『傷だらけの勲章』:1986、日本

エジプトのカイロ。ホテルに宿泊していた殺し屋のテッド・片岡は電話を受け、標的が15分後にスフィンクスの前を通ると知らされた。彼はホテルを出発し、スフィンクスの前で身を潜めて待ち伏せした。しばらくすると東光開発社長の倉田栄作を乗せた車が現れ、まず片岡は運転手を狙撃して始末した。倉田が車から出て来ると、片岡は彼も射殺して立ち去った。巽署の刑事である都築明は恋人でTVレポーターの脇田啓子とセックスした後、ベッドで眠り込んだ。彼女に起こされた都築は、ベッド脇に放置した拳銃に気付いた。
啓子はテレビのニュースで倉田の殺害事件を知り、担当番組『2時のワイド』の製作チームに電話して緊急会議の招集を頼んだ。都築は迎えに来た先輩刑事の大貫六助と共に、射撃練習へ赴いた。大貫は彼に「署長が使わせろと言っていた」と告げ、SWの44口径を渡した。山本譲弁護士事務所に河原浩と佐野茂美という2人組が押し入り、事務員の女性の口をテープで塞いで両手を縛った。彼らは倉田の遺言執行人である山本に拳銃を向け、遺言状の場所を教えるよう迫った。山本が知らないと言うと、彼らは銃で脚を撃った。
事務員は隙を見てドアを開け、事務所から逃げ出した。たまたま近くを車で通り掛かった都築と大貫は、事務員に駆け寄った。河原と佐野は別々に逃亡し、都築と大貫は手分けして追い掛けた。大貫は佐野に逃げられた後、事務所に飛び込んだ。山本は鍵を渡し、「倉田栄作の遺言状」と言い残して絶命した。都築は河原を追い込むが、人質を取って盾にした彼を撃てずに逃亡を許した。巽署に戻った都築と大貫は、署長から「射殺すれば良かったんだ」と告げられた。
都築は大貫に連れられて地下の射撃練習場へ行き、「人ってそう簡単に撃てないものですね」と漏らした。かつて彼は手錠を持って犯人を追い詰め、拳銃を向けられたことがあった。そこへ大貫が駆け付け、犯人を射殺して都築を救っていた。倉田夫人の喜枝と娘の麻里が通夜から邸宅に戻ると、大勢のマスコミが待ち受けていた。啓子を含むリポーター陣がマイクを向けて近付く中、喜枝と麻里は井上専務たちに守られて邸宅に入った。
倉田の周囲には黒い噂があり、敵も多かった。また、社内でも倉田のワンマンぶりに反対する勢力との抗争があった。豊島警部が捜査本部で事件の背景について説明する中、大貫は山本に託された鍵を都築に見せた。彼は都築を伴って倉田邸へ行き、喜枝に鍵を見せて「見覚えはありませんか」と尋ねた。喜枝は知らないと答えるが、麻里は彼女が同じ鍵で父の書斎を引っ繰り返していたことを指摘した。喜枝は都築と大貫に鍵を見せ、倉田のカイロの遺留品の中にあったと告げた。
都築と大貫は喜枝の様子や証言から、彼女が遺言状を探していたと確信した。麻里は遊びに来た友人がタクシーで去るのを見送りに出た時、河原と佐野に拉致された。喜枝は脅迫電話を受け、遺言状の引き渡しを要求された。都築が捜査本部に連絡しようとすると大貫が止め、「大捜査網を敷かれるとろくなことにならない。俺たちだけで片付けるんだ」と述べた。彼は使用人の面々に電話禁止を言い渡し、喜枝のいる客室から立ち去らせた。
大貫は喜枝の許可を得て邸内を捜索するが、遺言状は見つからなかった。彼は喜枝に指示し、河原たちからの電話で脅迫状が見つかったと嘘をつかせた。翌日、喜枝は指定されたレストランへ赴き、都築と大貫は車で張り込んだ。河原と佐野は店に電話を掛け、喜枝はタクシーで町外れの廃墟に移動した。そこには麻里が監禁されており、喜枝は河原たちに持参した鞄を渡した。遺言状が偽物だと知った河原たちは激怒し、喜枝に掴み掛かる。そこへ大貫が乗り込み、河原を射殺した。都築は廃墟を飛び出した佐野を追うが、逃げられてしまった。彼は巽署に連絡しようとするが、車の無線は壊れていた。
都築は啓子から、自分と大貫を番組でヒーローとして取り上げるつもりだと聞かされる。彼は協力を拒み、「野次馬のバカ騒ぎだ」と激怒した。都築は最近の大貫が変だと言い、啓子だけは変わってほしくないと告げた。都築は倉田邸へ行き、大貫から佐野が玄関脇の植え込みに一発撃ち込んだことを知らされた。書斎の暖炉に視線を向けた大貫は、不審な場所に目星を付けた。彼は都築に、しばらく屋敷で張り込むことを告げた。
夜、都築がソファーで眠り込むと、大貫は目星を付けていた場所を調べて金庫を発見した。彼が鍵を使って金庫を開けると、遺言状の封筒が入っていた。そこへ喜枝が来て遺言状を渡すよう求めると、大貫は拒否した。喜枝は大貫が井上に遺言状を売るつもりだろうと指摘し、誘惑して3億円での買い取りを持ち掛けた。大貫は取引を拒否し、遺言状を開けて内容を確認した。喜枝が「助けてください」とすがると、彼は強く抱き締めた。目を覚ました都築は大貫と喜枝の様子を見て、2人が情事に及んだことを悟った。
翌日、大貫は鑑識を呼び、何事も無かったかのように金庫を受けさせた。金庫の中には、倉田と井上が通産大臣に5億円の贈与を約束した念書が入っていた。それは以前に国会で問題になったダム工事に絡む念書であり、井上は警察の家宅捜索を受ける前に自殺した。東光開発の新社長には大阪支社長の菊村が抜擢され、井上派は総退陣した。喜枝は28%の株を所有し、その発言力は絶大になった。都築は大貫に、喜枝と取引したのだろうと詰め寄った。大貫は「うるさい」と彼を怒鳴り付け、「佐野を挙げないと、本当の犯人は分かりゃしない。この事件は、もっと根深いんだよ」と述べた。
都築は「俺は俺なりにやります」と言い、カイロへ飛んだ。砂漠を調べた彼は、銃弾を見つけた。東光開発カイロ支社長の森本毅は、都築に「そろそろ引き上げた方がいいですよ」と通告した。都築は東京から届いたテレックスを見て、佐野を追った大貫が車ごと崖下に転落して死亡したこと、佐野が行方不明であることを知った。帰国した彼は、大貫の妻である静子に会った。静子は大貫が死ぬ1ヶ月ほど前に3億円の生命保険に入っていたことを明かし、「一生に一度の女房孝行のつもりだったのかも」と述べた。都築は大貫の殉職に関する資料や写真を見て現場を訪れ、死んでいないのではないかと推理した。
一ヶ月後。佐野を名乗る男が東光開発シンガポール支社に50万ドルを要求する電話を掛け、「支払わなければ支社に仕掛けた爆弾を起動させる」と脅す事件が発生した。しかし金の受け渡し場所には誰も現れず、爆弾も発見されなかった。そのニュースを知った都築が倉田邸に電話を掛けると出たのは警備保障会社の男で、喜枝は不在だった。都築は喜枝がシンガポールへ行ったと確信し、東光開発シンガポール支社へ行き、支社長から話を聞いた。支社長によれば、喜枝が来てから脅迫電話は無くなったらしい。喜枝と会った都築は大貫との取引について詰問し、目的は金かと尋ねた。すると喜枝は落ち着き払った態度で、「いいえ、愛です」と答えた…。

監督は斉藤光正、脚本は大和屋竺、製作は磯野理&谷口洋、プロデューサーは天下井隆二&室岡信明、撮影は安藤庄平、照明は佐藤幸次郎、美術は竹中和雄、編集は神谷信武、録音は神保小四郎、音楽は佐藤準、音楽プロデューサーは前田忠彦、主題歌『流れるままに 落花流水』は国分友里恵。
出演は西城秀樹、中村嘉葎雄、ちあきなおみ、朝加真由美、藤代美奈子(藤代宮奈子)、竜雷太、高橋幸治、成田三樹夫、萩原流行、深水三章、小林稔侍、鈴木瑞穂、仲谷昇、小林昭二、下元勉、左時枝、平泉成、片岡吾朗、大林丈史、大地康雄、LIM SOO GEE、沼田陸行、石川慎二、寺内悦夫、野瀬哲男、田辺義敦、町田真一、玉村駿太郎、田辺洋、森下明、石崎洋光、荻原紀、西内彰、福岡康裕、大門春樹、星野浩巳、稲山玄、奥久俊樹、羽吹正吾、小山昌幸、勝光徳、久茲英明、大谷進、田中弘志、岩城正剛、朝岡邦紀、奥村正、武川信介ら。


『伊賀忍法帖』『積木くずし』の斎藤光正が監督を務めた作品。
脚本は『カポネ大いに泣く』『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』の大和屋竺。
都築役の西城秀樹は、12年ぶりの映画主演。
麻里を演じた藤代美奈子(藤代宮奈子)は、これがデビュー作。彼女は第一回東宝シンデレラオーディションで審査員特別賞を受賞し、当時は沢口靖子&斉藤由貴と共に「東宝三人娘」として売り出されていた。
大貫を中村嘉葎雄、喜枝をちあきなおみ、啓子を朝加真由美、豊島を竜雷太、森本を高橋幸治、署長を成田三樹夫、片岡を萩原流行、河原を深水三章、佐野を小林稔侍、倉田を鈴木瑞穂、山本を仲谷昇、井上を小林昭二が演じている。

喜枝は「夫が死んでショックを受けている芝居」という感じでもなく、「生気の無い異様な女」に見える。何だか人間じゃないかのような印象なのだ。
そんな映画じゃないのは分かっているけど、「実は異星人に憑依されている」みたいな設定でも、しっくり来るような芝居になっている。
麻里は父が死んだ直後なのに、都築と大貫が屋敷を訪れるシーンでは、もう明るくて元気一杯になっている。友人が遊びに来ていて、普通に歓迎している。
2人とも、演技力が云々という以前に、芝居の付け方を間違えているとしか思えない。

大貫は山本に託された鍵を署長や豊島たちに言わず鑑識から持ち出し、喜枝に見せる。麻里の誘拐を知った都築が捜査本部に連絡しようとすると、「自分たちだけで片付ける」と制止する。使用人たちには電話禁止を通達し、喜枝がいる客室から立ち去らせる。
大貫の行動は、ずっと胡散臭さに満ち溢れている。にも関わらず、都築は全く疑問を抱く様子が見られない。
なので、都築が底抜けのバカに見えてしまう。
そういうキャラなら別にいいけど、もちろん違うからね。

都築が啓子に「最近のロクさん、ちょっと変なんだ」と言うシーンがあるが、そう思っていた様子は、ほとんど描かれていない。
そもそも、変だと思っていたのなら、それを本人に尋ねない理由が何も無いし。
あと、最近になって大貫が変になった理由も分かりにくいし。
まあ「鍵を手に入れ、遺言状を売り払って大金を得ようと考え始めたから変になった」ってことなんだろうけど、なぜ急に悪事に手を染めても大金を得ようとしたのか分かりにくいし。

喜枝が大貫に「井上専務に遺言状を売る気なんでしょう」と言うシーンで、初めて「そういう設定だったのね」と分かる。
でも振り返った時に、そりゃあ不可解な行動は幾つも取っていたけど、その動機で納得できるような伏線は乏しかった。
そもそも、それ以降のシーンでもそうなんだけど、大貫が犯罪に手を染める様子を描いているのが失敗だとしか思えない。
もっとハードボイルド風味にして、都築の視点に絞って話を進めた方が良かったんじゃないかと。そして都築が大貫と喜枝の悪巧みを突き止めたり気付いたりした時、初めて観客も分かるような趣向にした方が絶対にいいよ。

大貫が屋敷で張り込むことを都築に告げた後、カットが切り替わると夜になっている。ここで大貫は、「本当の親子ではない、か」と呟く。
それが「喜枝と麻里は本当の親子ではない」という意味なのは分かるが、どこでその情報を知ったのか。そんなことを誰かが喋るシーンなんて、どこにも無かったでしょ。
その大貫の台詞だけを急に提示するのは、違和感しか無いぞ。
もっと言っちゃうと、そのタイミングで「本当の親子じゃない」と言わせなくても、ずっと後から観客が知る形でも全く支障は無いし。

終盤、倉田の遺言状に「財産は全て麻里に譲渡する」と書かれていたこと、喜枝を排除した理由として「森本との密通は許すまじ事」と記されていたことが明らかにされる。
その内容を知って、喜枝は大貫に助けを求めたのだ。
ただ、遺言状に「妻の不倫は許せない」と書き、相手の名前まで明記するのは、あまりにも不自然だ。
粗製濫造のプログラム・ピクチャーではなくて、もう少しシナリオ製作には時間の余裕があったんじゃないかと思うんだけどね。

喜枝は周囲の男たちを虜にして利用する魔性の女なのだが、ファム・ファタールとしての説得力が全く感じられない。
「けだるい様子」で「ミステリアスな色気」を表現しているつもりなのかもしれないけど、単に生気が足りないだけにしか見えない。
あと、大貫が彼女の虜になったことで色んな問題が起きているわけだが、それなら彼は「そもそもは誠実な刑事」にしておくべきでしょ。
「そもそも井上に遺言状を売ろうとしていた」という設定があると、「喜枝に溺れて道を踏み外した」というドラマが弱くなるでしょうに。

西城秀樹は12年ぶりの映画主演と書いたが、前作は1974年の『愛と誠』。その翌年に『ブロウアップ ヒデキ』が公開されているが、これはコンサートツアーを追ったドキュメンタリー映画なので「主演映画」の扱いから除外している。
西城秀樹は登場シーンが朝加真由美との濡れ場でオールヌードを披露し、後半にもシュワーシーンで脱いでいる。
久々の映画主演ということもあって、本人としても気合が入っていたんだろう。エジプトとシンガポールでロケも行い、「スケールの大きいアクション映画」であることを分かりやすくアピールしている。
しかし残念ながら、西城秀樹の気合いが結果に結び付くことは無かった。

(観賞日:2023年11月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会