『金田一少年の事件簿 上海人魚伝説』:1997、日本

中国の上海。楊氏雑技団の団長であるヤン・ターレンが、劇場の楽屋で死体となって発見された。第一発見者は娘のレイリーだった。 ターレンは仮面を被せられ、額を銃で撃ち抜かれていた。さらに彼は左耳を切り落とされ、なぜか金魚鉢の水を掛けられていた。祭壇の からは仮面が4つとも無くなっており、長老のチャン・ユーリャンは「スーランが戻ってきたんじゃ」と呟いた。
七瀬美雪は文通相手であるレイリーからの手紙で、事件のことを知った。手紙には、レイリーの兄シャオロンが犯人として疑われている ことが記されていた。劇場に外部から侵入した形跡が無く、内部の者でシャオロンだけにアリバイが無かったからだ。レイリーは「いつも 手紙に書いている恋人に、兄を助けるよう頼んでください」と綴っていた。「いつも手紙に書いている恋人」とは、美雪の幼馴染みで あり、名探偵・金田一耕助の孫である金田一一(はじめ)だ。手紙には航空券も同封されていた。
レイリーの写真を見た一は、彼女が美人だったので、「行きましょう」と乗り気になった。一と美雪は上海へ飛び、楊氏雑技団の劇場へ 赴いた。水中ミュージカルの「魚人遊戯」が大人気のプログラムだ。ショーの後、2人は楽屋を訪れた。レイリーによると、兄は前から父 と仲が悪く、ケンカばかりしていたという。そこへプロデューサー藤堂壮介が現れ、はじめと美雪に挨拶して名刺を渡した。彼は日本から 留学している団員・西村志保を紹介した。
レイリーは一と美雪に、雑技団の写真集を作っているカメラマンの幸田裕司、舞台監督のチャン・ユーリャン、団員のスー・タアミンを 紹介した。シャオロンは一と美雪を見つけると、「日本へ帰れ」と怒鳴り付けた。上海公安局の刑事リー・ポールは署にシャオロンを呼び 、取り調べを行った。美雪が一を紹介すると、リーは「中国では私立探偵は禁じられている」と冷淡に告げた。
翌朝、祭壇に「春后必有夏」のお札が置いてあり、チャンは「これはスーランの復讐だ。夏・秋・冬と必ず死人が出る」と口にした。 志保が一と美雪に、スーランのことを説明した。スーランは6年前に魚人遊戯に大抜擢された団員だ。彼女はナンバーワンになったが、 化粧水の瓶に誰かが硫酸を入れたため、顔の半分を大火傷した。彼女は「一生呪ってやる。呪いの詩を忘れるな」と言い残し、拳銃自殺 して河に転落した。しかし未だに、拳銃も死体も河から上がっていない。
もう一つ、団長の殺され方が、スーランの呪い詩にそっくりだということがあった。劇場の祭壇は四蘭洞(スーランドウ)と呼ばれており 、チャンがスーランの魂を鎮めるために作ったものだ。そこにはスーランが魚人遊戯で使った4つの仮面が掛けられていたが、全て 持ち去られていた。仮面の一つが団長の被っていた春の仮面だった。スーランは死ぬ前に、五行詩を残していた。
マルチナは愛人である藤堂の前で、「公安がうろちょろしていたら7年前の事件もバレるわ」と怯えた。藤堂は強気な態度で「あのことを 知っているのは俺とお前だけだ」と口にした。魚人遊戯の時間になってもマルチナが見つからず、藤堂はレイリーに代役を命じた。しかし レイリーが魚人遊戯の芸を行っている最中、水槽の中にマルチナの死体が浮かび上がった。彼女は夏の仮面を被らされていた。そして詩の 通りに舌が切り落とされていた。彼女は団長と同様、デリンジャー銃で射殺されていた。
リー刑事は今回もアリバイの無いシャオロンを犯人と断定し、逮捕して連行しようとする。シャオロンはトイレに行かせてもらい、「俺 じゃない」と頭を抱える。その時、窓の外から、一が声を掛けた。彼は小舟で窓に近付き、「何もやってないんだろ、早く来いよ」と脱走 を持ち掛けた。一とシャオロンはリーたちに追われ、街を逃げ回った。2人はトラックの荷台に乗り、追跡を撒いた。
シャオロンは隠れ家として、一を郊外にあるターレンの生家に連れて行く。そこでシャオロンは、柱時計に大金が隠されているのを発見 した。女中のアメイに訊くと、ターレンは窃盗団である藤堂を手伝い、日本から盗品を運び込む手伝いをしていたのだという。一は、 「ひき逃げ殺人事件の犯人の右手首に蛇の刺青」という7年前の新聞記事の切り抜きを発見した。彼は、幸田が隠そうとした写真に写って いた藤堂の右手首に、刺青があったことを思い出した。
一は警視庁刑事部捜査一課の警部・剣持勇に電話を掛け、7年前の事件の犯人が上海にいると教えた。一は剣持に質問し、事件の被害者が 小林哲晴という新潟のトラック運転手であり、子供が一人いたことを知った。一方、美雪がレイリーが話していると、タアミンがやって 来た。彼はレイリーに「今度は俺が殺される。5年前、俺がスーランの化粧水を」と怯えながら打ち明けた。彼はマルチナに依頼されて 化粧水に細工したこと、中身が硫酸だとは知らなかったことを語った。
翌日、タアミンが四蘭洞の前で喚いたので、藤堂が制止した。チャンは藤堂に、「次はアンタの番よ。私知ってる。あなたがスーラン だまして自分の女にしてたこと」と告げた。剣持警部は一の保護者として、上海公安局を訪れた。藤堂が劇場で射殺され、ちょうど裏口 から潜入していたシャオロンは現行犯として逮捕された。一は日本へ強制送還されることになったが、「真犯人の正体を暴くためにも、 もう一度雑技団のショーが見たいんだ」と言い出す。剣持がリーに頼み込み、了承されることになった。しかしショーを見ても、一は 真犯人を指摘することが出来なかった…。

監督は堤幸彦、原作は天樹征丸、漫画はさとうふみや、(講談社「週刊少年マガジン」連載中/原案 天樹征丸 原作 金成陽三郎 漫画 さとうふみや)、脚本は田子明弘、プロデューサーは櫨山裕子&奥田誠治、製作は漆戸靖治&宮原照夫&早川恒夫、アソシエイト・プロデューサーは長坂信人&蒔田光治、 撮影は唐沢悟、録音は井上宗一、照明は遠藤光弘、美術は大竹順一郎、CGディレクターは原田大三郎、音楽は見岳章、 主題歌「ひとりじゃない」唄は堂本剛、「Kissからはじまるミステリー」唄はKinki Kids。
出演は堂本剛(Kinki Kids)、ともさかりえ、古尾谷雅人、中尾彬、佐野瑞樹(ジャニーズJr.)、原智宏(ジャニーズJr.)、立川政市、 修健、水川あさみ、陳子強、橋本さとし、翠玲、佐貫真希子、アダ マウロ、穂積ペペ、内田莉紗、何子嵐、黄以勒、顔希賢、翁華栄、 王建軍、安達大介、偉藤康次、伊藤仁、井鍋信治、大橋明、大橋寛展、小川雅史、神谷秀澄、亀山ゆうみ、菅野裕貴、佐藤正行、 島裕一、津野岳彦、内藤浩二ら。


週刊少年マガジンに連載されていた漫画『金田一少年の事件簿』を基にした日本テレビ系列の連続ドラマの劇場版。
一役の堂本剛、美雪役のともさかりえ、剣持役の古尾谷雅人、はじめの友人・真壁誠役の佐野瑞樹と佐木竜太役の原智宏、剣持の部下・ 向井猛夫役の立川政市は、ドラマ版のレギュラー。
他に、藤堂を中尾彬、リーを修健、レイリーを水川あさみ、シャオロンを陳子強、幸田を橋本さとし、スーランを翠玲、志保を佐貫真希子 、マルチナをアダ・マウロ、小林を穂積ペペ、幼いレイリーを内田莉紗が演じている。

レイリーは中国人の設定だが、日本語がものすごく達者だ。
まあ「実は日本人」という設定なので、当然っちゃあ当然だが。
ただ、彼女だけでなく、リーも日本語が話せるし、シャオロンも途中から日本語を喋り出す。
さらには、上海の雑技団なのに、なぜかプロデューサーは日本人だし、日本からカメラマンと留学生が来ており、ものすごく不自然に 「日本語が通じる環境」が整えられている。

冒頭の殺人と死体発見シーンはシリアスだったのに、美雪が手紙を読み、レイリーが文面をナレーションして「いつも手紙に書いている 恋人に」と言う辺りから、急にコミカルな調子に転換しようとする。
あんだけシリアスに殺人や死体発見を描いておいて、それは苦しいものがあるぞ。
一と美雪の様子をコミカルに描きたいのなら、その手紙を読む前にやっておくべきだろう。

一と美雪は上海に渡って魚人遊戯を見るのだが、そのプログラムを、ただ普通に最初から最後まで見せてしまうという芸の無さは何なのか 。
そりゃあカメラのアングルを変えたりカットは切り替えたりしているけど、そのショーがそんなに魅力的には見えないし。
しかも、そこで終わりじゃなくて、その後もクマのショーとか軟体曲芸とか自転車芸とか、そんなのまでダラダラと見せるんだぜ。

一と美雪はレイリー客というだけなのに、わざわざ藤堂は挨拶にやって来る。レイリーの友達だからって、その後も一と美雪がずっと楽屋 に入り浸ってウロウロしているのを、団員とプロデューサーが許しているのも変だ。
リー刑事はシャオロンを犯人だと確信しているにしては、取り調べた後で簡単に開放している。警察署に留めて夜中まで取り調べるとか、 そういうことはやらない。
中国雑技団なのに、なぜかマルチナがトップを張っているのも変。スーランが死ぬ前に、わざわざ五行詩を用意していたのも変。
マルチナの死体が上がった瞬間、観客は立ち上がって騒然とするが、その後はパニックにもならず、妙に落ち着いている。劇場から逃げ 出そうとする奴も、悲鳴を上げる奴もいない。
その辺りは、もはや映画じゃなく原作への指摘になるんだろうけど。

チャンがお札を見て「これはスーランの復讐だ」と言った後、彼が一言発する度にアタック音が出る。
「スーランは魚人に化けてる」でバーンと音が鳴り、祭壇が写る。
「スーラン、雑技団恨んでた」でバーンと鳴り、祭壇の写真が写る。
「仮面全部なくなった」でバーンと鳴り、お札が写る。
「まだまだ死人出る」でバーンで、またお札。
ハッキリ言って、ウザいよ、その演出。

スーランが何者なのかを志保が説明した後のシーンでは、美雪の顔を右、左、正面からとカメラを切り替えて写しながら、「まだ生きて いたスーランが河を移動して殺しに来た」ということを真面目に説明する。
まずカメラワークがうっとおしいし、その推理はバカバカしいの一言に尽きる。
それって、マジにミスリードを狙っているのか。
だとしたら、もはやミステリーというよりコメディーだ。

藤堂の死体が発見された後、リー刑事がシャオロンを犯人と断定して連行しようとするシーンでは、「完璧なアリバイが無いのは」という セリフの途中でアタック音を入れて、振り向くリーに合わせてカメラを切り替え、「シャオロンだけです」と言わせている。
ケレン味としてやっているのかもしれんが、カメラワークとアタック音のSEが、ものすごく仰々しくて疎ましい。
トイレに行ったシャオロンが「俺じゃない」と言うシーンで、カメラがグルグルと回転するのもウザい。

前半部分では、また新たな殺人が起きることを匂わせると同時に、複数の登場人物を観客が「こいつは怪しい」と感じるような作業を やっておく必要があるはずだ。
ところが、犯人候補に挙がりそうな奴が誰一人としていない。
幸田は登場シーンの滑稽な芝居からして容疑者として見るのは無理だし、藤堂は別の何か悪事に関わっているような様子は見せるけど、 それによって逆に団長殺害の容疑者候補からは消える。
ようするに、この映画は犯人をミスリードするための作業が全く出来ていないのだ。

日本から送られたファックスを志保が見ている辺りで、ようやく志保へのミスリードがあるが、その程度だし、もう話も後半に入っている 。
しかも、彼女が被害者の娘だと剣持が言い出すと、逆に「ああ、こりゃ彼女じゃないな」と分かってしまう。
そもそも、そこまでの彼女の存在感の薄さを考えると、無理があるよな。
そういう風に考えると、明らかに犯人ではないシャオロンにスポットが当たりすぎていて、他の脇役連中も影が薄いんだよなあ。不審な 動きで観客を惑わすような奴が見当たらない。

一が「何もやってないんだろ、早く来いよ」とシャオロンに呼び掛け、脱走させるのはメチャクチャだよ。そこで逃げたら「殺しをやった から逃げた」ってことになっちゃうだろうが。
まだシャオロンは処刑されるわけでもないんだし、とりあえず警察に連行させておいて、その間に一は真犯人を捜せばいいだけだろうに。 なんでシャオロンの立場を余計に難しくするようなことをするかね。
大体、一だって、お尋ね者として警察から身を隠さなきゃいけない立場になったら、事件の捜査も満足に出来ないだろうに。リーが暴力 的な取り調べでもしているならともかく、夜になったら釈放しているような良心的な取り調べなんだし。
まさかとは思うが、追いかけっこのシーンをやりたかっただけじゃあるまいな。
だとしても、その追いかけっこがスピード感や迫力のあるものならともかく、すげえタルいぞ。カーアクションやバイクアクションじゃ なくて、ただ走ってるだけだし。

一がシャオロンと逃げた後、言葉が通じないのでどうするのか、その問題を上手くドラマに使っていくのかと思ったら、シャオロンが実は 日本語が話せましたという安易な展開。
だけど、少し話せるという程度なんだから、一が早口で「死体を上から投げ入れたとしたら、絶対に水槽の周りに水しぶきが飛ぶはずだろ 」なんて説明しても、伝わらないと思うぞ。
その後、位置は剣持に電話を掛けるが、ニーハオを「ニーハマ」と言うぐらいバカで、全く中国語も話せないような奴が、国際電話の 掛け方だけは知っていたのね。

強制送還が決まった一は、「真犯人の正体を暴くためにも、もう一度雑技団のショーが見たいんだ」と言い出すが、そんならシャオロンを 脱走させる前に、そういう方向で捜査しておけよ。
テメエのボンクラな行動のせいで、余計にドツボにハマっとるじゃねえか。
夜の上海を一がローラーブレードで疾走するシーンが見せ場のようだが、ミステリー映画のはずなのにアクションシーンが最大の売りっ てのはダメだよな。
お前は名探偵コナンかと。

終盤、一は関係者を集めて真犯人とトリックを説明するが、拳銃をエサの肉に混ぜて熊に食わせているとか、それを糞から回収して何度も 使っているとか、メチャクチャなトリックだ。
あと、一は詳しく説明しているが、日本語の達者な奴じゃないと、何を喋っているのか理解できないだろうと思うぞ。
ちなみに、一が全てを説明するまでに、観客が事件を推理するためのヒントは全く与えられていないので、ミステリーとしての面白さは 味わえない。
また、犯人当てと犯人による告白シーンも盛り上がらない。

(観賞日:2010年9月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会