『近キョリ恋愛』:2014、日本

18歳の枢木(くるるぎ)ゆには、感情が表に出ない人間だった。猛犬に怯えても、2人組を決める時に1人だけ残されても、常に冷静な態度を崩さない。心の中では怯えたり傷付いたりしているのだが、態度が変わらないせいで、周囲からは大丈夫だと思われてしまう。ゆには成績優秀で、常に学年トップをキープしている。その成績発表を見ている時も表情が変わらないので、やはり彼女は周囲からクールだと思われる。
そこへ英語教師の櫻井ハルカが現れ、ゆにに「話があるから放課後に職員室まで来い」と告げた。ハルカは女子生徒から大人気で、少し話し掛けられただけで大騒ぎになる者もいるぐらいだ。放課後、ゆにが職員室へ行くと、車で煙草を吸っていたハルカが戻って来た。彼はゆにに、「明日から毎日、放課後4時、英会話室に来い」と言う。ゆにが中間テストで英語だけ成績を落としたので、補習をするのだと彼は説明した。ゆにの従兄である数学教師の明智数馬から「毎日はキツいんじゃないか」と言われても、ハルカは気にしなかった。
ゆには親友の名波菊子に、ハルカへの怒りを吐露した。菊子が新しい彼氏の佐藤咲を連れて来たので、ゆには「明日からは一人で帰る。補習もあるし」と告げた。ゆには放課後の補習に出向くが、ハルカから「ただ覚える」ことを要求された彼女は「法則が解明できなければ、私には理解できません」と反論した。
数学が得意なゆにに、ハルカは「英語は人の気持ちを表現するものだ。だから数学のように単純な法則は無いの」と語る。ゆにが「英語はもう諦めてますから」と立ち去ろうとすると、ハルカは「俺は絶対に逃がさないから、覚悟しとけよ」と告げた。ゆにが帰宅すると、同居している数馬は「この際だから、英語を本気で頑張ってみたら」と促す。「カリフォルニア大学に留学するの、夢だったろ」と彼が言うと、ゆには「無理だよ、そんなの。とっくに諦めてるし」と口にした。
翌日、ハルカは特別に作った教材を差し出し、ゆにに「何も考えず、全部覚えろ。例文を5回ずつ書き写せ」と指示した。ハルカに好意を寄せる女子生徒の吉田芽衣と取り巻きたちは、2人きりで補習する様子を見て嫉妬心を抱く。3人はハルカに、自分たちも補習してほしいと頼む。英語の成績が充分なので断られると、芽衣は「先生が好きだから」と告白する。するとハルカは「これからもその調子で頑張ってくれ」と、微笑で受け流した。その様子を見ていた教頭は、ハルカに誤解を与えるような行為を取らないよう釘を刺した。
英会話室へ赴いたハルカは、ゆにの仕草を見て彼女の感情を指摘する。ゆにがスカートの裾を握り締めると、彼は「お前さ、いつもそうやって自分の気持ち抑えてんの?」と口にした。ゆには菊子の前で、ハルカの教え方も香水の匂いも大嫌いだと話す。しかし、ゆにが英語のテストを受けると、前よりも点数が上がった。芽衣と取り巻きは彼女を放課後に呼び出し、体育用具室へ閉じ込めた。ハルカは芽衣たちに白状させ、体育用具室に赴いた。ゆにが足を挫いていると知り、彼はお姫様だっこで保健室へ運んだ。
捻挫の手当てを施したハルカは、「もっと自分の気持ちに正直になれ」と頭を撫でた。ゆにの表情が少し緩みそうになるが、数馬が来ると元の状態に戻り、「大したことじゃないから」とクールな口調で告げた。ゆには菊子の買い物に付き合った時、ハルカへのプレゼントを購入した。次の補習に行った時、彼女は「この前のお礼です」とプレゼントを渡す。しかしハルカが「俺に興味無いトコが良かったのに。仕事だから優しくしただけだ」と冷たく言うので、平手打ちを浴びせた。ゆには「私はただ、先生にお礼を」と泣いて走り去り、ハルカは困惑の表情を浮かべた。
ゆにがメンデル教授の本を読んでいる姿を目撃した数馬は教頭を通じ、補習の中止をハルカに要請した。ゆにの両親が海外にいること、数馬の家に預けられていることを、その時にハルカは初めて知った。数馬はハルカに、ゆには補習が始まってから情緒不安定になっていると告げた。「やましいことは何もしていません」とハルカは反発するが、校長は補習の中止を命じた。ゆには菊子に相手の名前を明かさず、ハルカに対する複雑な感情を明かした。すると菊子は、「それは本当の恋だよ」と告げた。
ゆには恋愛本を手に取り、「一番の解決の道は、自分から告白する」というアドバイスを見た。彼女は授業の時やハルカが煙草を吸っている時に告白しようとするが、なかなか本音が言い出せない。ゆには授業中に教壇の下へ隠れて、ハルカに「私は先生が大嫌いで大好き!どうすればいい?」と書いたノートを見せた。するとハルカはペンを落としたフリをして、彼女にキスをした。その様子を、新任教師の滝沢美麗が廊下から目撃していた。
次の日、ゆにはハルカから「俺が間違ってた。忘れてくれ」と告げられる。職員室に戻ったハルカは、小学校からの幼馴染である美麗と再会する。それだけでなく、2人は高校時代に交際していた。美麗がキスを目撃したことを明かすと、ついキスをしただけだとハルカは説明する。しかし美麗は高校時代の体験から、ハルカがゆにを本気で好きなのだと見抜いていた。その上で彼女は、「教師と生徒の恋愛なんて絶対にダメだよ」と忠告した。
ゆにが豪雨の中で立っているのを見つけたハルカは驚き、「どうした?」と声を掛ける。ゆには「先生は私に、もっと自分の気持ちに素直になれって言いました。私、先生のことが好きです。忘れられません」と言うが、ハルカは「ダメだ、忘れろ。勘違いするな。今のお前の気持ちは一時的なモンだ」と告げる。ゆには「先生は分かってない」と声を荒らげ、その場から走り去った。ゆにはクラスの男子たちが的場竜の手帳を勝手に開けようとしているのを見て、「ダメだよ、他人の物を勝手に見るなんて」と注意した。そこへ竜が来たので、男子たちは立ち去った。ゆにが手帳を渡すと、竜は「ありがとうございました」と頭を下げた。
ゆにが熱を出して倒れると、ハルカは保健室へ運んだ。彼は竜に、「俺のことは絶対に言うな」と告げた。そのため、ゆには竜が保健室へ運んでくれたと思い込んだ。竜はパティシエ志望であることを彼女に話し、手帳にはフランスでパティシエをやっている伯父のレシピが書いてあるのだと明かした。高校を卒業したら伯父の店で修業するつもりだと彼が語ると、ゆにはカリフォルニア大学へ行く夢を諦めたことを話す。竜から「いまなら間に合いますよ」と言われた彼女だが、英語の成績を考えると合格は難しいだろうと考える。
学校が夏休みに入ると、ゆには竜から告白される。美麗の買い物に付き合っていたハルカは、竜がゆにの腕を掴んで歩いている様子を目撃した。ハルカが追い掛けようとすると、美麗は「バレたら教師、クビになっちゃうんだよ」と制止する。ゆには竜に、「他に好きな人がいるの」と告げる。そこへパーカーで顔を隠したハルカが現れ、ゆにを連れ去った。彼は「参ったな、こんなガキに」と自嘲気味に笑い、「お前が好きだ」と口にした。しかし、ゆには「そんなこと信じられない。先生の気持ちが本気だと証明されない限り、信じることが出来ません」と叫んで走り去った…。

監督・編集は熊澤尚人、原作は みきもと凛「近キョリ恋愛」講談社「別冊フレンド」刊、脚本は まなべゆきこ、製作総指揮は中山良夫&柏木登、製作は熊谷宜和&森本規夫&飯島三智、大田圭二&鈴木伸育&高木Rosa裕&百武弘二&薮下雄也&門屋大輔、エグゼクティブプロデューサーは福士睦&西憲彦、企画プロデュースは植野浩之、プロデューサーは坂下哲也&平体雄二、撮影は柳田裕男、照明は宮尾康史、録音は滝澤修、美術は松本知恵、アソシエイトプロデューサーは宮木宣嗣&茶ノ前香、音楽は安川午朗。
主題歌「蓮の花」サカナクション 作詞:山口一郎、作曲:山口一郎、編曲:サカナクション。
出演は山下智久、小松菜奈、新井浩文、水川あさみ、小瀧望(ジャニーズWEST)、佐野和真、矢柴俊博、春海四方、山本美月、利重剛、古畑星夏、滝沢涼子、松山愛里、三宅近成、松林慎司、石原善暢、竹厚綾、ランディ、工藤阿須加、金澤美穂、佐々木萌詠、椿直、丸山隼、長村航希、谷内里早、麻生エマ、安藤未理、椎名琴音、秋月三佳、星名利華、育乃介、町田宏器、中田晴大、岡田幸典、齋藤水生、田中沙季、田中茉莉香、上田ナナ、大橋律、茂内麻結ら。


『別冊フレンド』で連載されていた、みきもと凜による同名の少女漫画を基にした作品。
監督の熊澤尚人と脚本のまなべゆきこは、『親指さがし』『雨の翼』『おと・な・り』『ジンクス!!!』に続いてのコンビとなる。
ハルカを山下智久、ゆにを小松菜奈、数馬を新井浩文、美麗を水川あさみ、竜を小瀧望(ジャニーズWEST)、咲を佐野和真、化学教師の矢部を矢柴俊博、校長を春海四方、菊子を山本美月、教頭を利重剛、芽衣を古畑星夏が演じている。

この映画、原作とは内容が大幅に異なっているという事実が指摘されている。
具体的なポイントは大量にあるのだが、それは列挙しない。
登場しない主要キャラがいるとか、逆に映画オリジナルのキャラが出て来るとか、そういうのは「改変」として充分に許容できる範囲だと思う(もちろんケース・バイ・ケースだが)。
年齢設定の変更やエピソードの違いも、その度合いにもよるが、まあ改変しても許されるポイントだろう。

個人的に重要なポイントは2つだと思っていて、それは「原作ではハルカがクール、ゆにがツンデレなのに、映画版では逆になっている」「原作はラブコメなのに、映画版ではコメディーやパロディーの要素が削られている」ということだ。
その2つに関しては、どう考えても「やっちゃいけない領域に足を踏み入れた」という行為だ。
そこを全くの別物にしてしまうのであれば、そもそも製作サイドは原作の何に惹かれて映画化を企画したのかと。
メイン2人の性格設定なんて、作品の肝に関わる部分でしょうに。そこを真逆にするってのは、もはや「完全に別物にします」と宣言しているようなモンでしょ。
原作に対する愛もリスペクトも、これっぽっちも無いのね。

それぐらい原作を無視して全くの別物にするってことは、ようするに「原作は人気の少女漫画だから、その知名度と人気だけ拝借しよう」ってことだったんだろう。
タイトルから期待できる訴求力だけを拝借して、原作を無視した「山P主演の恋愛映画」を作りたかったんだろう。
間違いなく原作ファンは怒り心頭だろうけど、そういうアプローチって実は、昔から映画界では良く行われてきたことではある。
この映画が最初の犠牲者というわけではない。

人気漫画のタイトルだけを借りて全く別物の映画を作るってのは、特に1979年代から1980年代の邦画で多かったという印象がある。
例えば『ルパン三世 念力珍作戦』とか、『ウルフガイ 燃えろ狼男』とか、『ドーベルマン刑事』とか、『ゴルゴ13 九竜の首』とか、幾つも製作されてきた(サニー千葉の主演作が多いのは偶然です)。鈴木則文監督のように、出来るだけ漫画に近付けた映画を作ろうとする人もいたが、それは例外だ。
過去に作られてきた「人気漫画の名前だけを借りた映画」の評価は、ことごとく低い。
だから、それらと同じようなアプローチで作られた本作品が酷評を浴びたのも、当然と言えよう。

もちろん、「原作と切り離せば面白い」という仕上がりであれば、原作の熱烈なファンはともかく、そうではない人なら楽しめるはずだ。
しかし、この映画は「原作とは全く違う」という部分を抜きにしても、やはり駄作なのである。
まず、「ゆにがクールに見られているけど、実際は表情に出ないだけ」ってことを表現する冒頭部分が弱い。本人のモノローグで説明しているが、それだと「そう言っているけど、そんなに感情があるようには思えない」という状態になっている。
周囲の人物はともかく、観客にはその時点で「ゆには心の中で喜怒哀楽が動きまくっている」と思わせなきゃいけないのに、そこの説得力が著しく欠けているのだ。

ハルカの登場シーンにおける見せ方も、これまた弱い。
ゆにが成績表の前にいると「随分嬉しそうだなあ」という声が聴こえ、振り向くとハルカがいるという形での登場なんだけど、そこで彼を特別な存在として見せる力が足りない。
ハルカは「その猫、お前の友達なんだろ。だから頭撫でて一緒に喜んでる」と言っており、ゆにが喜んでいることを他の面々と違って見抜いているってことになる。だったら、それをハッキリと伝えるべきだろうに、それが弱いのだ。
何しろ、ゆには「ハルカが自分の感情を見抜いた」ってことに全く気付いていない様子だし。
そうじゃなくて、そこは「感情を指摘されて驚いた」って形にならなきゃ意味が無いでしょ。

っていうか、そもそもハルカが登場した時点で、すぐに「ゆにがクールじゃないことを彼だけは見抜いている」ってのを示すこと自体、タイミングとして早すぎると感じる。
登場シーンでは、「ハルカは女子生徒からモテモテ」ってことだけをアピールした方がいい。
この映画の場合、それが後回しになっているってのも上手くない。
そういうハルカのモテモテ設定を示しておいて、ゆには他の女子と違って好意なんて皆無だったけど、自分の感情を見抜いてくれたことに驚き、態度が変化するという流れにした方がいい。

アヴァン・タイトルが終わった後、ゆにはハルカから補習を言われた時に拳をギュッと握ったり、菊子の前で怒りを吐露したりする。
その辺りになると、今度はオープニングとは違って、かなりハッキリとした形で「ゆにの感情」が見えてしまう。もちろん表情がクルクルと変化するわけではないのだが、その仕草や口調によって、充分すぎるほどに気持ちが伝わるのだ。
それはそれで、あまり上手い見せ方とは言えない。
なぜなら、「観客がハッキリ分かるってことは、周囲の人間でも気付く人はいるでしょ」と思うからだ。

そうなった時に何が最もマズいかというと、ゆにの気持ちを見抜くことが出来るハルカが、特別な存在ではなくなってしまうってことだ。
もちろん恋愛対象としては特別な存在なのだが、ゆにが好きになるきっかけは「気持ちを見抜かれた」ってことにあるわけで。
つまり、ゆにの気持ちに普通の人間なら気付かないはずなのに、ハルカは注意深く観察して癖を見抜いたから分かったってことなのだ。
でも前述したように、癖なんて分からなくても、ド素人の観客でも何となく感情が分かっちゃうわけでね。

そこを解決するためには、例えば「ゆにには常にクールに振る舞わせておいて、心の中の感情を表現する映像を挿入する」と方法が思い付く。
つまり、ゆにが怒ったとして、「ゆにが全く表情を変えずに立っている」という姿の後、「怒りを表情と態度ハッキリと示している心の中の彼女」を描くという方法だ。
そうすれば、「普通の人には彼女の感情が伝わらない」「観客には感情が伝わる」という矛盾する2つの事柄を成立させることが出来るだろう。
もちろん、あくまでも1つの案であり、他にも策は色々とあるはずだ。

ゆには英語だけが苦手という設定なのだが、そこの説明も上手くない。
まずハルカが「英語の成績だけは落としている」と言った段階では、あまりピンと来るモノが無い。
補習のシーンになり、ゆにが「全く分かりません」と言った時点で「ああ、ホントに苦手なのね」ということは理解できる。ただ、英語が苦手だという事実を彼女がどう受け止めているのかが分からない。
克服したいと思っているのか、あまり何とも思っていないのか。
それによって話は大きく変わってくるはずだが、そこに無頓着なのよね。

ゆには英語の補習に対して、「法則が理解できなければ何も頭に入らない」と主張する。そもそも英語も「文法」があるぐらいだから法則だらけだと思うんだけど、それはひとまず置いておくとしよう。
で、ハルカは「そう来ると思った」と言い、例文を5回ずつ書き写すよう命じる。すると、ゆには素直に従っている。
ってことは、ゆにからすると「例文を5回ずつ書き写す」ってのが法則ってことなのか。そうじゃないと、それまで反発していた彼女が素直に従う理由が無いもんな。
でも、それって「英語の法則」じゃないでしょ。それで英語の成績が上がるぐらいなら、ゆにぐらい勉強が出来る人間なら、とっくに実践してるでしょうよ。

ゆにはハルカから感情を指摘されても、不快感を示すだけだ。
そうなると、ゆにを前から知っている数馬や菊子は別にして、ハルカだけは彼女の感情を見抜くことが出来るという設定が効果的に作用しなくなる。
それまで不快感を抱いていたとしても、「ハルカは自分の感情に気付くことが出来る」と分かった時点で、そこから変化した方がいいと思うのよね。
それとは無関係に不快感から恋心への変化が生じるのであれば、そもそも「ゆには感情が表に出ない」という設定さえ意味が薄くなってしまう。

脇役キャラの使い方は、ものすごく雑で薄っぺらい。
ゆにの恋路を邪魔するライバル的な存在として登場した芽衣は、体育倉庫の一件があった後は消えてしまう。
菊子は何度か登場するが、「段取りのための台詞を言わされる」という役回り以上の意味を持っていない。
彼女の恋人である咲は、まるで存在意義が見出せない。
美麗はハルカとヨリを戻そうとして恋のライバルになるのかと思いきや、まるで影響を及ぼさない。「ハルカ&ゆにの交際を妨害する」という役割だけは果たすが、それなら芽衣に担当させてもいいわけで。

途中から竜が登場するが、転校生や他校の生徒ならともかくクラスメイトなので、「それまで全く登場していなかった」という不自然さが際立つ。あと、「ありがとうございました。これ、俺のすげえ大事なヤツなんです。マジ、すっげえ感謝します」という敬語の口調が不自然。
それと、ゆには竜の眼前で倒れたのに、ハルカが駆け付けて保健室まて運ぶってのは、かなり無理のある展開だ。
もちろん「ゆには保健室へ運んだのが竜だと思い込むが、後でハルカだと知って云々」という展開を作りたいのは明白だ。でも、最初の段階で大きな無理をしているので、その筋書きには全く乗れない。
それと、竜は登場してから告白して失恋するまでに10分程度しか掛からないので、やはり存在意義が薄い。「ハルカとゆにの恋路を邪魔する障害」としては、あまりにもペラペラすぎる。

「壁ドン」「お姫様だっこ」「頭ポンポン」など、少女漫画に出て来る「女子がキュンと来る男子の行動」を網羅したような内容になっている。
なので、たぶん「山Pファンならキュンキュンしまくり」ってことじゃないかと思われる。
だから山Pのアイドル映画としては、そんなに悪くないと言えるのかもしれない。
でもねえ、この映画におけるハルカのツンデレ表現って、それでホントにいいのか、正解なのかと首をかしげたくなるのよ。

ハルカの描き方で何より引っ掛かるのは、ゆにが告白するまでのツンの部分が酷すぎるってこと。
なんかねえ、ただ冷淡なだけで、シャレになってない感じが強いのよ。
あと、告白されてからの行動にしても、ツンデレって言うよりは、ただの情緒不安定にしか見えんぞ。これがコメディーだったら、その辺りも上手く表現できたのかもしれないけどね。
そこに限らず、コメディー要素を排除した弊害は色んなトコで出ていると思うぞ。
「告白しようとするけど、なかなか言い出せない」という部分は少しだけ喜劇の色があるけど、むしろ中途半端に持ち込んだことで「だったら、もっとハッキリとしたコメディーにすりゃいいのに」という気持ちが強くなるわ。

ゆにに告白されてからのハルカの言動も、デタラメで全く共感できない。
告白されるとキスするが、すぐに「忘れてくれ」と言う。美麗から「生徒と交際してはいけない」と釘を刺され、ゆにに「忘れろ」と冷たく言い放つが、竜と一緒にいるのを見ると連れ去って「お前が好きだ」と告白する。
「卒業したら結婚しよう」とまで言うが、ゆにが留学せずに自分と結婚しようとしていることを知ると結婚を撤回して彼女と別れる。でも、ゆにが留学すると、またヨリを戻す。
そういう行ったり来たりのスパンが短いので、「それってツンデレとかいうことじゃなくて、ただの支離滅裂でしかないだろ」と言いたくなるぞ。

(観賞日:2016年7月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会