『きみと、波にのれたら』:2019、日本

向水ひな子は独り暮らしを始めたマンションから海を眺め、「懐かしい。惚れた波」と口にする。彼女は荷物を片付けないまま、サーフボードを自転車に積んで海へ向かった。消防士の雛罌粟港は消防署の屋上へ行き、サーフィンをするひな子の姿を眺めて「帰って来た」と呟く。後輩の川村山葵が「知ってるんですか?」と尋ねると、彼は「あの子、僕のヒーローなんだ」と微笑を浮かべた。アパートへ戻ったひな子はスマホでレシピを見ながらオムライスに挑戦するが、上手く作れなかった。彼女は大学の海洋学科に通うため、実家を出て海の近くに引っ越していた。
消防署では消火訓練が実施されるが、山葵は放水の勢いに負けてホースから手を離してしまった。通り掛かったひな子に水が掛かったため、彼は慌てて謝罪する。ひな子は「この下、水着なんで大丈夫です」と言い、引っ越して来たばかりでマンションが分からなくなったので道を教えてほしいと頼んだ。山葵は立ち去るひな子に、「迷子にならないでね、ヒーローさん」と声を掛けた。ひな子は山葵か道を教えてもらったのに、すぐ迷子になってしまった。
何とかマンションに戻ったひな子が就寝していると、夜中に火事が発生した。建設中だった隣のビルに不法侵入した若者たちが無免許で大量の業務用花火を打ち上げ、マンションに引火したのだ。連絡を受けた消防隊はマンションに到着し、消火活動を開始した。ひな子は財布と携帯とサーフボードを持って部屋を飛び出すが、エレベーターは他の住人たちが乗って1階へ向かった直後だった。彼女は非常階段へ走るが、下は煙が充満していたので屋上へ向かった。ひな子が「助けて」と大声で叫ぶと、港がクレーンで近付いた。彼は穏やかに話し掛け、ひな子を救助した。港が「屋上から波に乗っている姿が見えるんです」と言うと、ひな子は「今度、興味あれば、乗ってみませんか、波に?」と誘った。
後日、山葵は訓練で失態を晒し、落ち込んで港に「向いてないんすかねえ」と漏らした。港は先輩隊員を例に挙げ、最後まで努力を続けるよう励ました。港は車でひな子を迎えに行き、一緒に茅ケ崎の海へ向かう。ひな子は8階の部屋が燃えたため、無事だった2階に移っていた。彼女は港に、幼少期はマンションの近くに住んでいたこと、父が実家の仕事を継ぐために引っ越したこと、ずっと戻りたかったことを語った。彼女は港が車に飾っているスナメリの人形を見て、「私も大好きなんです」と言う。港はサーフボードを購入しており、ひな子の指導で何度も波乗りに挑戦した。
休憩の時、港はコーヒーを淹れ、卵サンドを作った。ひな子が「火事で助けられた時にも思ったんです。雛罌粟さんってヒーローみたいだなあって」と言うと、港は「港でいいです、俺もひな子って呼びたいし」と告げる。ひな子は卵サンドを頬張りながら、顔を真っ赤にした。港は前から気になっていたカフェへひな子を案内し、一緒にランチを取った。その後も2人はデートを重ね、様々な場所へ出掛けた。ある日、港はひな子とのランチに妹の洋子を同席させた。気が強くて口の悪い洋子だったが、ひな子は「仲良くなれそう」と笑顔で言う。港とひな子の楽しそうな様子を見た洋子は、「恋なんてアホのすること」と吐き捨てて立ち去った。
クリスマス、港とひな子はビルの中にある「恋人たちの聖地」へ行き、ハート型の紙に互いの名前を書く。2人はキャンプへ行き、テントを張ってオムライスを食べた。港が会話の流れで同棲を持ち掛けると、ひな子は激しく狼狽した。彼女は今すぐに同棲することは断った上で、「私が波に乗れたら」と言う。彼女は港に、「今は港に何でも頼ってばっかりで。でも私も地面にちゃんと足を着けて、港みたいに自分で出来ること見つけて」と話した。
港はひな子に、「ひな子は得意なことがあるから、すぐに見つけられるはずだよ。俺は何も得意なことが無かったし」と話す。彼は幼い頃に海で溺れたこと、助けてもらって自分も強くなりたいと思ったが何をやっても上手く行かなかったこと、浜辺で孵化した海亀を見て自分も頑張ろうと決意したことを語った。港は「俺がひな子の港になるよ。休む時、必要な時は、いつでも言って」と言い、ひな子が「いつまで助けてもらえるのかな」と訊くと「ひな子がお婆さんになっても、ひな子が1人で波に乗れるまで」と答えた。
ある朝、港は1人でサーフィンに出掛け、花屋でバイトをしているひな子にメールを送った。モーターボートで遊んでいた若者グループの1人が転覆するのを見た港は、急いで救助に向かった。ひな子がバイトを終えて海へ行くと、救急車やパトカーが停まっていた。折れたボードが海に浮かんでいるのを見た彼女は、意識を失った。港が死亡して数週間が経ち、ひな子は海から離れた場所へ引っ越して部屋に閉じ篭もっていた。そこへ山葵と洋子が訪ねて来て、段ボール箱に入れた港の私物を見せる。洋子は「何か要る物ある?」と言い、港の死に対する罪悪感を吐露するひな子に「やめてよ。そんなこと言ってもお兄ちゃんは戻って来ないんだから」と声を荒らげる。彼女は「全部捨てちゃってもいいから」と告げ、段ボール箱を置いて去った。
港の携帯電話を手にしたひな子は、彼と過ごした日々を思い出す。彼女は自分の携帯から掛けるが、もちろん繋がるはずもない。ひな子は苛立ち、「ずっと傍にいるって言ったのに」と漏らした。彼女は大学で友人の順子と愛に慰められるが、港のことを思って泣いてしまった。ひな子は港が1人で海へ行った理由を知りたいと願うが、彼の携帯はロックが掛かっていて見られなかった。ひな子は暗証番号を色々と試してみるが、どれも合わなかった。
ひな子は洋子から山葵に相談するよう提案され、茅ケ崎のカフェで会う。思い出の歌が流れたのでひな子が口ずさむと、水の入ったコップに小さな港が出現した。ひな子は驚き、コップを持ち上げて覗き込んだ。彼女は「港がいた」と言うが、もちろん洋子と山葵は信じない。「大丈夫?」と洋子が体を揺らすと、ひな子はコップを落としてしまった。水がテーブルを流れ落ちると、港も一緒に姿を消した。雨の日、ひな子が外で傘を差していると、隣に港が現れて歌い出した。ひな子は一緒に歌うが、バスが通り過ぎると港は消えていた。ひな子が水道から水を流して歌うと、港が出現した。
ひな子は何度か実験を重ね、水のある場所で歌えば水中に港が出現するルールを理解した。しかし港の姿が見えるのはひな子だけなので、洋子たちには理解してもらえなかった。ひな子は港と会話も交わせるようになり、暗証番号を教えてほしいと頼む。1人で海へ行った理由を彼女が尋ねると、港は「こっそり練習して、ひな子をビックリさせたかったから」と答えた。ひな子は水筒を購入し、港を入れて様々な場所を巡った。彼女はスナメリの空気人形に水を入れ、その中に港を出現させて一緒に過ごす。周囲の人からはスナメリ人形とデートしているようにしか見えなかったが、ひな子は全く気にしなかった。
ひな子は港から「海に連れて行ってほしい。サーフィンをしている所を見たい」と頼まれ、ビーチへ行く。しかし海に入ることは出来ず、「海でも丘でも、どこに向かって泳いで行けばいいのか分かんない」と頭を抱えた。港は「今は波の力にちょっと負けてるだけだ。俺もたくさんの波の1つ。ひな子も次の波に備えないと」と言い、ひな子が自分の波に乗れるまでずっと応援し続けると約束した。山葵は洋子がバイトを始めたカフェへ行き、「ひな子さんの様子が変なんだ。水を先輩だと思い込んでいるみたいなんだ」と話す。山葵に片想いしていた洋子は、彼がひな子に恋心を抱いていると知って不機嫌になった。
山葵は花屋を訪れ、ひな子に花束をプレゼントして告白する。ひな子は激しく動揺し、トイレへ逃げ込んだ。彼女は港を呼び出し、山葵に告白されたことを打ち明ける。港が「俺はひな子と手を繋ぐことも出来ない。あいつ、いい奴だぜ」と言うと、ひな子は「私、このままでいい。ずっと一緒にいてくれるだけでいい」と返す。すると港は彼女に、「新しい波は、どんどんやって来る。ずっと水中に潜っていたら、波に乗ることは出来ないよ」と述べた。
トイレから出たひな子は、花束を置いて店から去った山葵を追い掛けた。すると近くで小型自動車と大型トラックが正面衝突し、激しく炎上する。山葵はひな子に駆け寄り、爆発から彼女を守る。自動車から人が出て来ないのでひな子が駆け寄ろうとすると、「危ないよ」と止めると山葵は制止する。ひな子が「港なら助けに行く」と歌うと港が出現し、大量の水を降らせて消火する。港が上空に吸い込まれて消えてしまったので、ひな子は必死で呼び掛けた。
山葵が「先輩はもういない」と諭すと、ひな子は「私には見えるの。そんなことないから」と否定した。「先輩だって 今のひな子さんの姿望んでないと思いますよ。先輩、言ってました。僕のヒーローだって」と山葵が話すと、彼女は「分かってるけど」と走り去る。彼女はマンションに駆け込み、スナメリ人形に水を入れて歌う。弱っている港が姿を現すと、彼女は何度も呼び出したことを謝罪した。それ以来、ひな子は港を呼び出すことを躊躇するようになった。
ひな子は山葵から洋子がバイトしていることを聞き、カフェへ赴いた。洋子は兄の夢だったカフェ経営を叶えるために勉強しているのだと説明し、高校を卒業したら茅ヶ崎の本店で働くつもりだと話す。ひな子が港の家へ線香を上げに行くと、洋子が部屋へ案内した。洋子は兄が努力家だったこと、世話になったという大勢の人が弔問に来たことを語る。さらに彼女は、自分より小さい女の子に助けられた幼少期の出来事がきっかけで、港が「頑張れば何か出来るかもしれない」と思ったことを話す。
港の幼少期の写真を見せられたひな子は、慌てて実家へ戻った。アルバムを開いた彼女は、自分が少年を助けて表彰された時のことを母に尋ねた。ひな子は自分が助けた少年が港だと思い出し、その出来事があった日付を港の携帯に入力した。するとロックが解除され、ひな子は港が残した自分へのメッセージを見ることが出来た。彼女は「人を助ける仕事」をネット検索し、大学の学生消防隊や救急救命実習室を見に行く。そこで彼女は「ライフセービングに興味ある?」と声を掛けられ、ライフセーバーの勉強を始める。しかし彼女は人口呼吸の練習中に港の事故を思い出し、その場から逃げ出してしまう…。

監督は湯浅政明、脚本は吉田玲子、製作は山口真&市川南&湯浅政明&弓矢政法&久保雅一&森田圭&渡辺章仁、企画は松崎容子、エグゼクティブプロデューサーは種田義彦、プロデューサーは岡安由夏&Eunyoung Choi、共同プロデューサーは小原一隆&塩入大介、キャラクターデザイン・作画監督は小島崇史、美術監督は赤井文尚、美術設定は赤井文尚、色彩設計・色指定は中村絢郁、色指定は田中花奈実、撮影監督は福士享、編集は廣瀬清志、音響演出・整音は笠松広司、録音は池田裕輔&林淑恭、音楽は大島ミチル、主題歌「Brand New Story」はGENERATIONS from EXILE TRIBE。
声の出演は片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎、堀越真己、大地葉、西川舞、濱野大輝、杉村憲司、河本邦弘、喜山茂雄、濱健人、石谷春貴、山崎智史、木野日菜、井上カオリ、本多新也、弘松芹香、櫻庭有紗、蒔村拓哉、武田太一、熊谷健太郎、大泊貴揮、真木駿一、露崎亘、広瀬裕也、奥田寛章、菊池幸利、野上翔、阿部里果、依田菜津、西谷修一、米本早希、柳生拓哉、鈴木唯、堤礼実、永尾亜子ら。


『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』の湯浅政明が監督を務めた作品。脚本は『リズと青い鳥』『若おかみは小学生!』の吉田玲子。
シッチェス・カタロニア国際映画祭長編アニメーション部門最優秀賞や上海国際映画祭金爵賞アニメーション最優秀作品賞を受賞している。
港を片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、ひな子を川栄李奈、洋子を松本穂香、山葵を伊藤健太郎が担当している。
主題歌はGENERATIONS from EXILE TRIBEの『Brand New Story』で、劇中で港やひな子が口ずさむシーンもある。

片寄涼太の声優ぶりが下手ってのは、多くの人が指摘している。これに関しては、その声に全面的に同意する。
作品によっては、「朴訥とした喋りがキャラクターに合っている」とか「抑揚に乏しい台詞回しが作風とマッチしている」ってな感じで擁護することも出来る。でも本作品の場合、そういう親和性も生まれていない。シンプルに下手なだけになっている。
川栄李奈が何の違和感も抱かせず見事な仕事をしているので、余計に片寄涼太の下手さが際立つ。
ただ、そもそも「優れた俳優なのに声の仕事は合わなかった」ってことじゃないからね。役者としても、お世辞にも演技力が高いとは言えない人なんだから、そりゃあ声の仕事も下手なのは当然でしょ。

冒頭、ひな子が「懐かしい」と行った途端に主題歌の『Brand New Story』が流れ始める。そして港は「僕のヒーローなんだ」と言った後、BGMに合わせてハミングする。
だけど、それって状況として変でしょ。
港がいる場所の近くで歌が流れているのなら、それに合わせてハミングするのは分かるよ。
でも、それはあくまでも「映画のBGM」として流されているわけで。 なので、かなり狙った演出なのは理解できるけど、すんげえ違和感を覚えるんだよね。

車で海へ向かう途中で2人が少しだけ口ずさむシーンもあるが、これも要らない。「懐かしい曲で、映画で使われて最近も流れている」という設定も含めて、邪魔だわ。
あと、『Brand New Story』が港を呼び出すための呪文みたいな役割を担うので、しつこいぐらい何度もひな子が口ずさむことになるのよね。
そのせいで、「新種のステマかよ」とウンザリするような状態になっている。
これがインストとか、わらべ歌みたいな曲だったら、そんなに気にならなかったと思うのよ。だけどGENERATIONSの新曲なので、「これは『Brand New Story』を売り込むためのMVなのか」と言いたくなるのよ。

山葵はひな子にマンションまでの道を教えた後、「迷子にならないでね、ヒーローさん」と呼び掛ける。
でも自転車で去る時に、その呼び掛けは変でしょ。まだ会話を交わしている最中に「ヒーローさん」と呼ぶなら、分からんでもないけど。っていうか、それも少し変ではあるけどさ。
あと、ひな子が「ヒーローさん」と言われたのに、まるで気にせず無視するように走り去るのは変だろ。
それに、ひな子が「ヒーローさん」という呼び掛けに気付かないのなら、そこで山葵に「ヒーローさん」と言わせる意味も無くなっちゃうし。

前半の「若い男女が知り合って恋人になって」というパートは、「少女マンガの映画化」みたいな印象だ。そこから港が死んで次の展開に移ると、今度は2000年代から2010年代に掛けてTBSやフジテレビが乱発していた、F1層を狙ったお涙頂戴の映画の数々を連想させる。
で、そこで感じるのは、「港を殺す必要ってホントにあった?」ってことだ。
そのまま港&ひな子の青春恋愛劇で良くないかと。何か障害があったり、2人の関係が悪化したりするようなことがあっても、生かしたまま話を進めれば良くないかと。
まあ港を殺すトコからの逆算でシナリオを膨らませたような企画だろうから、それを言っても無意味なのは分かるのよ。
ただ、交際が深まる様子なんて歌に合わせたダイジェスト処理で済ませていたのに、彼が死んでからの方が、ドラマとしては遥かに薄っぺらいだんだよね。

ひな子のマンションが火事になって港が救助に来るのは、「2人を結び付けるためのアクシデントがデカすぎるだろ」と感じる。
ただし、火事を起こして何が描きたいのかは分かる。「港にとってひな子はヒーローだったが、ひな子にっても港がヒーローになる」ってことだ。ここで対等の関係にしておきたいのだ。
ただ、港が死んで、その関係性は簡単に消滅する。そして「互いが相手のヒーロー」という関係性は、最後まで復活しないままで終わる。
なので、そこの要素を上手く使っているとは言い難い。

洋子&山葵の関係でも、港&ひな子と同じようなことをやっている。山葵が「どれだけ頑張っても港のようになれない」と落ち込んでいると、洋子は「兄ちゃんみたいになる必要は無いんだよ。山葵は山葵らしく頑張ればいいんだよ」と告げる。その言葉に山葵が感動すると、洋子は「山葵が私に行ってくれた言葉なんだよ」と明かす。
不登校になっていた頃、母が「お兄ちゃんと違ってこの子は」と言うと、山葵が「洋子ちゃんは洋子ちゃんでいいんですよ」と優しく告げた。その言葉のおかげで洋子は楽になり、学校へ行くようになった。
つまり、「山葵の言葉が洋子を救い、洋子の言葉が山葵を救う」という関係性だ。
こっちの方が、まだ港&ひな子よりは上手く消化している。
でも、まあ薄いんだけどね。

港が「幼い頃に海で溺れて助けてもらって」と話した時、ひな子は何も思い出さない。洋子から昔の写真を見せられ、帰宅して母に質問し、彼女は「自分が港を助けていた」ってことに気付く。
でも溺れた少年を助けて表彰された出来事を完全に忘れているってのは、無理があるわ。ひな子が何でもかんでも簡単に忘れちゃうような性格ならともかく、そういうわけでもないんだから。
当時の港の水着写真を見るまで全く思い出さないよりも、「過去に溺れて助けられたことがあって」と港が話した時に連想した方が自然な流れじゃないかと。
あと、港が救助された日付を暗証番号にしているのも、なかなか無理のある設定だと思うぞ。

廃ビルで花火を打ち上げて大火事を起こした連中は、下手すりゃ多くの死人が出ていたかもしれないのに、まるで反省していない。
そして彼らは後半にも再登場し、花火を廃墟で打ち上げて再び火事を起こしている。
ここにハッキリとした形で「クズ野郎の悪人ども」を用意することが、この物語を見る上で余計な障害になっている。
そこに対する不快感や怒りや「死ねばいいのに」という類の感情は、メインの青春ドラマや成長物語を見る上で邪魔になるのよ。

ひな子は港の携帯の中身を気にしていて、終盤になって見ることが出来る。
そして彼女は、「雪が降ったあとの波に乗って、エアリバース決めたよ。そしたら願いが叶うって言ってたよな。俺の願いはひなこが自分の波に乗れること。それから、ずっとずっとひなこのそばにいられること」というメールを読む。
でも港は生前も死後も、似たようなことを何度も言っているわけで。そのメールを見たからって、ひな子の心境に大きな変化をもたらすようなモノでもないんじゃないかと。
なので、それをきっかけにして、ひな子が「人を助ける仕事」をネット検索するのは、「どういうこと?」と言いたくなる。

ひな子は最後まで港に頼りっ放しで、彼女が自分の波に乗れたから港が「もう僕がいなくても大丈夫」と安心して去ったわけではない。港が去ったのは、力を使い切ったからなのよ。
ひな子がライフセーバーの勉強を始めるのも唐突でしかないし、すぐ逃げ出しちゃってるし。
っていうかライフセーバーの免許を取るとか、どうでもいいし。
あと「ひな子が自分の波に乗る」ってのが具体的に何を意味するのか、サッパリ分からないんだけど。

映画の最後には、「港が死んで海から離れていたひな子が再びサーフィンを始める」という様子が描かれている。
ここだけは分かりやすく、「ひな子が港の死を真正面から受け止め、一歩踏み出した」ってのを感じさせるシーンになっている。
だから本来ならば、そこへ向けて物語を進めて行くべきじゃないかと思うんだよね。
でも、そういう手順を丁寧に踏まず、ひな子が港に依存している様子が延々と描かれているため、最後のシーンが取って付けたモノになっているのだ。

(観賞日:2021年8月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会