内晶子、石川美津穂、 秋野太作、大鷹明良、阿部六郎、山崎満、市原清彦、新井量大、奥野匡、伊藤正博、杉田吉平、松田優、杉林功、津田健次郎、 檜山豊、青木忠弘、永井正浩、山田百貴、卜字たかお、天現寺竜、朱門みず穂、高井正憲、野村真季、浅木信幸、峰剛一、浅野靖典、 栗田直樹、小笠原聖、青木兼知、大里希世、生部麻依子ら。
テレビ朝日で放送されたTVのスペシャルドラマ『恋人はスナイパー』(2001年)と『恋人はスナイパー EPISODE2』(2002年)の続編に当たる劇場版。
テレビ版は君塚良一のオリジナル脚本だったが、この劇場版では西村京太郎の小説『華麗なる誘拐』を基にしている。ただし「日本国民全員を人質に取る」という部分だけを拝借した程度だと考えていいだろう。
ウォン・カイコー役の内村光良、きなこ役の水野美紀、きなこの父・雁太郎役のいかりや長介、母・美智役の赤座美代子、妹・はな役の一戸奈未、村木役の竹中直人、ハン役の中村獅童、船木役の田辺誠一、武器職人・八雲役の古田新太らが、テレビ版から引き続いて出演している(中村獅童はエピソード2から)。
他に、神宮児役の阿部寛、上杉役の田口トモロヲ、若田部役の秋野太作、三神役の牟田悌三、佐藤役の大沢樹生、朋子役の石川美津穂らが新たなキャストで加わっている。私はテレビ版をいずれも見ていたのでスンナリと話に入っていくことが出来たが、いきなり劇場版を見た人は、ちょっと厳しかっただろうと思われる。
最初にウォンときなこの関係には軽く触れているが、ほとんどのキャラクターや相関関係についての説明は無いのでね。
まあ、テレビ作品の劇場版には、そういうことは良くある。テレビ版では、主人公がスナイパーという設定なのにガンアクションよりもカンフーアクションが売りというズレが生じていたし(もうエピソード2は完全に開き直ってカンフー・アクションに力を入れまくっていたが)、作りも雑な所があった。
しかし、エピソード2で赤座美代子にスリッパで格闘させるシーンを入れたという点だけで、3作目を作っても良し、と個人的には思っていた。
ただし、あくまでもテレビ版としての3作目であり、劇場版の製作という話が出た時には、「やめておけ」と心から思った。
アクションだけはテレビらしからぬ力の入り具合があったが、それ以外の部分はテレビだから許されるというレヴェルでしかないと感じていたからだ。話の整合性などを深く考えず、かなり粗っぽい作りになっていたからだ。テレビ版に見られた作りの粗さは、そのまま劇場に持っていくと、かなり厳しいことになるだろうと思った。
劇場版では細かい所まで気を配って作るというのなら、それはいいだろう。
しかし、相変わらず作りは見事にデタラメだ。
もしかすると、テレビ版よりも酷くなっているかもしれない。
思い切り手抜き状態になっているかもしれない。きなこがホンを追う前に警察に連絡しないとか、地下鉄を止めるために緊急停止ボタンを押そうという考えが無いとか、まあ色々とアラは多いんだが、最も引っ掛かるのは、きなこに上杉を射殺させていること。
きなこほどのカンフーの腕前があれば、上杉の銃を叩き落とした後、彼をKOすることぐらい簡単だろうに。
そこだけ拳銃を使うことに固執するという不自然極まりない形にしてまで、「上司を殺した罪悪感」という重いモノを持ち込まなくていいよ。テレビ版では、ウォン・カイコーの周辺の出来事が描かれていた。
エピソード1は彼と母親の話だったし、エピソード2は彼と弟分の話だった。
いずれも関わってくるのは、きなこの身内や「1211」の組織という狭い範囲だった。
それに対して、今回はスクリーンサイズに合わせて話を大きくしなけりゃダメだと思ったのか、きなこやウォンと全く関わりの無かった敵が登場する。
しかしスケールの大きな話にしてしまうと、このシリーズの持ち味を消してしまうことに繋がる。
このシリーズの持ち味は、「身内が関わることの出来る程度の大きさの話」という所にあったはずなのだ。
シリーズにはコミカルな要素もあって、例えば前述した赤座美代子の格闘シーンなどがそうだった。しかし今回は個人的な問題ではなく、無差別に日本国民が殺されるという大きな話にしてしまったことで、そういう緩和シーンを入れることも難しくなっている。このシリーズで最も良かったのは、エピソード1だったと思う。なぜなら、「冷徹なスナイパーのウォン・カイコーと、おとなしく弱気な青年チャン・ホイ」というギャップが、話に味付けをするメインの調味料だったからだ。
ところがエピソード2では、最初からウォンはスナイパーとして出てくるし、きなこも彼の正体を知っている。
そして今回の劇場版にいたっては、もはやチャン・ホイの入り込む余地が無くなっている。というか、ウォンとチャン・ホイの境界線が無くなっている。テレビ版で3作目を作っておけば、まだ4作目、5作目と続けることの出来る可能性もあっただろうに、劇場版として続編を作ったことで、もう無理になってしまった。
だから映画はやめておけと言ったのに(いや、それは私の脳内で言っただけで、製作サイドには伝わってないわけだが)。
というか、長さんが亡くなったので、どっちにしろ無理になったけど。この映画でも既に彼の声はガラガラになっていて、かなり聞き取りにくい部分が多い。話がダメでもアクションが良ければ救いはあるが、こちらも低調。
最初に松田勝(現・松田優)が香港刑務所の囚人として登場するのだが、彼のアクションシーンは全く無いという部分1つ取っても、アクション映画としての志の低さが見えようというものだ。
アクション映画に松田優を出演させておきながらアクションをさせないなんて、それは歌番組に鳥羽一郎を呼んでおいて歌わせないようなものだぞ(なぜ例えが鳥羽一郎なんだよ)。この映画にはエピソード2ほどカンフーアクションに傾倒する開き直りは無く、「狙撃」という部分に力を入れようとしている向きがある。ラストのウォンと神宮寺の対決も、遠くからのスナイピング合戦だ。
しかし、たぶん駆け引きで惹き付けようとしているんだろうが、無理ばかりを感じてしまい、どうにも盛り上がらない。
というか、中盤で軽くハンと手合わせした程度で、ウッチャンの格闘アクションが少ないのは勿体無いよな。ジャッキー・チェンをリスペクトした逃亡アクションはあるけど。一方、きなこの方は終盤に格闘アクションをやっているんだが、ホントにカンフーアクションに力を入れるなら、そこで戦う相手は大沢樹生じゃないだろう。それこそ、松田優を持ってきて欲しかったよ。
もしも大沢樹生のような見た目の敵が欲しいということなら、山口祥行でどうよ。見た目のタイプは同じ部類に入るんじゃないかと思うんだけど。