『木更津キャッツアイ ワールドシリーズ』:2006、日本

釜山死ね死ね団の一員であるプサンは、馴染みの店で、仲間4人に「自分はガンで死ぬ」と打ち明けた。悲しみに暮れる4人に、プサンは 「お前ら本当に最高だった」と声を掛ける。それは全てテレビで放送されている韓国ドラマの話だ。バーバータブチで番組を見ていた ぶっさんは、嘘臭い内容にツッコミを入れる。妻のユッケは「約束が違う。半年で死ぬはずなのに。いつ死ぬの?予定が立てられない」と 愚痴る。ぶっさんが「死んでくる」と立ち上がったので、父の公助は「気を付けて」と声を掛けた。
2006年12月。ぶっさんが死んでから3年が経っていた。バンビは木更津市役所に就職し、神取市長の下で働いている。神取は更地に職員を 集め、そこに建設を予定しているショッピングモールの名を“山ほたるダンシングモール”と発表する。現在は市長選挙中で、神取は当選 してショッピングモールを作るつもりだ。バンビが挨拶を聞き流していると、どこからか、ぶっさんの声がした。
バーバータブチでは、山口先輩と猫田がパーマを当てている。猫田とバンビの元恋人・モー子の結婚式があるのだ。バンビも招待されて いるが、行く気は無い。バンビはバーバータブチを訪れ、ぶっさんの仏壇に手を合わせた。バンビは公助に、アニは東京のIT企業に就職 し、マスターは大阪で「野球狂の詩」2号店を営んでいるらしいと語る。しかし実際には、アニはメイドカフェやゲーセンで遊んでいる だけで、マスターのたこ焼き屋台は全く儲かっていなかった。うっちーとだけは、バンビも連絡が取れていない。
バンビは、選挙カーに乗っている美礼先生を見掛けた。彼女は今回の市長選挙に出馬しているのだ。選挙事務所では、喫茶店“男の勲章” の店長がパシリをやっている。美礼先生と面会したバンビは、マスターとアニが喧嘩していることを語った。神取の選挙カーに乗った バンビは、ぶっさんの声を耳にした。ショッピングモールの建設予定地へ行くと、どこからか「If you build it, he will come(それを 作れば彼がやって来る)」という、なぜか英語のメッセージが聞こえて来た。
バンビは東京へ行き、アニを見つけた。バンビは「ぶっさんの声を聞いた」と言うが、アニは相手にしない。アニはバンビに、死ぬ直前の ぶっさんと会った時の思い出を語った。バンビはアニを連れて大阪へ行き、マスターと会った。マスターも、死ぬ直前のぶっさんとの 思い出を語る。マスターとアニは互いに相手を見つけると、いきなり飛び蹴りを見舞った。
ぶっさんの二回忌の日、アニは仲間たちに「市長室の黄金のタヌキを盗もう」と持ち掛けた。バンビはモー子とのデートを優先するが、 ビデオを借りた直後、やはりマスターたちの元へ向かうことにした。バンビがモー子と別れたのは、それが原因だ。マスター達は警報を 鳴らしてしまい、パトカーが駆け付けた。うっちーとアニは逃走したが、マスターは警察に捕まった。バンビが神取に掛け合って不起訴に してもらったが、マスターは離婚するハメになり、その事件が原因でアニと険悪になっていた。
バンビはマスターとアニに、「ちゃんと、ぶっさんにバイバイを言っていないから呪われているんだ。木更津に戻ろう」と持ち掛けた。 木更津に戻った3人が更地に行くと、「If you build it, he will come」という声が聞こえて来た。そこに、モー子たちの結婚パレードが 通り掛かった。バンビたちは、披露宴に出席することになった。3人は英語のメッセージについて考えるが、全く意味が分からない。すると 美礼先生が「映画の『フィールド・オブ・ドリームス』じゃない?」と告げた。
二次会が開かれたロシアンパブ“オジーズ”は、かつてマスターがやっていた“野球狂の詩”を改装した店舗だった。山口先輩が買い取り 、内装をすっかり変えたのだ。店にはロシア女性を入れていたが、一人だけ日本人が混じっていた。うっちーの恋人・ミー子だ。うっちー とは連絡が付かないという。店のマスターは、オジーにそっくりな格好をしたミニミニオジーという男だ。猫田がスカウトしてきたのだ。 ミニミニオジーはバンビ達に、ぶっさんと病院で会った時のことを語った。
バンビはモー子から、『フィールド・オブ・ドリームス』が何かを作れば人が生き返る話だと聞く。バンビは、空からのメッセージに あった「それ」を作れば、ぶっさんが生き返ると確信した。だが、「それ」が何なのかが分からない。アニは「ぶっさんはヘルスが好き だったから、ヘルスじゃないか」と言い出した。バンビたちも納得し、山口先輩に頼んでヘルスの店を作ってもらった。バンビたちは更地へ 行って報告するが、空からは「それじゃないのを作れば彼が来る」という声が聞こえて来た。
バンビたちはオジーズに集まり、「それ」の正体を話し合う。ミニミニオジーは「野球場じゃないか?」と提案するが、無視された。ミー子 の「スタバ」という案にバンビたちは反応した。彼らは山口先輩に頼み、スターバックスならぬスターパンチ・コーヒーの店を作ってもらう。 だが、更地に行くと、天の声は「それじゃないのを作れば彼が来る。男の子の好きな奴を作れば彼が来る」と言う。
マスターが「男の子が好きなのはカレーとハンバーグ」と言い、公助の後妻・ローズがハンバーグカレーの屋台を開いた。しかしマスター とアニが更地に行くと、天の声は「食べ物じゃないそれを作れば彼が来る」と言う。2人からヒントを求められ、天の声は「投げたり 打ったりする」などとヒントを出して行く。だが、マスターとアニは全く正解に辿り着けない。そこへバンビが駆け付けて「野球場」と 言うと、天の声は「正解」と告げた。
バンビは更地に野球場を作りたいと神取に申し出るが、「なんで、あんな一等地に?」と却下された。それについては、美礼先生も同じ 意見だった。バンビは退職届を提出し、マスターとアニの3人で野球場作りを始めた。神取は職員の村杉と共にその様子を見るが、どうせ 3人では無理だろうと考えた。しかし続々と仲間たちが集まり、あっという間に野球場は完成した。
バンビたちは完成した野球場に立ち、「ぶっさん」と大声で呼び掛ける。すると山の方で爆発が起き、煙の中を誰かが走ってきた。ぶっさん かと思いきや、うっちーだった。しかも、野球のユニフォームを着たゾンビ軍団に追われていた。うっちーは市役所侵入に失敗して逃走 した時、自衛隊の駐屯地に迷い込んでいた。彼は教官の杉本文子に惹かれ、入隊することにした。
うっちーはバンビたちに対し、普通に喋った。文子のスパルタ特訓で、厳しく叩き直されたのだ。うっちーは「このままじゃ殺される」と 考え、駐屯地を脱走した。その際、自分の荷物と間違えて、練習用の危険物を持ち出していた。山に篭もった彼は、ゾンビ軍団と遭遇した。 彼らは、戦後すぐに日米親善高校野球で来日した選手だった。帰りの船が沈没し、ゾンビとなっていたのだ。うっちーは、ゾンビ軍団の力 になりたいと考え、叫んだことをバンビたちに語る。バンビ達が聞いた英語は、うっちーの声だったのだ。
ゾンビのリーダーはバンビたちに、「沈んでいる船の中には価値のある物が眠っている。それを引き上げないと成仏できない」と語る。 バンビは引き揚げ作業を頼むため、自衛隊に連絡した。文子が現れたため、うっちーは逃走した。バンビたちは文子に、ぶっさんの思い出話 を語る。文子は「情けない。甘ったれるんじゃねえ」と怒鳴り、バンビにボールを投げさせて打ち返した。 ゾンビ長は文子に、自分たちと自衛隊チームとの野球対決を持ち掛けた。自分たちが勝ったら自衛隊が船の引き揚げ作業を行い、負けたら責任 を持ってうっちーを連れ戻し、バンビ達を入隊させるという。文子は、その対決を承諾した。バンビたちがグラウンドを整備していると、 ぶっさんが姿を現した。彼は随分と前から、オジーと共に蘇っていたのだ…。

監督は金子文紀、脚本は宮藤官九郎、製作は信国一朗&藤森ジュリーK.&椎名保、企画は濱名一哉、プロデューサーは磯山晶、 アソシエイト・プロデューサーは大岡大介&中沢敏明、プロデューサー補は木村政和、撮影は山中敏康、編集は新井孝夫、照明は田淵博、 美術プロデューサーは中嶋美津夫、美術デザインは永田周太郎、映像は木部伸一郎、VFXスーパーバイザーは田中浩征、音楽は中西匡、 音楽プロデューサーは志田博英、主題歌は嵐「a Day in Our Life」。
出演は岡田准一、櫻井翔、酒井若菜、岡田義徳、佐藤隆太、塚本高史、阿部サダヲ、山口智充、ユンソナ、古田新太、森下愛子、小日向文世、 薬師丸ひろ子、嶋大輔、船越英一郎、レッド吉田、栗山千明、橋本じゅん、MCU、高田純次、渡辺いっけい、三宅弘城、平岩紙、 須之内美帆子、細野佑美子、あじゃ、柴山香織、中川家礼二、中川家剛、神奈月、宅間孝行、桐谷健太、芳岡謙二、東せいじ、西村清孝、 田中聡元、鈴木なお、森下能幸、阿部隆、森山直樹、佐光凛星、平本亜夢、中野目宗真、岡田智志、田中颯、宴堂裕子、福田心沙希ら。


2002年にTBSで放送された連続ドラマの劇場版第2作にして完結編。
ぶっさん役の岡田准一、バンビ役の櫻井翔、モー子役の酒井若菜、うっちー役の岡田義徳、マスター役の佐藤隆太、アニ役の塚本高史、 猫田役の阿部サダヲ、山口先輩役の山口智充、美礼先生役の薬師丸ひろ子、公助役の小日向文世、ローズ役の森下愛子、オジー役の 古田新太、“男の勲章”店長役の嶋大輔など、主要キャストはTVシリーズから引き続いての出演。
ユッケ役のユンソナ、うっちーの父親役の渡辺いっけい、モー子の父親役の船越英一郎は、劇場版第1作に続いての登場。他に、文子を 栗山千明、ゾンビ長を橋本じゅん、ミニミニオジーをMCU、神取を高田純次、村杉をレッド吉田、「野球狂の詩」2号店に文句を言う客 を中川家礼二、市長選投票会場の市役所職員を中川家剛、ものまね教室の先生を神奈月が演じている。

主人公であるぶっさんが死去し、木更津キャッツアイの面々も別々の道を歩き始めているという設定で話は始まる。
そのためか、何か物悲しい雰囲気に包まれている。TVシリーズや劇場版第1作と同じようなギャグを持ち込んでも、どこか弾け切れない 。ぶっさんが登場する回想シーンも、笑いを取りに行く意識は薄く、切なさの含有量が多いものとなっている。
クドカンの脚本が、劇場版第1作までは勢いだけで引っ張っていたものが、何となく落ち着きを持ってしまったのだろうか。だが、基本的 に内輪受け、楽屋オチで笑いを作って行くというスタンスは変わらないので、ますます「閉じられた映画」という様相を呈している。
「閉じられた」というのは、「TVシリーズのファンだけに向けられた」という意味だ。
ただ、ファンのことを考えると、うっちーを普通に喋らせるのは違うでしょ。彼の存在意義に関わることだぞ。普通に喋らせても、何の 笑いにも繋がらないし。

主人公が死んでいるのに続編を作るというのは、やはり難しい作業だと思う。
ぶっさんの代わりにバンビを主役に据えて進行しているが、ちと厳しい。
で、ぶっさんが登場して、ようやく映画のテンションが上がる。
だが、登場するのが遅すぎる。
前半から回想シーンが何度か挿入され、その中で、ぶっさんは姿を見せていることは見せている。だが、回想シーンのぶっさんは死を間近 にして元気が全く無いので、姿を見せてもプラスになっていない。むしろ、シンミリしてしまい、出て来る度にマイナスに作用する。

バンビたちは英語のメッセージを聞いた時、ぶっさんの声だと確信する。
だが、なぜ、ぶっさんの声だと思ったのだろうか。まず英語だし、メッセージの内容も「それを作れば彼がやって来る」というものだ。
そのメッセージを聞いたバンビたちは、「それ」を作れば、ぶっさんが帰ってくると思い込む。ってことは、メッセージの「彼」を、 ぶっさんだと解釈しているわけだ。
だとすれば、そのメッセージを発信した人物は、ぶっさんとは別人だと考えるのが筋だろう。
自分のことを「彼」とは表現しないぞ、普通。

野球場を作ったバンビたちがぶっさんを呼ぶと、うっちーが爆発と共に登場し、「日米親善野球で来日した選手のゾンビと会って云々」と いう話をする。
この辺りの展開は、幾らコメディーだからと言っても、さすがにデタラメが過ぎる。
うっちーは「彼らの力になりたいと思った」と言うが、英語で「それを作れば彼がやって来る」と叫び、しかも「それ」の正体をハッキリ させずにヒントを出して正解に辿り着かせるという面倒なことまでやって野球場を作らせることが、なぜゾンビたちのためになると 思ったのか。どういう論理でそういう行動に至ったのか、サッパリ分からない。
そもそも、「バンビたちがぶっさんにちゃんとバイバイを言う」という目的に基づいて話が進んでいたのに、ゾンビの宝物を引き上げる ことを依頼されるとか、文子に思い出話を語るとか(そもそも彼女を呼ぶ展開にも無理があるし)、無関係なトコロでノンビリしてしまう 。
そんなことで停滞するぐらいなら、野球場を完成させるまでに時間を使った方がマシだ。

なぜか文子がピッチングを要求してバンビの球を打ち返すとか、ゾンビが自衛隊チームとの試合を持ち掛けるとか、さらにグダグダな展開 へと進んで行く。「ぶっさんにバイバイする」という目的は、すっかり忘れ去られている。
で、バンビたちがグラウンド整備をしていたら、ぶっさんの姿も近くにある。
でも、全く感動しない。
そういうスカし方は要らないよ。

ぶっさんが復活してからの展開が「沈没船へ行って宝を見つけよう」というのは、違うんじゃないか。
ちゃんとバイバイする目的を、バンビたちだけじゃなく、ぶっさんも忘れてるのかよ。
ぶっさんが前半の内にあっさりと復活したのなら、それもいいだろう。だが、かなり引っ張った以上、そこでの脱線はいただけない。
仮に沈没船を引き上げようとする展開へと移行するにしても、「ちゃんとバイバイするために必要な行為だ」などとと、ぶっさんが適当な 理由を付けるような配慮が欲しい。
結果的には船の引き上げを断念して野球の対決に移るが、それも強引すぎて、流れもへったくれも無い。

日本シリーズが興行収入15億円のヒットを記録しているので、続編を作りたくなるのは分からないではない。結果的には興行収入18億円 だから、前作よりもアップしているし、まあTBSはウハウハだったってことだわな。
TVシリーズのファンじゃなかった人間からすると、出し遅れの証文といった印象を受ける。
しかしながら、この映画は、シリーズのファンが、ぶっさんにちゃんとバイバイを言うために用意された作品だと解釈すべきなのだろう 。
だが、この映画の「バイバイ」の解釈には、納得しがたいものがある。

ぶっさんの思い出話を聞いた文子が怒鳴り付け、バンビたちに説教を始めるシーンで、彼女は「仲間が死んだのを引きずることでダメな 自分を正当化しようとしている。22歳で死んだら気の毒だが、だからといってアンタらが昼間から酒を飲んでいいってことにはならない」 と言う。
それはバンビが言うように、正論かもしれない。
だが、この映画で真っ当な主張をされて困る。
試合の途中、バンビたちがぶっさんに対し、「25歳を過ぎたら色々と考える。もう、ぶっさんに合わせていられない。そろそろ帰って くれないか」と言い出し、ここで「バイバイ」のセリフが待ち受けている。
それは違うんじゃないのか。
私はTVシリーズのファンではないし、だから文句を付ける資格は無いかもしれないが、納得は出来ない。

文子のセリフは、「ぶっさんの死を引きずるな」ということを主張したいのだろう。
試合途中のバンビたちのセリフも、「ぶっさんの死を引きずらないよ」ということを言いたいのだろう。
しかし、仲間の死に関係なく、「昼間から酒を飲むダメ人間」「幾つになってもバカをやっているダメ人間」が、否定されているような 印象を受けてしまうのだ。「変わらないとダメだよ。もうバカ騒ぎから卒業しよう」というメッセージに思えてしまうのだ。
そりゃあ、大人になってもダラダラとモラトリアム状態を続けているバンビたちは、世間一般からすればダメ人間だ。
しかし、それを許容してこその『木更津キャッツアイ』ではないかと思うのだ。
木更津キャッツアイってのは、何歳になってもバカなことをやり続けるべきなんじゃないのか。それを温かい目で受け入れてこその 木更津キャッツアイじゃないのか。
だから、「ぶっさんのようなバカ騒ぎには付き合えない」というメッセージには違和感を覚える。
「ぶっさんとはバイバイするけど、バカ騒ぎから卒業するわけじゃない」という形で、何とかまとめられなかったのかなあと思ってしまう 。

(観賞日:2009年4月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会