『クレオパトラ』:1970、日本

21世紀の地球。研究施設のタラバッハ所長が助手のマリア、ハルミッチャー、ジローを呼び寄せた。するとハルミッチャーとジローの前で、マリアは殺害された。2人は驚くが、本物のマリアはタラバッハと一緒に待ち受けていた。タラバッハはハルミッチャーたちに、偽者のマリアはパサトリネ星のスパイだと教える。地球の遠征隊はパサトリネ星を征服しようと目論んでいるが、原住民は激しく抵抗していた。パサトリネ星のゲリラは、地球の言葉で「クレオパトラ計画」を意味する陰謀を企んでいた。
タラバッハはゲリラがクレオパトラ計画と名付けた謎を解くため、時代を遡ってクレオパトラについて調査するのが一番だと考えた。そこで彼は発明した機械を使い、助手たちの精神を古代エジプトの人間の肉体にテレポートさせる計画を立てていた。ジローはシーザーの奴隷のイオニウス、マリアは町娘のリビア、ハルミッチャーはクレオパトラの側近のルパーにテレポートすることをタラバッハは決定していた。3人は機械に入り、所長が作動させた。
シーザーがローマ軍を率いてアレキサンドリアに入ると、市長は丁重に出迎えた。シーザーは花束を渡そうとした市長の娘を捕まえ、そのまま連れ去った。シーザーが城へ謁見に赴くと、ローマ国王のプトレマイオスは怯えた様子を見せた。シーザーは市長の娘に、ゲリラの行動を探るために市民の反感を買う行動を取ったのだと謝罪した。彼は手下から、ゲリラの隠れ家を突き止めたという報告を受けた。彼は市長の娘を解放し、兵隊をゲリラの隠れ家へ差し向けた。
ゲリラは隠れ家に集まり、シーザーを倒すための方法を話し合う。リビアが女の武器を使う考えを口にすると、リーダー格のアポロドリアは「シーザーの気を許させるには特別な女でないと」と言う。そのために彼女は、プトレマイオスの姉であるクレオパトラを呼んでいた。彼女はシーザーに降伏した弟を憎み、城を出ていた。アポロドリアはクレオパトラに、男を落とす娼婦のテクニックを教えていた。決して美人とは言えない容貌だったが、アポロドリアは今夜中に変身させることを仲間に告げた。
兵隊が隠れ家に乗り込んで来たので、アポロドリアはクレオパトラとリビアを伴って逃走した。彼女はリビアに、町の同志への使いを指示した。クレオパトラたちを見送ったリビアの肉体に、マリアの精神が入った。クレオパトラとアポロドリアが神殿へ行くと、飼っている豹のルパーが待っていた。クレオパトラたちがルパーの案内で神殿に入ると、魔術の医師が待っていた。クレオパトラが医師の力で美女に変貌した直後、ルパーの肉体にハルミッチャーの精神が入り込んだ。
アポロドリアはクレオパトラを袋に隠し、洋服屋に化けてシーザーの元へ行く。するとシーザーはアポロドリアの正体に気付いており、袋を置いて出て行くよう要求した。袋を開けたシーザーは、クレオパトラに心を奪われた。彼は民衆を集め、クレオパトラをエジプトの女王として紹介した。城を追われたプトレマイオスは憤慨し、将軍はナイル川に毒を流した。それは飲めば腹の具合が悪くなる毒で、ローマ軍の体調を悪化させて襲撃するというのが将軍の企てた計画だった。
シーザーが腹を下している間に、プトレマイオスの軍勢はローマ軍の軍船に火を放った。奴隷のイオニウスだけが生き延びて岸に辿り着き、そこにシローの精神が入り込んだ。リビアは意識を失って倒れているイオニウスを見つけ、手当てを施した。目を覚ましたイオニウスは、ローマ軍とプトレマイオス軍が海戦の最中だと知らされる。「どこかであった気がする」とイオニウスが言うと、リビアも同じ気持ちだと明かした。
リビアがイオニウスに肩を貸して移動しようとすると、プトレマイオス軍の兵士2名が現れて襲い掛かる。イオニウスは2人を撃退するが、兵隊に包囲された。将軍はイオニウスを拘束し、シーザーの側近だと決め付けて尋問する。イオニウスが否定すると、将軍は兵士たちにリビアを輪姦させると脅す。イオニウスはシーザーの魔術師だと述べ、毒で殺しに来たと話す。毒を作るよう促された彼は薬を調合し、幾つもの爆弾を作った。彼は爆弾を使って兵隊を蹴散らすが、シーザー軍に捕まった。
シーザーはイオニウスが敵の陣営にいたことを怪しみ、リビアが「彼が敵を蹴散らした」と説明しても信じなかった。シーザーは剣闘士とイオニウスを戦わせ、リビアを締め上げるよう部下に命じた。クレオパトラはアポロドリアから、シーザーの盃に毒を入れて暗殺するよう指示された。シーザーは発作を起こして苦悶し、水をくれとクレオパトラに頼んだ。クレオパトラは毒を入れた水を渡すが、シーザーは元気になった。毒の効果で、発作が収まったのだ。
ルパーはリビアを拘束しているロープを食い千切り、彼女を逃がした。イオニウスは剣の鍛錬で優れた能力を披露し、シーザーは剣闘士のキジルに必ず勝つよう命じた。キジルはシーザーのライバルであるカシウスのお抱え剣闘士で、闘技場の王者だった。イオニウスは拳銃を作り出すが、使い方が良く分からなかった。クレオパトラは妊娠し、男児を出産した。アポロドリアは彼女に、男児を見に来るシーザーを殺すよう指示して短剣を渡す。しかしクレオパトラは殺すことが出来ず、シーザーは男児にシーザリオンと名付けた。
シーザーはローマに凱旋して大勢の市民に歓迎され、クレオパトラを紹介した。彼は側近のアントニウス将軍から、段取りは整えるので王位に就くよう勧めた。イオニウスがキジルに勝利し、民衆が夢中になっている間に戴冠式を執り行う計画を彼は説明した。イオニウスはキジルに挑んで苦戦するが、拳銃で射殺した。シーザーは王位に就こうとするが発作を起こして倒れた。甥のオクタビアンはシーザー夫人のカルパーニアに、クレオパトラは危険なので近付けないよう助言した。
クレオパトラは寝室へ忍び込み、カルパーニアに拳銃を向けてシーザーを引き渡すよう要求した。するとカルパーニアは「もうシーザーは貴方を愛してない」と言い、試してみるよう促した。クレオパトラはシーザーに、一緒に帰ろうと呼び掛けた。しかし幼児のようになっているシーザーは、カルパーニアの元に残ることを望んだ。カルパーニアからエジプトヘ帰るよう言われたクレオパトラは、その場を去って涙を流した。
シーザーは元老院を掌握し、ブルータスは危機感を抱いた。アポロドリアは彼に接触し、クレオパトラの元へ案内する。クレオパトラはシーザーの殺害を要請し、アポロドリアは大金を差し出した。ブルータスやカシウスたちは、シーザーを抹殺した。クレオパトラは報告を受け、アポロドリアとイオニウスを伴ってエジプトへ戻る。1年後、アントニウスが軍を率いてエジプトへ来ることになり、クレオパトラはアポロドリアからシーザーの時と同じように誘惑するよう指示される…。

監督は手塚治虫&山本暎一、原案 構成は手塚治虫、脚本は里吉しげみ、製作は米山安彦、考証はカセムアリ、キャラクターデザインは小島功、作画は中村和子&波多正美&赤堀幹治&上口照人&杉井ギサブロー&島村達雄&古沢日出夫&木下蓮三、トレスは池田径子、ペイントは福永雅子&木戸桂子&松田和子、ブラシは安斎儀之、美術は伊藤主計、背景は槻間八郎&伊藤攻洋、色彩設定は山本義也、装置は深田達郎、撮影は三沢勝治、実写撮影は本田毅、実写合成は堀口忠彦、実写演出は佐藤肇、編集は古川雅士、音響は田代敦己、効果は柏原満、録音は熊谷良兵衛、音楽は富田勲。
声の出演は中山千夏、ハナ肇、なべおさみ、吉村実子、加藤芳郎、阿部進、柳家つばめ(5代目)、初井言栄、野沢那智、塚本信夫、入江洋佑、今井和子、東京演劇アンサンブル。


虫プロダクションと日本ヘラルド映画が製作した「アニメラマ」シリーズの『千夜一夜物語』に続く第2作。
前作は山本暎一が単独で監督を務めていたが、今回は原案&構成の手塚治虫も共同で監督している。
脚本を担当した里吉しげみは、劇団未来劇場の2代目主宰者。
クレオパトラの声を中山千夏、シーザーをハナ肇、アントニウスをなべおさみ、リビアを吉村実子、タラバッハを加藤芳郎、カバゴニスを阿部進、ルパーを柳家つばめ(5代目)、アポロドリアを初井言栄、オクタビアンを野沢那智、イオニウスを塚本信夫、カルパーニアを今井和子が担当している。

『千夜一夜物語』と同様に、実写映像を持ち込んでいる。しかし前作にも増して馴染んでおらず、ものすごく邪魔になっている。
冒頭の未来パートから実写映像が使われているのだが、まあ無残なことになっている。
研究施設と所員が実写で、顔の部分だけセルアニメをハメ込んでいるのだが、まるで馴染んでいない。実写部分とアニメ部分が完全に分離しており、ものすごくチープな印象になっている。
とてもじゃないが、大手プロダクションの仕事とし思えない。学生の自主制作アニメみたいなレベルにしか見えない。

未来パートでは、地球の遠征隊がパサトリネ星を征服しようと目論んでいることや、原住民がクレオパトラ計画を企んでいることが説明される。そしてタラバッハは、「クレオパトラ計画と名付けた謎を解くために、時代を遡ってクレオパトラについて調査するのが一番」と語る。
ここで「なるほどね」と納得できる人は、たぶん皆無に等しいんじゃないか。
パサトリネ星のゲリラが立てている計画について知るために、なぜ古代エジプトでクレオパトラについて調査する必要があるのかと。まるで関係が無いだろ。
クレオパトラという計画名なんて、そんなに気にしなくてもいいだろ。それよりも、計画の中身の方が重要だろ。

一番の問題は、未来パートには何の意味も無いってことだ。未来人の精神が古代エジプトの人間の肉体にテレポートし、クレオパトラについての見識を深めて、それが果たして何になるのかと。
クレオパトラを巡る出来事を詳しく知ったところで、クレオパトラ計画の謎が分かるはずもない。だから古代エジプトのパートと未来パートは、全く連携していないのだ。ハッキリ言って、未来パートは丸ごとカットでもいいのだ。
かつて未来パートを全て削除した短縮版がビデオ発売されていたのは、「そこは要らない」と判断したからだろう。テレビで放送される映画の短縮版ってのは大抵の場合、批判の対象になるが、この作品の場合は別だ。
ただ、未来パートを削除すると、未来人の魂が入り込むシーンや、イオニウスが爆弾や拳銃を作るシーンが意味不明になっちゃうので、そこは問題があるけど。

舞台がアレキサンドリアに移ると、市民の中にはバカボンのパパやイヤミ、ニャロメたちがいる。言うまでもないだろうが、それらは全て赤塚不二夫の漫画『天才バカボン』や『おそ松くん』、『もーれつア太郎』に登場するキャラだ。
ゲリラの隠れ家を見つけるシーザーの手下は、白土三平の『カムイ外伝』に登場するカムイ。
シーザーがクレオパトラをお披露目するシーンでは、磯野サザエやヒゲゴジラたちがいる。磯野サザエは長谷川町子の『サザエさん』、ヒゲゴジラは永井豪の『ハレンチ学園』のキャラクターだ。
そのように人気漫画のキャラが何人も登場するが、これが許されるのは「手塚治虫の映画だから」ってことが大きいんじゃないかと思われる。

シーザーがクレオパトラを女王として紹介するシーンでは、市民に拍手を促したりストップを指示したりする係員のキャラが登場する。
イオニウスがプトレマイオス軍の兵士2名を倒すシーンでは、「スロービデオでもう一度」という文字が出てスロー再生される。
そんな風にコミカルな演出が何度も持ち込まれるのは、前作の『千夜一夜物語』と同様だ。
そして前作以上に、そんなコミカル描写は完全に外している。

冒頭でタラバッハが「助手の精神が古代エジプトの人間の肉体にテレポートする」と説明しているので、例えばマリアの精神がリビアの肉体に入った途端、「リビアの肉体を借りたマリア」という自覚を持って行動するようになるんだろうと思っていた。
ところが実際には、3人とも古代エジプト人に入ったら自分の意識が失われている。
そうなると、「何のために精神をテレポートさせたのか」と言いたくなる。
クレオパトラや彼女の周辺を観察し、調査するという意識が無いまま行動していたら、無意味になっちゃうでしょ。

イオニウスは将軍に捕まった時、そこにある薬を使って毒を作ると言い出す。
実際には爆弾を作るのだが、彼はリビアに「誰かが作り方を教えてくれている」と話す。
たぶん、それは「肉体の中に入り込んでいるジローが指南している」ってことなんだろう。
だけど、ジローは未来の人間であり、古代エジプトの薬を調合して爆弾を作り出す方法なんて知らないはず。

シーザーがローマに凱旋するシーンでは、世界の名画をモチーフにしたカットが次々に並ぶ。
どうやら市民の熱狂を表現しているようだが、分かりにくいしし、名画を使っている効果は乏しい。これがミュージック・ビデオなら「面白い趣向」と感じたかもしれないけど、長編映画の1シーンとして持ち込まれても、「策士策に溺れる」という印象が強い。
シーザーが殺害されるシーンは歌舞伎の舞台っぽく演出しており、凝ったことをやろうとしているのは分かるけど、面白いかどうかは別。っていうか面白くはない。
やりたいことを全てやって、製作サイドは満足感があったかもしれないが、こっちはストレスや退屈を感じる部分が大きい。

イオニウスがキゼルに追い込まれてピンチに陥ると、クレオパトラが「あの男を助けてやって」と叫ぶ。すると鉄腕アトムが飛んで来る姿が挿入されるのだが、イオニウスは拳銃でキゼルを射殺する。
なので、アトムは何の意味も無い。
もちろん、前述したバカボンのパパやカムイたちと同様、「有名なアニメのキャラをゲスト出演させる」という遊びの一環であることぐらいは分かる。
ただ、それも時と場合を選ぶべきで、そのシーンは「そこは違う」と感じるぞ。

映画のラスト、クレオパトラは城から抜け出してピラミッドへ赴き、自らの意思で罠の仕掛けられた部屋に入って死を選ぶ。
これによって「クレオパトラの物語」は終了するので、では未来から来た3人の魂はどうなるのかというと、「元の時代に戻りました」というだけで終わるのだ。
3人が自身の体験で得た思いを詳しく語るとか、それによってパサトリネ星の征服に対する考えが大きく変化するとか、そういった描写は無い。3人の報告を受けて、遠征隊の計画に影響が及ぶことも無い。
クレオパトラ計画について「工作班が地球人男性と結婚して殺害を狙う」という計画だと明らかにされるが、それが分かったところで何の意味も無い。「衝撃のラスト」みたいなオチの力を持っているわけでもないしね。
なので前述したように、未来のパートは全く意味が無いままで終わっているのだ。

(観賞日:2020年10月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会