『君と100回目の恋』:2017、日本

2016年7月25日。大学生の日向葵海は、来月から1年間のイギリス留学が決まっている。彼女は友人たちと「The STROBOSCORP」というバンドを組んでおり、ボーカルとギターを担当している。他のメンバーは幼馴染でギター担当の長谷川陸、ベースの松田直哉、ドラムの中村鉄太で、葵海の親友である相良里奈がマネージャーを務めている。直哉は葵海に片想いしており、彼女が留学する前に告白しようか迷っている。そんな彼の気持ちを知っている鉄太は、「お前なら行ける」と背中を押す。葵海は陸に恋心を抱いているが、こちらも告白できないままだ。
週末の31日にはフェスへの出演が決まっており、バンドは練習に励む。その日は葵海の誕生日でもあった。陸は里奈が「嫌味なぐらい」と評するほど完璧で、常に冷静沈着な男だ。何かダサい所は無いのかと直哉と鉄太から問われた葵海も、「昔から陸は完璧」と言う。そんな陸とは全く違い、葵海は留学が迫っているのに全く荷造りが進んでおらず、部屋も散らかしっ放しで母の圭子から注意される。葵海は弟の祐斗が金髪になっているのを見て驚くが、「なんもしてねえし」と無表情で言われる。
葵海は長谷川俊太郎の営む喫茶店へ出向き、里奈が作ったフェスのチラシを置いてもらう。陸は俊太郎の甥で、その店舗で一緒に暮らしている。看板を作りに行った葵海は、里奈から陸との関係をハッキリさせるよう促される。しかし葵海は告白する気など無く、「毎年、私の誕生日だけは祝ってくれるし。昔、約束してくれたの。百歳まで祝ってやるって」と嬉しそうに言う。何度も聞かされている話なので、里奈は呆れた様子を見せた。
物理学や量子力学の勉強に力を入れている陸は、物理の院生である小原遥から様々なことを教えてもらう。2人が話す様子を見た葵海は、心穏やかではいられなかった。陸は直哉から「話があってさ」と言われ、「葵海のことだろ」と指摘する。すっかり見抜かれていた直哉が告白することを明かすと、彼は「頼むな」と告げた。陸を除く4人で食事に出掛けた時、直哉は葵海を連れ出そうとする。しかし上手く行かず、みんなの前で告白同然の言葉を口にした彼は恥ずかしくなって走り去った。
喫茶店へ赴いた葵海は帰宅していない陸を待つため、彼の部屋に入った。押し入れのレコードプレーヤーを見つけた彼女がレコードを見ていると、陸が現れて「触るな」と言う。彼は「お前に見られたくない物もあるんだよ」と言い、押し入れを閉めた。陸は葵海がフェスに向けて新曲作りを考えていると感じ、ギターを持ってメロディーを考え始める。「陸も歌えばいいのに」と葵海が言うと、「そういうの、いいから」と彼はクールに告げる。
陸が不意に「もし俺がどこかいなくなっても、直哉と上手くやれよ。あいつ、いい奴だから」と口にしたので、葵海はショックを受けた。葵海が里奈に陸への愚痴を吐露し、「直哉でいいから付き合っちゃおうかな」と言う。すると里奈は直哉が1年の時から片想いしていることを教え、「その気が無いから、ちゃんと振ってやんなよ」と苛立った様子で告げた。陸はノートに「今まで試してないことをやる」と書き、丸で囲んだ。俊太郎から「明日の葵海ちゃんの誕生日」と言われた彼は「叔父さんに任せるわ。それどころじゃねえんだよ」と思い詰めたような表情を浮かべた。
31日のセトフェス会場には、俊太郎や圭子もやって来た。葵海たちは出番を待つが、一向に里奈が現れない。バンドの出番が来ても里奈は姿を見せず、平常心を失った葵海は歌詞が思い出せずに大失敗をやらかした。フェス会場を出た葵海はトラックにひかれそうになるが、気が付くと7月25日の講義中だった。その後も以前の体験と同じ出来事が続くため、彼女は困惑する。翌日も同じ現象が続いたので、葵海は里奈に「直哉のこと好きなんでしょ」と問い掛けた。里奈は狼狽し、「誰があんな単細胞」と否定した。
葵海の先読みした行動に気付いた陸は、「後先考えろよ。飛び出したりするから。大丈夫、お前は死なない」と告げる。彼は秘密を教えると言い、葵海を自室へ連れて行く。彼はレコードプレーヤーを見せ、「ズルしてたんだ。子供の頃からずっと。時間を戻せる」と口にする。彼は幼い頃、陸は俊太郎のレコード棚から1枚を抜き出した。すると俊太郎は「見つかっちゃったか。これは特別なレコードだから、扱いには注意が必要なんだ」と告げ、それを使えば人生を巻き戻るのだと説明した。
話を聞いた葵海は信じなかったが、陸がレコード盤に針を落とさせると25日の講義中に時間が戻った。葵海は陸の元へ行き、「ズル」について詳しく聞く。陸は葵海と初めて会った時、彼女に誕生日に向けて、何度も時間を巻き戻してギターを練習した。それ以降も、彼は何度も時間を巻き戻してズルを繰り返していた。ズルの理由について、彼は「お前の前で、カッコつけたかったから」と告げた。「陸って私のこと、好きなの?」と葵海が尋ねると、陸は照れ臭そうに「今さら、それ聞く?」と口にする。葵海がニヤニヤすると、陸は「好きだよ、お前のことが」と告げた。
葵海が「損した。来月には留学しちゃうんだよ。ホントは2人でしたいこと、一杯あった」と話すと、「やり直そっか、例えば、去年の夏から」と陸は提案した。2人は1年前の夏祭りに時間を巻き戻し、手を繋いで仲間たちの元へ赴いた。葵海と陸は仲間と楽しく過ごしつつ、恋人としての時間も楽しんだ。そして1年が経過し、葵海は留学することに決めた。高校まで文系だった陸は、大学に入ってから理系に転向した。前回は直哉が葵海に告白同然の言葉を口にした寿司店で、今度は里奈が告白同然の言葉を口にした。やがてセトフェスの日が訪れ、今度は里奈も現れ、葵海は歌詞を忘れず最後まで無事に演奏した。
ライブの後、陸は葵海が会場からいなくなっているのに気付き、慌てて捜しに行く。すると前回と同じ時間に葵海はトラックにひかれており、現場には救急車が駆け付けていた。愕然とした陸は、また時間を巻き戻した。葵海がトラックにひかれるのは、それが2度目ではなかった。彼女が同じ日時に死ぬため、それを変えようと陸は何度も時間を巻き戻していたのだ。しかし、様々な方法を試しても結果が変わらないため、ついに陸は「今まで試してないことをやる」として自分が死ぬことを選んだ。だが、それでも葵海が死んでしまい、陸はどうすればいいか分からなくなってしまう…。

監督は月川翔、脚本は大島里美、エグゼクティブプロデューサーは豊島雅郎、プロデューサーは井出陽子、アソシエイトプロデューサーは富田敏家&鼻田拓、ラインプロデューサーは橋本竜太、撮影は小宮山充、照明は保坂温、録音は矢野正人、美術は五辻圭、編集は森下博昭、製作は長澤修一&山本将網&辻野学&山崎芳人&舛田淳&木下暢起、音楽は伊藤ゴロー、音楽プロデューサーは安井輝。
主題歌「君と100回目の恋」words & music:miwa、performed by:葵海。
劇中歌「アイオクリ」words:miwa、music:内澤崇仁 (androp)、performed by:The STROBOSCORP。
出演はmiwa、坂口健太郎、竜星涼、真野恵里菜、泉澤祐希、田辺誠一、堀内敬子、太田莉菜、大石吾朗、中田圭祐、福本清三、後藤自依良、高橋曽良、土佐和成、石坂大翔、寺田有澄、笠原秀幸、アンドーズ、SUPER BEAVERら。


『この世で俺/僕だけ』『黒崎くんの言いなりになんてならない』の月川翔が監督を務めた作品。
脚本は『ダーリンは外国人』『潔く柔く きよくやわく』の大島里美。
葵海をmiwa、陸を坂口健太郎、直哉を竜星涼、里奈を真野恵里菜、鉄太を泉澤祐希、俊太郎を田辺誠一、圭子を堀内敬子、遥を太田莉菜、教授を大石吾朗、祐斗を中田圭祐、花火師を福本清三が演じている。
miwaは『マエストロ! 』に続く映画出演で、これが初主演となる。

いかにも少女漫画っぽい話だが、原作付きではなくてオリジナル作品だ。
しかし、たぶん「どこかで見たような」と既視感を覚える人も少なくないだろう。「色んな映画やドラマや漫画から、美味しいと思った要素を組み合わせて作ってみました」という感じもある。
個人的には、真っ先に2013年の映画『アバウト・タイム 〜愛おしい時間について〜』を連想した。
ともかく新鮮味は何も無い映画だが、それだけで評価が下がるわけではない。使い古されたネタの詰め合わせでも、調理次第では充分に美味しくなる可能性がある。
ってことは、これは調理方法が悪かった、もしくは調理人の腕が悪かったってことだ。

先に、この映画のおける「仕掛け」と言ってもいいタイムスリップの要素について触れておこう。
「陸が何度も時間を巻き戻して過去に戻っている」という秘密は、前半の内に明かされる。それが明かされてからの方が物語としては重要なので、その構成は別に構わない。タイムパラドックスとか整合性は完全に無視しているが、それも良しとしよう。
しかし気になるのは、俊太郎が幼い陸に対し、簡単にレコードの秘密を教えてしまうことだ。
そもそも、そんな大事なレコードを簡単に見つかる場所に置いている時点で不用心だと感じるし、見つかったにしても簡単に教えるのが不用意にしか思えない。

たまたま陸は変なことに使わなかったけど、何しろ幼いんだから、あまり深く考えず、大きな問題を起こす恐れもあるわけで。例えば彼が時間を巻き戻したせいで、誰かが死んだり大きな事件が発生したりする可能性だってあるわけで。他人に介入したら、その人の人生に影響を及ぼすことは確実なわけだし。
そういうリスクを全く考えず、俊太郎がレコードの秘密を教えるのは、どういうつもりなのかと言いたくなる。
こいつは注意点など何も言わず、ただ過去に戻す方法を教えるだけなのよ。
テメエは何度も時間を巻き戻してリスクも知っているはずなのに、なぜ簡単に使わせているのかと。

陸が葵海に秘密を気付かれたわけでもないのに、「1週間前と同じことを繰り返している」と聞かされただけで、簡単に「実はこういう事情がありまして」とバラすのも、すんげえ軽率にしか思えない。
そもそも俊太郎が陸に秘密を教えた時に、「他人には絶対に喋るな」と注意するようなことは無かったのかよ。
陸が「これまで葵海のために繰り返してきたズルの数々」を詳しく説明するのも、すんげえ不恰好だと感じる。そういうのって、自分から言うようなことじゃないでしょ。
そこは例えば「陸が日記に書いているのを葵海が見て知る」とか、「全て知っていた俊太郎が葵海に教える」とか、そういう形にでもした方がいいでしょ。

しかし実のところ、それらは些細な問題だと言ってしまってもいい。もっと根本的な問題が、そこには含まれている。
それは「時間を巻き戻すとか、陸が葵海の命を救おうとするとか、そういうのってバンド活動と何の関係も無いよね」ってことだ。
せっかくmiwaにバンドのボーカル&ギター役を演じさせているのに、そこを最大限に活かそうとするシナリオではないのだ。それどころか、もはや葵海や陸たちがバンドを組んでいる設定なんて排除しても、この話は何の問題も無く成立するのだ。
いやいや、それは「何を大切にするのか、どこに重点置くのか」という意識が、明らかにズレているでしょ。

一言で表現するならば、これはmiwaのアイドル映画である。
彼女はシンガーソングライターだが、ここでは明らかにアイドルとしての扱いとなっている。
表記の上では坂口健太郎とのダブル主演だが、実質的には「miwaがヒロインで坂口健太郎は相手役」という形だ。
アイドル映画なので、極端に言ってしまえば、「miwaさえ可愛く撮れていれば、他はどうでもいい」ということになる。
なのでmiwaのアイドル映画としては、ちゃんと成立している。

ただ、製作サイドが間違えたのは、miwaの相手役に坂口健太郎を選んでしまったことだ。
昔のアイドル映画だと、相手役にオーディションで選んだ新人を使うこともあった。
しかしアイドル映画におけるmiwaの訴求力を考えた場合、相手役に新人を起用するのはリスクが高い。miwaが歌手としてコンサートを開けば何の問題も無く大勢の観客が集まるだろうが、そこは全く違う。
なので、女子に人気の高いイケメン若手俳優の坂口健太郎を起用するのは、賢明な判断と言ってもいいだろう。

ただし製作サイドにとって大きな誤算だったのは、坂口健太郎のファンからmiwaが反感を買ってしまったことだ。観客を呼ぶための戦略が、すっかり裏目に出てしまったわけだ。
これが仮にmiwaじゃなくて、例えば有村架純や桐谷美玲だったら、あるいは中条あやみや小松菜奈だったら、そこまで反感を買うことは無かっただろう。というか、大抵の女優なら大丈夫だっただろう。
誤解の無いよう書いておくが、決してmiwaが女性から嫌われているわけではない。彼女にも女性のファンは大勢いる。
ただ、ここでは「女優でもないくせに」ということが、やっかみに結び付いたのだろうと思われる。

miwaは女優じゃないし、映画出演も2作目なので、お世辞にも演技力が高いとは言えない。
しかし前述したように、これはアイドル映画なので、そこまで高い水準の演技力は必要とされない。そしてmiwaの芝居は、大根というほど酷いわけではない。アイドルとして見た場合には、充分な演技を見せている。
彼女より芝居の下手なアイドルなんて、ゴロゴロといる。
ソロアイドルの全盛期だった1980年代なんて、ホントに酷い芝居で映画やドラマの主演を務める人だって平気でいたし。

むしろ本作品でmiwaの演技力よりも遥かに大きな問題となるのが、坂口健太郎の歌唱力だ。
彼は歌手が本職じゃないので、上手くないのは当然っちゃあ当然だろう。しかし、miwaの演技力と坂口健太郎の歌唱力、どちらの方が高い質を要求されるのかというと、絶対に後者だ。
miwaは序盤から演技しているから、最初に引っ掛かっても途中で慣れたり「それが仕様」と思えたりする可能性もある。しかし坂口健太郎の歌は終盤で初めて披露されるので、そのインパクトはおのずと強くなってしまう(序盤で軽く口ずさむシーンはあるが、そこでは上手いか下手かの判断が付かない)。
しかも彼の歌はクライマックスの重要なポイントとして使われているため、そこで一気に映画が崩れる恐れもある。
まだ生で歌っているわけじゃないから随分と修正されているが(歌番組で歌うのを聞いたが、そりゃあ下手なモンだった)、それでも上手いとは言えない。

坂口健太郎の歌は、miwaの歌唱力を引き立てるという意味なら効果があるだろう。しかし、陸が「歌は上手くない」というキャラ設定ならともかく、そうじゃないのだから、それでは困るのだ。
何しろ、嫌味なぐらい完璧でクールな奴なので、それが「いざ歌うとイマイチ」ってことなので、腰砕けになってしまう。
そりゃあ「彼が完璧なのは何度も時間を巻き戻していたから」という秘密があるんだけど、彼がカッコ悪さを露呈するポイントは、そこじゃないわけで。だから、そこは歌手が本職の人間を使わないにしても、それなりに歌える人を起用した方がいいに決まっている。
とは言え、あまり上手すぎても、今度はmiwaの歌が霞んでしまうことになる。それはそれでマズい。なので、そこは「いい塩梅」ってのが、なかなか難しくなる。

しかし、実は諸々の問題を一気に解決できてしまう、ものすごく簡単な方法がある。
それは「坂口健太郎に歌わせない」ってことだ。
陸を「ギターは弾くが歌は担当しない」というキャラ設定にしてしまえばいいのだ。そうすれば何の問題も起きない。
これが原作付きの映画ならマズいだろうが、オリジナル作品なのだから、そこは簡単に変更できるはずだ。
坂口健太郎の歌が上手くないと判明した時点で、なぜ改変しなかったのか理解に苦しむ。
そこまで固執しなきゃいけないほど、「陸が歌う」ってのは必要不可欠な要素でもないぞ。

(観賞日:2018年5月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会