『金田一耕助の冒険』:1979、日本

映画やテレビなどで有名人となった私立探偵の金田一耕助は、新宿・中央署の等々力警部と共にポスター撮影に臨む。マグネシウムが多すぎたせいか小さな爆発が発生し、金田一は「命を狙われたのではないか」と推理する。しかし等々力は相手にせず、そんなことより強盗事件で大変だと語る。最近、美術品専門の窃盗団が次々に事件を起こしているのだ。
等々力は犯人を捜すため都内のリムジンを片っ端から当たらせるが、手掛かりは掴めない。中央署に赴いた金田一は、石膏の手を発見する。等々力によれば、2ヶ月ほど前に房総沖に墜落した航空荷物便を釣り人が釣り上げた中に、それがあったという。等々力は、それも一連の事件を起こしている窃盗団の仕業だと考えていた。
金田一の前に、ホッケーマスクを被ったり白塗りメイクをしたりしたローラースケートの軍団が現れた。ホッケーマスクを取ったマリアという女性の指揮で、一団は金田一をアジトに案内する。マリアたちは、美術品の窃盗団だった。アジトには、かつて金田一が挑んだが未解決に終わった「瞳の中の女」事件の鍵を握る石膏像、不二子像の首があった。マリアの仲間が盗み出したものだという。マリアは金田一に20年前に作られた金田一モノの映画を見せ、そこで未解決になっている「瞳の中の女」事件を解くよう求めてきた。
風呂敷に包んだ不二子像の首を預かった金田一だが、床屋にいる間に何者かに盗まれてしまう。アパートに戻った彼は隣人からロボット型キャンディー入れをプレゼントされ、マキシムのCMで美女と共演する妄想に浸る。金田一は等々力と共に、亡くなった灰田勝彦の邸宅を久しぶりに訪問した。灰田勝彦は妻をモデルにした不二子像の作者であり、新興美術協会の会長だった人物だ。現在、灰田邸は彼の弟子で新興美術協会の現会長である古垣和哉が所有している。
灰田邸に古垣は不在で、妻・たねが金田一と等々力を招き入れた。たねは地下室に安置されているという不二子像を2人に見せようとするが、首が無いことを知って驚いた。同じ頃、愛人の綾香とホテルにいた美術商・明智小十郎は、故売屋の石田五右衛門から連絡を受けた。明智は石田に依頼して、不二子像の首を盗ませていたのである。
金田一はマリアから連絡を受け、等々力に追い回されながらも彼女とデートをする。マリアは金田一に銀座の明智美術店の場所を教え、そこに首があることを告げた。金田一は等々力と共に黄色のRX−7に乗り込み、明智美術店へ向かう。明智は不在で、店には店員と秘書の高木がいた。金田一は高木に頼んで、明智の妻・文江と連絡を取ってもらう。とある老人ホームで婦人達とコーラスを楽しんでいた文江は、金田一や等々力に会えると聞いて大喜びした。
金田一と等々力はスーパーマンションへ行き、文江と会った。文江は等々力の質問を受け、「例のモノはドアの中」と告げた。等々力がドアを開けると、頭に斧が刺さった綾香の死体があった。文江は「金田一さんと等々力さんが揃うのだから死体が無いとカッコが付かない」「犯人は私ということになるでしょうね」と明るく言った。
等々力は「こんなのが犯人でいいのか」と不満顔だったが、とにかく文江を中央署へ連行した。しかし文江は、不二子像の首のありかは分からないと言う。金田一は、明智が綾香に不二子像の首を預けていたが、それが盗まれたのだと推理した。八甲商事の隅田光一の元を恋人の藤井たか子が訪れていた。たか子は、綾香が借金のカタとして不二子像の首を隅田に預けたのを知っていた。
たか子に「不二子像の首を見せて」とせがまれた隅田は、金庫を開けた。そこへ保険局の職員が現れ、「コレラが発生したから消毒する」と称して隅田とたか子を追い出した。しかし、それはサラ金大王の社長・蛸島裕太郎と手下が化けた姿だった。窃盗団のアジトには隅田の金庫が運び込まれ、金田一が見守る中で扉が開けられる。だが、そこには不二子像の首ではなく、蛸島の生首が入っていた。
金田一がアパートに戻ると、そこに不二子像の首があった。そこへ高木が姿を現し、自分が綾香も蛸島も殺したと証言し、金田一も殺そうとする。だが、金田一が鳴った電話を取ると、慌てて逃亡した。翌日、文江は釈放された。高木は首を切断された死体となって発見された。金田一と等々力は、テレビ番組への出演を終えたばかりの古垣の元を訪れた。金田一は彼に、同じ灰田の門下生で三羽烏と呼ばれた片桐と森の居場所を尋ねる。古垣は、森がどこかの老人ホームでゆっくりしているらしいと語った。
金田一は、古垣が脅迫されているのではないかと考える。20年前、灰田の妻・不二子と片桐の密会を師匠に報告したのが古垣だった。文江の車のトランクに身を隠した金田一は、老人ホームへと辿り着く。その老人ホームには、彫刻を作り続けている老人が入居していた。金田一は、その老人が灰田の門下生・森だと推理する・・・。

監督は大林宣彦、原作は横溝正史、脚本は斎藤耕一&中野顕彰、ダイアローグライターはつかこうへい、製作は角川春樹、プロデューサーは元村武、プロデューサー補は高橋速円、撮影は木村大作、編集は井上親弥、録音は宮永晋、照明は小島真二、美術は薩谷和夫、タイトルデザインは和田誠、ファッションコーディネーターは吉田叡子、音楽は小林克己、ストリングスアレンジャーは小田健二郎。
主題歌は「金田一耕助の冒険−青春篇」「金田一耕助の冒険−サーカス篇」
歌・演奏はセンチメンタル・シティ・ロマンス&村岡雄治、作詞は山川啓介。
出演は古谷一行、田中邦衛、仲谷昇、山本麟一、吉田日出子、樹木希林、東千代之介、坂上二郎、熊谷美由紀(現・松田美由紀)、江木俊夫、原田潤、宇佐美恵子、小島三児、小野ヤスシ、草野大悟、大泉滉、佐藤蛾次郎、梅津栄、伊豆肇、南州太郎、重松収、車だん吉、赤座美代子、小川亜佐美、三輪里香ら。
友情出演は志穂美悦子、斎藤とも子、横溝正史、高木彬光、角川春樹、峰岸徹、岸田森、檀ふみ。
特別出演は三船敏郎、三橋達也、夏木勲、岡田茉莉子。


横溝正史の短編『鏡の中の女』を基にした作品。
基にしたと言っても、『鏡の中の女』の未解決事件を再び捜査するということでネタに使っているだけで、中身は映画オリジナル。
映画タイトルは、その『鏡の中の女』が収録された角川文庫の短編集のタイトルから取っている。
ちなみに古垣と森は『柩の中の女』、片桐は『鞄の中の女』という、同じ短編集の作品に登場するキャラクターだ。

金田一役は、角川映画で金田一を演じていた石坂浩二ではなく、その当時のTVシリーズで金田一を演じていた古谷一行。
等々力を田中邦衛、古垣を仲谷昇、老人ホームの彫刻家を山本麟一、文江を吉田日出子、たねを樹木希林、明智を東千代之介、石田を坂上二郎、マリアを熊谷美由紀、マリアの仲間パンチを江木俊夫、明智美術店の店員を小野ヤスシ、高木を草野大悟、蛸島を佐藤蛾次郎、たか子を赤座美代子、綾香を小川亜佐美が演じている。

念のために書いておくが、これはマトモなミステリー映画ではなく、パロディー映画である。
金田一が「緑ヶ丘荘に引っ越そうと考えている」と話したり、病院坂(『病院坂の首縊りの家』)や鬼首村(『悪魔の手毬唄』)の標識があったり、中央署の床には磯川警部の名前入りの星マークがあったり、「僕は八つ墓村のバカ」と電柱に捕まって叫ぶ男がいたりと、金田一作品のネタも色々と入っている。
最後のシーンでは、金田一が砂浜に『本陣殺人事件』の刀、『獄門島』の吊り鐘、『犬神家の一族』の逆さに突き刺さった2本の足、『八つ墓村』のハチマキに懐中電灯を突き刺した生首を集めるシーンがある。

この映画は様々なジャンルからパロディーのネタを引っ張ってくるし、大勢の有名人が出演する。
列車に乗っていた金田一は、乗客の檀ふみから言語学者の金田一京介に間違えられる。中央署では、刑事達が『太陽に吠えろ!』のような格好をして、夕陽に向かって吠えている。等々力が窃盗団逮捕のためにリムジンを捜索させると、そこには『呪いの館 血を吸う眼』『血を吸う薔薇』のドラキャラに扮した岸田森が乗っている。
金田一が窃盗団のアジトに行くと、片岡知恵蔵が主演した金田一の映画が流れている。窃盗団のパンチやサンデーやポストやピアという呼び名は、当時の雑誌から取られている。マリアが見せる20年前の映画では、三船敏郎が金田一、三橋達也が等々力、峰岸徹が『瞳の中の訪問者』の男として登場する。金田一が小島三児の床屋に行くと、高木彬光が客として現われる。金田一は高木に、「当たっても当たらなくても儲かる」と話す。

『宇宙からのメッセージ』の志穂美悦子からR2D2みたいなロボットをプレゼントされた金田一は、斎藤とも子と共演するマキシムの夢を見る(このマキシムのネタは、その後も何度か使われる)。東千代之介は1人だけ時代劇芝居を披露し(やらされ)、コマーシャルのセリフ「フォー、ビューティフル、ヒューマンライフ!」を愛人の前で叫ぶ。さらに不二子像の首を手に入れ、『柳生一族の陰謀』の萬屋錦之助のセリフ「夢じゃ、夢じゃ、夢でござる」を口にする。それを聞く坂上二郎の屋号は、萬屋になっている。
「さすがカー・オブ・ザ・イヤー」とRX−7を誉めるCMをしながら、金田一と等々力は美術店へ向かう。吉田日出子が老人ホームでコーラスをしていると、途中で「飛んで飛んで」と円広志『夢想花』が混じる。スーパーマンションに場面が切り替わると、スーパーマンが空を飛ぶ。吉田日出子にキスされた等々力は、「薔薇は君より美しい」と布施明のヒット曲『君は薔薇より美しい』を間違えて口にする。

吉田日出子がオッパイを見せたことに金田一と等々力が驚くと、インベーターゲームのSEが入る。『白昼の死角』の夏木勲は、その映画のキャッチコピー「狼は生きろ、豚は死ね」に似た言葉「狼は生きろ、ブスは死ね」がモットーだ。
サラ金大王が八甲商事に乗り込むと、ダウンタウン・ブギウギ・バンドによる『白昼の死角』の主題歌『欲望の街』が流れる。金田一が部屋に戻ると、その戸には「Cocacola」のマークに似た「Cocaine」のマークがある。
翌朝、草野大悟は『八つ墓村』の多治見要蔵のように、2本の懐中電灯をハチマキに刺した生首で発見される。金田一と等々力が古垣に会うためテレビ局に行くと、番組に出演していた笹沢左保(アンクレジット)がスタジオから出てくる。金田一が大泉滉らが暮らす老人ホームへ行くと、『HOUSE』ならぬ『HORSE』を撮った映画監督がいる。

等々力は、目の前に「男組」と書かれた柱がある中央署で「お楽しみはこれからだ」と和田誠の著書のタイトルを叫ぶ。金田一と等々力は、『ぼくの先生はフィーバー』の原田潤が歌うディスコで『サタデーナイト・フィーバー』のように踊る。金田一は吉田日出子が自殺を図った過去を語り、「湖に君は身を投げた」とザ・テンプターズの『エメラルドの伝説』を口ずさむ。
吉田日出子のかぶっていた麦わら帽子が飛んで行き、『人間の証明』の岡田茉莉子の頭にスポッと収まり、ジョー山中が歌う『人間の証明のテーマ』が流れてくる。岡田茉莉子と一緒に食事する子供は、「とってもデリッチュ」とCMの決めセリフを口にする。角川春樹は横溝正史の元を訪れて、ギャラを渡す。札束を確認した横溝は「中身は薄いですな」と当時の角川映画を皮肉ったセリフを語り、さらに「こんな映画だけには出たくなかった」と吐露する。

様々な映画やドラマ、コマーシャルなどのパロディーが詰め込まれているのだが、それを金田一や等々力など事件に関わる登場人物だけに任せておかず、パロディーのために多くの「本物」を豪華に登場させる。そのためなら、話が脇に逸れたり、停滞したり、時には本筋を見失ったり、無駄にややこしくなったり、そんなことも厭わない。
大林監督は、どんな題材も、どんな物語も、全てファンタジック&ノスタルジックなエッセンスが散りばめられた爽やかテイストの作品に仕立て上げるという独特のセンスを持った映画人だ。
だから、この作品もパロディー映画でありながら、ストレートにギャグ爆裂のバカまっしぐらな作品にはしていない。知性のカケラも感じさせないような突き抜けたバカ・パワーで徹底して走ることも無いし、ギャグのシーンでも爆発力より朗らかさが勝っていることが少なくない。凝った編集や凝った映像も駆使している。

この映画の金田一は、常にバカにされる存在だ。写真撮影での爆発に「これは事件では?」と言い出すと、すぐに等々力が「血が汚れているとか、出生の秘密とか、おどろおどろしいことばかり、ありゃしませんよ」と呆れている。美術品窃盗なのに、金田一は「誰か死んでるんでしょ」と期待して現われ、死者がいないと知るとガックリ来る。
石膏の手を本物だと思い込んで喜んだり、「恨みのこもった髪の毛だ」と言うと「そりゃワカメ」と即座に指摘される。いつものように頭をポリポリかくと、「アンタが頭かいて事件が1つでも解決したことある?」と言われる。等々力が「窃盗団の仕業だ」と言っても、金田一は「そんなことより人が死んでるんでしょ?」と殺人事件に期待する。

最後に金田一は、CM撮影のスタッフからボロクソに言われる。「4人も5人も殺す必要があったのかね」「金田一がモタモタしてたからいけないんだ」「みんな死んじまわなきゃ推理できないもんね」「人なんて20年でそんなに変わるかしら。文江が不二子なんて、ちっとも似ていないじゃない」など、一方的に言われ放題だ。
ボロクソに言われた金田一は、そこで笑って済ませることはしない。重く沈んだ口調で、探偵論をポツポツと語る。「事件ってのは矛盾が残る」だの、「日本の犯罪は、どうしても家族制度や血の問題が絡んでくる」だの、「探偵は1つの殺人が新たな殺人を生むことを考えるのが楽しい」だの、「事件の途中で犯人を予測することは出来るが、無闇に犯行を阻止すべきじゃないって気がする。事件は一人歩きするが、それを暖かく見守ってやる気持ちが必要だ」だのと、自身が事件を阻止できないことに関する講釈をする。

さらに金田一の口は動き、「こんなもんじゃあ、まだまだ満足しませんからね。もう4人も5人も死んでるんだ、もう一波乱も二波乱もあってもいいじゃないですか」と、さらなる事件の広がりを望む発言をする。
決して突き抜けた笑いで徹底しようとはせず、湿っぽく、そして意味ありげな言葉で無力感や虚しさを醸し出して終わらせる。
そこで語る探偵論は、たぶん大林テイストではなく、つかこうへいワールドだろう。
結局、金田一が映画全体を通じて何を主張したいのかは意味不明で支離滅裂だが、そういう映画だ。

 

*ポンコツ映画愛護協会