『君は月夜に光り輝く』:2019、日本
岡田卓也は17歳で死去した渡良瀬まみずの法要に参列し、墓前に花を供えた。卓也はまみずの母である律から、高校時代の2年D組一同の寄せ書きを見せられた。寄せ書きの表側には、まみずの小さな文字で「私は私でよかった」と書かれていた。その寄せ書きは、まみずが入院していた時にクラスメイトが用意した物だった。その当時、同級生の香山彰から「書いてないの、お前だけだぞ」と指摘された卓也は、「会ったことも無いんで」と言う。彰は「みんなもそんなモンだろ」と言い、最後に書いた者が持って行くと告げた。
まみずは発光病という不治の病で、長期入院している。発光病は未だに解明されていない病気で、有効な治療手段は無く、患者は臨床研究の対象となっている。最大の特徴は、細胞異常で皮膚が発光するところにある。その光は、死が近付くにつれて強くなっていく。発光病になった患者は、大人になるまで生存できない。卓也はまみずの病室を訪れ、春からクラスメイトになったことを説明した。まみずが寄せ書きのメッセージを見て「ホントは来たくなかった?」と問い掛けると、卓也は「自分の意思で来た」と答えた。
卓也が病室に飾ってあるスノードームに気付くと、まみずは「いいでしょ。昔、お父さんから貰ったんだ。今はもう会えないんだけど」と告げた。看護師の岡崎が血圧を測りに来ると、卓也は「これで失礼します」と帰ろうとする。まみずは「また会いに来てくれる?」 と呼び止め、メモを渡した。 そこには「グミ食べたい」と書いてあり、翌日に卓也はグミを持って病室を訪れた。するとまみずは不在で、卓也はスノードームを手に取った。
病室に戻ったまみずに「来てくれたの?」と背後から声を掛けられた卓也は、慌ててスノードームを落としてしまった。スノードームが割れたので卓也が謝罪すると、まみずは彼の怪我を心配した。まみずは「私、余命ゼロなんだ」と言い、去年の同じ時期に余命1年と宣告されたことを話す。「しかも、割と元気だし。私って、いつ死ねるのかな」と彼女が明るく話すと、卓也は鳴子が同じ言葉を漏らしたことを思い出した。
卓也はまみずにグミを差し出し、それとは別でスノードームを壊したお詫びがしたいと申し出た。罪滅ぼしに何度もすると彼が告げると、まみずは「本当に何でもしてくれるの?」と確認する。卓也が「僕に出来ることなら」と答えると、まみずは「いいことひらめいちゃった。私がしたいことを代行してほしいの」と言い、やりたいことを列挙したノートを見せた。自分は病院から出られないので代わりにやって報告してほしいと頼まれ、卓也は承諾した。
まず卓也は「ジェットコースターに乗りたい」というまみずの願いを聞き、彼女の代わりに遊園地へ行く。彼はジェットコースターに乗り、病室へ戻ってまみずに写真を見せた。「お腹一杯になるまでパフェを食べてみたい」と願いもあったので、彼は遊園地で巨大パフェを注文していた。その話を聞いたまみずは楽しそうに笑い、「次は何してもらおうかなあ」と言う。彼女がノートに書いてあることを全てやってもらう考えを明かすと、卓也は「他人にやってもらっても意味なくない?」と問い掛ける。すると、まみずは「しょうがないでしょ、病院から出られないんだから」と口にした。
まみずはテレビで新型スマホが即日完売したニュースを見て、「これ買ってきてよ」と頼んだ。卓也は行列に並ぶため、夜中に家を出ようとする。母の恭子は「ちょっと出掛けて来る」という彼の言葉に、「あの日、鳴子もそう言って出て行ったのよ」と口にする。「姉ちゃんのは、ただの交通事故だ」と卓也が告げると、恭子は「車の話はしないで」と感情的になった。卓也は徹夜で行列に並び、姉が死んだ時のことを思い出した。鳴子が「いつ死ねるのかな」と言い残して家を出た時、部屋には中原中也の詩集が置いてあった。本には恋人との写真が挟まれており、そのページには「愛する者が死んだ時には、自殺しなけあなりません」という「春日狂想」の一文が記されていた。それを見た卓也は慌てて姉を捜しに出掛け、車にひかれた遺体を目にしたのだった。
卓也は新型スマホを購入し、まみずに渡した。まみずはスマホを使って卓也と連絡を取るようになり、次のお願いとして「お父さんに会いに行ってほしい」とメッセージを送った。2年前に離婚した本当の理由を知りたいのだと説明され、卓也はまみずの父である深見真が営む小さな町工場へ赴いた。卓也は離婚した理由を尋ね、まみずが自分の病気のせいだと思っていることを伝えた。卓也が「彼女はお父さんに会いたいんだと思います」と言うと、真は「それは出来ないな。妻との約束でね」と告げた。
「なぜ会えないんいですか」と訊かれた真は、「ウチは会社が潰れて自己破産してる。まみずの治療費を残すために形式上の離婚をした」と説明する。卓也が「偽装離婚ってことですか」と確認すると、真は「そうだ。だから取り立て屋にばバレたら治療費が払えなくなる」と述べた。まみずは卓也から報告を受け、「良かった。仲が悪くなって離婚したわけじゃなかったんだね」と安心する。しかし「けど、それで娘の病気が治るならいいんだけど、結局、治らないからなあ」と言い、「私は周りの人を不幸にしてるだけどよね。こんなことなら、私なんて生まれてこなければ良かったのに」と漏らした。
まみずが「ありがとう、色々、ワガママ聞いてくれて。もう大丈夫だから」と口にすると、卓也は「次、何すればいい?」と問い掛けた。まみずは彼に、「卓也くんて、たまに優しいね」と告げた。卓也は彼女の願いを聞き入れ、自室をトータルコーディネートするための買い物に行き、自転車を走らせて海風を感じた。バッティングセンターでホームランを打ち、カラオケで熱唱した。人気スポットに出掛けて、スマホで撮影した。
まみずには「メイドカフェでバイトがしたい」という願望もあり、卓也は面接を受けに行った。店長はキッチンスタッフと連絡が取れないことを話し、今から働けないかと持ち掛けた。卓也は困惑しながらも、仕事に入った。メイドの平林リコは、キッチンの仕事が大変なのでスタッフが辞めていくのだと卓也に教える。「でも僕は続けると思います」と卓也が告げると、「そんなこと言う人、珍しいよ」と彼女は驚いた。「駅まで一緒に帰ろ?」と誘われた卓也は、メイド姿の写真を撮らせてほしいと頼んだ。
卓也は病室へ行き、まみずにリコの写真を見せた。まみずは「可愛いね」と拗ねたような表情を浮かべ、「バンジージャンプがしたい」と唐突に言う。「そんなのリストに無かっただろ」と卓也は反発するが、結局は承諾した。文化祭が近付き、卓也たちのクラスは『ロミオとジュリエット』を上演することになった。まみずは卓也から話を聞くと、ジュリエットの台詞を口にした。「頑張ってくれたご褒美、何がいい?」と問われた卓也は、「まみずって何カップ?」と訊く。まみずは「バカじゃないの」と言い、体重や身長を問われても答えない。しかし誕生日と靴のサイズを訊かれると、それには答えた。
やりたいことのリストにチェックを入れたまみずに、卓也は、「最後の1つが無くなったらどうする?死にたいなんて思ってないよね?」と問い掛けた。すると彼女は、「毎日思ってるよ」と迷わずに告げた。後日、卓也が病院を訪れると、律が病室から出て来た。彼女は卓也に、「仲良くしてくれるのは嬉しいんだけど、関わらないでほしいの。あんまり刺激を与えないでほしい。あの子にとっては、嬉しいことも楽しいこともストレスになるの。一日でも長く生きていれば、治療法が見つかるかもしれないでしょ」と語った。
卓也は病室に入り、「さっき道で拾ったんだけど」とサマンサ・タバサの紙袋を差し出した。中には赤いハイヒールが入っており、まみずは試しに履いて喜んだ。彼女は「今度の検査結果が良かったら、外出許可が出るかもしれないって」と明かし、卓也から「どっか行きたいトコある?」と訊かれて「これ履いて、海で星とか見たい」と言う。リコから夏休みの予定を問われた卓也は、「まあ、海とか」と答える。リコが「一緒に行こうよ」と誘うと、彼は「もう行く人決まってて」と断った。「彼女?」と質問された卓也は、「彼女がいるように見えますか?」と言う。リコは少し考えて「うーん、微妙かな」と口にするが、「私は有りだけどな」と付け加えた。
卓也の携帯には、まみずから検査の結果でた。海、行けない」というメッセージが届いた。卓也は夏休みのガイドブックをメイドカフェのゴミ箱に捨て、落胆して帰宅した。スーパームーンが見られる日だとニュースで知った卓也は、彰に頼んで天体望遠鏡を借りる。彰は彼に、「ウチの兄貴がお前の姉ちゃんと付き合ってた時、どんな話、してたんだろうな。兄貴が発光病だって知ってから、お前の姉ちゃん、あんまり会いに来なくなったもんな」と語った。
卓也は深夜の病院に忍び込むが、岡崎に見つかってしまう。しかし彼が「こんな所に閉じ込められて死ぬのを待つだけなんて、残酷じゃないですか」と言うと、岡崎は彼がまみずの元へ行くのを黙認した。卓也はまみずを屋上へ連れ出し、赤い靴を履かせて一緒に夜空を見る。望遠鏡で満月を観察したまみずは、「なんかロマンチックなセリフ言ってみてよ」と頼む。「無理だよ」と卓也が嫌がると、「5分だけでいいから。これも死ぬまでにやりたいことにする」と彼女は言う。
卓也はやる気の無さそうな言葉を並べ、不満を漏らすまみずに「ズルくないか、僕だけやらされてフェアじゃないよ」と告げる。すると彼女は「分かった」と言い、彼に肩を寄せて「世界に2人きりみたいだね」と口にする。「もしホントにそうなら、何したい?」と卓也が尋ねると、まみずは「卓也くんと結婚するしかないよね」と答える。彼女が「プロポーズしてみてよ」とリクエストすると、卓也は軽いノリで「病める時も、健やかなる時も、君を愛し、助け、真心を尽くすよ」と話す。
まみずは真面目な口調で「私も。卓也くんのことが、ずっと好きだよ」と返す。卓也が驚くと、すぐに彼女は「冗談だよ」と言う。卓也はまみずと少し会話を交わしてから、「君のことが好きだ」と本気で告白した。天体観測を終えた卓也が屋上を去ろうとした時、まみずの体が白く光った。彼女は意識を失って倒れ、卓也は医師と看護師を呼んで緊急搬送してもらった。知らせを受けて駆け付けた律は、卓也を睨んで「私たち家族が必死の思いで一日でも長く生きてもらおうとしてるのに」と批判した。
律が「もう来ないでほしい」と言うと、まみずは「私が強引にお願いしたの。怒るなら私1人を怒って」と卓也を擁護した。まみずは卓也と2人になると、「明日、脊髄液を採って、研究のために調べるの。この病気のために、モルモットになるの」と話す。それから「お願いがあるの」と言い、「もう来ないでほしいの。今までありがとう。これからは、私のことなんて忘れて、楽しく生きてよ」と口にした。卓也は「そんな急に」と戸惑うが、彼女は「ずっと考えてたことだから。これが最後のお願いだよ」と告げて背中を向けた。
夏休みが終わって『ロミオとジュリエット』の準備が始まると、卓也はジュリエット役に立候補した。クラスメイトが賛同した後、彰はロミオ役に名乗り出た。彰から立候補の理由を問われた卓也は、「まみずがやりたがってたんだよ、ジュリエット」と答えた。すると彰は、自分がロミオでまみずがジュリエットを演じるはずだったと明かす。中学時代にクラスで『ロミオとジュリエット』を上演することが決まり、彰とまみずは主演を務めることになった。しかし本番前日になってまみずが入院し、彰は彼女が兄と同じ病気だと知って会いに行けなくなっていた。
彰は「今から一緒に行かないか」と卓也を誘い、病院へ向かう。しかし卓也は「やっぱりお前1人で行って来い」と促し、病院を後にした。彰は病室に入り、卓也と2人で『ロミオとジュリエット』を演じると話して「まみずのことが好きだった」と告白した。卓也は真を訪ね、まみずに会ってほしいと頼んだ。彼は「僕はもう、まみずさんに何もしてあげられません。でも貴方は違います」と語り、頭を下げた。「君は、まみずのことが好きなのか?」と訊かれた卓也は、「好きだったら、何なんですか?」 と告げて立ち去った。
卓也はメイドカフェでミスが多くなり、リコから「なんかあった?」と問われて「振られたんです」と答えた。リコは「今度2人でどっか行かない?」と誘うが、卓也は何も言わなかった。文化祭の当日、卓也が芝居の支度を整えているとまみずから連絡が入った。まみずは彼に、テレビ通話でエールを送った。すると卓也は「まみずも一緒に行こう」と言い、スマホで校内の様子を撮った。彼はスマホを客席に置き、自分たちの芝居を観劇してもらう。しかし芝居が終わる前に、まみずは病状が悪化して昏睡状態に陥った。
卓也は病院に駆け付けるが、ただのクラスメイトに過ぎないので、まみずの情報は教えてもらえなかった。病院を去った彼の元に岡崎から電話が入り、まみずが会いたがっていることを知らされた。卓也が出向くと、岡崎はまみずの余命が残り少ないこと、彼女が頻繁に泣いていることを知らせた。卓也は病室に入り、すっかり衰弱しているまみずに会う。まみずに「想像してみて。好きな人が死んだら、辛いよ。一生忘れられないよ。だから、ここでやめよう」と言われた彼は、「辛くて、しんどくていい。好きなんだ」と返した。すると、まみずは「そんなの困る。私も、卓也君のこと好きだから」と口にした…。監督・脚本は月川翔、原作は佐野徹夜『君は月夜に光り輝く』(メディアワークス文庫/KADOKAWA 刊)、製作は市川南、共同製作は村田嘉邦&堀内大示&弓矢政法&細野義朗&山本浩&高橋誠&藤下リョウジ&吉川英作&渡辺章仁&舛田淳&藤田晋&田中祐介、エグゼクティブ・プロデューサーは山内章弘、企画・プロデュースは春名慶&岸田一晃、プロデューサーは神戸明、プロダクション統括は佐藤毅、ラインプロデューサーは濱崎林太郎、撮影は柳田裕男、照明は宮尾康史、録音は加藤大和、美術は五辻圭、編集は坂東直哉、VFXスーパーバイザーは鎌田康介、音楽は伊藤ゴロー、劇中音楽は歌川幸人、主題歌『蜜の月 -for the film-』はSEKAI NO OWARI。
出演は永野芽郁、北村匠海、及川光博、長谷川京子、優香、甲斐翔真、松本穂香、今田美桜、生田智子、斉藤慎二(ジャングルポケット)、前野朋哉、山本直寛、諏訪部伶二、秋谷柊弥、外山将平、福永朱梨、さいとうなり、真崎かれん、渡邊渚、夏秋成美、榊原美紅、大見謝葉月、川籠石駿平、重岡峻徳、飛鳥方瞳、真凛、紺野相龍、岩井克之、光沙子、高井真菜、水野せいな、熊田来夢、大嶋奈穂美、小森郁子、池田宜大ら。
第23回電撃小説大賞を受賞した佐野徹夜のデビュー小説を基にした作品。
監督&脚本は『センセイ君主』『響 -HIBIKI-』の月川翔。
まみずを永野芽郁、卓也を北村匠海、真を及川光博、恭子を長谷川京子、岡崎を優香、彰を甲斐翔真、鳴子を松本穂香、リコを今田美桜、律を生田智子が演じている。
“一人遊園地”を楽しむおじさん役で斉藤慎二(ジャングルポケット)、メイド喫茶の店長役で前野朋哉が、それぞれ1シーンだけ出演している。まず「発光病」という病気が用意されている時点で、乗り越えるべきハードルとなっている。ここを受け入れないと、この映画に入り込むことは絶対に不可能だからだ。
この段階で「トンデモ度数が高すぎますぜ」と拒絶反応が起きてしまったら、見ない方が賢明だ。そこで無理をしても、それに見合うだけのモノを得られる可能性は皆無と言っていい
。そこを素直な気持ちで受け入れられる人だけが、この映画で感動できる権利を取得できる。
ある意味、パスポートみたいなモンなのよ、そこは。ここでポイントになるのは、「素直な気持ち」という部分だ。同じように受け入れるにしても、「寛容な気持ち」ではダメなのだ。似たようなスイーツ風味の強い恋愛映画ならOKでも、この映画ではダメだ。
寛容ってことは、それなりに引っ掛かるモノがありつつも「でも寛大な気持ちで許そう」ってことでしょ。そうじゃなくて、発光病という設定に何の疑問も抱かないことが望ましいのよ。
その理由は、そこで少しでも引っ掛かっちゃうと、ある事実に気付いてしまう恐れがあるからだ。
その事実とは、「実は発光病である必要性が皆無に等しい」ってことだ。わざわざトンデモ度数の高い奇病を持ち込んでいるのだから、そこを最大限に活用し、物語において必要不可欠な存在として使うことは必須条件と言ってもいいだろう。
しかし、この話は、なぜか「他の病気でも大して変わらない」という扱いに終始している。
「不治の病」ってことなら、何だって構わないのだ。
だったら架空の病気より実際に存在する病気の方が、絶対にいいはずで。発光病の特徴は、「細胞異常で皮膚が発光する」ということにある。そして裏を返せば、それ以外には何も無い。
そうなると、「皮膚が発光する」という特徴を軸にして話を構築していくべきだろう。
ところが、まみずの体が光るのは2回だけ。しかも、どっちも「その程度かよ」と言いたくなるヌルさで、ファンタジーとしての力が皆無。
1度目は屋上のシーンだが、ボンヤリと白く光るだけ。特殊視覚効果としてもチープな出来栄えになっている。
2度目は終盤のキスシーンだが、こちらも似たようなモンで、見せ場としての力は無い。「発光病が無意味」ということがズバ抜けて大きな欠点なのだが、それ以外が優れているわけではない。他にも色々と難はある。
例えば、会ったことも無いまみずにクラスメイトが寄せ書きを用意している。そういうのって普通、仲良しだから書くんでしょ。
もちろん「普通はそうだけど、会ったことも無い卓也が届ける羽目になり」という形で出会いのシーンを盛り上げたいのは分かるよ。ただ、「他の連中は1年からまみずと一緒なので親しみがあるけど、卓也は転校生だから知らない」とかじゃないのよ。どうやらクラスの全員が、まみずとは会ったことが皆無に等しい奴らなのよ。
それで寄せ書きって、誰の発案だよ。そして、なぜ全員がOKしてるんだよ。「まみずのために」という偽りの善意による行動としても、ちょっと設定として無理があるんじゃないかと。
それでも、「まみずを心配しているようなことを口では言っていたクラスメイトが、実際は何とも思っちゃいない」とか、「その薄情さを知った卓也が激怒する」とか、そういう描写でドラマを盛り上げるのであれば、まだ分からんでもない。
しかし彰を除くクラスメイトは背景と化しており、個人としての存在意義はゼロなのだ。
だから寄せ書きってのは卓也を病室へ行かせるための道具に過ぎないし、「それなら他の方法でも良くねえか」と言いたくなってしまう。クラスメイトに限らず、脇役は総じて存在意義が乏しい。極端なことを言ってしまえば、卓也とまみずだけ存在すれば成立してしまう話になっている。
「2人のために世界はあるの」ってことを表現しようとする作品もあるだろうから、そういうのを狙ったとしたら、それ自体が悪いとは言わない。
でも「2人のための世界」を描くにしても、周囲の面々は「2人のための存在」として必要なはずで。
だけど周囲の面々は、色々と匂わせることはあるものの、フワッとした民意さえアピールしないまま退場する。途中でリコという女性キャラクターが登場し、初対面から卓也に好印象を抱いている様子を見せる。
なので、リコが卓也に惚れて三角関係を作ることを予想していると、それは見事に裏切られる。
リコは卓也に惚れるが、それは一方的な思いのままで消えていく。卓也がリコの思いに気付くことは無いまま、リコが告白することも無いまま、消化不良で放り出される。
ここをバッサリとカットした場合の不都合を考えても、何も思い付かない。真はまみずと会えない理由を卓也に訊かれ、「会社が潰れて自己破産してる。まみずの治療費を残すために形式上の離婚をした」「だから取り立て屋にばバレたら治療費が払えなくなる」と説明する。
でも、そんなことを初めて会った相手に、なんでペラペラと喋っちゃうのか。
妻と約束して、まみずと会わないことにしたんでしょ。卓也に事情を明かしたら、妻と約束した意味も無くなっちゃうでしょうに。
これが「まみずの恋人で何度も会っている」みたいな相手ならともかく、真にとっての卓也は「まるで知らない赤の他人」に過ぎないはずで。そんな相手に、初対面で大事な秘密をバラしちゃう感覚はイカレているとしか思えないぞ。卓也はまみずと何度も会った後、初めて律と対面する。この時点で既に違和感はあるが、律が「関わらないでほしいの。あんまり刺激を与えないでほしい。あの子にとっては、嬉しいことも楽しいこともストレスになるの」と言うのは、ますます違和感が強い。
まず「発光病って嬉しいことや楽しいことがストレスになる病気なのかよ」ってトコに引っ掛かる。
また、ホントにストレスになってマズいんだったら主治医が止めるはずだが、そもそも主治医が1シーンも登場していないという不可解さ。
あと、たぶん律の「嬉しいことや楽しいこともストレス」ってのは娘を心配するが故の過剰反応ってことなんだろうけど、その辺りの描写も下手だし。卓也がわざわざ親友から天体望遠鏡を借り、深夜の病院に侵入し、看護師に叱られても構わずに屋上へまみずを連れ出すぐらいなんだから、そこまでして見ようとするスーパームーンは観客を圧倒し、問答無用の感動をもたらす説得力が絶対に必要だ。
しかし実際のシーンでは、ただの満月に過ぎない。
まみずは「わあ、凄い」と声を上げているけど、こっちは何も感じない。
「美しい星空、大きく神々しい満月」みたいな映像としての強さは皆無だ。まみずが倒れて人生のカウントダウンが本格的に始まった後、真は卓也に呼び出す。
何か伝えることがあるのか、まみずに会いに行く決断を話すのかと思ったら、「普通に大人になって、結婚とかするんだろうなって思ってたんだけどな」と語り、「娘さんを下さい」と言ってみてくれと持ち掛ける。まみずが結婚し、恋人が許可を貰いに来た時のことを仮定して、そういうことを言い出すのだ。
いやいや、まだ高校生だぞ。
そりゃあ、まみずが実際に成長して結婚することは無いので、時期もへったくれも無いかもしれないよ。
ただ、そこで卓也に「娘さんを下さい」と言わせるのは、あまりにも唐突だわ。感動的なシーンとして演出されても、心に響かないわ。劇中で「数万人に1人」といった説明があるわけじゃないけど、発光病ってのは決して良くある病気じゃないはずだ。しかし、まみずだけでなく、卓也の親友の兄も発光病。おまけに、卓也の姉の恋人。
なんという偶然か。
あまりにも都合の良すぎる偶然なのだが、そんな無理をしてまで持ち込んでいる設定にしては、それに見合うだけの使われ方をしているかというと答えはノーだ。
「彰はまみずが好きだった」とか「鳴子は自殺が疑われる死に方をしている」といった要素があるのだが、それが上手くメインのストーリーに絡んでいるとは言い難い。卓也がまみずに献身的なのは鳴子のことが影響しているんだろうけど、それがドラマの深みには貢献していない。彰はまみずとの過去を卓也に明かし、直後に告白シーンがあるけど、それだけで終了だし。
厄介なことに、最も存在感をアピールしている脇役って、物語に何の関係も無いゲスト出演のジャンポケ斉藤じゃないかと思ったりするぞ。(観賞日:2020年11月19日)