『キセキ -あの日のソビト-』:2017、日本

ジンはメタルバンド「HIGH SPEED」のヴォーカルとして活動し、ライブハウスで熱唱する。盛り上がったファンの男がステージに上がって絡んで来たので、彼は殴り倒した。帰宅した彼は、激昂する父の誠一に殴られた。ジンの弟であるヒデは大学を受験し、合格発表の日には結婚して家を出た姉・ふみもお祝いのために実家へ戻って来た。母の珠美は「きっと受かっているわよ」と楽観的に告げるが、ヒデから「落ちた」と聞かされた。
総合病院で勤務する医者の誠一は、櫻井結衣という高校生を担当している。彼は結衣と母親の陽子に、相変わらず血液の逆流が目立つと告げる。美大受験を目指していると話す結衣に、あまり無理をしないよう彼は忠告した。ヒデは再び予備校に通い、友人のナビと再会する。CDショップに入った彼が海援隊のCDを購入すると、店員の木下理香は「渋いですよね、海援隊」と口にした。ジンとバンドメンバーはプライマル・レコードの音楽プロデューサーである売野から、メジャーデビューを持ち掛けられた。
帰宅したジンは、誠一から音楽活動について「いつまでフラフラしてんだ」と叱責される。ジンが「バンドでちゃんと食っていきます」と言うと、誠一は激怒して殴り付けた。ジンは家を出て、バンドメンバーであるトシオの実家で泊めてもらった。トシオの父である義男は自動車修理工場を経営しており、そこでジンは働かせてもらって生活費を稼ぐ。ヒデは再びCDショップへ行き、また海援隊のアルバムを買って少しだけ理香と話した。
メジャーデビューを決めたジンは売野のプロデュースでレコーディングを開始し、家賃12万円のアパートに引っ越す。ヒデはプライベートでも理香と会うようになって浮かれる、予備校で受けた模擬試験は本命がE判定ばかりで落ち込んだ。彼は珠美に「医学部は難しいかもしれない。予備校の友達で歯科大志望の奴がいてさ」と言い、方向転換を考える。誠一はヒデが思い切って「歯医者になろうと思います」と告げると、反対しなかった。
誠一は陽子から、「結衣が息苦しそうにすることが増えている」と相談される。彼は拡張型心筋症が進行しているのだと説明し、最悪の場合は手術が必要だと述べた。誠一は陽子の承諾を得て、今の状況を結衣に明かす。結衣は「すぐじゃなきゃタメですか?」と言い、動揺した様子を見せた。HIGH SPEEDは音楽雑誌で特集記事が組まれ、久々に実家へ戻ったジンは珠美とヒデに見せる。珠美は喜ぶが、誠一は「そんなお遊びなんか、どうでもいい」と怒鳴った。
ジンが「俺は本気で音楽やってます。それを父さんに認めてもらいたくて来たんです」と告げると、誠一は「お前の音楽は所詮、お遊びだ。命のやり取りも無い」と言い放った。ジンは「病気は治せても、息子の気持ちは分からないみたいですね」と誠一を睨み付け、ヒデに「本気で歯医者になりたいのか」と問い掛ける。ヒデが少し考えてから「俺は歯医者になります」と宣言すると、誠一は「弟の足を引っ張って楽しいか」と誠一はジンを非難した。
HIGH SPEEDの新曲演奏を聴いた売野は、「作り直して。サウンドをポップにしないとメジャーでは通用しない」と指摘する。「自分らなりに曲が出来たと思ってやってるんですけど」とジンが反論すると、彼は「自己満足でいいなら世間に出す意味無いでしょ」とクールに言う。ヒデは神奈川県歯学大学歯学部歯学科に合格し、理香に知らせた。ヒデだけでなくナビも歯学科に合格しており、彼らは大学でクニ&ソウと親しくなる。ヒデは以前にやっていたギターを持ち出し、4人で一緒に歌を作った。
HIGH SPEEDは曲を作り直すが、売野のOKは出なかった。我慢できなくなったジンが激昂すると、売野は「子供の遊びに付き合ってる暇は無いんだ」と突き放した。ヒデはジンに、自分たちの曲をアレンジしてもらえないかと頼んでMDを渡す。トシオは不満を募らせ、バンドを辞めると言い出した。MDを聴いたジンはデモを作り、それを受け取ったヒデたちは河原で練習する。ヒデたちはライブハウスへの出演が決まり、大学でチラシを配布した。4人は「Green Boys」としてステージに立ち、オリジナル曲の『声』を披露した。
ヒデは音楽を趣味だと考えており、ライブを見ていた理香から「ホントに趣味で終わらせるの?」と質問されて「俺は歯医者になるし」と答えた。ジンは売野にGreen Boysのライブ音源を録音したCDを渡し、「聴いてください」と頭を下げた。売野が興味を抱き、CDを出す話が持ち上がる。その話をジンから聞かされたナビたちは喜ぶが、ヒデは「俺ら歯医者になるわけだし。音楽は趣味だし」と断った。ナビたちも受け入れるが、ヒデはジンのアパートを訪れて「やっぱり、自分たちの音楽を世の中に発表したい」と告げた。
Green Boysとジンはアパートに集まり、カップリング曲の『空』を完成させた。ジンが売野に曲を聴いてもらい、正式なCDデビューに向けて動き始めた。結衣の心不全が悪化し、誠一は緊急手術で彼女を救った。ヒデは誠一にデビューが許してもらえるとは思えず、ジンは黙っているよう告げる。彼は売野を説得し、Green Boysは顔を出さずにメジャーデビューすることが決まった。CDデビューを前にして、グループ名は「GReeeeN」に変更された。入院中の結衣は、発売されたGReeeeNの曲を聴いてファンになった。ジンは工場を継いだトシオを訪ね、「俺も身の丈に合ったことを始めたから。人にはそれぞれ、自分本来の役割ってもんがあるんだよな。ようするに縁の下の力持ちってことだよ」と語る…。

監督は兼重淳、脚本は斉藤ひろし、製作は松井智&村松秀信&木下直哉&木原康博&町田晋&木村友一&寺島ヨシキ&牧和男、プロデューサーは小池賢太郎、共同プロデューサーは丸山文成&柳迫成彦、アソシエイトプロデューサーは飯田雅裕&千木良卓也&平石明弘、協力プロデューサーは田口聖、撮影は向後光徳、照明は斉藤徹、録音は吉田憲義、美術は布部雅人、編集は小原聡子、音楽はGReeeeN、音楽プロデューサーはJIN。
主題歌「ソビト」歌:GReeeeN、作詞 作曲:GReeeeN。
出演は松坂桃李、菅田将暉、忽那汐里、平祐奈、横浜流星、成田凌、杉野遥亮、小林薫、麻生祐未、野間口徹、早織、奥野瑛太、大村真司、きあら、赤間麻里子、久保酎吉、足立智充、松本若菜、小野まりえ、伊東蒼、吉木遼、川野雄一、安井大貴、武蔵澄子、井関紀大、野依健吾、河本祐貴、原賀大樹、鶴田雄大、永井真之介、遊佐航、大村昌弘、足立堯之、増田匡紀、緒方優大、真下玲奈、内山由香莉、大田恵里圭、根矢涼香、堀春菜、沖彰人、高梨慶輝、松本武佼、松原史朗、菅谷和礼、庄司佳代、今田美桜、山内愛奈、清水澪梨、辻わかな、津田星、浜田神楽、蓮池桂子、田中智也、田淵優太、加藤元樹、下崎陽、渡辺晃大、速水玲、松尾雅斗、高橋聡子、藤田茉衣子、佐々木もも、松浦敬昭、滑川拓也ら。


覆面グループ「GReeeeN」の楽曲『キセキ』が誕生するまでの実話をモチーフにした作品。
主題歌にはGReeeeNの『ソビト』が使われている(「ソビト」はGReeeeNによる造語)。
監督は『ちーちゃんは悠久の向こう』『腐女子彼女。』の兼重淳。脚本は『娚の一生』『風に立つライオン』の斉藤ひろし。
ジンを松坂桃李、ヒデを菅田将暉、理香を忽那汐里、結衣を平祐奈、ナビを横浜流星、クニを成田凌、ソウを杉野遥亮、誠一を小林薫、珠美を麻生祐未、売野を野間口徹、ふみを早織、トシオを奥野瑛太が演じている。

この映画で微妙だなあ、っていうか中途半端だなあと感じるのは、「GReeeeNのようでGReeeeNでないベンベン」になっていることだ。
この映画に対して、「GReeeeNの実話」と捉えている人も少なくないはずだ。しかし実際には、かなり多くのフィクションが持ち込まれている。
もちろん、あくまでも「実話がモチーフ」というだけだし、伝記映画だって全てが事実を描いているわけではない。
ただ、それにしても脚色が多すぎやしないかと感じるのだ。

まず引っ掛かるのは、「こいつらGReeeeNじゃないだろ」ってことだ。
実際のジン&ヒデの兄弟は大阪府高槻市出身で、実家は京都にある。しかし映画だと、県名はハッキリしないが、少なくとも関東で生まれ育った設定になっている。
「関西弁だとイメージ的に合わない」と思ったのかもしれないが、そこを改変している時点で、「もはやGReeeeNじゃないだろ」と言いたくなる。
エピソードの中で脚色を盛り込むのは一向に構わないが、ファンなら誰もが知っている出身地を偽るって、どういうセンスなのかと。

映画が始まった時点で、既にジンは「HIGH SPEED」というバンドで音楽活動を始めている。
しかし実際のジンが参加していたグループは、微妙に異なる「High Speed Boyz」という名前だ。しかも、GReeeeNよりも後の2009年にメジャーデビューしている。ジンがGReeeeNのプロデューサーとして注目されるようになったから、メジャーデビューに至ったのだ。
GReeeeNのデビューに関しても、劇中とは違って実際は多くのレコード会社による争奪戦だった。
その辺りもファンなら誰でも知っていることなので、下手な嘘にしか感じない。
脚本に合わせて、GReeeeNの歴史を捏造しているように思えてしまうのだ。

劇中では『キセキ』が2枚目のシングル曲となっているが、実際は2008年5月28日に発売された7枚目のシングルだ。これもファンなら誰もが知っている事実なので、そこの順番を無理に変更しているのが愚かしい脚色にしか感じない。
シナリオの内容を考えれば、2枚目に設定した理由は分かる。
しかし、むしろ事実に合わせてシナリオを構築すべきであって、「まずシナリオありき」で事実を捻じ曲げる手口が間違いじゃないかと。
そもそも『キセキ』と言えば、TVドラマ『ルーキーズ』の主題歌としてヒットした曲で。だから、この曲を取り上げると、あのドラマを連想する人も少なくないでしょ。
なのに、そこを完全に無視しているのも不自然に感じるし。

ここまで虚構だらけの話に作り上げるのなら、いっそのこと「GReeeeNをモデルにした別の音楽グループの物語」にでもした方が遥かにマシだろう。
GReeeeNというグループ名を使用し、メンバーも同じ名前を使い、ジンとヒデが兄弟という事実も採用しているのに、それで「実際のGReeeeNとは全く異なるグループの道のり」を描いているのはファンに対して失礼じゃないかと。
それに、ファンじゃなければ何も気にせず観賞できるのかというと、そういうことでもないし。

GReeeeNの物語なんだから、彼らの歌が劇中で幾つも使われるんだろう、それでドラマを盛り上げようとするんだろうと思っていた。
ある意味では安易な手口かもしれないが、たぶん観客の多くはGReeeeNのファンだろうし、それを考えても間違った考え方ではない。
ところが、そういう演出を本作品は完全に放棄しているのだ。
劇中で使用されるGReeeeNの歌は、わずか3曲。
もっと多く使った方が絶対にプラスだったことは間違いない。それは断言できる。

劇中で使用されるGReeeeNの曲は全てオリジナル版ではなく、菅田将暉&横浜流星&成田凌&杉野遥亮によるカバー・バージョンだ。
彼らが劇中でGReeeeNを演じているわけだから、歌の方も4人の声を使おうってのは理解できる。で、彼らに練習してもらう期間なども考慮し、3曲に限定したという事情はあるのかもしれない。
ただ、どういう事情があるにせよ、わずか3曲に留まっているのは、題材を充分に活用しているとは言い難い。
あと、GReeeeNの歌をカバー版の3曲に留めるなら、せめて設定されている年にヒットした曲を掛けて雰囲気を盛り上げたりすれば良かったんじゃないかと。

よりによって、GReeeeNのカバー・バージョン以外で使用される歌が海援隊の『贈る言葉』だけというのは、どういうセンスなのかと思ってしまう。
かつてGReeeeNは『3年B組金八先生』とコラボしたシングルを発表し、武田鉄也をジャケットに採用しているぐらいだし、だから海援隊の『贈る言葉』は彼らにとって大切な曲なのかもしれない。
だとしたら、それを使うのは別にいいよ。
でも、「それだけ」ってのは違和感が強いわ。

あと、ヒデが海援隊のCDを買う時に理香が「渋いですよね、海援隊は」「私は好きですよ、海援隊」と言うけど、「どういうセンス?」とツッコミを入れたくなるわ。
そりゃあ若くても海援隊が好きな人はいるだろうけど、たぶんマイノリティーに入るだろう。
なので、それが「ちょっと変わったセンスを持つ2人の出会い」として描かれているなら、充分に理解できる。
だけど、ごく当たり前の会話として処理されるので、「どういう形でもいいから、何か引っ掛かりを残すシーン」として描くべきじゃないかと言いたくなる。

ただ、それ以前の問題として、「そもそも理香って必要なのか」と感じるんだよね。
この映画ってザックリ言うと、「ジン&ヒデの兄弟による友情物語」なのだ。そんな2人の関係を描く上で、理香の存在意義は皆無だ。
例えば兄弟が互いに理香を好きになるとか、兄弟の不和を理香が修復させるとか、どういう形でもいいけど、とにかく彼女が必要になるような使い方をするように考えるべきでしょ。
でも実際のところ、「いなくても全く困らない」というキャラなのだ。むしろハッキリ言ってしまえば、邪魔な女だ。

まだ理香の場合、「要らないから排除すりゃいいでしょ」という簡単な考え方で済む。困るのは、GReeeeNのメンバーであるナビ&クニ&ソウの存在である。
前述したように、この映画はジン&ヒデの関係を描く物語をメインに据えている。なので、おのずとナビたちは「兄弟の周囲にいる面々」という扱いになっている。
本来なら「GReeeeNのメンバーの絆」を描いても良さそうなモノなのに、そっちは疎かにされている。
だから「ヒデがソロシンガーでプロデューサーがジンという設定にした方が良くねえか」とさえ感じてしまうのだ。
もちろん、それだとGReeeeNじゃなくなるけど、そもそも実際のGReeeeNとは全く異なる設定なんだし。

「GReeeeNの物語なのに、GReeeeNの物語として見ると内容が酷すぎる」という問題をひとまず置いておき、「ある音楽グループの物語」として捉えたとしても、やはりドイヒーな出来栄えと言わざるを得ない。
ハッキリ言って「ここを変えれば良くなる」というわけではなく問題は山積しているが、まず手を付けるべきは時系列順に進める構成だろう。
そうじゃなくて、まず終盤のシーンを冒頭に配置して、そこから「ヒデかジンが今までの経緯を回想する」という形式にした方がいい。
オープニングシーンが「HIGH SPEED」のライブシーンって、なぜなのかと。最初にライブから始めるなら、絶対にGReeeeNの歌で行くべきでしょ。

それと細かいことを言うと、ジンがステージに上がったファンと喧嘩して、それに対して父が「喧嘩なんかしおって。バカモノが」と激昂して殴るってのも、「いやズレてるし」とツッコミを入れたくなるんだよね。
そもそも昔気質で頑固者の誠一からすれば、ロックバンドとして活動している時点で許せないはずでしょ。なのに、それだと「バンドはいいけど、喧嘩するのは人間として不適格」ってことになるでしょうに。
それを考えれば、そもそも「ファンを殴る」という描写自体が邪魔なのよ。
単純に「ジンはロックバンドで活動しています」ってことだけでいいのよ。

そんな冒頭シーンが終わった後、ヒデが受験する様子が描かれる。だが、その段階では彼が医学部を受けたことなど分からない。
本来なら、その段階で「父が医者なのでヒデも医者を目指している」ってことが伝わる形にしておくべきだ。つまり、まだ誠一が医者だと説明していないのも手落ちってことになる。
また、予備校に通い始めたヒデがナビと「今年もよろしく」「今年こそ受からないと」という会話を交わしているが、ってことは最初の受験じゃないのか。既に浪人していたのか。その辺りも良く分からない。
あと、時間経過もサッパリ分からない。受験に失敗してから予備校に通うまでには、それなりの月日が経過しているはずだが、それは全く伝わらない。
そこだけでなく、全体を通して時間経過を表現するための演出が何も用意されていない。そもそも、時代設定も良く分からないし。

誠一のキャラ造形は、見事なぐらいステレオタイプの「頑固親父」である。
もはや他の問題に比べれば、そこの造形が古めかしくて陳腐になっていることなど、それほど大した欠点ではない。
ただ、飾ってある日本刀を抜いて「成敗してやる」とか言わせちゃうのは、「もはやマジで作る気なんて無いだろ」とツッコミを入れたくなる。
しかも、それはそれで中途半端だし。日本刀まで抜かせるぐらいなら、もっと振り切ったキャラに昇華しないとダメだろ。

模擬試験でE判定が3つ並んだヒデは、珠美に「医学部は難しいかもしれない」と言う。
だけど、彼は初めて医学部受験に挑むわけじゃないのよ。前年も受けていて、予備校で「今年もよろしく」と言っているんだから、少なくとも2度は受験していることになる。
それで今回も本命がE判定ってのは、「今さら医学部は難しいかもしれないとか、気付くのが遅すぎるだろ」と言いたくなる。
これまでの受験から、何も学んじゃいないのか。高望みは捨てて、もうちょっと自分のレベルに会った医学部を目指そうとは思わないのか。

ジンは誠一に反発した時、ヒデに「本気で歯医者になりたいのか」と問い掛ける。この時点で、本来なら「ヒデには他の道もあるはずだとジンは分かっている」と観客に伝わらなきゃ意味が無い。
しかし、そこまでのシーンで「ヒデも音楽が好きでギターを弾いたりしている」といったことを示すような描写は皆無だ。分かっているのは、ただ「海援隊が好きでCDを買っている」ということだけだ。
音楽を聴くことが好きな奴なんて、幾らでもいるわけで。そうじゃなくて、「自分で歌うことやバンド活動をすることに対する興味があるけど、受験のために我慢している」ってことを、ちゃんとアピールしておくべきでしょ。
大学に入ってクニ&ソウと知り合った後、ようやく「ギターをやってた」と言うシーンや自室のギターを弾くシーンがあるけど、初アピールのタイミングが遅すぎる。受験勉強をしている段階で、彼の「音楽をやること」に対する強い興味を示しておくべきなのよ。

ヒデとナビは予備校で一緒にいるシーンが描かれるが、それ以降は大学に入るまで全く交流していない。
大学ではクニとソウが出て来るが、ここが親しくなる様子もバッサリと省略されている。4人がグループとして活動して歌を作る過程も、全く描かれていない。
つまり、この映画において重要であるはずの「GReeeeNの4人が知り合い、グループとしての活動を開始し、オリジナル曲を作る」という経緯を、手抜きモードで片付けているのだ。
そこだけを取っても、いかに本作品がダメなのかが分かるというものだ。

Green Boysがデビューライブを開くと大勢の観客が集まり、大いに盛り上がる。
つまり大成功しているわけだが、そこまでに彼らが苦労する様子など何も無い。そしてライブを開けば大成功で、CDデビューも最初のライブ音源をプロデューサーが聴いただけで決まっている。
まさにトントン拍子である。曲作りで少しだけジンとヒデが揉めることはあるが、大した問題ではない。
なので、「才能豊かな連中が、何の苦労もせず成功しました」というだけの話になっている。
そんな物語、果たして面白いかね。

上々のデビューを飾った後になって、「ヒデが勉強の方がヤバくなって父に叱責されたので音楽を続けようか悩む」という展開があるが、ものすごく些細な問題にしか感じない。
ジンに注目しても、「バンドでデビューする野心を抱いていた人間が、弟の才能を認め、裏方に徹すると決めるまでの苦悩や葛藤」なんて何も無いし。
こちらもヒデが音楽を辞めると言い出した時に、「続けたくても続けられない奴もいるんだぞ」とは怒鳴るけど、その程度だ。

ジンからCDデビューの話を聞かされた時、他のメンバーは喜ぶのに、ヒデだけは「歯医者になるから」ってことで断っている。
ところが、彼はジンのアパートを訪れ、「やっぱりCDを出したい。自分たちの音楽を世の中に発表したい」と言い出す。断ってから「やっぱり」と言い出すまでに、彼が苦悩や葛藤する様子など全く無い。
だったら最初からOKすりゃいいわけで。
一度は断ったのなら、そこから彼の心境が変化し、決断するまでの経緯は、ちゃんとドラマとして見せなきゃダメでしょ。

本編の残りが10分になった辺りで、GReeeeNの2枚目のシングル『キセキ』を聴いた結衣が誠一に「この曲、なんかいいんです」と言ってイヤホンを渡すシーンがある。彼女は「私、生きたいです。頑張りたいです」と言い、手術を受ける決意を口にする。
たぶん『キセキ』を使った感動のドラマとして意識しているはずだが、心に響くモノなど何も無い。それどころか、「取って付けたような印象に満ち溢れている」と感じるだけ。
結衣ってハッキリ言って、「誠一にGReeeeNの曲を聴かせる」という役割だけのために登場しているのよ。しかも、実のところ、そんな仕事を担当するキャラなんて不要なのよ。
だから、誠一がジンとヒデに「GReeeeNって知ってるか?お前らも、GReeeeNみたいな曲を作れるようになれ」と言うシーンも、まあ不恰好なこと。

(観賞日:2018年6月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会