『北の蛍』:1984、日本
明治政府は、広大な土地と無尽蔵の資源を埋蔵する北海道を開発しようと考えた。そこで北海道開拓使長官・黒田清隆は、全国の囚人を北海道に移送して開拓労働に就かせることにした。こうして明治14年(1881年)、石狩川上流に樺戸集治監が開設された。
明治16年(1883年)初冬、集治監の典獄・月潟剛史の元に、補充採用者として熊谷友三郎、八木英造、元新撰組の永倉新八が到着した。一方、脱獄した正木伝次を捜索していた各務靭良の隊が、行き倒れになっていた女性・中村ゆうを連れて戻って来た。
月潟はゆうに入れ上げ、馴染みの女将・すまが営む料亭「渡月」に預ける。ゆうは月潟に、自分が囚人となっている男鹿孝之進の情婦だと明かす。月潟はゆうが男鹿に会うことを許す代わりに、彼女に政府から派遣された石倉武昌の相手をさせる。
男鹿はゆうに自分が赦免など求めておらず、死ぬ気だと告げる。そして彼はゆうに、月潟を殺すよう指示する。しかし、ゆうは月潟に惚れており、殺すことが出来なかった。永倉に襲われて重傷を負った月潟を、ゆうは寝ずに看病する。
内務省からの緊急指令によリ、湯原忠良が新しい典獄に就任することになった。だが、北海道開発を他人の手に渡したくない月潟は、湯原を追い返してしまう。月潟はゆうを連れて開拓現場に向かうが、反乱を起こした男鹿達に捕まってしまう…。監督は五社英雄、脚本は高田宏治、製作は高岩淡&佐藤正之、企画は矢部恒&佐藤雅夫、プロデューサーは佐藤和之&厨子稔雄&遠藤武志、スーパーバイザーは阿久悠 、撮影は森田富士郎、編集は市田勇、録音は平井清重、照明は増田悦章、美術は西岡善信&山下謙爾、衣裳は松田孝、舞踏振付は藤間紋蔵、擬斗は土井淳之祐、音楽は佐藤勝 、主題歌は森進一。
出演は仲代達矢、岩下志麻、佐藤浩市、早乙女愛、露口茂、夏木マリ、成田三樹夫、小池朝雄、夏木勲、隆大介、三田村邦彦、丹波哲郎、中村れい子、高沢順子、苅谷俊介、山谷初男、木村四郎、荒勢、二瓶正也、佐藤金造、宮内洋、月亭八方、佐藤京一、阿藤海、東隆明、益岡徹、有川正治、成瀬正、稲葉義男、星野游、藤島くみ、丸平峯子、津奈美里ん、渡辺隆馬、隈本吉成ら。
集治監の初代典獄と囚人の情婦の恋愛を軸に、明治の北海道開拓事業に関わった人々を描いた歴史ロマン、だと思う。
過酷な労働を囚人に強いる、エロと暴力に染まり切っている暴君。
恋人を裏切って、その恋人を酷使している男とネンゴロになる尻軽女。
そんな2人の恋愛を中心に、ストーリーは進んでいく。とにかく、中心となる月潟がメチャクチャな男なのである。
正木の処刑に同じ獄舎の人間を同席させる悪趣味っぷりを見せるわ、なぜか正木の斬首役を務めた各務を斬り殺す残虐っぷりを見せるわ。
というか、なぜ各務を殺すのかは不明。月潟は非道で残虐でワガママで自分勝手な男だが、なぜか女にはモテる。
男鹿の恋人で、彼の赦免のためには何でもするとまで言っていたゆうが、あっさりと月潟に転ぶ。
他に理由が見当たらないので、どうやら月潟のセックスに参ってしまったようだ。チャンバラも、エロも、革命に燃える男達も、夫婦や恋人達の恋愛も、とにかく積め込めるだけ積め込んでいる。
しかし、全てを少しずつ、つまみ食いして、不恰好なシロモノを提示する結果となっている。月潟とゆうだけでなく、他の登場人物にもスポットを当てているのだが、群像ドラマではなく、ただ散漫なだけに終わっている。バラバラなピースをエロで何とか繋ぎ合わせようとしながら、物語は情念を雪に埋もれさせて進んでいく。
急に都合良くヒグマが出てくるという、有り得ないようなチープな展開を堂々と見せ付ける思い切りの良さもありつつ、男鹿孝之進を演じる露口茂のカッコ良さだけがわずかに光を発した作品は、月潟とゆうの空虚な踊りで幕を閉じる。