『寄生獣』:2014、日本
海から出現した寄生生物の“パラサイト”が、各地へ散らばった。ある家に辿り着いたパラサイトは眠っている男の耳から体内へ入り込み、頭部を乗っ取って寄生した。隣で寝ていた妻は、夫の変化に全く気付かなかった。高校生である泉新一の部屋にも、パラサイトが入り込んだ。パラサイトは寄生を試みるが、新一がヘッドフォンで音楽を聴いていたために脳へ侵入できなかった。パラサイトは右手から侵入しようとするが、新一がコードで腕を縛り付けたので経路を塞がれた。シングルマザーである信子が騒ぎを聞き付けて部屋に来るが、新一が寝惚けていたのだと決め付けた。
翌朝、新一は右手に違和感を抱くが、信子は深刻に捉えなかった。ドラッグストアの薬剤師として働く彼女は、軽く笑い飛ばして出勤した。同じ頃、男に寄生したパラサイトは彼の妻を捕食していた。登校した新一は、幼馴染である村野里美に声を掛けられる。右手が勝手に彼女の顔や体を撫で回したので、新一は狼狽した。彼が授業中に落ちた消しゴムを拾おうとすると、右手が一瞬だけ伸びて元に戻った。体育の授業でバスケットをしていると、右手が勝手に動いて超ロングシュートを決めた。
新一は、ネット検索で右手の病気について調べるが、何も分からなかった。右手に目のような物体が出現したため、彼はカッターナイフで切除しようとした。するとパラサイトが姿を現し、新一に襲い掛かろうとした。しかしパラサイトは「食べる、出来ない、失敗失敗」と漏らした。パラサイトは「言葉、教えろ」と言い、翌朝まで本やパソコンで言葉や情報を勉強する。新一は病院で切断しようと考えるが、パラサイトは「私は新一の血液から養分を摂取していて、切断されると枯れてしまう。新一も右手を失う。お互いに損だ」と冷静に告げた。彼は新一の脳を奪おうとしていたこと、右手で成熟してしまったので不可能になったことを話した。
新一が学校へ行くと、パラサイトは図書室で情報を収集した。彼は新一に、「名前が必要ならミギーと呼べ」とい提案した。剣道や弓道の稽古を見学したミギーは、戦闘のための技能として興味を抱いた。美術部員の新一は部活動へ赴き、部員の裕子から里美への恋愛感情を指摘される。新一は慌てて否定するが、ミギーは彼の気持ちを見抜いていた。同じ頃、ミギー以外のパラサイトは各地で人間の脳を奪い、積極的に捕食活動を始めていた。
ミギーは仲間の存在を察知し、新一を中華料理店へ向かわせた。新一とミギーが裏口から侵入すると、パラサイトである店主が殺害した人間の肉を食らっていた。店主は新一の脳が生き残っていることに気付き、殺害しようとする。ミギーが対決姿勢を示すと、店主は自分の右手に引っ越すよう提案した。ミギーが考えていると、店主は新一の脳を切り落とそうとする。ミギーは移動しても生存できるかどうか確信が持てず、店主の頭部を切断して殺害した。
新一は信子に真実を話せずに悩むが、各地で起きている惨殺事件の真実を世間に公表すべきだと考える。するとミギーは「捕まって実験台にされるぞ」と言い、「同種が食われるのが、なぜ嫌なんだ?」と問い掛ける。ミギーは「私にとって価値があるのは私の命だけだ」と口にした後、「あらゆる種を食べる人間よりも、一種しか捕食しない自分たちの方が慎ましい」と主張した。価値観の違いに新一が呆れると、ミギーは「君が私に害を及ぼそうとするなら、口を利けなくすることは簡単だ」と脅した。中華料理店では刑事の平間や辻たちが現場検証を行い、頭部の無い被害者が人間を捕食していたことを知った。
翌朝の朝礼に出席した新一は、同種がいることをミギーから知らされる。新たなパラサイトとして現れたのは、新任教師の田宮良子だった。朝礼の後、新一は警戒心を抱きながら田宮と接触し、「何を企んで学校なんかに乗り込んだ?」と尋ねる。すると田宮は殺意が無いことを語り、「私は穏便に生きて行きたいだけ」と静かに告げる。放課後、田宮は新一を水族館へ呼び出し、ネックワートの仲間である高校生の島田秀雄と警察官のAに会わせた。
田宮は「生き延びていくためには協力する必要がある。私たちは互いに情報を持ち寄り、学習している」と新一に話し、パラサイトのネットワークに加わるよう持ち掛けた。新一が「化け物と一緒にしないで欲しいんですけど」と口を尖らせると、田宮は実験としてAとセックスしたこと、自分が人間の子を妊娠していることを語った。田宮は自分たちとの連携を考えるよう説き、邪魔をしないよう要求して「全校生徒が人質と思いなさい」と威嚇した。田宮は実験として人間を捕食せず、人間と同じ食事をするようになっていた。彼女は新一とミギーに、「人間と共存するための研究材料」としての興味を抱いていた。
新一はミギーから、信子の火傷を見る度に呼吸が乱れる原因を問われる。新一は4歳の時に鍋をひっくり返して天ぷら油を頭から浴びそうになったこと、母が素手で守ってくれたことを語った。その夜、新一とミギーは帰り道でAに襲われる。Aは新一たちが中華料理店の店主を殺したことに気付き、敵と危険な存在だと捉えたのだ。ミギーはAと格闘しながら、新一に指示を出した。新一は怯えながらも距離を詰め、鉄パイプでAの腹を突き刺した。新一は慌てて走り去り、家に戻って嘔吐した。
Aは通り掛かった信子を襲撃し、その脳を乗っ取った。しかし新一は帰宅した信子がパラサイトだとミギーから教えられても、荒っぽい口調で否定した。Aは新一の腹を突き刺し、その場を去った。しかしミギーが体内に移動して傷口を塞ぎ、自身の細胞を使って破壊された心臓を修復したため、新一は生き延びることが出来た。新一は学校を2日間休んだ後、田宮の元へ赴いてAの居場所を尋ねる。しかし田宮は「知っていても教えない」と告げ、激昂する新一の脅しを冷徹に受け流した。新一の様子を見た彼女は「少し混じってるのか」と呟き、「本当に面白いわ」と口にして立ち去った。
新一はミギーから「極めて非効率的な方法だ」と指摘されながらも、街に出てAを見つけ出そうと考える。ミギーから複数の同種がいることを教えられた新一は、その現場へ向かった。すると大勢の聴衆が集まる中で、側近の草野を伴った市長候補の広川剛志が「無駄な人間が多すぎる。数を減らしましょう」と演説していた。町を征服し、自分たちの生息しやすい環境を作ろうとしているのだと、ミギーは新一に語った。平間と辻が警察官の殺害事件について聞き込みに来たので、新一は何も知らないと答えた。
久々に登校した新一は島田が転校して来たことを知り、強い敵対心を示した。島田は新一と握手を交わし、人間離れしたパワーがあることを知る。監視役として学校に来た彼は田宮と会い、新一がミギーと混ざったこと、体の性能が人間の平均値を超えたことを確認し合った。ミギーは新一に、心臓を修復してから1日に2時間ほど完全に機能停止してまうこと、いつ訪れるか分からないことを明かした。平間は辻から、「寄生生物は髪の毛を抜くと動く」という情報がネットの世界で広まっていることを知らされた。
新一は学校から帰る時、里美に「御飯を作ってあげよう」と言われる。ミギーの勧めもあり、新一は里美の好意を受けることにした。だが、新一が犬の死骸をゴミ箱へ捨てるのを見た里美は驚いて「何やってんの」と告げる。しかし新一は自分の行動が変だと気付かず、里美は「人違いだったみたい」と告げて立ち去った。ミギーは新一に、自分のようなセリフを口にしたことを指摘した。新一は全く動揺を示さず、冷静な態度で「そうか。嫌われたかな」と口にした。
田宮は妊娠したことを校長たちに問題視され、学校を辞めることになった。学校から連絡を受けた田宮の両親が、心配して家に来た。だが、すぐに娘ではないと気付いたため、田宮は2人を始末した。次の日、田宮は学校で荷物をまとめ、新一に「私も島田も人間と同じ食事での生活を試みている。今の所、体調に問題は無い。私たちが人間を食べなくても生息することが出来ることが判明すれば、問題は解決でしょ」と話す。しかし美術部のモデルを務めていた島田は裕子の何気ない行動が原因で正体を知られ、次々に生徒たちを惨殺する…。監督・VFXは山崎貴、原作は岩明均『寄生獣』(講談社刊)、脚本は古沢良太&山崎貴、製作は市川南&中山良夫、共同製作は古川公平&中村理一郎&藪下維也&柏木登&加太孝明&島村達雄&阿部秀司&吉川英作&宮本直人、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治&阿部秀司&山内章弘、プロデューサーは川村元気&佐藤貴博&守屋圭一郎、撮影は阿藤正一、照明は高倉進、美術は林田裕至&佐久嶋依里、録音は白取貢、編集は穂垣順之助、VFXディレクターは渋谷紀世子、キャラクタービジュアルディレクターは柘植伊佐夫、音楽は佐藤直紀。
主題歌「パレード」BUMP OF CHICKEN 作詞・作曲:藤原基央。
出演は染谷将太、深津絵里、阿部サダヲ、浅野忠信、橋本愛、東出昌大、國村隼、北村一輝、豊原功補、大森南朋、余貴美子、池内万作、オクイシュージ、山中崇、岩井秀人、佐伯新、春木みさよ、田島令子、須永慶、螢雪次朗、山谷花純、山中秀樹、望月理恵、桜井ユキ、奥野瑛太、武田一馬、池谷のぶえ、牟田浩二、松田ジロウ、野村修一、康喜弼、松井正樹、沖田裕樹、岩本淳、羽鳥翔太、二宮聡、千咲としえ、山崎潤、田中伸一、日野誠二、榎亮太朗、鮎河圭吾、中村元気、広津真二、日比野高啓、藤木力、田中宏宣、近藤愛澄、岡田夏海、加藤果林、石戸香穂、角池恵里菜、山口愛、金沢凛、香月美紅、大朏山優、柿澤司、高橋悠、中田晴大、大石悠馬、星村優、中根大樹、璃乃ら。
岩明均の同名漫画を元にした2部作の前篇。
監督は『永遠の0』『STAND BY ME ドラえもん』の山崎貴。脚本は『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズのコンビである古沢良太と山崎貴監督が手掛けている。
新一を染谷将太、良子を深津絵里、広川のボディーガードの後藤を浅野忠信、里美を橋本愛、島田を東出昌大、平間を國村隼、広川を北村一輝、SAT中隊長の山岸を豊原功補、倉森を大森南朋、信子を余貴美子、Aを池内万作、中華料理店の主人をオクイシュージ、辻を山中崇、草野を岩井秀人が演じている。
ミギーの声を担当したのは阿部サダヲで、モーション・キャプチャーによって動きや表情も取り込んでいる。「人間の数が半分になったら、燃やされる森の数も半分で済むのだろうか。人間の数が百分の一になったら、垂れ流される毒も百分の一になるのだろうか。地球上の誰かが、ふと思った。みんなの命を守らなければ」というナレーションが入るので、パラサイトは「地球の生物を守るために現れた存在」ってことになるようだ。
でも、そういう設定、心底から「どうでもいいわ。っていうか邪魔だわ」と感じる。
パラサイトの目的とか、まるで要らないんだよな。
それはゾンビ映画における「ゾンビが発生した理由」と同じぐらい要らない。「何だか良く分からないけど恐ろしい奴ら」という、得体の知れない恐怖ってことでいいのよ。パラサイトが海から出現する描写も、これまた要らないなあ。
「海から現れた」という設定にすると、トラックに乗り込んだりして移動するにしても、基本的には海の近くに寄生される人間が集中するんじゃないか、無理して遠征する必要も無いんじゃないかと思っちゃうし。
遠くに行きたければ、人間に寄生してから移動すればいいわけでね。
そういう無駄なツッコミを入れたくなることを考えれば、「どこから来たのか分からないけど、突如として町に現れる」ってことでいいんじゃないかと。ここも、無駄に説明を入れているだけなんじゃないかと感じるのよね。最初に寝ている男が寄生される様子を描き、次に新一のシーンが描かれる。
それだと中途半端なので、あと幾つか寄生シーンを入れてから新一のターンに移るか、もしくは最初から新一を登場させちゃった方がいいんじゃないか。
最初に男のシーンを描くのは「パラサイトは耳から寄生する」という基本パターンを見せておいて、「新一はヘッドホンのせいで無理だった」ってのを分かりやすくする狙いがあるんだろうけど、そのせいで構成が不恰好になったら元も子もないわけで。しかも、1人目に男が寄生されるシーンを描き、さらには翌朝になって彼が妻を食べたり本やテレビで情報を集めたりするシーンを描くと、こいつが重要なキャラクターのように思わせてしまうという問題もある。
実際に重要なキャラなら別に構わないんだけど、そうじゃないのよね。この男、ここで出番が終わっちゃうのだ。
つまりパラサイトの基本的な行動パターンを観客に教えるためだけに用意された、ただの使い捨てキャラなわけで。
「原作通りなんですよ」と言われるかもしれないが、そこは改変しちゃった方がいいし。
映画の場合は連載漫画に比べると内容をコンパクトにまとめる必要があるわけで、使い捨てキャラにスポットを当てるのが得策とは思えない。ミギーをコミカルで人間味溢れるキャラ造形にしているのは、大失敗と言わざるを得ない。
一応、口では冷淡なことを言ったりするけど、序盤から優しさや人間味が出まくっているんだよね。そのせいで、新一は早い段階からミギーと軽快な掛け合いを始めちゃうし、あっという間に仲良しになっている。
ミギーがまるでコメディー・リリーフのようなキャラになっているのも、大いに疑問。徹底してシリアスな内容なんだから、ここにユーモラスなテイストなんて要らないし。
あと、周囲に大勢の人がいる状況でも、ミギーは平気で姿を現し、新一に話し掛けているんだよな。あまりにも不用心で警戒心が無さすぎだし、それも「キャラの軽薄さ」に繋がっている。大体さ、いきなり不気味な寄生生物が右手を乗っ取ってしまったら、それを受け入れるのは簡単なことじゃないはずでしょ。でも新一って、かなり早い段階で馴染んじゃってるんだよね。
そもそもミギーは、人間とは考え方が全く異なる合理的な生物のはずだ。それを示す言動は、劇中でも色々と示されている。
つまり本来なら、新一とミギーの間には「なかなか越えられない高い壁」が存在しているはずなのだ。それなのに、新一とミギーは序盤から距離の近い関係を作り上げてしまっている。
だから、「最初は冷徹で合理的だったミギーが、やがて人間的な感情を理解し、新一と真の意味での協力関係を築くようになる」という変化のドラマにも期待できなくなってしまう。新一は中華料理店へ赴いた時、パラサイトが人間を捕食する様子を初めて目撃している。ところが、パラサイトに対して少し怯える様子を見せる程度で、「捕食」そのものに対するショックは全く示さない。
あれで普通に正気を保っていられるんだから、新一はミギーと混じる前から既に「人間離れした部分のある男」ってことになっちゃうぞ。
それと、店主との戦いでパラサイトの恐ろしさを実感したはずなのに、田宮と接触する時、警戒しつつも生意気な態度を取るのは違和感があるぞ。
田宮と接触する時だけじゃなくて、Aや島田と会う時もそうなんだけど、新一って変に強気なトコがあるんだよな。美術部員という設定も使って「頼りない男」のイメージを作ろうとしているはずなのに、「そうでもない」という感じになっちゃってる。
ミギーが店主を始末するシーンでも、自分が殺していないとは言え眼前で敵の頭部が切断されているわけで、そういう「惨殺」に対するショックは全く見せていないんだよな。すんげえ精神的にタフな奴に見えるのよ。Aとの戦いに至っては、怯える様子はありつつも、新一は少しずつ距離を詰めて、鉄パイプで腹を突き刺すという行動を取っている。
全体の計算を考えると仕方の無い部分もあるんだろうけど、かなり早い段階で「殺害」という行動に出ちゃうんだよね。
後半に彼が犬の死骸を捨てた時、里美がとショックを受けて立ち去るシーンがあって、もちろん新一が冷徹な奴になっていることは確かだけど、「以前と比較すると別人のような変貌ぶり」という効果が、前半の描写のせいで弱まってしまう。
あと、ミギーがAとの戦いで新一に協力を要請するシーンには、「新一が手を貸さないと勝てないという説得力に欠ける」という問題もあるんだよな。Aを原作とは違って警察官の設定にしている意味が、全く無い。「警察官だから中華料理店の事件についての情報を知った」というトコへ繋げたかったのかもしれないけど、そんな要素が無くても「攻撃的なAが新一を殺そうとする」という展開は作れる。
「意味が無い」と書いたけど、それどころか大きなマイナスが生じている。
ミギーは田宮を見た時、「あんな奴がいるとは驚きだ。脳を奪いながら、その人間の身分を引き継ぎ、問題なく社会生活を営んでいる」と驚いている。でも、直後にAが登場しちゃうと、「田宮のようなケースは普通」ってことになってしまう。
田宮を「パラサイトの中でも特別な存在」として登場させたのに、それを台無しにしちゃってるのよね。
だから、島田を最初から「高校生」として紹介するのもマイナス。Aが腹を突き刺された後、「たまたま信子が通り掛かって乗っ取られる」という展開になるのは、あまりにも下手すぎる御都合主義だと言わざるを得ない。
原作とは大きく異なる内容にしてあるが、その改変にメリットは見えない。
っていうか大抵の映画において、「偶然」に頼ることは良い結果を招かない。
それと、原作のような「性別が違うと拒否反応が起きる」という設定に言及していないものの、男から女に引っ越しても拒絶反応が起きないってのは、改変としてどうなのかなあと思うなあ。田宮からAに関する情報が得られなかった新一は、街へ出て見つけ出そうと考える。「街を歩き回っていれば、いつかどこかで出会えるかも」という考えなのだが、すぐにミギーが「とても非効率的な方法だ」と言う。
それは「指摘」と言うより、もはや「ツッコミ」にしか思えない。
で、そんな非効率的な方法を新一に取らせるのは、「広川の選挙演説を聞く」という手順を消化するためだ。
別に展開上の都合で用意された手順があっても構わないけど、そのために新一がアホになっちゃったらマズいでしょ。新一は母親を殺された復讐心に燃えて田宮に詰め寄ったのに、Aの居場所を教えてもらえずに威嚇されると、あっさりと諦めてしまう。
で、そっちは諦めたものの、「街へ出て捜索する」という方法を取るので、非効率的ではあるが復讐の炎は燃え続けているんだろうと思った。ところが広川たちを目撃した後、新一は学校生活に戻っているのだ。
いやいや、なんでだよ。
普通に高校生としての日常を送っていても、Aを見つけ出すことは絶対に無理だろ。
なんで復讐心を簡単に捨てたような感じになっちゃってんのよ。終盤、新一が暴走した島田と戦っていると田宮が現れ、「騒ぎを起こす仲間は嫌いだ」と口にして火炎瓶を転がし、その場を立ち去る。
だけど、それで島田を始末できるわけでもないし、何のために来たのかと言いたくなる。そこから「校舎で爆発が起きるから、新一が里美を抱いて飛び降りる」というシーンに繋がるんだけど、そこを描きたいがための手順なんだよね。
いや、だからさ、展開上の都合で用意された手順があっても構わないけど、そのために無意味な行動を取らせちゃダメだわ。
あと、島田を仕留めるためにミギーが弓矢の形に変貌するのは、一応は「弓道の稽古を見学している」ってトコが伏線になっているけど、「カッコ付けたかっただけ」ってのが不細工な形で露呈していると感じてしまったなあ。前篇の最後に用意されているエピソードは、新一と母に寄生したAとの対決だ。
この戦いは原作と大幅に異なっているのだが、まず違和感を覚えるのは戦いに入る直前、田宮が新一にAの居場所を教えるという手順だ。
最初に新一が質問された時は答えなかったのに、そこに来て教えるようになったのは、そりゃあ何かしらの心情変化が生じたんだろうとは思うよ。
だけど、具体的に何があったのか、どういう心境の変化があったのかは全く分からないので、「謎の多い行動」という印象は否めない。いざ対決に入ると、「Aが新一を攻撃する時、信子の右手が動いて邪魔をする」という展開がある。
信子の火傷があるのは右手なので、そういう伏線を張った上で「母親の意志が残っていた」と感じさせる描写を入れるのは、改変としては賛同できる。
ただし問題は、そうやって信子の意志が攻撃を妨害した直後、新一が容赦なく母親を始末してしまうってことだ。
もちろん既に寄生されているわけだが、だとしても、そこの改変は受け入れ難い。
やはり原作と同様に宇田というキャラを登場させ、彼に信子を始末させるべきではなかったかと。
島田のエピソードを削ってでも、宇田は登場させるべきキャラだったんじゃないかと思うんだよなあ。(観賞日:2016年6月25日)