『君が踊る、夏』:2010、日本

東京でカメラマンを目指す寺本新平は、若手カリスマカメラマン・高木四郎のアシスタントを務めていた。ある日、彼は撮影現場に遅刻 するが、準備は滞りなく進められていた。撮影が終わった後、新平は高木のマネージャーから「遅刻するなら来なくてもいいわよ。どうせ 、いたって役に立たないんだから」と厳しいことを告げられた。一方、高知に住む野上香織は、土佐中央病院に入院している幼い妹・ さくらの見舞いに訪れた。さくらは、旗を持った男性の絵を描いていた。その男性が誰なのかと尋ねると、さくらは「さくらの王子様」 と答えた。さくらは、その男性に貰ったよさこい祭りの鳴子を、今も大事にしていた。
5年前、新平は高知の高校3年生で、同級生の香織と付き合っていた。新平は20歳でBEST FOCUS AWARDを受賞した高木に憧れ、東京へ出て カメラマンになる夢を持っていた。デザイナー志望の香織は、「2人で東京へ行けたらいいね」と言う。東京行きを決めた新平に、親友の 大滝司は「俺は、こんな田舎でも頑張って残る」と言う。彼は香織に「東京が嫌になったら、いつでも戻って来たらいいき。俺が面倒 みちゃる」と告げた。
香織が東京へ行く準備をしていると、さくらが「お腹が痛い」と苦痛を訴えた。香織と父・健一郎が病院へ連れて行くと、医師の村木保則 はさくらの腎臓に腫瘍があることを告げた。彼は香織たちに、「検査の結果を待って、治療の方針を決めましょう」と言う。香織は、その ことを新平には言わなかった。司には「東京へ行くのをやめた」と言うが、その理由については話さなかった。
司は香織の肩を抱き、「これからは俺が面倒みちゃる」と告げた。そんな2人の様子を、新平は路線バスから目撃した。彼は香織の帰宅を 待ち受け、「司と何しちょった?」と責めるように問い詰めた。香織は「東京へ行くのはやめた。理由は聞かんで」と言うと、逃げる ように家へと駆け込んだ。新平は、香織が司を選んだと誤解した。それ以来、新平は香織に一度も連絡を取っていない。
新平は高木に自分が撮影した写真を見てもらうが、「テーマもメッセージも無い。タイトルが付けられない」と酷評された。アパートに 戻ると、先輩アシスタントの石黒智也が訪ねてきた。新平が石黒と話していると、母・敏江から電話があり、入院したことを告げられた。 新平は「帰りづらいんですよ」と漏らすが、石黒から帰京するよう促され、半ば強引に高知行きの深夜バスに乗せられた。
帰郷した新平は、母の入院している土佐中央病院へ赴いた。すると敏江はギックリ腰で、随分と元気な様子だった。そこへ、さくらが来て 、敏江に「今日、おうちへ帰れるき」と話した。さくらは新平を見ると、すぐに「旗のお兄ちゃん」だと気付いて笑顔を浮かべた。敏江は 新平に、「覚えちゅうやろ。香織ちゃんの妹の、さくらちゃんや」と告げた。新平は強張った表情で、小さくうなずいた。
さくらは帰宅すると、香織に「よさこい踊りたい」と告げた。新平は父の新太郎が作業をしている茶畑へ行き、手伝いを申し出た。しかし 新太郎は「足手まといじゃ、さっさと東京へ帰れ」と冷たく言う。新平が怒って立ち去ろうとすると、新太郎は「どうしても手伝いたいん やったら、ちょっと来い」と言って軽トラックに乗せた。新太郎は司の母・園子が女将をしている料亭旅館“こちや”に到着し、お茶の箱 を運ぶよう新平に命じた。
新平が荷物を運び込もうとすると、司が現れた。香織のことで誤解している新平が「お前とは話しとうない」と無視を決め込むと、司は 「東京から帰って来た根性無しは、香織にフラれて当然」と馬鹿にしたように言う。新平はカッとなった司と殴り合いになり、戻って来た 新太郎が慌てて制止した。さくらは香織と健一郎から、よさこい祭りへの参加を反対された。しかし彼女は「“いちむじん”で踊りたいが 。約束したが、あん時」と言う。“いちむじん”とは、かつて新平が参加していたよさこいチームだった。
さくらは発症する前の夏、新平たちがよさこい祭りで踊っている様子を目にした。さくらに気付いた新平は歩み寄り、声を掛けた。さくら が「一緒にいちむじんで踊りたい」と言うと、新平は「大歓迎や。来年、一緒に踊らへん?」と告げ、2人は指切りを交わした。その時、 新平はさくらに鳴子をプレゼントしていた。その話をさくらから聞き、香織は初めて「旗のお兄ちゃん」が新平だと知った。
香織と健一郎は、さくらがよさこい祭りに参加したがっていることを村木に伝えた。すると村木は「転移が無かったとは言え、体力が 落ちているので無理です。それに発症から4年半が過ぎています」と語る。さくらの病気で、5年生きた者はいないのだ。だが、香織は妹 に踊らせてあげたいと思っていた。彼女はさくらに、よさこい祭りに参加した場合、また入院しなければいけない可能性を告げる。だが、 さくらが「死んでもええき、踊りたい」と強い意志を示したので、香織は「ほんなら、踊ろうか」と告げた。
“いちむじん”は5年前に解散していた。香織は“いちむじん”の代表だった園子に会い、さくらのことは言わずに「よさこい、踊りたく なったがです」と5チームの復活をお願いした。園子は「解散させたチームを復活させるのはどうかと思うし、50人ぐらいはおらんと形に ならん。今から募集を掛けても踊り子は集まらんど」と難色を示した。香織は昔のチームメイトに声を掛けるが、色よい返事は貰えない。 香織は司に、園子を説得するよう頼んだ。
敏江が退院し、物置へ椅子を取りに行った新平は、よさこい祭りで使っていた纏を発見した。彼は河原へ行き、祭りの時のように纏を 振った。新平が休息していると、香織がやって来た。香織はチームを復活させたい旨を告げ、「さくらが“いちむじん”で踊りたいって 言いよるき、力になってくれんかね」と持ち掛けた。新平は不貞腐れた顔で「司に頼めや、付き合いよるが」と言う。香織は「誤解や、 付き合うてないき」と告げるが、新平は「今さら、そんなこと言うなや」と荒っぽい口調で述べた。
香織は新平に、東京へ行く直前にさくらの病気が判明したことを打ち明けた。彼女は「今年が最後の夏になるかもしれんのよ。どうしても 、さくらの夢を叶えてあげたいがよ」と頼むが、新平は「お前の考えてることは、よう分からん。もう東京へ帰るき、力にはなれん」と 言って立ち去った。香織からさくらのことを聞いた園子は新平と会い、「アンタしかおらんで、あの姉妹を支えられるのは」と説いた。 新平は香織とさくらの元へ行き、“いちむじん”の復活に協力することを申し出た。
“こちや”の若い料理人2人が、裏庭で煙草を吸っていた。厨房へ戻る際、捨てた煙草に火が付いており、火事が発生した。たまたま 通り掛かった新平は火事に気付き、慌てて消そうとする。出て来た司と共に、新平は火を消した。新平は「お前のこと、誤解しちょった。 すまんかった」と司に言い、その場を去った。一方、石黒は新平のアパートに浮気相手の梨絵を連れ込み、そのまま居座っていた。ベッド の下に新平が隠していた写真に気付いた石黒は、それを高木に見てもらう…。

監督は香月秀之、脚本は香月秀之&松尾朝子、製作総指揮は北畠宏康&木下直哉、エグゼクティブプロデューサーは岡村道範&山本晋也、 企画は有川俊、プロデューサーは依田正和&川田亮&郷田美雄、撮影は小林元、編集は大畑英亮、録音は高野泰雄、照明は堀直之、美術は 福澤勝広、音楽はMOKU、主題歌は東方神起『With All My Heart〜君が踊る、夏〜』。
出演は溝端淳平、木南晴夏、五十嵐隼士、大森絢音、DAIGO、藤原竜也、本田博太郎、宮崎美子、隆大介、高嶋政宏、高島礼子、里田まい、 高田宏太郎、石橋蓮司、風間トオル、小林綾子、田中要次、柳沢慎吾、室井佑月、喜多ゆかり(ABCアナウンサー)、小林星蘭、 新生かな子、古崎瞳、白澤麻里菜、笠兼三、大和田悠太ら。


朝日放送創立60周年記念作品。
監督は「デコトラの鷲」シリーズの香月秀之。
新平を溝端淳平、香織を木南晴夏、司を五十嵐隼士、さくら を大森絢音、石黒をDAIGO、高木を藤原竜也、健一郎を本田博太郎、敏江を宮崎美子、新太郎を隆大介、村木を高嶋政宏、園子を高島礼子 、梨絵を里田まい、岡田を高田宏太郎、大熊を石橋蓮司、新平のアパートの隣人を田中要次、向かいのアパートの住民を柳沢慎吾、 幼少時代のさくらを小林星蘭が演じている。

朝日放送も参加しているANN系列では、『テレメンタリー』というドキュメンタリー番組が製作されている。
毎週30分の放送枠で、系列の各局が週代わりで製作を担当する番組だ。
その『テレメンタリー』において、『踊らないかんちや! 〜小児ガンと闘うよさこい娘』という朝日放送が製作した番組が2008年 9月30日に放送された。
番組で取り上げたのは、高知市に住む小学5年生の堀内詩織ちゃん。
3歳で腎悪性横紋筋肉腫様腫瘍という小児がんを発症した少女である。

医者から「5年は生きられない」と診断された詩織ちゃんだが、「よさこい祭りの舞台に立ちたい」という夢を支えに頑張った。
そして2007年の夏、ついに彼女は、よさこい祭りに参加することが出来た。
そんな彼女と家族の様子を撮影したのが、その番組だ。
ところが放送の直後、がんの数値が急上昇してしまう。
そこからの彼女に密着取材した様子が、2010年9月5日にABCこども未来プロジェクト『踊らないかんちや! 〜小児がんとの闘い2500日 』として放送された(関西ローカル)。
そして、この2つの番組で取り上げられた少女をモデルとしたのが、この映画である。

さくらが描いている男性の正体が新平だというのは、最初から分かっている。
その絵から新平に切り替わる編集もあったりするし、映画として、その正体を内緒にしたまま引っ張ろうという意識は無い。
ただし、さくらの絵を見た段階では、香織だけは正体に気付いていない。
だけど、それは意味が無いと思うんだよなあ。
その段階で、香織にも気付かせた方がいいよ。

新平が高知時代から憧れを抱き、アシスタントとして付いているカリスマカメラマンが藤原竜也というのは、ミスキャストだろう。
彼では若すぎるよ。
新平が撮影風景を見て「さすが」と感嘆しても、説得力が無い。
っていうか、そもそも「若手のカリスマカメラマン」という設定の段階で失敗だと思う。藤原竜也に大人の貫録があれば、まだ何とか なったかもしれないが、彼は童顔だしなあ。
そこは普通に、豊富なキャリアを持つ熟練のカメラマンということで、もっと年配の俳優を起用した方がいいんじゃないの。

前述したように、この映画の発端となったのは、小児がんを発症した少女を取り上げたドキュメンタリーである。
そうであるならば、映画のヒロインは、さくらになるはずだ。
ところが実際には、さくらは脇役だ。
「幼女が主人公では訴求力が弱い」と製作サイドが考えたのか、若手イケメン俳優の溝端淳平を主役に据えている。
で、「イケメンと幼女の絆」がメインでは訴求力が弱いということなのか、新平と香織の恋愛劇、および新平の成長物語を盛り込んだ。

これにより、さくらの闘病物語と新平の話が上手く絡まず、完全にバラバラになったままという破綻が生じてしまった。
そりゃあ、そこがバラバラになってしまうことは、少し考えれば分かることだ。
新平を主人公にしたことによって、「少女が病気と戦いながらよさこい祭りへの参加を目指す」という物語が疎かになってしまって いる。
そもそも何を描きたくて本作品の企画が立ち上がったのかということを考えれば、根本的な部分から間違えていると言わざるを得ない。

話がバラバラになっているので、「さくらが絵を見て新平のことを思い出す」というところから5年前の回想に突入しているのに、その 回想シーンでは新平が香織と話している様子が描かれ、さくらの姿は無いという、いびつな状態になっている。
そこから新平、香織、司だけで回想が進行し、5分ぐらい経過してようやく、さくらが登場する。
しかし、彼女は香織や健一郎と絡むだけで、新平とさくらが絡むシーンは、その回想の中では登場しないのである。

さくらが「お腹が痛い」と苦痛を訴えるシーンは、芝居が稚拙だし、不自然さがあって苦笑してしまう。
ただし、そこは見せ方を少し工夫すれば解決できる。
香織が目を離し、戻って来たら、さくらが腹を押さえて苦渋の表情を浮かべているということにしておけば、「お腹が痛い」というセリフ を喋らせなくても済むのだ。
香織が「ほんなら、踊ろうか」とよさこいへの参加を承諾した時の、さくらの「やった、やった」と両手を挙げて大喜びする芝居も、 かなり稚拙で不自然だ。
だけど、そこは演技力の問題と言うより、そういう芝居を付けたことが間違いなのだ。

さくらの病気が発覚し、香織は東京行きを取り止めるのだが、「妹に腫瘍が見つかって云々」ということを、なぜ新平に言わないのか良く 分からない。隠さなきゃいけないような事情でもないでしょ。
後になって、香織は「本当のことを言ったら新平は同情し、東京行きを取り止めて高知に残る。だから言えなかった」と説明しているが、 納得できるものではない。
香織はいちむじんの復活を園子に願い出る時も、最初は復活を希望する本当の理由を明かさないが、それを隠している理由が 分からない。打ち明けた方が協力してもらえるだろうに。
それも同情されたくないからなのか。
でも、そこで同情を拒絶しても意味が無いでしょ。

新平は母から「覚えちゅうやろ。香織ちゃんの妹の、さくらちゃんや」と言われた時、どうも覚えていない様子だ。
そもそも覚えていたら、さくらが母に駆け寄って来たり、「旗のお兄ちゃん」と言ったりした時に、何かしらの反応を示すはず だもんな。
だけど、そこで彼がさくらを覚えていないというのは、何となく話がギクシャクした感じになってしまう。
まず新平が上京する前の段階で、さくらと絡むシーンを用意しておくべきだし、その病院のシーンも「覚えているけど、香織と別れたまま で気まずいので複雑な表情になってしまう」という形にすべきだろう。

新太郎は手伝いを申し出た新平に「足手まといじゃ、さっさと東京へ帰れ」と冷たく言うくせに、息子が腹を立てて立ち去ろうとすると 「どうしても手伝いたいんやったら」と手伝いを指示する。
「ぶっきらぼうな頑固オヤジだが、息子への愛情はある」というキャラ設定にしたかったんだろうけど、それが上手く表現できて いない。
だから、ツンデレの失敗形みたいな感じになっている。

さくらが「“いちむじん”で踊りたいが、約束したが、あん時」と言い、回想に入って、ようやく彼女が新平と会った時のことが描かれる 。
でも、遅すぎるよ。
「さくらが新平たちの踊りを見て、自分も踊りたいと思った」というのは、とても重要な要素のはずなのに、それが二の次、三の次の ような構成になっている。
新平やさくらの、よさこいに対する思い入れも、あまり伝わって来ないし。
新平が、よさこいに燃えていた頃を思い出すようなシーンも無いし。

物置で纏を見つけた新平は橋や河原で踊るが、それが不自然な行動にしか見えない。
「よさこい祭りに燃えていた頃のことを思い出して」ということなんだろうけど、説得力が無い。
新平は旅館の火事を消した後、司に「誤解しちょった、すまんかった」と詫びるのだが、そのシーンも不自然。
そんなシーンを用意しなくても、新平が司と鉢合わせし、詫びを入れるという形でいいでしょ。火事騒ぎを用意した意味が無い。
あと、仕事をサボって煙草をポイ捨てし、火事を起こすような料理人を使っている旅館はダメだろ。

新平は“いちむじん”復活に協力することを香織に告げ、練習を始める。そこに「5年のブランクを取り戻すのに苦労する」という描写は 無い。
新しい踊りをやることになるが、それを覚えるのに苦労するという描写も無い。
それと、チームを復活させるためにはメンバーを集める必要があるのだが、その苦労も全く無い。
何しろ司がメンバーを集めて来てくれるので、新平は何もしていないのだ。

終盤、「高木が応募しておいた新平の写真が優秀賞に選ばれ、グランプリを決める授賞式とよちこいの日時がバッティングしてしまう」と いう展開がある。
とてもベタな展開であり、セオリー通りであれば、新平は祭りを選ぶことになる。
ところが、そこで意外な捻りが用意されていた。
さくらが高熱で倒れて祭りに参加できなくなり、司から「さくらちゃんが祭りに参加できないのなら、お前がいても意味が 無い。授賞式に参加しろ」と言われた新平は、東京へ戻るのだ。

だが、さくらは状態が良くなり、祭りに参加できることになる。で、新平は授賞式を途中で抜け出し、祭りに参加する。
まあ結果的には授賞式より祭りを選ぶというセオリー通りの着地をするのだが、そこへ至る道筋には苦笑してしまう。
それまでは「ホントに5年生きた者がいないと言われる病気なのか」と疑いたくなるぐらい元気一杯だったさくらが、そこだけ急に熱を 出して倒れる御都合主義は苦笑モノ。
あと、授賞式を途中で抜け出したからって、祭りに間に合うのかな。
東京から高知って、かなりの距離があるんだけど。

それと、優秀賞に選ばれた写真は、5年前の祭りに参加した香織を写したものなんだけど、それは新平が応募したわけじゃなくて、高木が 勝手に応募しているんだよね。
「新平は自信のある写真だったが、香織と別れているので応募することに迷いがあった」ということなら納得も出来るけど、そうじゃ ない。どんな写真が選ばれたのかも分かっていない状況で授賞式に参加するって、その展開はどうなのよ。
あと、その写真に付けられたタイトルが『君が踊る、夏』で、それが映画のタイトルに繋がるんだけど、そのタイトルも新平が付けたわけ じゃないしなあ。
っていうか「君が踊る」の「君」って、さくらじゃなくて香織だったのかよ。
それも違和感があるなあ。

(観賞日:2011年7月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会