『君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ』:1976、日本

10月10日、新宿。水沢恵子という女が警官2名を引き連れ、公衆電話を使っていた杜丘冬人の元へ走った。東京地検検事の杜丘を指差した彼女は、この男が強盗だと告げた。杜丘は派出所へ連行され、恵子は彼が自分のアパートへ侵入して現金20万とダイヤの指輪を奪い、強姦したと訴えた。杜丘は警官たちに、本庁の矢村警部を呼ぶよう要求した。新宿署へ移送された杜丘の元へ、小川刑事が矢村を案内した。「俺を信じないのか?」と問い掛ける杜丘に、矢村は「俺は誰も信用しない」と冷淡な態度で告げた。
アリバイを問われた杜丘は、自宅にいたと話す。しかし一人暮らしのため、それを証明できる者はいなかった。そこへ本庁の細江刑事に導かれ、寺田俊明という男がやって来た。寺田は「この男です」と杜丘を指差し、カメラを強奪されたと訴えた。杜丘は留置場で一夜を過ごし、翌朝になって東京地検へ連行される。検事正の伊藤守は杜丘の無実を信じようとせず、迷惑そうな様子を見せた。矢村が家宅捜索へ向かうと知った伊藤は、杜丘の手錠を外して同行させるよう頼んだ。
矢村たちが杜丘の自宅マンションへ行くと、すぐにカメラが見つかった。他の部屋を調べると、ダイヤの指輪と20万円の紙幣も発見された。杜丘は罠だと確信するが、矢村と伊藤は彼の犯行だと決め付けた。杜丘は吐き気がすると嘘をついてトイレへ行き、隙を見て窓から脱出した。記者会見を開いた伊藤は記者たちの厳しい追及を受け、杜丘の事件は大々的に報道された。杜丘は恵子のアパートへ行き、管理人の古谷と会う。杜丘を信用した古谷は、恵子が出て行ったこと、10月1日に引っ越して来たことを話した。さらに古谷は、恵子が能登金剛宛の小包を持っていたことも教えてくれた。
10月13日、杜丘は金沢に到着し、恵子について調べ回った。その結果、彼は恵子が偽名であること、手塚加代という本名であること、東京のタクシー運転手と結婚したが最近になって帰郷したことを知った。加代の家へ向かった杜丘は、怪しげな2人の男が出て来るのを目撃した。彼らが去るのを待って家に入った杜丘は、加代の絞殺死体を発見した。室内を見回した彼は、加代の夫が寺田であること、横路敬二という本名であることを知った。
10月15日、杜丘は横路の実家がある北海道の日高へ向かう。捜査本部は彼を加代の殺害犯と断定し、矢村と部下たちが行方を追っていた。矢村たちは捜査の過程で、横路と加代が偽名を使っていたこと、夫婦であったことを知った。杜丘は横路の実家に到着するが、待ち受けていた刑事たちに追われて山へ逃げ込んだ。矢村は横路夫婦の訴えがガセだろうと推理する一方で、加代の殺害は杜丘の仕業だと確信した。部下たちの捜査により、横路が4年ほど前から解剖や実験用のモルモットを飼育していたことが明らかになった。矢村は杜丘を捕まえるため、北海道へ飛ぶことにした。
山に隠れていた杜丘は、加代の自宅で見掛けた2人組が自分の命を狙っていることを知った。彼らが立ち去るのを見届けた杜丘は、自分が狙われた理由について考える。彼は朝倉代議士が7階のレストランから墜落死した事件に不審を抱き、調べようとしていた。レストランで同席していたのは政界の大物である長岡了介で、自分を呼び出した朝倉が急に飛び降りたと証言した。担当刑事の矢村は自殺と断定したが、杜丘は動機が無いことから疑問を抱いた。そこで長岡の愛人が営む小料理屋へ聞き込みに行った日、加代に訴えられたのだ。
横路を見つけ出す必要性を感じながら山を歩いていた杜丘は、罠として仕掛けてある猟銃を発見する。慎重に罠を解除して猟銃を入手した彼は、女性の悲鳴を耳にした。杜丘が急いで現場へ向かうと、遠波真由美という女が熊に追われて木の上に避難していた。杜丘は猟銃を発砲して真由美を救うが、熊に襲われて川に転落した。真由美は杜丘を助け、自宅の牧場へ連れ帰って解放した。彼女の父である遠波善紀は、北海道知事選挙に出馬していた。帰宅した遠波は、娘が杜丘に恋心を抱いていることを見抜いた。
遠波は杜丘の素性を知り、自首するよう促した。杜丘は断るが、遠波の秘書を務める中山が警察に連絡する。杜丘が牧場を抜け出すと、馬に乗った真由美が追って来た。真由美は杜丘を馬に乗せ、山小屋へ連れて行った。牧場に到着した矢村は、遠波を厳しく追及した。そこへ真由美が戻って父が無関係であることを話し、自分も証言する気が無いことを示す。矢村は引き上げると見せ掛け、真由美の動きを監視した。彼女が山小屋へ向かったので、すぐに彼は尾行した。
杜丘は真由美から矢村が来たことを知らされ、尾行されていると確信する。すぐに逃げようとする杜丘だが、矢村が現れて拳銃を向けた。矢村は杜丘に手錠を掛けて山を出ようとするが、そこに熊が出現する。熊の襲撃を受けた矢村は怪我を負い、杜丘と共に崖下へ転落した。真由美は矢村のコートから鍵を見つけ出し、杜丘の手錠を外した。杜丘は拳銃を奪い取った後、矢村を山小屋へ連れ帰って応急手当てを施した。杜丘は拳銃を突き付けて横路の居場所を尋ね、矢村は東京に帰ったことを話した。
杜丘が拳銃を返却すると、すぐに矢村は構えた。しかし杜丘は弾を抜いており、矢村を蹴り飛ばした。山小屋を出た彼は、真由美の案内で近くの洞穴へ移動した。杜丘が東京へ行く考えを明かすと、真由美は同行を志願した。杜丘は父親の元へ戻るよう諭すが、彼女の意志は強固だった。真由美は杜丘とセックスし、自宅へ戻った。彼女は地図や衣服の支度に取り掛かり、遠波の言葉に耳を貸さなかった。真由美は止めようとする中山に平手打ちを浴びせ、荷物を抱えて家を出て行った。
真由美は洞穴へ戻り、杜丘は出発の準備をする。そこへ遠波が現れ、「全ての空港や港は刑事が張り込んでいる」と告げる。東京行きが困難であることを説明した彼は、「1つだけ方法がある」と言う。彼は自家用セスナが置いてある場所へ杜丘を案内し、操縦方法を教えた。真由美は「無茶よ」と反対するが、杜丘はセスナに乗り込んだ。中山の通報でパトカーが駆け付けるが、杜丘はセスナで離陸した。彼が北海道を出発したという情報は、矢村や伊藤の耳にも届いた。
杜丘のセスナは三沢基地に発見され、自衛隊機に強制着陸を命じられる。杜丘は低空飛行でレーダーを避け、セスナを海面に不時着させた。夏海海岸に上陸した彼は、トラックの荷台に隠れて水戸市内の検問を突破する。真由美はテレビのニュースで杜丘の無事を確認し、安堵の表情を浮かべる。遠波は道知事選から降りたことを彼女に打ち明け、自分の代理として東京の厩舎へ三歳馬を運んでほしいと頼んだ。既に馬の手配は済ませているので、飛行機で東京へ行くよう彼は促した。
伊藤は矢村に、東京地検が杜丘の射殺許可を出したことを告げた。矢村が東京地検の決定に不快感を示していると、細江が朝倉に関する情報を持って来た。朝倉に多額の献金をしていた東南製薬が、横路のモルモットを扱っていたというのだ。矢村は東南製薬で受付嬢に横路の写真を見せ、専務の酒井を訪ねていたことを聞き出した。酒井は矢村の質問を受け、横路とは古くからの知り合いで自首を勧めていたと語る。酒井との話を終えた矢村は、彼が朝倉に弱みを握られていたに違いないと睨んだ。
10月20日、杜丘は甲府の山中を移動するが、体調を崩してしまう。狩猟監視員に見つかった彼は、殴り付けて逃亡した。街に出た杜丘は高熱で倒れ、通り掛かった娼婦の大月京子に救われる。京子はアパートへ杜丘を連れ帰り、その素性に気付きながらも介抱した。次の日、目を覚ました杜丘が去ろうとするので、京子は大勢の警官が張り込んでいることを教えた。一方、矢村は横路が精神病院に収容されたことを知り、院長の堂塔正康と会う。横路の写真を見せられた堂塔は、別の名前で運ばれて来たこと、凶暴性があったので入院させたことを説明する。横路との面会を断られた矢村は、堂塔が何か隠していると確信する…。

監督は佐藤純彌、原作は西村寿行(徳間書店刊トクマノベルズ)、脚本は田坂啓&佐藤純彌、製作は永田雅一、製作協力は徳間康快、企画は宮古とく子&並河敏、撮影は小林節雄、録音は大橋鉄矢、照明は高橋彪夫、美術は今井高司、助監督は葛井克亮、編集は諏訪三千男、技斗は高瀬将敏、特殊撮影班・監督は崎山周、音楽は青山八郎。
出演は高倉健、中野良子、原田芳雄、倍賞美津子、池部良、田中邦衛、伊佐山ひろ子、大滝秀治、西村晃、岡田英次、内藤武敏、大和田伸也、下川辰平、吉田義夫、岩崎信忠、久富惟晴、神田隆、浜田晃、石山雄大、小島ナナ、木島一郎、沢美鶴、田畑善彦、青木卓司(東映)、田村貫、里木佐甫良、中田勉、夏木章、飛田喜佐夫、細井雅夫、木島進介、姿鉄太郎、阿藤海(阿藤快)、松山新一、千田隼生、宮本高志、本田悠美子ら。


西村寿行の小説を基にした作品。
監督は『ルパング島の奇跡 陸軍中野学校』『新幹線大爆破』の佐藤純彌。脚本は松竹の「全員集合!!」シリーズを手掛けていた田坂啓。
1971年に大映を倒産させた永田雅一が自らの永田プロダクションを設立して徳間書店の子会社に入り、最初に製作した映画である。
杜丘を高倉健、真由美を中野良子、矢村を原田芳雄、京子を倍賞美津子、伊藤を池部良、横路を田中邦衛、加代を伊佐山ひろ子、遠波を大滝秀治、長岡を西村晃、堂塔を岡田英次、酒井を内藤武敏、細江を大和田伸也、小川を下川辰平が演じている。
アンクレジットだが、北海道警捜査課長の役で早川雄三が出演している。

まず引っ掛かるのは、タイトルの読み方。
原作の通りなら、「きみよ・ふんぬの・かわを・わたれ」という読み方になる。っていうか、そっちの方が一般的だろう。
ところが、なぜか本作品だと、「憤怒」の部分を「ふんど」と読ませるのである。
「ふんど」という読み方も、決して間違いではない。ただ、どうして原作から微妙に変更したのか、理解に苦しむ。
もしかすると、「憤怒」を「ふんぬ」と読めない観客が多いんじゃないかとでも考えたのだろうか。
だとしたら、それは親切心じゃなくて、余計なお世話だ。

1963年から1967年までアメリカのABC系列で放送されたTVドラマ『逃亡者』みたいな作品にしたかったんだろうけど、ヘンテコなセンスが炸裂したせいでポンコツな仕上がりになっている。
まず主人公が東京地検の検事という設定からして、この話には不向きだろう。
2人の男女が立て続けに杜丘を告発し、しかも相手は東京地検の検事、自宅を調べたら見える場所にカメラが置いてある。水槽にはダイヤの指輪が入っている。
のっけから、不審な点だらけだ。

しかも杜丘が悪評の高い検事だとか、上から疎んじられている検事だとか、そういう設定ならともかく、そうではなさそうだ。
で、そんな杜丘が「ダイヤを盗んだ」とか「カメラを盗んだ」という罪で告白され、本人は全面的に否定しているのに、周囲の人間は誰も彼の潔白を信じようとしない。全て彼の仕業だと決め付けてしまい、疑念を抱いて調べようともしない。
どう考えたって不自然だろ。
横路と加代が夫婦だと分かった途端、矢村は「訴えはガセだ」と言い出すけど、どんだけ都合のいい心変わりなのかと。

杜丘は独身だが、天涯孤独というわけでもないだろう。両親や兄弟、親族や友人は誰かしら存在するはずだ。
窮地に追い詰められた人間が最初に頼ろうとするのは、身内や友人のはず。
ところが、なぜか杜丘は、そういった人々に頼ろうとする気配を全く見せない。単独で調査を続け、そこで出会った赤の他人に助けてもらう。
別に「出会ったばかりの他人が助けてくれる」という展開がダメってわけではないが、身内や友人を全く頼ろうとしないのは不自然だ。

杜丘が強盗や強姦で訴えられたことは、すぐマスコミにバレている。
だけど東京地検としては、隠したい出来事じゃないのか。だからこそ、伊藤は杜丘を家宅捜索へ同行させたはず。
それなのに、その後のマスコミ対策を全く取ってないいのは何なのかと。どういう犯罪かということまで詳しくバレちゃってるじゃねえか。
加代が死んだ時も、すぐに「杜丘が殺した」ということで報じられているし。
地検が隠蔽しようとしたのに悪党サイドがリークしたとか、そういうことなら分かるのよ。でも、そうではないわけで。

罠だと気付いた杜丘がトイレの窓から逃げ出すのは、ちょっと軽率じゃないかという気がする。
『逃亡者』の主人公であるリチャード・キンブルの場合、死刑判決を受けてからの逃亡だからね。
杜丘の場合、なんせ告発したのは偽名の夫婦だし、妻の方は早々に引っ越しているし、おまけに実家で殺されているし、なので警察の捜査が行われたら嫌疑が晴れる可能性は高かったんじゃないかと思うのよ。
彼を陥れようとした悪玉サイドの行動が、かなりボンクラなのでね。

古谷は「水沢恵子よりアンタの方が信用できそうだ」ってことで、杜丘に情報を提供する。
「水沢恵子に迷惑が掛かるから」ってことで警察には内緒にしていたのに、能登金剛宛の小包があったことまで教えている。
だけど、水沢恵子を信用できないと思ったのなら、なぜ「迷惑が掛かるから」という理由で小包のことを警察に話さなかったのか。
「杜丘が警察を出し抜いて能登金剛の情報を知る」という状況を作り出すために、かなり強引な手を使っていると感じるぞ。

矢村のモデルは、たぶん『逃亡者』のジェラード連邦保安官補なんだろう。
だけど、顔見知りである杜丘を全く信用せず、それどころか憎しみさえ抱いているのかと思うような態度で逮捕への並々ならぬ執念を燃やすのは、不可解極まりない。
で、横路と加代が夫婦だと判明すると「告発はガセ」と言い出すのだが、そのくせ「でも加代を殺したのは杜丘」と決め付け、杜丘を逮捕することだけに燃えるのよね。そのモチベーションはサッパリ分からんよ。
その一方、不審な点が多すぎる朝倉の事件については簡単に自殺と断定しているし、ただのボンクラ刑事にしか見えんぞ。

杜丘が奥能登に到着すると、急にノンビリしたBGMが流れ始め、まるで観光映画のような雰囲気になってしまう。「ミスマッチの妙」でも狙ったのかもしれないが、「何のつもりなのか」と言いたくなる。
そりゃあ、緊迫した場面で、あえて軽妙な音楽を流すってのは、様々な巨匠もやっているような演出だ。しかし、ただ「現地に到着した」というだけのシーンでもあるし、この映画では全く効果的に作用していない。
そもそも能登なのに南国っぽい雰囲気のBGMだから、そういう意味でも合っていないし。
で、そこで終わるのかと思いきや、日高へ到着した時も同じBGMを使うので、緊迫感を見事に削ぎ落としてくれる。

そこまでも充分にボンクラな展開だが、杜丘が日高へ移動すると、そのパワーが加速する。「ポンコツ扱いされることを狙っているのか」と言いたくなるほど、B級センス溢れるシーンの連続だ。
都合良く猟銃を入手した杜丘が歩いていると、なぜか山奥に来ていた真由美が熊に追い詰められている。
キグルミの熊に襲われた杜丘が川を流されると、木の上に登っていた真由美が簡単に救助する。
杜丘は気絶していたはずだが、真由美は一人で牧場まで運んでいる。

真由美は杜丘とほとんど会話さえ交わしていない状態なのに、全てを捨ててでも彼を助けようとするぐらい惚れ込んでしまう。
矢村が杜丘に手錠を掛けて連行しようとすると、都合の良すぎるタイミングでキグルミの熊が出現する。熊は矢村に一撃を与えると、仕事を終えて早々に立ち去ってしまう。
熊に襲われた矢村は応急手当てを受けたものの、まだ満足に動くことも出来ないのに、杜丘に拳銃を向けて拘束しようとする。
変なトコに異様な執念を燃やす矢村を放置した杜丘は洞穴へ移動し、真由美とセックスする。
この映画、基本的にバカな奴しか出て来ない。

ボンクラ展開が続く日高パートに止めを刺すのは、杜丘が東京へ向かおうとするシーンだ。
遠波は「全ての空港や港は刑事が張り込んでいるが、1つだけ方法がある」と言い、「君は飛行機の操縦が出来るかね?」と問い掛ける。杜丘は操縦できないのだが、遠波はセスナの操縦方法をザックリと教える。
すんげえ簡単な説明だけなのだが、それでセスナを操縦させてしまう。
杜丘は飛び立つが、旋回して真由美と遠波の上を通過する。そこから、また旋回して2人の上を通過する。何がしたいのかと。
で、ちょっと操縦を教わったばかりなのに、なぜか低空飛行でレーダーを回避するという技術まで見せているし。

杜丘が長野市に入ると、また例のノンビリしたBGMが流れる。彼がどこかの場所へ到着する度に、その音楽が使われるのだ。
だから、その度に緊迫感を削がれることになる。
あと、杜丘って自分が逃亡犯として追われていることは分かっているのに、警官に隠れながら移動するために変装しようという気が全く無いのよね。ずっと彼は素顔のままで、逃亡を続けるのだ。
そりゃあ見つかるリスクは間違いなく高いわけで、すんげえボンクラに見えるぞ。

新宿に現れた杜丘が機動隊に追い詰められると、真由美が何頭もの馬を走らせる。そして自分の馬に杜丘を乗せて、その場から逃走する。
馬のスタンピートというシーンを用意したのは、派手な見せ場を作りたかったってことなんだろう。そのために「真由美が馬を東京の厩舎まで運ぶ」という手順を用意しているので、「なんで急に馬が出て来るんだよ」というツッコミへの答えは用意している形になる。
ただ、まあバカバカしいわな。
あと、幾ら馬が走って来ても、普通に機動隊は杜丘を捕まえられると思うぞ。

矢村は北海道から東京へ戻ると、朝倉の事件について捜査するなど、急に杜丘の味方をするようになる。
それまでは杜丘の逮捕だけに異様な執念を燃やしていたのに、そういう意識が完全に消えるだけでなく、情報を提供するなどして協力するようになるのだ。
その大幅な変化は、話の都合で駒として動かしている印象が強い。
もちろん、段取りとしては充分に理解できるのよ。でも、そこにストーリー展開が全く追い付いていないもんだから、矢村がヘンテコな奴になっちゃってるのよ。

本来ならば、杜丘が事件を調査し、真相を突き止める形になるのが望ましい。しかし彼は親しい協力者がいないこともあって、逃げ回るだけで精一杯になっている。
なので、事件を捜査する役目を矢村が担当しているわけだ。
で、どうせなら調査活動は全て矢村に任せればいいものを、精神病院を探る仕事だけは杜丘に担当させる。そのせいで、終盤に入ってテンポが悪くなり、モタモタしてしまう。
おまけに、薬を飲まされて感情を失っているフリをする高倉健の芝居が苦笑しか誘わないという、困った事態も起きている。

前述したように、杜丘がどこかの街へ到着する度にノンビリしたBGMが流れるってのが、この映画のパターンになっている。
ところが、精神病院に潜入した杜丘が、こっそり真由美に薬を握らせるシーンで、同じBGMが使われるのだ。
いやいや、どういうことだよ。その意外性は、何の効果も無いぞ。
堂塔が杜丘に遺書を書かせて飛び降り自殺させようとするシーンでも同じBGMが流れるし、まるで意味が分からんセンスだわ。
杜丘は上手く薬を吐き出しているけど、監督はヤバい薬でも飲んじゃったのか。

(観賞日:2016年11月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会